【意味が分かると怖い百合】ハズレ異世界人は美味しいパンが食べたい

第六章

【憧れの人 02】

　若子が興奮していたので、恋唯は場所を変えることを提案した。
　以前ロッゲンとカミルが話していた、ブドウ畑とは反対側の山道へと入る。
　まりあがこれ以上歩きたくないと主張したのもあり、あまり上には登らないことにした。
「ま、まりあ姫、あたしのこと、覚えてませんか！？　DMのお返事くれましたよね！？　あたし、あれから、あれから……っ」
「えー？　あのね、DMの返事とかはあれ、まりあがやってるんじゃなくて……」
「まりあ姫は大丈夫でしたか！？　あたし、まりあ姫もひどい目に、遭ってるんじゃないかって……心配で……。元気そうで、良かった……っ」
　若子が泣き始めたので、恋唯はそっと背中をさすった。
　まりあ姫と呼ばれた少女は呆気に取られている。
「……どんだけお人好しなの？　バカじゃん、ただの」
「えっ……」
「おい、マリア！」
　連れの男性が叱ろうとすると、キッとした表情でにらみ返す。
「王子は黙ってて！」
「王子？」
　今度は恋唯が男性を見つめる番だった。この国で王子と呼ばれる存在を、恋唯は一人しか知らない。
「あなたがフェードゥンの王子様……ですか？　モンスター退治をしている……私たちが召喚されることになった理由の……？」
「はい、俺が……ウーヴェ・フェードゥンです。じゃあ、貴方たちも、ですか……」
「ちょっとオバサン、王子だって判った途端、色目使うの止めてもらえる？」
「おまっ、失礼だろ！」
　王子の言葉にも、まりあはツンとした態度を崩さなかった。
　まりあは涙を拭う若子の髪の艶と肌の白さを鋭い目つきで睨みつけ、恋唯の胸のハリと大きさを見て、苦々しげに舌打ちした。
「あんたたち、王子の一行に加われてないってことは『ハズレ』でしょ？　まりあが付与されたのは、土のスキルだよ。防御とかモンスターの足止めとか、完璧に出来ちゃうの。そんなまりあに比べて、向こうでもこっちでも役立たずの要らない存在なんて、カワイソ～！　もうこっちでもウリやったら！？」
「ま、まりあ姫……？」
　憧れの存在の強烈な実像に、若子が戸惑っている。
「まりあ姫、あたし……まりあ姫に会いに行ったら、そしたら男の人たちに……あの、嘘ですよね、まさかまりあ姫もグルなんてこと……まりあ姫も被害者、ですよね？　あたしと、同じで……っ」
　それでも信じようと、若子が縋るように言う。
　隣で聞いていた恋唯にも、だんだん二人の関係が掴めてきた。
「アホくさ」
　冷めた目で、まりあが呟く。
「……まりあはね、11歳だったよ」