耽溺愛ークールな准教授に拾われましたー

汐埼ゆたか

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第四話【スペシャルパンケーキ】休日ブランチは極甘に!?

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「おまたせしました」

キッチンからやってきた怜の右腕には、大きな皿が二枚。左手側には、陶器で出来た取っ手付きの小さなドレッシングポットが二つある。

「うわっ、すごいっ!」

テーブルに置かれた皿の中を見て、美寧は思わず感嘆の声を上げた。

プレートの上には小ぶりなパンケーキが二枚。
その隣に、ベビーリーフ、紫オニオンのスライス、アボカドやサーモン、トマトが、色とりどりに盛られている。
脇にはクリームチーズや半熟のゆで卵も添えてられていて、ものすごく豪華だ。

「美味しそう!」

「ブランチですからね、食事系にしてみました。好みでこのシーザードレッシングかオリーブドレッシングを掛けて下さい」

怜がドレッシングポットを差しながら、それぞれの中身を説明する。

「少な目にしてありますので、しっかり食べて下さいね」

「ありがとう、れいちゃん!」

笑顔で美寧がそう言った後、二人で「いただきます」と手を合わせ、フォークとナイフを手に取った。

「んん~~っ、おいしいっ!!」

塩気の効いたサーモン。野菜のシャキシャキとした触感。怜特製のチーズの利いたシーザードレッシング。
それらが、ほんのりと甘いふわふわのパンケーキに、絶妙なアクセントを添えている。

「ミネの淹れてくれた紅茶も、とても美味しいですよ」

「ほんと?一応朝ご飯だからイングリッシュブレックファストにしたの。ちょっと濃い目に淹れちゃったんだけど、大丈夫かな?」

「ええ、とても美味しいですよ。俺好みです」

「えへへ…よかった」

怜の好みに淹れられたことが嬉しい。

「このお皿を全部食べ切れたら、デザートバージョンも作りますね」

「え、甘いのもあるの?」

「ええ、そちらの方が好きでしょう?ミネは」

「うん!」

美寧が少食だけど甘いものに目がないことは、怜にすっかり把握されている。
食事系の甘じょっぱいパンケーキもいいけど、やっぱりパンケーキといえばメープルシロップのたっぷり掛かった甘いものが一番。
美寧は、俄然張り切って食べ出した。

頬を膨らませながらもぐもぐとパンケーキを頬張る美寧を見て、怜は気付かれないように心の内だけで微笑む。

(作戦成功、ですね)

目論見が当たって怜は満足だ。

美寧は朝が苦手だ。
そんな彼女が、休日は遅くまで寝てしまうことは怜も把握済みで、自分が声を掛けなければ昼前まで眠ってしまうだろう。

ゆっくりと思う存分寝かせておいてあげたい気持ちはある。けれどそうすると必然的に夜が遅くなり、きっと翌日の朝食はあまり食べられないだろう。
結果的にほどほどの時間で起きるのが彼女の為だと、休日でも今日と同じように十時には声を掛けて美寧を起こすようにしているのだ。

「パンケーキの甘さが控えめで、サーモンとアボカドとすごく合う!シーザードレッシングもチーズが効いてて美味しいよ」

目を輝かせながらそう言った美寧の皿は、もう少しで空になりそうだ。
怜は紅茶を飲み終えると、椅子から腰を上げる。

「ありがとうございます。甘い方は入りそうですか?」

「うん、もちろん!」

「では少し待っていて下さい。次を作って来ますね。」

「ありがとう、れいちゃん。」

丸い瞳をキラキラと輝かせながら自分を見上げてくる美寧の頭を優しく撫でると、怜は空になった自分の皿を持ち、キッチンへと戻る。流しに皿を置くと、怜は残しておいたパンケーキの生地を冷蔵庫から取り出し、フライパンを再度火に掛けた。

(そう言えば、ここに来た当初のミネはコンロの点け方すら知りませんでしたね)

初めのころ、“家事が苦手”というレベルを超えた美寧の動きに、怜は何度も驚かされた。

世の中には料理や家事をほとんどしたことのない成人女性も沢山いると思う。けれど一度目にすれば分かるような些細なことすら、美寧は当たり前のように知らなかった。怜が教えればすぐに覚えるから、“出来ない”のではなく“知らなかった”のだと思う。目にしたこともない風だった。

(フォークとナイフの使い方や花を活けるのはものすごく上手、なんですよね……)

彼女は大半の人が知っていることを知らない代わりに、一般の人があまり出来ないことが難なく出来る。

所作の美しさ。季節の挨拶やしきたり。食事の作法。
さっきのパンケーキも、フランス料理のフルコースの一部かのように、フォークとナイフで綺麗に食べていた。彼女が切ったパンケーキは、皿の上に一つの欠片も残っていない。

(もしかしたらミネは良い家のお嬢様、かもしれませんね……)

そんなことを考えている間にパンケーキは焼き上がり、それを新しい皿に乗せると、冷蔵庫の中から取り出したものを次々に皿の上に盛り付けていく。最後に冷凍庫から出したものを乗せると、怜は満足そうに口の端を上げた。

(さて、俺の子猫は喜んでくれるでしょうか)

大皿を片手に、怜は再び美寧の待つダイニングへと戻って行った。

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