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第一話【ふわとろオムライス】ケッチャップで愛の言葉を!?
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***
「ごちそうさま。美味しかったぁ。もう食べられない…お腹いっぱいだよぅ」
結局美寧は怜のオムライスまで少し貰い、全てを完食してしまったのだ。
本来は小食の美寧なのだが、朝の出来事から食事が喉を通らず、一日ほとんど何もたべていなかったのだ。そこにきて、大好物のオムライスが出て来たのでついつい食べ過ぎてしまった。
「ごめんね…れいちゃんの分まで貰っちゃって。れいちゃんは足りなかったんじゃない?」
「俺は大丈夫。それよりも美寧にたくさん食べて貰えた方が嬉しいですから。それに…」
「それに?」
「今日は約束を破ってしまって本当に申し訳ありませんでした。せっかくの一か月記念でしたのに……」
その言葉に美寧はハッとなった。
(もしかして水族館に連れて行ってくれるのも記念日の一つだったの?)
美寧の頭にそんな疑問が浮かぶが、そんな彼女をよそに、怜は心底申し訳なさそうに言葉を続ける。
「こんなものでお詫びになるとは思ってないので、またこの埋め合わせは別の日に。でも正直、ミネが怒ってなくてホッとしました」
「怒ってなんてないよっ!」
怜の言葉を慌てて否定する。
やっぱり朝の自分の態度は、彼の目に不機嫌に映ったのだ。
「朝は…態度が悪くてごめんなさい…でも怒ってたわけじゃないの…ただちょっとショックで……」
「ショック…そうですよね、水族館に行くのを楽しみにしていましたしね…」
「ううん、それもあるんだけど…それよりも、れいちゃんとのおでかけが初めてだったから楽しみにしてて……えっと、でも、お仕事なら仕方ないし、もう平気だから。」
そう言って無理に笑って見せる美寧が、健気でとても愛おしい。
「ミネ……」
整った眉を斜めに下げながら、怜は自分の腕をギュッと抱く。彼は自分の中に湧き上がる感情の正体に、この時既に気が付いていた。
ついこの前まで子どもだったと言っても良い、十も年下の彼女に対して、どうしようもなく抱いてしまう劣情を抑えようと、怜は必死になっていた。
「れいちゃんのオムライス、大好き。お出かけもいいけど、こうしてお家でれいちゃんの料理を食べるのが大好きだから、今とっても幸せ。だからもう気にしないで。ね?」
ふわふわの茶色い髪を揺らして小首を傾げる美寧は、まるで天使のように愛らしい。色白の小さな顔に、チークをのせたかのような紅色の頬。少しだけ上がり気味の大きな瞳は、好奇心旺盛の子猫を思わせる。
ここに来た当初、やせ細っていた彼女の体は怜の世話の甲斐あってか、少しだけ肉付きが良くなったように思える。それでもまだ同じ年頃の女性と比べて、小さく細い事には変わりないが。
「ついていますよ」
向かいから伸びた手がミネの口元に触れる。
「あ、えっ?」
「何が」と言う前に怜の親指が口の端に触れグイッと拭っていった。怜は自分に戻した親指をペロリと舐める。
美寧を視線で捕えたまま、舌先でペロリと舐めるその仕草に、美寧の体は一瞬でカーッと熱くなった。
大人の色気に満ち溢れた怜の姿に、美寧はくらりと眩暈を起こしそうになる。
「も、もうっ、それくらい自分で出来るから…子ども扱いしないでっ」
恥ずかしさと動揺を誤魔化そうと、つい言葉が荒くなった美寧に、怜はスッと目を細めた。
「子ども扱いしてるように見えますか?」
さっきより更に増した色香を漂わせながら、細く長い指先が美寧の顔の横に伸びる。そのまま横髪をそっと耳に掛けられて、美寧の肩がピクリと震えた。
心臓がドクンと音を立て跳ね上がる。そのまま加速していく心音が、耳の奥に響いている。
怜は右手で頬杖をつきながら、左手では美寧の髪を指に巻き付けくるくると毛先で遊んでいる。
「れ、れいちゃん?」
いつもとは違う彼の雰囲気に、美寧はたじろいだ。怜は時々、美寧の反応を面白がってからかってくることがある。もしかしたら新手のからかいなのかもしれない。そう思った美寧はジロリと怜を睨んだ。
「いつだって怜ちゃんは私のこと子ども扱いしてるでしょ!?私は正真正銘の大人の女性ですっ」
「それでは、大人の女扱い、しましょうか」
「え?」
低い声で何かを呟いた怜は、スッと立ち上がると素早くテーブルを回って美寧の隣に立った。
目を丸くして止まっている美寧の椅子をスッと引くと、軽々と彼女の体を抱き上げる。
「きゃあっ!」
美寧の悲鳴すらこともなげに聞き流し、子どもを運ぶように軽々と美寧を抱えリビングのソファーのところまで歩いていった。
怜は美寧を抱いたままソファーに座る。その為美寧は怜の左ひざに腰かけた形になった。
「れっ、れいちゃん!?」
上擦った声で名前を呼ぶけれど、怜は応えない。
いつもは優しげに見つめてくれるその瞳は、濡れたように光っていてとても、美しい。怜の気配は糸をピンと張ったような空気すら漂っているのに、美寧はこれまで見たことないその輝きに、思考を止めて魅入っていた。
美寧の頬に怜の右手が添えられる。その感触に、美寧はハッと我に返った。
「余裕ですね」
蠱惑的な瞳を細めて怜が微笑む。
怜が言っている意味がよく分からずに、美寧は黙って小首を傾げる。頬に添えられた手のぬくもりが心地良くて、美寧はうっとりと瞳を閉じ、その手に頬をすり寄せた。怜の手がピクリと小さく跳ねたような気がする。
「っ……ミネ…貴女ってひとは…」
苦いものでも噛んだような声に、瞳を開けると、すぐ目の前に怜の顔があった。
「まったく無自覚に煽ってくれる……。男に“大人扱い”を求めたらどういうことになるのか、君は覚えた方がいい」
「どういうこと?」と問おうとした美寧の唇は、一瞬にして温かなもので塞がれた。
【第一話 了】
「ごちそうさま。美味しかったぁ。もう食べられない…お腹いっぱいだよぅ」
結局美寧は怜のオムライスまで少し貰い、全てを完食してしまったのだ。
本来は小食の美寧なのだが、朝の出来事から食事が喉を通らず、一日ほとんど何もたべていなかったのだ。そこにきて、大好物のオムライスが出て来たのでついつい食べ過ぎてしまった。
「ごめんね…れいちゃんの分まで貰っちゃって。れいちゃんは足りなかったんじゃない?」
「俺は大丈夫。それよりも美寧にたくさん食べて貰えた方が嬉しいですから。それに…」
「それに?」
「今日は約束を破ってしまって本当に申し訳ありませんでした。せっかくの一か月記念でしたのに……」
その言葉に美寧はハッとなった。
(もしかして水族館に連れて行ってくれるのも記念日の一つだったの?)
美寧の頭にそんな疑問が浮かぶが、そんな彼女をよそに、怜は心底申し訳なさそうに言葉を続ける。
「こんなものでお詫びになるとは思ってないので、またこの埋め合わせは別の日に。でも正直、ミネが怒ってなくてホッとしました」
「怒ってなんてないよっ!」
怜の言葉を慌てて否定する。
やっぱり朝の自分の態度は、彼の目に不機嫌に映ったのだ。
「朝は…態度が悪くてごめんなさい…でも怒ってたわけじゃないの…ただちょっとショックで……」
「ショック…そうですよね、水族館に行くのを楽しみにしていましたしね…」
「ううん、それもあるんだけど…それよりも、れいちゃんとのおでかけが初めてだったから楽しみにしてて……えっと、でも、お仕事なら仕方ないし、もう平気だから。」
そう言って無理に笑って見せる美寧が、健気でとても愛おしい。
「ミネ……」
整った眉を斜めに下げながら、怜は自分の腕をギュッと抱く。彼は自分の中に湧き上がる感情の正体に、この時既に気が付いていた。
ついこの前まで子どもだったと言っても良い、十も年下の彼女に対して、どうしようもなく抱いてしまう劣情を抑えようと、怜は必死になっていた。
「れいちゃんのオムライス、大好き。お出かけもいいけど、こうしてお家でれいちゃんの料理を食べるのが大好きだから、今とっても幸せ。だからもう気にしないで。ね?」
ふわふわの茶色い髪を揺らして小首を傾げる美寧は、まるで天使のように愛らしい。色白の小さな顔に、チークをのせたかのような紅色の頬。少しだけ上がり気味の大きな瞳は、好奇心旺盛の子猫を思わせる。
ここに来た当初、やせ細っていた彼女の体は怜の世話の甲斐あってか、少しだけ肉付きが良くなったように思える。それでもまだ同じ年頃の女性と比べて、小さく細い事には変わりないが。
「ついていますよ」
向かいから伸びた手がミネの口元に触れる。
「あ、えっ?」
「何が」と言う前に怜の親指が口の端に触れグイッと拭っていった。怜は自分に戻した親指をペロリと舐める。
美寧を視線で捕えたまま、舌先でペロリと舐めるその仕草に、美寧の体は一瞬でカーッと熱くなった。
大人の色気に満ち溢れた怜の姿に、美寧はくらりと眩暈を起こしそうになる。
「も、もうっ、それくらい自分で出来るから…子ども扱いしないでっ」
恥ずかしさと動揺を誤魔化そうと、つい言葉が荒くなった美寧に、怜はスッと目を細めた。
「子ども扱いしてるように見えますか?」
さっきより更に増した色香を漂わせながら、細く長い指先が美寧の顔の横に伸びる。そのまま横髪をそっと耳に掛けられて、美寧の肩がピクリと震えた。
心臓がドクンと音を立て跳ね上がる。そのまま加速していく心音が、耳の奥に響いている。
怜は右手で頬杖をつきながら、左手では美寧の髪を指に巻き付けくるくると毛先で遊んでいる。
「れ、れいちゃん?」
いつもとは違う彼の雰囲気に、美寧はたじろいだ。怜は時々、美寧の反応を面白がってからかってくることがある。もしかしたら新手のからかいなのかもしれない。そう思った美寧はジロリと怜を睨んだ。
「いつだって怜ちゃんは私のこと子ども扱いしてるでしょ!?私は正真正銘の大人の女性ですっ」
「それでは、大人の女扱い、しましょうか」
「え?」
低い声で何かを呟いた怜は、スッと立ち上がると素早くテーブルを回って美寧の隣に立った。
目を丸くして止まっている美寧の椅子をスッと引くと、軽々と彼女の体を抱き上げる。
「きゃあっ!」
美寧の悲鳴すらこともなげに聞き流し、子どもを運ぶように軽々と美寧を抱えリビングのソファーのところまで歩いていった。
怜は美寧を抱いたままソファーに座る。その為美寧は怜の左ひざに腰かけた形になった。
「れっ、れいちゃん!?」
上擦った声で名前を呼ぶけれど、怜は応えない。
いつもは優しげに見つめてくれるその瞳は、濡れたように光っていてとても、美しい。怜の気配は糸をピンと張ったような空気すら漂っているのに、美寧はこれまで見たことないその輝きに、思考を止めて魅入っていた。
美寧の頬に怜の右手が添えられる。その感触に、美寧はハッと我に返った。
「余裕ですね」
蠱惑的な瞳を細めて怜が微笑む。
怜が言っている意味がよく分からずに、美寧は黙って小首を傾げる。頬に添えられた手のぬくもりが心地良くて、美寧はうっとりと瞳を閉じ、その手に頬をすり寄せた。怜の手がピクリと小さく跳ねたような気がする。
「っ……ミネ…貴女ってひとは…」
苦いものでも噛んだような声に、瞳を開けると、すぐ目の前に怜の顔があった。
「まったく無自覚に煽ってくれる……。男に“大人扱い”を求めたらどういうことになるのか、君は覚えた方がいい」
「どういうこと?」と問おうとした美寧の唇は、一瞬にして温かなもので塞がれた。
【第一話 了】
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