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Chapter10*おしゃべりスズメのつづらにご用心?
おしゃべりスズメのつづらにご用心?[1]―④
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(あの様子じゃあ、明日も会えそうにないわね……)
森から合コンに誘われなかったことには安堵したものの、だからと言って彼が忙しいのを喜べるわけはない。
複雑な気持ちになりながら、カップを乗せたトレーを給湯室に持っていく。
なんとなく流れで持ってきたから、このまま片付けておくか。
もう少ししたらツアー最終組担当の同僚たちが引き上げてきて、ここも騒がしくなるしね。
そんなことを考えながら給湯室のシンクでカップを洗っていると、給湯室のドアが開く音がした。森ちゃんが来たのだろう。
「カップは洗っておくから、ここはもういいわよ」
入口の方には視線を向けず、手元だけを見ながらそう言った。
「おめでとう、静さん」
「ひゃっ」
突然耳に注がれた艶やかな中低音に、腰が抜けそうになった。
「ア、」
「僕が言った通りだっただろ?」
すぐそばに立つのは間違いなく当麻聡臣で。
「ひと言だけでもお祝いを言いたくてこっちに寄ったんだ。きちんとしたお祝いはまたあらためてね?」
すらすらと淀みなく話す彼を、わたしは口を開けたまま見上げることしかできない。
なんでこんなところにいるのよ!?
ていうか!給湯室に二人っきりなんて、森ちゃんにバレたら何て言われるかっ!
「大丈夫。これを持ってきただけだから」
そう言って彼がシンクの横に置いたのは、三本のキャンドルが描かれた大きな箱。兵庫県の有名な洋菓子店のもので、一口サイズのフィナンシェやマドレーヌが食べやすくて人気だ。
「これ、差し入れ。皆さんで食べて」
「あ、ありがとう……」
それなら森か晶人さんに渡せば良かったんじゃ、とは思ったが、きっと彼はわたしに“お祝い”を言うためにそうしなかったのだろう。
さっき萎んだばかりの風船が、胸の中でまた膨らみ始める。
「これはただの口実。静さんへのお祝いはきちんと別にあるから」
「別にお祝いなんてしてもらわなくても……」
「僕が祝いたいんだ」
メガネも前髪もない彼の瞳が甘く細められる。
ううっ、その顔に弱いんだってば。右目の泣きぼくろがよく見えるのもダメ……。
頬がじわりと熱くなるのを感じながら、あらわになった泣きぼくろを見つめていると、それが段々近付いてきた。
――え。
一瞬だけ唇に触れた熱に、今度こそ顔が真っ赤に染まる。「じわり」なんてもんじゃない。完全に「ぼわっ」だ。
「他の男の前でぼんやりは禁止だよ」
「なっ」
わたしがいつ他の男性の前でぼんやりしたというのだろう。
濡れ衣もいいとこなんですけどー!?
「次ぼんやりしたらお仕置きだから。覚えておいて」
「おっ、」
お仕置きって…!
だからいったいどういうこと!?ぼんやりの濡れ衣を掛けられたうえにお仕置きなんてありえない。しかも彼が言う『お仕置き』って、なんだかろくでもないもののような予感しかない。
「ちょっと、冗談はやめ、」
文句を言いかけたところでドアがガチャリと開いた。
「CMOo、結城課長がお待ちですよぉ」
「はい、分かりました。では静川さん、引き続きよろしくお願いいたしますね」
「……はい」
大人しく頷くことしか出来なくなったわたしがそう返事をすると、彼は給湯室から颯爽と出て行った。
つ、疲れた……。どこのどいつだ。『秘密のオフィスラブでドキドキ』だなんて思っていたやつは。
若かりし頃の自分を思い出したせいで眉根が寄ってしまう。
「静さん? どうかしはりましたぁ?」
給湯室の入り口から森の怪訝そうな声がする。
「なんでもない。CMOから差し入れを頂いたからみんなに配らないと、って思っただけ」
「そうですかぁ?にしては、なんか顔が赤いですよぉ?何かあったんやないですかぁ?」
「なにかっ……て、何もあるはずないじゃない。暖房効きすぎて暑いだけです」
「そうですかねぇ……そんな暖かいですかぁ? ここ。でも王子と密室にふたりっきりなんて、うらやましすぎですぅ」
「密室って……」
森の妄想力にかかったら何の変哲もない給湯室だってあっという間にオフィスラブ小説の舞台になる。
だけどこっちも全然やましいことがないわけじゃないから、強くは言い返せない。
そうこうするうちに最終アテンド組が事務所に戻ってきて、連絡事項などを行っているうちにあっという間に定時を迎えた。
森から合コンに誘われなかったことには安堵したものの、だからと言って彼が忙しいのを喜べるわけはない。
複雑な気持ちになりながら、カップを乗せたトレーを給湯室に持っていく。
なんとなく流れで持ってきたから、このまま片付けておくか。
もう少ししたらツアー最終組担当の同僚たちが引き上げてきて、ここも騒がしくなるしね。
そんなことを考えながら給湯室のシンクでカップを洗っていると、給湯室のドアが開く音がした。森ちゃんが来たのだろう。
「カップは洗っておくから、ここはもういいわよ」
入口の方には視線を向けず、手元だけを見ながらそう言った。
「おめでとう、静さん」
「ひゃっ」
突然耳に注がれた艶やかな中低音に、腰が抜けそうになった。
「ア、」
「僕が言った通りだっただろ?」
すぐそばに立つのは間違いなく当麻聡臣で。
「ひと言だけでもお祝いを言いたくてこっちに寄ったんだ。きちんとしたお祝いはまたあらためてね?」
すらすらと淀みなく話す彼を、わたしは口を開けたまま見上げることしかできない。
なんでこんなところにいるのよ!?
ていうか!給湯室に二人っきりなんて、森ちゃんにバレたら何て言われるかっ!
「大丈夫。これを持ってきただけだから」
そう言って彼がシンクの横に置いたのは、三本のキャンドルが描かれた大きな箱。兵庫県の有名な洋菓子店のもので、一口サイズのフィナンシェやマドレーヌが食べやすくて人気だ。
「これ、差し入れ。皆さんで食べて」
「あ、ありがとう……」
それなら森か晶人さんに渡せば良かったんじゃ、とは思ったが、きっと彼はわたしに“お祝い”を言うためにそうしなかったのだろう。
さっき萎んだばかりの風船が、胸の中でまた膨らみ始める。
「これはただの口実。静さんへのお祝いはきちんと別にあるから」
「別にお祝いなんてしてもらわなくても……」
「僕が祝いたいんだ」
メガネも前髪もない彼の瞳が甘く細められる。
ううっ、その顔に弱いんだってば。右目の泣きぼくろがよく見えるのもダメ……。
頬がじわりと熱くなるのを感じながら、あらわになった泣きぼくろを見つめていると、それが段々近付いてきた。
――え。
一瞬だけ唇に触れた熱に、今度こそ顔が真っ赤に染まる。「じわり」なんてもんじゃない。完全に「ぼわっ」だ。
「他の男の前でぼんやりは禁止だよ」
「なっ」
わたしがいつ他の男性の前でぼんやりしたというのだろう。
濡れ衣もいいとこなんですけどー!?
「次ぼんやりしたらお仕置きだから。覚えておいて」
「おっ、」
お仕置きって…!
だからいったいどういうこと!?ぼんやりの濡れ衣を掛けられたうえにお仕置きなんてありえない。しかも彼が言う『お仕置き』って、なんだかろくでもないもののような予感しかない。
「ちょっと、冗談はやめ、」
文句を言いかけたところでドアがガチャリと開いた。
「CMOo、結城課長がお待ちですよぉ」
「はい、分かりました。では静川さん、引き続きよろしくお願いいたしますね」
「……はい」
大人しく頷くことしか出来なくなったわたしがそう返事をすると、彼は給湯室から颯爽と出て行った。
つ、疲れた……。どこのどいつだ。『秘密のオフィスラブでドキドキ』だなんて思っていたやつは。
若かりし頃の自分を思い出したせいで眉根が寄ってしまう。
「静さん? どうかしはりましたぁ?」
給湯室の入り口から森の怪訝そうな声がする。
「なんでもない。CMOから差し入れを頂いたからみんなに配らないと、って思っただけ」
「そうですかぁ?にしては、なんか顔が赤いですよぉ?何かあったんやないですかぁ?」
「なにかっ……て、何もあるはずないじゃない。暖房効きすぎて暑いだけです」
「そうですかねぇ……そんな暖かいですかぁ? ここ。でも王子と密室にふたりっきりなんて、うらやましすぎですぅ」
「密室って……」
森の妄想力にかかったら何の変哲もない給湯室だってあっという間にオフィスラブ小説の舞台になる。
だけどこっちも全然やましいことがないわけじゃないから、強くは言い返せない。
そうこうするうちに最終アテンド組が事務所に戻ってきて、連絡事項などを行っているうちにあっという間に定時を迎えた。
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