11 / 22
偽装デート
偽装デート④
「まだ見ているでしょうか……」
お弁当箱を保冷バックにしまいながら、さりげなく小声で尋ねる。課長は「どうだろう」と小さく首を動かし辺りを見回した。
「なかなか諦めてくれなくて本当に困っていたんだ」
声をひそめてそう言った彼は、園田嬢の行動を話す。
お見合いをしてからこの一週間、執拗にデートに誘われていたという。大方父親から聞き出したのだろう、社用スマホへの電話をかけてきて、断っても断ってもしつこく諦めず、とうとう会社にまで押しかけて来たらしい。
「それはなんというか……大変でしたね」
「ああ……」
重い息と同時に吐き出された返事が、彼の苦悩を物語っていた。
どうにか励まそうと、少し悩んでから口を開く。
「よほど各務課長がタイプだったんでしょうね。さすがわが社の人気ナンバーワン!」
あえて明るく冗談めかしてみた。
すると彼が至近距離から顔をのぞき込んできた。
「妬いてくれてるの?」
「えっ! い……いえ、あのっ……ごめんなさいっ!」
盛大に慌てる私に、課長はフフッと笑う。
「冗談だよ。人気があるかはわからないけれど、好きな相手に好かれないと意味がないよな」
どこかせつなげな横顔に、胸がざわついた。
各務課長には片想いの相手がいるの?
カフェで園田嬢に『結婚も恋愛も社外で』と言っていたのを思い出す。きっと社外の人なのだ。
短い時間ながらも恋人役を務めたおかげで、会社では知りえない彼の姿を知れた。まるで自分が本物の恋人にでもなったかのような気までした。
きっと各務課長は、恋人をすごく大事にするんだろうなあ。
だけどそれは私じゃない。
そう考えた瞬間、胸の奥がツキンと痛んだ気がするけれど、その意味を深く掘り下げてはいけない気がする。
「各務課長の恋人になる人はきっと幸せですね」
にこりと微笑んで言うと、課長が一瞬かすかに眉をひそめる。
「〝今〟、俺の恋人は君だろう?」
「あっ……」
そうだった。まだ役の途中だった。まだ園田嬢がどこかで見ているかもしれないのに、うっかり忘れていた。
「それにさっきからずっと『課長』だ。なんて呼ぶんだったっけ?」
「……尊さん」
『よくできました』とばかりに、笑顔で頭をポンポンと撫でられた。
「そういう君は? あのとき何か訳ありのようだったけど」
「それは……」
彼が言った『あのとき』というのは、きっと慎士との電話のことだ。
「俺でよかったら話を聞くよ? お世話になったお礼……をこれで済ませるつもりはないけれど、話せば少しは楽になるかもしれないからね」
優しい声に、元カレとの別れ話を洗いざらい話したくなった。さっきお弁当を褒められたときに気持ちが楽になったのを思い出す。話せばきっと彼なら、優しく私を励ましてくれるに違いない。でも内容が内容だけに、園田嬢に聞かれたらまずい。
「どこかふたりきりになれる場所があればいいのに」
「それは、誘ってる?」
切れ長の奥二重まぶたが細められる。瞳が怪しげに光った。心の声を無意識に口に出していたのだと気づき、大いに焦る。
「やっ、あのっ、そういう意味では――」
「いい場所がある。行こう」
私の手を引いて立ち上がった彼は、そのまま歩きだした。
お弁当箱を保冷バックにしまいながら、さりげなく小声で尋ねる。課長は「どうだろう」と小さく首を動かし辺りを見回した。
「なかなか諦めてくれなくて本当に困っていたんだ」
声をひそめてそう言った彼は、園田嬢の行動を話す。
お見合いをしてからこの一週間、執拗にデートに誘われていたという。大方父親から聞き出したのだろう、社用スマホへの電話をかけてきて、断っても断ってもしつこく諦めず、とうとう会社にまで押しかけて来たらしい。
「それはなんというか……大変でしたね」
「ああ……」
重い息と同時に吐き出された返事が、彼の苦悩を物語っていた。
どうにか励まそうと、少し悩んでから口を開く。
「よほど各務課長がタイプだったんでしょうね。さすがわが社の人気ナンバーワン!」
あえて明るく冗談めかしてみた。
すると彼が至近距離から顔をのぞき込んできた。
「妬いてくれてるの?」
「えっ! い……いえ、あのっ……ごめんなさいっ!」
盛大に慌てる私に、課長はフフッと笑う。
「冗談だよ。人気があるかはわからないけれど、好きな相手に好かれないと意味がないよな」
どこかせつなげな横顔に、胸がざわついた。
各務課長には片想いの相手がいるの?
カフェで園田嬢に『結婚も恋愛も社外で』と言っていたのを思い出す。きっと社外の人なのだ。
短い時間ながらも恋人役を務めたおかげで、会社では知りえない彼の姿を知れた。まるで自分が本物の恋人にでもなったかのような気までした。
きっと各務課長は、恋人をすごく大事にするんだろうなあ。
だけどそれは私じゃない。
そう考えた瞬間、胸の奥がツキンと痛んだ気がするけれど、その意味を深く掘り下げてはいけない気がする。
「各務課長の恋人になる人はきっと幸せですね」
にこりと微笑んで言うと、課長が一瞬かすかに眉をひそめる。
「〝今〟、俺の恋人は君だろう?」
「あっ……」
そうだった。まだ役の途中だった。まだ園田嬢がどこかで見ているかもしれないのに、うっかり忘れていた。
「それにさっきからずっと『課長』だ。なんて呼ぶんだったっけ?」
「……尊さん」
『よくできました』とばかりに、笑顔で頭をポンポンと撫でられた。
「そういう君は? あのとき何か訳ありのようだったけど」
「それは……」
彼が言った『あのとき』というのは、きっと慎士との電話のことだ。
「俺でよかったら話を聞くよ? お世話になったお礼……をこれで済ませるつもりはないけれど、話せば少しは楽になるかもしれないからね」
優しい声に、元カレとの別れ話を洗いざらい話したくなった。さっきお弁当を褒められたときに気持ちが楽になったのを思い出す。話せばきっと彼なら、優しく私を励ましてくれるに違いない。でも内容が内容だけに、園田嬢に聞かれたらまずい。
「どこかふたりきりになれる場所があればいいのに」
「それは、誘ってる?」
切れ長の奥二重まぶたが細められる。瞳が怪しげに光った。心の声を無意識に口に出していたのだと気づき、大いに焦る。
「やっ、あのっ、そういう意味では――」
「いい場所がある。行こう」
私の手を引いて立ち上がった彼は、そのまま歩きだした。
あなたにおすすめの小説
社長は身代わり婚約者を溺愛する
日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。
引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。
そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……
社内恋愛の絶対条件!"溺愛は退勤時間が過ぎてから"
桜井 響華
恋愛
派遣受付嬢をしている胡桃沢 和奏は、副社長専属秘書である相良 大貴に一目惚れをして勢い余って告白してしまうが、冷たくあしらわれる。諦めモードで日々過ごしていたが、チャンス到来───!?
ヒロインになれませんが。
橘しづき
恋愛
安西朱里、二十七歳。
顔もスタイルもいいのに、なぜか本命には選ばれず変な男ばかり寄ってきてしまう。初対面の女性には嫌われることも多く、いつも気がつけば当て馬女役。損な役回りだと友人からも言われる始末。 そんな朱里は、異動で営業部に所属することに。そこで、タイプの違うイケメン二人を発見。さらには、真面目で控えめ、そして可愛らしいヒロイン像にぴったりの女の子も。
イケメンのうち一人の片思いを察した朱里は、その二人の恋を応援しようと必死に走り回るが……。
全然上手くいかなくて、何かがおかしい??
ベンチャーCEOの想い溢れる初恋婚 溺れるほどの一途なキスを君に
犬上義彦
恋愛
『御更木蒼也(みさらぎそうや)』
三十歳:身長百八十五センチ
御更木グループの御曹司
創薬ベンチャー「ミサラギメディカル」CEO(最高経営責任者)
祖母がスイス人のクオーター
祖父:御更木幸之助:御更木グループの統括者九十歳
『赤倉悠輝(あかくらゆうき)』
三十歳:身長百七十五センチ。
料理動画「即興バズレシピ」の配信者
御更木蒼也の幼なじみで何かと頼りになる良き相棒だが……
『咲山翠(さきやまみどり)』
二十七歳:身長百六十センチ。
蒼也の許嫁
父:咲山優一郎:国立理化学大学薬学部教授
『須垣陸(すがきりく)』
三十四歳:百億円の資金を動かすネット投資家
**************************
幼稚園教諭の咲山翠は
御更木グループの御曹司と
幼い頃に知り合い、
彼の祖父に気に入られて許嫁となる
だが、大人になった彼は
ベンチャー企業の経営で忙しく
すれ違いが続いていた
ある日、蒼也が迎えに来て、
余命宣告された祖父のために
すぐに偽装結婚をしてくれと頼まれる
お世話になったおじいさまのためにと了承して
形式的に夫婦になっただけなのに
なぜか蒼也の愛は深く甘くなる一方で
ところが、蒼也の会社が株取引のトラブルに巻き込まれ、
絶体絶命のピンチに
みたいなお話しです
男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される
山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」
出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。
冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?
貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈
玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳
大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。
でも、これはただのお見合いではないらしい。
初出はエブリスタ様にて。
また番外編を追加する予定です。
シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。
表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。
私が素直になったとき……君の甘過ぎる溺愛が止まらない
朝陽七彩
恋愛
十五年ぶりに君に再開して。
止まっていた時が。
再び、動き出す―――。
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
衣川遥稀(いがわ はるき)
好きな人に素直になることができない
松尾聖志(まつお さとし)
イケメンで人気者
*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*◦*
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?