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プロローグ
しおりを挟む王城の離れにある教会で、ローブをまとった六人の男たちが、何かを囲うように等間隔に立っていた。彼らが囲んでいるのは淡く光る円形の召喚印。男たちが呪文を唱えるにつれ、召喚印の光は強く輝いていった。
この儀式は一ヶ月前から行われている。召喚印を発動させるのに大量の魔力が必要なため、準備にそれなりの期間を要していた。
城の魔導師である彼らは、長く続いている召喚印の維持で、疲弊した顔色を浮かべていた。だが、誰一人として弱音を吐くものは居なかった。
その内の一人、六人の男たちの中で一際豪華なローブを着ている男が、教会へと入ってきた人物に気づいた。
男はゆっくりと召喚印から顔を上げる。召喚印を睨むように見つめていた男の目はその人物を捉えた瞬間、優しげに緩んだ。
「王様、準備が出来ました。何時でも召喚可能です」
恭しく頭を下げて儀式の進行状態を王へと報告をする。王はその言葉に満足気に頷き、護衛として付き従っていた騎士団長へと何かを囁いた。騎士団長は国王の言葉に渋い表情を浮かべる。魔導師と国王が騎士団長に無言で見つめていると、騎士団長は渋々といった顔で頭を縦に振った。
「これから一時間後に聖女召喚を行う。心せよ」
「御意に」
一時間後、ここに異界の聖女が現れる。聖女がこの国に来てくれれば安泰だ。聖女の持つ浄化の力で闇を払えば、国に蔓延る疫病も飢饉も無くなるはず。死に絶えていくしかなかった民を救い、またこの国に安息の日をもたらす。
この日をどれだけ待ちわびたか。
一年前から城下町を覆っている闇が払えるのであれば、どれだけの犠牲もいとわない。たとえこの身が朽ち果てても、召喚印には魔力を注ぎ続けよう。
魔導師は国王に頭を下げてから持ち場へと戻った。
「必ずや成功させるぞ」
周りの魔導師を鼓舞するように声をかける。皆が頷き合うと、召喚印の光は強さを増した。
「この地に聖女を。浄化の光を導き給え」
祈りを込めて魔導師は召喚印を見つめる。
この地に聖女が舞い降りるまでもう少し。
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