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偽装デート
偽装デート③
「早く諦めてもらえるよう。もう少し恋人らしくした方がいいかもしれないね」
その通りかもしれないが、これ以上どうしたらいいのだろう。
「まずは俺を下の名前で呼んで」
「えっ!」
思わず声を上げたら、彼は人差し指を唇の前に立て、「しー」と言う。
「役職や名字だと親密感が出ないだろう?」
言われてみればその通りだ。お見合い相手を跳ねのけるためには、ちょっとやそっとでは揺らがない仲である必要がある。
「じゃあ呼んでみて」
「今ですか⁉」
「どこで聞いているかわからないから」
まさか尊敬する上司を、名前呼びする日が来るなんて……。
脈拍が上昇するのを感じながら、意を決して口を開く。
「た……尊さん」
小さな声で呼んだら、涼やかな奥二重の目がふわりと柔らかく細められた。見惚れるほど美しい微笑みに目がくぎ付けになる。じわりと熱を持った頬を隠すようにうつむいたら、「よくできました」と頭をポンポンと撫でられた。
「さあ、食べよう。ほら、実花子も」
課長が箸でつまんだピーマンの肉詰めからはがれた肉部分――もはやただのハンバーグ――を、私の前に差し出す。
「えっと……」
これはもしかして〝あーん〟してという意味⁉
「俺達の仲を見せつけないと」
「うっ……」
できるだけ早く園田嬢に諦めてもらうのが、この臨時恋人役を早く終わらせる鍵だ。それには私達が〝ラブラブ〟でなければならない。
もうっ! こうなったら園田嬢が見ていられないくらいラブラブしてやるんだから!
幸か不幸か、私が義理立てすべき相手は、ついさっき存在しなくなった。
考えた瞬間、胸がズキンと痛んで、振り切るようにパクリと箸先に食いついた。
「おいしい?」
もぐもぐと咀嚼しながら、二度首を縦に振る。「だろ?」と得意げな声が返ってきた。
「なんで尊さんがドヤるんですか。作ったのは私なのに」
恥ずかしさをごまかすためにあえて上目遣いで睨むと、「それもそうだな」と言って、彼は笑いだした。つられて私も声に出して笑う。
恋人にフラれて気分はどん底のはずなのに、こんなときでも笑えるなんて不思議だ。私ひとりだったらきっと今頃、部屋に帰って布団の中で泣いているか、やけ酒でもあおっていたかもしれない。
もしかしたら課長は、それがわかっていてわざと笑わせようとしてくれている? やっぱり慎士との電話の内容を聞かれていて、それで……?
まだ笑っている課長の横顔をじっと見ていたら、視線に気づいた彼がこちらを見た。
「実花子、ついてる」
課長の手が伸びてきた。彼は親指で私の口角をサッと撫でると、すぐに自分の口元へ持っていき、ペロッと舐めた。
「うん、ソースもうまい」
「ソーっ……!」
彼が何をしたのか理解した瞬間、カーッと顔が熱くなった。頭から湯気が出そうだ。そんな私を見てフフッと笑った彼は、お弁当の続きを食べ始める。何度も「おいしいおいしい」と口にしながら、みるみる平らげていった。
あっという間に空になったお弁当箱を前に、課長は、「ごちそう様」と「おいしかったよ」をくれた。
その通りかもしれないが、これ以上どうしたらいいのだろう。
「まずは俺を下の名前で呼んで」
「えっ!」
思わず声を上げたら、彼は人差し指を唇の前に立て、「しー」と言う。
「役職や名字だと親密感が出ないだろう?」
言われてみればその通りだ。お見合い相手を跳ねのけるためには、ちょっとやそっとでは揺らがない仲である必要がある。
「じゃあ呼んでみて」
「今ですか⁉」
「どこで聞いているかわからないから」
まさか尊敬する上司を、名前呼びする日が来るなんて……。
脈拍が上昇するのを感じながら、意を決して口を開く。
「た……尊さん」
小さな声で呼んだら、涼やかな奥二重の目がふわりと柔らかく細められた。見惚れるほど美しい微笑みに目がくぎ付けになる。じわりと熱を持った頬を隠すようにうつむいたら、「よくできました」と頭をポンポンと撫でられた。
「さあ、食べよう。ほら、実花子も」
課長が箸でつまんだピーマンの肉詰めからはがれた肉部分――もはやただのハンバーグ――を、私の前に差し出す。
「えっと……」
これはもしかして〝あーん〟してという意味⁉
「俺達の仲を見せつけないと」
「うっ……」
できるだけ早く園田嬢に諦めてもらうのが、この臨時恋人役を早く終わらせる鍵だ。それには私達が〝ラブラブ〟でなければならない。
もうっ! こうなったら園田嬢が見ていられないくらいラブラブしてやるんだから!
幸か不幸か、私が義理立てすべき相手は、ついさっき存在しなくなった。
考えた瞬間、胸がズキンと痛んで、振り切るようにパクリと箸先に食いついた。
「おいしい?」
もぐもぐと咀嚼しながら、二度首を縦に振る。「だろ?」と得意げな声が返ってきた。
「なんで尊さんがドヤるんですか。作ったのは私なのに」
恥ずかしさをごまかすためにあえて上目遣いで睨むと、「それもそうだな」と言って、彼は笑いだした。つられて私も声に出して笑う。
恋人にフラれて気分はどん底のはずなのに、こんなときでも笑えるなんて不思議だ。私ひとりだったらきっと今頃、部屋に帰って布団の中で泣いているか、やけ酒でもあおっていたかもしれない。
もしかしたら課長は、それがわかっていてわざと笑わせようとしてくれている? やっぱり慎士との電話の内容を聞かれていて、それで……?
まだ笑っている課長の横顔をじっと見ていたら、視線に気づいた彼がこちらを見た。
「実花子、ついてる」
課長の手が伸びてきた。彼は親指で私の口角をサッと撫でると、すぐに自分の口元へ持っていき、ペロッと舐めた。
「うん、ソースもうまい」
「ソーっ……!」
彼が何をしたのか理解した瞬間、カーッと顔が熱くなった。頭から湯気が出そうだ。そんな私を見てフフッと笑った彼は、お弁当の続きを食べ始める。何度も「おいしいおいしい」と口にしながら、みるみる平らげていった。
あっという間に空になったお弁当箱を前に、課長は、「ごちそう様」と「おいしかったよ」をくれた。
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