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第五話【優しさ香るカフェオレ】迷い猫に要注意!
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「今日のお仕事は五時までなの」
「分かりました。あまり無理しすぎないように気を付けて下さい」
「は~い」
玄関の三和土でサンダルを履いた美寧は、上り框の上に立つ怜を見上げ笑顔で返事をする。
今日は七月最後の日曜日。美寧はアルバイト先であるラプワールへと向かうところだ。
一方、怜は日曜日で大学での授業は無いが、前期末の試験の採点やレポートなどの仕事が詰まっているため、今日は一日自室に籠って仕事をするという。
「れいちゃんも。お仕事頑張りすぎないでね」
グッと首を後ろに倒し、怜の目を見て言う。
「お昼ご飯も。ちゃんと食べてね」
怜は仕事に没頭すると、時間を忘れるくらいに集中する。ともすると食事の時間にも気付かないこともあるほどだ。
この家に住み始めてしばらく経った頃、部屋に籠っていつまでも出て来ない怜に、心配になった美寧が怜の自室まで様子を窺いに行ったことがある。それ以降、美寧は怜が自室で仕事をしている時は、食事の時間に気を付けるようになった。
怜の瞳をじぃっと見つめて念を押すように言うと、怜は切れ長の二重の瞳を薄く緩め、「ありがとう。気を付けます」と口にした。
その言葉に満足した美寧は、すぐに見上げていた顔を下げる。少しだけ首が痛かったからだ。
上り框の上に立つ怜の顔は、三和土に立っている美寧からはかなり上にある。ただでさえ怜との身長差が二十センチ以上あるから、見上げるだけで一苦労なのだ。
「じゃあ、行ってきます」
くるりと背を向けて、玄関扉に足を一歩踏み出した。
が―――
「ミネ、忘れ物です」
「ん?」
(何か忘れたっけ?)
鍵も財布も肩に掛けたトートバックの中にある。仕事で使うエプロンも。
忘れずに帽子も被ったし、日傘も持った。そもそもアルバイト先はここから歩いて五分ほどなので、忘れても困るものなどほとんどない。鍵だって一応持っているが、今日は怜が家にいるから締め出されることもないだろう。
「ハンカチもティッシュもちゃんと持ったよ」などと、小学生のようなことを言いながら、怜の方に振り向く。
上半身を後ろに半分捻ったところで、美寧の左肩に怜の手が置かれた。反射的に顔を上げると、すぐ目の前に怜の顔があった。
ふわりと、唇に温もりが降ってくる。それは軽やかな音を立て、すぐに離れた。
「いってらっしゃい、ミネ」
「……いっ、てきます」
真っ赤になった顔を見られたくなくて、美寧はそそくさと玄関扉から外へ出た。
「今日のお仕事は五時までなの」
「分かりました。あまり無理しすぎないように気を付けて下さい」
「は~い」
玄関の三和土でサンダルを履いた美寧は、上り框の上に立つ怜を見上げ笑顔で返事をする。
今日は七月最後の日曜日。美寧はアルバイト先であるラプワールへと向かうところだ。
一方、怜は日曜日で大学での授業は無いが、前期末の試験の採点やレポートなどの仕事が詰まっているため、今日は一日自室に籠って仕事をするという。
「れいちゃんも。お仕事頑張りすぎないでね」
グッと首を後ろに倒し、怜の目を見て言う。
「お昼ご飯も。ちゃんと食べてね」
怜は仕事に没頭すると、時間を忘れるくらいに集中する。ともすると食事の時間にも気付かないこともあるほどだ。
この家に住み始めてしばらく経った頃、部屋に籠っていつまでも出て来ない怜に、心配になった美寧が怜の自室まで様子を窺いに行ったことがある。それ以降、美寧は怜が自室で仕事をしている時は、食事の時間に気を付けるようになった。
怜の瞳をじぃっと見つめて念を押すように言うと、怜は切れ長の二重の瞳を薄く緩め、「ありがとう。気を付けます」と口にした。
その言葉に満足した美寧は、すぐに見上げていた顔を下げる。少しだけ首が痛かったからだ。
上り框の上に立つ怜の顔は、三和土に立っている美寧からはかなり上にある。ただでさえ怜との身長差が二十センチ以上あるから、見上げるだけで一苦労なのだ。
「じゃあ、行ってきます」
くるりと背を向けて、玄関扉に足を一歩踏み出した。
が―――
「ミネ、忘れ物です」
「ん?」
(何か忘れたっけ?)
鍵も財布も肩に掛けたトートバックの中にある。仕事で使うエプロンも。
忘れずに帽子も被ったし、日傘も持った。そもそもアルバイト先はここから歩いて五分ほどなので、忘れても困るものなどほとんどない。鍵だって一応持っているが、今日は怜が家にいるから締め出されることもないだろう。
「ハンカチもティッシュもちゃんと持ったよ」などと、小学生のようなことを言いながら、怜の方に振り向く。
上半身を後ろに半分捻ったところで、美寧の左肩に怜の手が置かれた。反射的に顔を上げると、すぐ目の前に怜の顔があった。
ふわりと、唇に温もりが降ってくる。それは軽やかな音を立て、すぐに離れた。
「いってらっしゃい、ミネ」
「……いっ、てきます」
真っ赤になった顔を見られたくなくて、美寧はそそくさと玄関扉から外へ出た。
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