【意味が分かると怖い百合】ハズレ異世界人は美味しいパンが食べたい

第六章

【憧れの人 03】

「え？」
「まりあが処女じゃなくなったのは11歳だった。それからずっと男の人たちに利用されてた……。でもね、まりあは賢かったから、利用仕返してやったし、欲しいものは上手くおねだりして手に入れたよ？　整形もさせてもらえたし、タワマンもバックも靴も服も、なんだって買って貰えた。あんたは上手くやれなかったんだね」
　涙目の若子に対して、挑発的にまりあは続ける。
「生まれや育った環境が悪くても、そこから這い上がれる人と、這い上がれない人がいるの。まりあは賢いから前者で、あんたはバカだから後者だったって話。うわ、カワイソすぎ！」
「おい、本当に止めろ」
　ウーヴェが握った拳を震わせて、まりあの肩を軽く小突く。
「すまない、こいつは……隙あらば人を煽るし、かと思えば媚びるし、とんでもない奴だが、根はそんなに悪くはないと……思っているんだ。本当に申し訳ない」
　せめて頭を下げさせようと、まりあの後頭部に手を回すが、それに気付いたまりあはさっと身を交わした。
「マリア！」
「大きい声出さないで！　まりあ、そういうの嫌い！」
　怒られても、ふて腐れたように顔を背ける。
「まりあ、もう宿に戻るから！　……他の男の人に誘われたら、ついていっちゃうからね！」
「あっ、おい！　……すみませんでした！　お二人はこの街で暮らしているのですか。生活にお困りでは……」
「いえ、この街の方に良くして頂いていますので」
「俺たちは明日、洞窟にアッフェがいないか見廻りに行くんです。目撃情報があったと聞いたので」
　そのアッフェならもういないと、恋唯は伝えようか迷った。
　だがウーヴェは生真面目な顔で、恋唯と若子に話し続ける。
「この街の診療所にも寄りますので、見かけたら声をかけて下さい。今後に必要なものがあれば、俺が相談に乗りますので」
「王子様がですか？」
「貴方たちも俺も……父の執着に振り回された被害者ですから」
　この国の王子の顔は夕陽に照らされ、赤く染まっていた。
　それは怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える顔だった。