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5.お弁当とイレギュラー***
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気づいたらもう半日が過ぎていた。職場の時間の流れはいつも三倍速くらいで流されているのではないかと思うほどだ。
またたきほどの早さで昼休憩になり、持参したお弁当を持って中庭へと向かった。
この時期、ほとんどの人が冷房の効いた庁舎内で食事を取るので、昼休憩の中庭には静かなものだ。たしかに日差しはきついけれど、木陰のベンチなら耐えられないほどではない。それよりも今はひとりになりたかった。
膝の上にお弁当を置きふたを取った瞬間、予想通りのものが目に飛び込んできた。見るも無残な茶色い物体。卵焼き――の成れの果てだ。
あの直後、テーブルの上で呆然としていた私は、ハッと我に返ってお弁当の残りを作った。予定より時間が押していたため焦ってしまい、見事に卵焼きを焦がしてしまった。彼の方にはなるべく焦げていないところを選んで入れたものの、成功とはほど遠い仕上がりだった。
髪を乾かしてリビングに戻ってきた彼と、なんとなく気まずい空気の中で向かい合って朝食を食べてから急いで家を出た。
今思い返してみても、今朝の彼はいつもと様子が違っていた。
一緒に暮らし始めてからまだひと月ほどだが、もともと幼なじみということもあって普段は割と気安い関係だ。たまにからかってくることもあるけれど、新生活に慣れない私に驚くほど手厚いサポートまでしてくれて、正直甘やかされているなと思うことの方が多い。
それなのにいったいどうしたというのだろう。私との暮らしに早くもストレスが溜まっているとか……。
もしかしたら気づかないうちに、なにかやらかしたのだろうか。今頃彼はこの結婚を後悔していたらどうしよう。
はあ、とため息が出た。
あのときのことも彼を止めたい一心で口を突いて出たけれど、彼の職業を考えたらとてもひどい言葉だった。
もう、なんてことを言ってしまったのよ!
時間を巻き戻せるならあの場面からやり直したい。いや、それはそれで困るかも。
どういう状況だったかがよみがえり、顔がじわっと熱くなった。誤魔化すように卵焼きもどきを口に放り込んだら、舌の上に苦みが広がる。さっきよりもさらに深いため息が口から漏れた。
「北山?」
後ろから聞こえた柔らかな低音に心臓が小さく跳ねる。誰かなんて問うまでもない。
振り向くと、白シャツにジレを身につけた男性が、ランチバッグを手に立っている。私の失恋相手、結城櫂人だ。
この四月にアメリカの日本国大使館から本省に戻り、異例の早さで首席事務官となった。さらに私と同じ経済局の中にある『APEC(アジア太平洋協力)室』の室長に抜擢された。外務大臣から『未来の日本を創る人間のひとり』と言わるほどの人材なのだ。
その上、容姿端麗と長身の持ち主とくれば、モテないはずがない。実際、あからさまな誘いをサラリとかわす姿を見たのは一度や二度ではなかった。
気づいたらもう半日が過ぎていた。職場の時間の流れはいつも三倍速くらいで流されているのではないかと思うほどだ。
またたきほどの早さで昼休憩になり、持参したお弁当を持って中庭へと向かった。
この時期、ほとんどの人が冷房の効いた庁舎内で食事を取るので、昼休憩の中庭には静かなものだ。たしかに日差しはきついけれど、木陰のベンチなら耐えられないほどではない。それよりも今はひとりになりたかった。
膝の上にお弁当を置きふたを取った瞬間、予想通りのものが目に飛び込んできた。見るも無残な茶色い物体。卵焼き――の成れの果てだ。
あの直後、テーブルの上で呆然としていた私は、ハッと我に返ってお弁当の残りを作った。予定より時間が押していたため焦ってしまい、見事に卵焼きを焦がしてしまった。彼の方にはなるべく焦げていないところを選んで入れたものの、成功とはほど遠い仕上がりだった。
髪を乾かしてリビングに戻ってきた彼と、なんとなく気まずい空気の中で向かい合って朝食を食べてから急いで家を出た。
今思い返してみても、今朝の彼はいつもと様子が違っていた。
一緒に暮らし始めてからまだひと月ほどだが、もともと幼なじみということもあって普段は割と気安い関係だ。たまにからかってくることもあるけれど、新生活に慣れない私に驚くほど手厚いサポートまでしてくれて、正直甘やかされているなと思うことの方が多い。
それなのにいったいどうしたというのだろう。私との暮らしに早くもストレスが溜まっているとか……。
もしかしたら気づかないうちに、なにかやらかしたのだろうか。今頃彼はこの結婚を後悔していたらどうしよう。
はあ、とため息が出た。
あのときのことも彼を止めたい一心で口を突いて出たけれど、彼の職業を考えたらとてもひどい言葉だった。
もう、なんてことを言ってしまったのよ!
時間を巻き戻せるならあの場面からやり直したい。いや、それはそれで困るかも。
どういう状況だったかがよみがえり、顔がじわっと熱くなった。誤魔化すように卵焼きもどきを口に放り込んだら、舌の上に苦みが広がる。さっきよりもさらに深いため息が口から漏れた。
「北山?」
後ろから聞こえた柔らかな低音に心臓が小さく跳ねる。誰かなんて問うまでもない。
振り向くと、白シャツにジレを身につけた男性が、ランチバッグを手に立っている。私の失恋相手、結城櫂人だ。
この四月にアメリカの日本国大使館から本省に戻り、異例の早さで首席事務官となった。さらに私と同じ経済局の中にある『APEC(アジア太平洋協力)室』の室長に抜擢された。外務大臣から『未来の日本を創る人間のひとり』と言わるほどの人材なのだ。
その上、容姿端麗と長身の持ち主とくれば、モテないはずがない。実際、あからさまな誘いをサラリとかわす姿を見たのは一度や二度ではなかった。
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