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各務課長の十分
各務課長の十分⑥
「で、でもっ……特別な状況下だったせいで、緊張を恋と勘違いしたんじゃありませんか? 緊張感から吊り橋効果が発生して」
「特別な状況下? ……ああ、園田嬢の。あれは気のせいでした」
「はい?」
気の抜けた声を出した私に彼は飄々とした口調で続ける。
「園田嬢はついて来ていないようでした。最初は本当に見られていた気がしたんですが、後は君がかわいくてつい」
「つい⁉」
じゃあなに? 途中から課長のお芝居だったの⁉ まさか各務課長が、腹黒い策士のような行いをするなんて……。
衝撃のあまり開いた口が塞がらない。
「そもそも吊り橋効果なんてありえません。だって俺は五年前から君が好きだったんですから」
「う……そ」
五年前って、OJTの頃?
「嘘じゃありません。指導担当として君と接するうちに、何事にもひたむきに努力する君が気になるようになりました。でも、当時君には恋人がいましたよね」
どうしてそれを、と目をしばたたく。
たしかに入社当初、私は大学時代から付き合っていた同級生と遠距離恋愛をしていた。けれど彼にその話をした記憶はない。
すると課長は、新人のうわさ話は教育担当の耳にいくらでも届くのだと言った。
「それに俺自身も、君の指導担当についたときにはすでに海外支部への異動が決まっていたんです」
三カ月も前から異動が決まるのは珍しい。驚く私に、彼は当時の状況を説明する。
私の入社年度はいつにも増して新入社員を多く採用したそうだ。そのため、教育担当の人員が足りなくなった。そこで各務課長は人事に頼まれて四月に異動するはずだった海外赴任を三カ月延ばしたそうだ。
「告げるだけ告げようかとも考えましたが、どちらにせよすぐに居なくなるのだから、言い逃げのようなものです。そんな一方的な告白で君を困らせたくなかった。迷惑がられたくない、よい印象のまま覚えておいてもらいたい。そう考えて静かに去るのを選びました」
彼の口から語られる五年前の彼の心境に、言葉が出ない。
確かに当時の私はかなり困惑しただろう。けれど、尊敬する先輩に好意を持たれて嫌な気持ちになるはずがない。
遠恋をしていた相手とは、研修終了からひと月も経たず別れた。お互いに新しい環境に慣れるので精いっぱいで、物理的な距離もあり、自然と気持ちが離れたのだ。
別れたときには各務課長はもう海外だったので、それを知るはずがない。
私が呆然として何も言えないでいると、彼は「ふっ」と自嘲するように笑う。
「結局格好つけていただけですね。会えない間にきっと忘れられると思ったのに、五年間経っても君への気持ちは消えることなく胸の中にありました。むしろその間に温められて、帰国した今はますます大きく成長中だ」
なんだか信じられなさすぎて、クラクラと眩暈がしそうになる。
「特別な状況下? ……ああ、園田嬢の。あれは気のせいでした」
「はい?」
気の抜けた声を出した私に彼は飄々とした口調で続ける。
「園田嬢はついて来ていないようでした。最初は本当に見られていた気がしたんですが、後は君がかわいくてつい」
「つい⁉」
じゃあなに? 途中から課長のお芝居だったの⁉ まさか各務課長が、腹黒い策士のような行いをするなんて……。
衝撃のあまり開いた口が塞がらない。
「そもそも吊り橋効果なんてありえません。だって俺は五年前から君が好きだったんですから」
「う……そ」
五年前って、OJTの頃?
「嘘じゃありません。指導担当として君と接するうちに、何事にもひたむきに努力する君が気になるようになりました。でも、当時君には恋人がいましたよね」
どうしてそれを、と目をしばたたく。
たしかに入社当初、私は大学時代から付き合っていた同級生と遠距離恋愛をしていた。けれど彼にその話をした記憶はない。
すると課長は、新人のうわさ話は教育担当の耳にいくらでも届くのだと言った。
「それに俺自身も、君の指導担当についたときにはすでに海外支部への異動が決まっていたんです」
三カ月も前から異動が決まるのは珍しい。驚く私に、彼は当時の状況を説明する。
私の入社年度はいつにも増して新入社員を多く採用したそうだ。そのため、教育担当の人員が足りなくなった。そこで各務課長は人事に頼まれて四月に異動するはずだった海外赴任を三カ月延ばしたそうだ。
「告げるだけ告げようかとも考えましたが、どちらにせよすぐに居なくなるのだから、言い逃げのようなものです。そんな一方的な告白で君を困らせたくなかった。迷惑がられたくない、よい印象のまま覚えておいてもらいたい。そう考えて静かに去るのを選びました」
彼の口から語られる五年前の彼の心境に、言葉が出ない。
確かに当時の私はかなり困惑しただろう。けれど、尊敬する先輩に好意を持たれて嫌な気持ちになるはずがない。
遠恋をしていた相手とは、研修終了からひと月も経たず別れた。お互いに新しい環境に慣れるので精いっぱいで、物理的な距離もあり、自然と気持ちが離れたのだ。
別れたときには各務課長はもう海外だったので、それを知るはずがない。
私が呆然として何も言えないでいると、彼は「ふっ」と自嘲するように笑う。
「結局格好つけていただけですね。会えない間にきっと忘れられると思ったのに、五年間経っても君への気持ちは消えることなく胸の中にありました。むしろその間に温められて、帰国した今はますます大きく成長中だ」
なんだか信じられなさすぎて、クラクラと眩暈がしそうになる。
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