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たった十分、されど十分
たった十分、されど十分⑥
長いコール音に鼓動が不穏に波打つ。スマホを持つ手が震えている。
もしかしたら電話にも出てくれないの?
そう思ったとき、コール音が止まった。
つながった!
「慎士! 今どこ⁉ さっきのって冗談だよね⁉」
スマホの向こうから返事がない。
「なんとか言ってよ。もしかしてこの前、仕事上がりの食事を断ったせい? せっかく誘ってくれたのに悪かったと思っているわ。でもあの時はどうしてもその日中に終わらせないといけない仕事があって」
焦って弁解していると、スマホの向こうから「はあー」と盛大なため息が聞こえてきた。
「本当にごめんなさい。今日はそのお詫びも兼ねて色々考えてきたの。あっ、お弁当もあるのよ。慎士の好きなおかずを作って――」
『いらねえ』
「え……」
『誰がそんなもん食うんだ。おまえの料理、まずすぎんだよ』
彼の言葉がグサリと胸に突き刺さった。
彼の言う通り、私は料理が下手だ。〝お腹が膨れればいい〟という程度なら作れるけれど、繊細な味付けや見映えが必須なメニューになると、まったくうまくいかない。けれど彼はそういう類の料理を私に求めてきた。
「私だって、少しでもましになるよう一生懸命がんばってるわ。それはわかってもらえないの?」
苦手なものを克服したいと思えるのは、ひとえに彼を喜ばせたいからだ。それなのに彼本人には伝わっていなかったのだと悲しくなってくる。
『そういうところが嫌なんだよ』
「え……」
『ああ言えばこう言う。自分は仕事ができます、がんばってますってアピールも。もううんざりだ』
「そんな……」
付き合い始めの頃、彼が私に『なんに対しても一生懸命なところが素敵だ』と言ってくれたのは嘘だったのだろうか。
『だいたい久々のデートが公園って。ガキの遠足か? 地味なんだよ、テーマパークとかいくらでもあるだろ』
彼が言ったテーマパークは、以前彼自身が『人が多くて疲れる』と言っていたので、プランから真っ先に除外したのだ。ひそかに行きたいと思っていた私は、内心がっかりしたのを覚えている。だけど今それを指摘したところで、火に油を注ぐだけだ。
スマホを耳にあてたまま黙っていると、ひときわ大きなため息が聞こえた。
『おまえみたいな気が利かなくてかわいくない女、一年も付き合って損した。もう連絡してこないでくれ。じゃあな』
直後、通話が切れた。頭をハンマーで殴られたような衝撃で、言葉が出ない。頭が真っ白になったままその場に立ち尽くす。
「佐伯さん」
背中から聞こえた声に振り返ると、課長が立っていた。
「課長……いつから……」
続きが声にならない私の問いに、彼は微苦笑のみをくれる。
「これ、足元の荷物かごに置いてありましたが、忘れ物ではないですか?」
各務課長が軽く持ち上げてみせた手には、トート型の保冷バッグがぶら下がっていた。
もしかしたら電話にも出てくれないの?
そう思ったとき、コール音が止まった。
つながった!
「慎士! 今どこ⁉ さっきのって冗談だよね⁉」
スマホの向こうから返事がない。
「なんとか言ってよ。もしかしてこの前、仕事上がりの食事を断ったせい? せっかく誘ってくれたのに悪かったと思っているわ。でもあの時はどうしてもその日中に終わらせないといけない仕事があって」
焦って弁解していると、スマホの向こうから「はあー」と盛大なため息が聞こえてきた。
「本当にごめんなさい。今日はそのお詫びも兼ねて色々考えてきたの。あっ、お弁当もあるのよ。慎士の好きなおかずを作って――」
『いらねえ』
「え……」
『誰がそんなもん食うんだ。おまえの料理、まずすぎんだよ』
彼の言葉がグサリと胸に突き刺さった。
彼の言う通り、私は料理が下手だ。〝お腹が膨れればいい〟という程度なら作れるけれど、繊細な味付けや見映えが必須なメニューになると、まったくうまくいかない。けれど彼はそういう類の料理を私に求めてきた。
「私だって、少しでもましになるよう一生懸命がんばってるわ。それはわかってもらえないの?」
苦手なものを克服したいと思えるのは、ひとえに彼を喜ばせたいからだ。それなのに彼本人には伝わっていなかったのだと悲しくなってくる。
『そういうところが嫌なんだよ』
「え……」
『ああ言えばこう言う。自分は仕事ができます、がんばってますってアピールも。もううんざりだ』
「そんな……」
付き合い始めの頃、彼が私に『なんに対しても一生懸命なところが素敵だ』と言ってくれたのは嘘だったのだろうか。
『だいたい久々のデートが公園って。ガキの遠足か? 地味なんだよ、テーマパークとかいくらでもあるだろ』
彼が言ったテーマパークは、以前彼自身が『人が多くて疲れる』と言っていたので、プランから真っ先に除外したのだ。ひそかに行きたいと思っていた私は、内心がっかりしたのを覚えている。だけど今それを指摘したところで、火に油を注ぐだけだ。
スマホを耳にあてたまま黙っていると、ひときわ大きなため息が聞こえた。
『おまえみたいな気が利かなくてかわいくない女、一年も付き合って損した。もう連絡してこないでくれ。じゃあな』
直後、通話が切れた。頭をハンマーで殴られたような衝撃で、言葉が出ない。頭が真っ白になったままその場に立ち尽くす。
「佐伯さん」
背中から聞こえた声に振り返ると、課長が立っていた。
「課長……いつから……」
続きが声にならない私の問いに、彼は微苦笑のみをくれる。
「これ、足元の荷物かごに置いてありましたが、忘れ物ではないですか?」
各務課長が軽く持ち上げてみせた手には、トート型の保冷バッグがぶら下がっていた。
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