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各務課長の十分
各務課長の十分⑦
「ようやく帰国して運よく同じ部署になれたというのに、君は別の男と付き合っていた。つくづくタイミングが悪い男だと、自分の運のなさを呪わざるをえませんでしたね」
課長は「ふう」とひと息をついた。
「牧村君が残念な人でよかった」
「はい?」
思いがけないセリフに目を見張る。
「彼が君の魅力に気づかず簡単に手放してしまうような残念な男だったおかげで、俺はこれから君を心置きなく口説けます。今度こそ君を諦めない」
グウッと喉が鳴った。
何を言っているの⁉
「さすがに職場で迫るわけにはいきませんからね。でも今は退社後。プライベートです。ここからは誠心誠意口説かせてもらいます」
誠心誠意って……!
「がんばり屋の君だからこそ、たまに見せる弱さが愛おしい。甘やかしたいから遠慮なくどんどん甘えて。君が泣きたいときやつらいときは必ずそばにいると誓うし、頼ってもらえるよう全力で努力するよ」
〝プライベート〟という宣言の通り、課長の口調がラフなものに変わった。
けれどそんなことよりも、私は言われ慣れていない甘い言葉の数々に、頭がオーバーヒート寸前だ。口を開けたり閉めたりするだけでひと言も返せない。
「牧村君が君のかわいさに気づかずにいてくれて本当によかった。君の魅力を知るのは俺だけで十分だ」
熱のこもった瞳に見つめられて、心臓が爆発しそうなほど大きく跳ねた。
会社の期待を一身に背負うエリートで、他人の目を引きつけるほどの魅力的な容姿を持ち、性格は真面目で誠実。理想を絵に描いたような完璧な男性が――あの〝各務尊〟が私を好き? 料理下手で仕事しか取り柄のない私を?
嘘でしょう⁉
「君がなにを考えているのかなんとなくわかるな。でもあの日あのカフェで偶然君を見つけたとき、これは神様がくれたチャンスだと思った。今度こそ迷わず全力で口説かせてもらうからそのつもりで」
真っすぐな視線がテーブル越しに私を貫いた。彼の本気が伝わってくる。
私も逃げずに向き合わないと……。
膝の上で重ねている手をギュッと握りしめ口を開く。
「恋人と別れたばかりで別の男性の告白に惹かれるなんて、軽薄な女だと軽蔑しませんか?」
「なぜ。俺がそれを望んでいるのに? むしろ仕事の早い自分を全力で褒めたいくらいだけど」
彼はフッと笑う。
「俺にそう思われるのは嫌?」
「……嫌です」
「どうして? 俺のことをどう思っている?」
ストレートな質問に心臓が早鐘を打ち始める。覚悟を決めて口を開く。
「私は……各務課長が好き……なので」
目を見張った彼に「多分五年前から」と付け足した。
課長はおもむろに立ち上がると、私の前までやってきて片膝をついた。目線が同じ高さになり、心臓が大きく跳ねる。
「それは告白の返事だと思ってもいいのか?」
切れ長の瞳に見つめられて、私はこくんと首を縦に振った。
彼の大きな両手が、膝の上で握りしめていた私の手をそっとすくい取った。
「ありがとう。これからよろしくな」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
私がぺこりとお辞儀をした次の瞬間、グイっと手を引かれる。
「きゃっ」
バランスを崩して彼の胸に飛び込むようにして抱きしめられた。
課長は「ふう」とひと息をついた。
「牧村君が残念な人でよかった」
「はい?」
思いがけないセリフに目を見張る。
「彼が君の魅力に気づかず簡単に手放してしまうような残念な男だったおかげで、俺はこれから君を心置きなく口説けます。今度こそ君を諦めない」
グウッと喉が鳴った。
何を言っているの⁉
「さすがに職場で迫るわけにはいきませんからね。でも今は退社後。プライベートです。ここからは誠心誠意口説かせてもらいます」
誠心誠意って……!
「がんばり屋の君だからこそ、たまに見せる弱さが愛おしい。甘やかしたいから遠慮なくどんどん甘えて。君が泣きたいときやつらいときは必ずそばにいると誓うし、頼ってもらえるよう全力で努力するよ」
〝プライベート〟という宣言の通り、課長の口調がラフなものに変わった。
けれどそんなことよりも、私は言われ慣れていない甘い言葉の数々に、頭がオーバーヒート寸前だ。口を開けたり閉めたりするだけでひと言も返せない。
「牧村君が君のかわいさに気づかずにいてくれて本当によかった。君の魅力を知るのは俺だけで十分だ」
熱のこもった瞳に見つめられて、心臓が爆発しそうなほど大きく跳ねた。
会社の期待を一身に背負うエリートで、他人の目を引きつけるほどの魅力的な容姿を持ち、性格は真面目で誠実。理想を絵に描いたような完璧な男性が――あの〝各務尊〟が私を好き? 料理下手で仕事しか取り柄のない私を?
嘘でしょう⁉
「君がなにを考えているのかなんとなくわかるな。でもあの日あのカフェで偶然君を見つけたとき、これは神様がくれたチャンスだと思った。今度こそ迷わず全力で口説かせてもらうからそのつもりで」
真っすぐな視線がテーブル越しに私を貫いた。彼の本気が伝わってくる。
私も逃げずに向き合わないと……。
膝の上で重ねている手をギュッと握りしめ口を開く。
「恋人と別れたばかりで別の男性の告白に惹かれるなんて、軽薄な女だと軽蔑しませんか?」
「なぜ。俺がそれを望んでいるのに? むしろ仕事の早い自分を全力で褒めたいくらいだけど」
彼はフッと笑う。
「俺にそう思われるのは嫌?」
「……嫌です」
「どうして? 俺のことをどう思っている?」
ストレートな質問に心臓が早鐘を打ち始める。覚悟を決めて口を開く。
「私は……各務課長が好き……なので」
目を見張った彼に「多分五年前から」と付け足した。
課長はおもむろに立ち上がると、私の前までやってきて片膝をついた。目線が同じ高さになり、心臓が大きく跳ねる。
「それは告白の返事だと思ってもいいのか?」
切れ長の瞳に見つめられて、私はこくんと首を縦に振った。
彼の大きな両手が、膝の上で握りしめていた私の手をそっとすくい取った。
「ありがとう。これからよろしくな」
「こちらこそ、どうぞよろしくお願いします」
私がぺこりとお辞儀をした次の瞬間、グイっと手を引かれる。
「きゃっ」
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