【SF×BL】碧の世界線 

SAI

文字の大きさ
22 / 129
第一章 もう一つの世界

20. 覚醒

しおりを挟む
 バキバキだの、ヒィィィだの、部屋の中から不穏な音が聴こえる。自分も二人の力になりたいと思うのに山口の言葉でこの場所に縫い付けられた樹は、ドアの前でただ臨戦態勢をとっていた。

ガチャンという音と共にドアが開き安藤が飛び出してくる。続いてぐったりとした青砥が霧島の手によって押し出された。

「樹、アオ頼む」
「アオさん!! 大丈夫ですか? どこか痛いところは!?」

青砥を抱きかかえて部屋の前の廊下に座らせると、樹は青砥の顔や肩をぺちぺちと触った。頬に擦り傷のような物が出来ているが他に目立った外傷はない。意識がもうろうとしている青砥に必死に呼びかける。

「今、救急車を呼びますから! 大丈夫」

青砥を抱きしめる指に力がこもる。どうしよう、このまま……嫌な考えが脳裏を掠めた時、青砥が口を開いた。

「ねむい……」

その瞬間、青砥を置いて樹がすくっと立ち上がったことは想像に難くない。

「つめて……ぇ、あー、たつき、部屋入って、茜さんたちの援護しろ」

「援護っていったどうすれば」

「うで、ふりあげたとき、あー、おもいっきり……吹けばいい。あとはふたりが……や」

昔のB級映画の様に青砥がこと切れると、樹は安藤に向き直った。

「すみません、俺も行くんで何かあったら大きな声を出してください」

青砥に寄り添ってコクコクと頷く安藤を置いて、樹は室内に入った。

 まず驚いたのは破壊された部屋の惨状ではなく、山口と霧島の行動だ。山口が流しに掌を向けてぴゅーっと液体を出している。そんな山口を守るように霧島が相手に向かってキッチン道具たちを投げつけていた。

「手から出したって埒が明かないでしょーがっ。吐けっ、吐けっ、吐いてすっきりしちまいなっ!!」

「えぇ~嫌よぅ。口から吐くって苦しいし汚いじゃない~」

「えぇ~じゃないっ! 状況を読めっ、この酔っ払いがっ」 

山口が酔っ払い? お酒飲んでないんじゃなかったっけ?
樹の脳内にクエスチョンが沢山浮かんだが、今はそれどころではない。樹は二人の元へ移動すると犯人に向かって大きく息を吐いた。沢山吸ってお腹の筋肉を使ってハッと吹いたのは相手を吹き飛ばすイメージだったのだが、流石にそこまで思うようにはいかない。男は後方へ大きくよろけたが直ぐに体勢を立て直した。

 犯人と向き合って、樹はようやく相手をしっかりと見ることが出来た。男は顔をマスクで覆い、身長は樹より少し低いくらい。腕の筋肉が異様に発達しており、上半身の半分くらいはあるのではないかという太さだ。時折口元を動かして、何やら呟いている。

「やるじゃん、じゃあ、その調子で続けて」
「え?」

「口をすぼめて細くしてアイツの胸に向かって息を吐けば、風にあおられてこっちに近づくのも大変なはずよ。あの筋肉じゃ、上半身が重すぎるわ」

霧島の言う通りに細く息を吐き出せば、上半身が重い男の体ではバランスをとるのが難しくて前に進めない。だが人の息などそんなに長く続くものではない。樹だって5秒が限度だ。吐いて直ぐ息を吸ってまた吐いたところで、樹が息を吸っている時間に相手が歩みを進めれば当たり前にここに来るのだ。

何か方法は無いか、と考えている背後で「いい加減、口から吐け―っ」という霧島の叫び声と「げぇえええ」と何かを吐くような音が聴こえた。
 
 形勢は圧倒的に不利だ。目前に迫り来る男の動きがスローモーションのようにゆっくりと見える。「霧島さん!山口さん!」二人の名前を呼びたいが息を吐くことをやめるわけにはいかない。樹は相手を見据えたまま、迫りくる恐怖に耐えながら背後にいるであろう二人を引っ張った。息が切れる。男が腕を振り上げる。

間に合わない。

樹が咄嗟に男の手にしがみ付いた瞬間、男の体が樹ごとガクっと下がった。男が腕を振り回し、樹の体が腕を離れて壁にぶつかるかと思われた時、ガシッと樹の体を掴んだ腕があった。

「ナイスファイト」

樹が首を捩じって見上げるとそこには、うねった髪の毛を撫でつけた妙に男らしい山口の顔があった。

「待たせたね、もう大丈夫だから。茜ちゃんと部屋の隅にでもいて」

喋り方まで違う……。
緊張と弛緩とで口をぽかんと開けた樹を霧島が小突いた。

「邪魔しない様に向こうに行くよ」
「あれって……山口さんですよね?」

いつもの山口がくねくねとしたおネエのような口調なのに対し、今の山口はむしろ男臭い。山口は男を見ると「あーぁ」と声にした。

「ちょっとは格闘技をかじったようだけど、全然ダメだね。隙だらけ」

「くそっ、くそっ、僕と桜ちゃんは一緒になる運命なんだっ。あんな男には渡さない」

「へぇ、そうなんだ。彼女は嫌そうだったけど」
「うるさいっ、うるさいっ」

縦横無尽に両腕を激しく動かす男はまるで大きな駄々っ子だ。いくら山口でも高速に動く腕を受け止めるのは無理だろう。部屋の現状を見れば、樹が乗り込む前も男の攻撃を避けるのが精いっぱいだったことが伺えた。

「茜さん、俺たちも加勢に」
「大丈夫よ。お酒が抜ければ、山さんの体術は桁違いなんだから」

「お酒が抜ければ?」
「まぁ、見てて」

山口は突進してくる男にキッチンに置いてあるテーブルを蹴ってぶつけ、男が止まった瞬間に滑るようにテーブルの下に潜り込んだ。男の腕がテーブルに振り落とされる。直前、男が言葉にならないようなくぐもった声を上げた。男の体が崩れるのとテーブルが真二つに破壊されたのは、ほぼ同時だった。

「山口さんっ!!」
「ノープロブレム」

瓦礫となったテーブルを押しのけて立ち上がった山口の隣で、筋肉の男が気を失っていた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

薔薇摘む人

Kokonuca.
BL
おじさんに引き取られた男の子のお話。全部で短編三部作になります

目が覚めたら宿敵の伴侶になっていた

木村木下
BL
日本の大学に通う俺はある日突然異世界で目覚め、思い出した。 自分が本来、この世界で生きていた妖精、フォランだということを。 しかし目覚めたフォランはなぜか自分の肉体ではなく、シルヴァ・サリオンという青年の体に入っていた。その上、シルヴァはフォランの宿敵である大英雄ユエ・オーレルの『望まれない伴侶』だった。 ユエ×フォラン (ムーンライトノベルズ/全年齢版をカクヨムでも投稿しています)

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

龍の寵愛を受けし者達

樹木緑
BL
サンクホルム国の王子のジェイドは、 父王の護衛騎士であるダリルに憧れていたけど、 ある日偶然に自分の護衛にと推す父王に反する声を聞いてしまう。 それ以来ずっと嫌われていると思っていた王子だったが少しずつ打ち解けて いつかはそれが愛に変わっていることに気付いた。 それと同時に何故父王が最強の自身の護衛を自分につけたのか理解す時が来る。 王家はある者に裏切りにより、 無惨にもその策に敗れてしまう。 剣が苦手でずっと魔法の研究をしていた王子は、 責めて騎士だけは助けようと、 刃にかかる寸前の所でとうの昔に失ったとされる 時戻しの術をかけるが…

創作BL短編集

さるやま
BL
短編まとめました。 美形×平凡、ヤンデレ、執着・溺愛攻め多め

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

処理中です...