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第六話【熱々じゅわっとハンバーグ】何事にも初めてはつきものです。
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「美寧ちゃんは何にするか決まった?」
「えっと、……」
「遠慮しないで何でも頼んで?強引にここまで連れて来たのは私なんだから」
「じゃあお言葉に甘えて、セイロンティと紅茶アイスをお願いします」
「了解」
短くそう言った後、ユズキは店員を呼び注文を済ませた。
半ば攫われるように怜の家を出た後、ユズキの運転する車に乗せられ連れて来られたのは、紅茶専門カフェだった。
さっきまで見ていたメニュー表には、産地やブレンドが細かく分かれた紅茶の他に、甘党女子ならどれにするのか迷ってしまうだろう魅力的なスイーツの数々が載せられていた。
(次はれいちゃんと一緒に来たいなぁ。フレンチトーストもスコーンのセットも美味しそうだったし……)
美寧も例外ではなく、未練たっぷりにさっき見たメニューの写真を思い出している。
でも今はもう夕方で、この後帰宅したらさっき作ったハンバーグを食べるのだ。
(ハンバーグが入らなくなったら嫌だもの……)
初めて怜と一緒に作ったハンバーグは特別だ。
(ちゃんと美味しく出来てるかなぁ……)
玉ねぎの下拵えは怜が請け負ったが、それ以外は怜に教わりながら全て美寧が作った。
肉ダネをこねる時の不思議な触感は面白かったし、その後の丸める作業はずいぶん手こずってしまった。
最初はタネが手にくっついて上手くいかなかったが、手に少し油を付けて丸めるのだと怜にアドバイスされた後は、それなりにまとめることが出来るようになった。
一つ目は歪な形だった成形作業も、最後の方はそれなりに見られる形になっていて、特に最後の一個は自分でも納得いく出来栄えになった。
『見て、れいちゃん!上手く出来たよ!』
嬉しくて堪らなくなった美寧が、得意げにそれを怜に見せた。
『美味しそうですね』
隣から降ってきた低い声に『本当?』と笑顔のまま顔を上げた瞬間、美寧の唇が塞がれたのだった。
「窓際は暑かったかしら?」
向かいから掛けられた声に美寧はハッとなる。
「だ、大丈夫です。」
「そう?顔少し赤いから暑いのかと思ったけど」
「えっと…少しだけ…でもアイスを食べるから平気です」
焦った口調でそう答えると、ユズキは「そう?」と微笑む。
まさか『怜とのやり取りを思い出したから』とは言えない。
「美寧ちゃんの都合も訊かずに、強引に連れ出してごめんなさいね。でもフジ君がいないところで、あなたと二人で話してみたかったの」
「私と二人で……?」
「ええ…たまにはいいでしょ?女子会も」
語尾にハートマークが見えそうな声でそう言いながら、ユズキは華麗なウィンクを飛ばした。
「女子会!初めてです!」
自分がこれまで使ったことのない“女子会”というワードにテンションが上がる。
そんな美寧に、ユズキは楽しそうに「あら、それは嬉しいわ」と言い、ふふふと笑った。
それからすぐに運ばれてきた紅茶とスイーツに舌鼓を打つ。
「んん~っ!このアイス、紅茶の香りがすごいですっ!甘さ控えめだし上に掛かったナッツの触感が楽しくて、いくらでも食べられそうですよ?」
丸い瞳をキラキラと輝かせ、頬を片手で押さえながら感激の声を上げる美寧。
「こっちのマフィンも美味しいわよ。一口どうぞ」
「わぁっ!ありがとうございます!」
ちぎって渡されたマフィンを「いただきます!」と頬張った。
一口大より大きいそれを全部口に入れたので、「美味しい!」と言いたいのに口を開けず、代わりに必死で頭を上下に振る。
「ふふふふっ、可愛いわね。これはフジ君が餌付けに夢中になるのも分かるわ」
“餌付け”という辛辣なワードなのに、全然嫌な気持ちにならない。それを発した当人の表情と口調がとても優しげなせいだろうか。
「それで?フジ君との暮らしはどう?彼は優しい?」
「はい。れいちゃんはとても優しいです」
「良かった。何か困ったこととかはないかしら?何か有れば相談に乗るわよ。若い女の子なんだから、男性に相談できないこともあると思うし」
ユズキの質問に、美寧は少し考える。そして自分の中にある一つの疑問を口に出した。
「……先生?」
「なに?」
「恋人になる練習って、キス以外に何をしたらいいんでしょうか……」
「えっ、何?恋人になる…」
「練習です」
思いも寄らぬ美寧の質問に、ユズキは目を白黒させる。
(うわぁ…!ユズキ先生は驚いた顔も、とっても綺麗)
美寧がそんなことを考えながらユズキを眺めていると、何とも言えない苦虫を噛んだような顔をした彼女が口を開いた。
「美寧ちゃん……」
「はい。なんでしょう、ユズキ先生」
「一応聞くけど、その練習相手はフジ君?」
「はい、そうですよ?」
「…………」
ユズキは軽く目をつむって俯くと、「は~~~っ」と長い息をついた後、小さく「なにやってんのよ、あいつは……」と呟いた。
その台詞をよく聞き取れず、美寧はきょとんとする。
ユズキは手元の紅茶に口を付け、敢えてそれをゆっくりと味わうように飲みこんだ。
「美寧ちゃんとフジ君はどこまで進んでるの?」
「どこまで……?」
尋ねられた意味が分からずに首を傾げる美寧に、ユズキは冷静な顔で
「男女関係のこと。キスとかセックスとか」
「セッ!!むぐっ、ごっ……ごほごほごほごほっ、」
ちょうど飲んでいた紅茶が喉に詰まって激しく咽た。つま先から頭のてっぺんまでがみるみる赤くなっていく。
こんな昼日中の可愛らしいカフェで、まさかそんな単語を耳にすると思わなかった美寧は、動揺全開で慌てふためいているし、なにより咽て咳き込んでいるから苦しさで息をするのがやっとだ。
向かいから「大丈夫?」と差し出されたお冷を何とか飲みこんだが、なかなか治まらない。
数分後、目尻に溜まった涙を拭いながら美寧が何とか顔を上げると、向かいから申し訳なさそうに、「びっくりさせてごめんなさいね?」と謝られた。
「美寧ちゃんは何にするか決まった?」
「えっと、……」
「遠慮しないで何でも頼んで?強引にここまで連れて来たのは私なんだから」
「じゃあお言葉に甘えて、セイロンティと紅茶アイスをお願いします」
「了解」
短くそう言った後、ユズキは店員を呼び注文を済ませた。
半ば攫われるように怜の家を出た後、ユズキの運転する車に乗せられ連れて来られたのは、紅茶専門カフェだった。
さっきまで見ていたメニュー表には、産地やブレンドが細かく分かれた紅茶の他に、甘党女子ならどれにするのか迷ってしまうだろう魅力的なスイーツの数々が載せられていた。
(次はれいちゃんと一緒に来たいなぁ。フレンチトーストもスコーンのセットも美味しそうだったし……)
美寧も例外ではなく、未練たっぷりにさっき見たメニューの写真を思い出している。
でも今はもう夕方で、この後帰宅したらさっき作ったハンバーグを食べるのだ。
(ハンバーグが入らなくなったら嫌だもの……)
初めて怜と一緒に作ったハンバーグは特別だ。
(ちゃんと美味しく出来てるかなぁ……)
玉ねぎの下拵えは怜が請け負ったが、それ以外は怜に教わりながら全て美寧が作った。
肉ダネをこねる時の不思議な触感は面白かったし、その後の丸める作業はずいぶん手こずってしまった。
最初はタネが手にくっついて上手くいかなかったが、手に少し油を付けて丸めるのだと怜にアドバイスされた後は、それなりにまとめることが出来るようになった。
一つ目は歪な形だった成形作業も、最後の方はそれなりに見られる形になっていて、特に最後の一個は自分でも納得いく出来栄えになった。
『見て、れいちゃん!上手く出来たよ!』
嬉しくて堪らなくなった美寧が、得意げにそれを怜に見せた。
『美味しそうですね』
隣から降ってきた低い声に『本当?』と笑顔のまま顔を上げた瞬間、美寧の唇が塞がれたのだった。
「窓際は暑かったかしら?」
向かいから掛けられた声に美寧はハッとなる。
「だ、大丈夫です。」
「そう?顔少し赤いから暑いのかと思ったけど」
「えっと…少しだけ…でもアイスを食べるから平気です」
焦った口調でそう答えると、ユズキは「そう?」と微笑む。
まさか『怜とのやり取りを思い出したから』とは言えない。
「美寧ちゃんの都合も訊かずに、強引に連れ出してごめんなさいね。でもフジ君がいないところで、あなたと二人で話してみたかったの」
「私と二人で……?」
「ええ…たまにはいいでしょ?女子会も」
語尾にハートマークが見えそうな声でそう言いながら、ユズキは華麗なウィンクを飛ばした。
「女子会!初めてです!」
自分がこれまで使ったことのない“女子会”というワードにテンションが上がる。
そんな美寧に、ユズキは楽しそうに「あら、それは嬉しいわ」と言い、ふふふと笑った。
それからすぐに運ばれてきた紅茶とスイーツに舌鼓を打つ。
「んん~っ!このアイス、紅茶の香りがすごいですっ!甘さ控えめだし上に掛かったナッツの触感が楽しくて、いくらでも食べられそうですよ?」
丸い瞳をキラキラと輝かせ、頬を片手で押さえながら感激の声を上げる美寧。
「こっちのマフィンも美味しいわよ。一口どうぞ」
「わぁっ!ありがとうございます!」
ちぎって渡されたマフィンを「いただきます!」と頬張った。
一口大より大きいそれを全部口に入れたので、「美味しい!」と言いたいのに口を開けず、代わりに必死で頭を上下に振る。
「ふふふふっ、可愛いわね。これはフジ君が餌付けに夢中になるのも分かるわ」
“餌付け”という辛辣なワードなのに、全然嫌な気持ちにならない。それを発した当人の表情と口調がとても優しげなせいだろうか。
「それで?フジ君との暮らしはどう?彼は優しい?」
「はい。れいちゃんはとても優しいです」
「良かった。何か困ったこととかはないかしら?何か有れば相談に乗るわよ。若い女の子なんだから、男性に相談できないこともあると思うし」
ユズキの質問に、美寧は少し考える。そして自分の中にある一つの疑問を口に出した。
「……先生?」
「なに?」
「恋人になる練習って、キス以外に何をしたらいいんでしょうか……」
「えっ、何?恋人になる…」
「練習です」
思いも寄らぬ美寧の質問に、ユズキは目を白黒させる。
(うわぁ…!ユズキ先生は驚いた顔も、とっても綺麗)
美寧がそんなことを考えながらユズキを眺めていると、何とも言えない苦虫を噛んだような顔をした彼女が口を開いた。
「美寧ちゃん……」
「はい。なんでしょう、ユズキ先生」
「一応聞くけど、その練習相手はフジ君?」
「はい、そうですよ?」
「…………」
ユズキは軽く目をつむって俯くと、「は~~~っ」と長い息をついた後、小さく「なにやってんのよ、あいつは……」と呟いた。
その台詞をよく聞き取れず、美寧はきょとんとする。
ユズキは手元の紅茶に口を付け、敢えてそれをゆっくりと味わうように飲みこんだ。
「美寧ちゃんとフジ君はどこまで進んでるの?」
「どこまで……?」
尋ねられた意味が分からずに首を傾げる美寧に、ユズキは冷静な顔で
「男女関係のこと。キスとかセックスとか」
「セッ!!むぐっ、ごっ……ごほごほごほごほっ、」
ちょうど飲んでいた紅茶が喉に詰まって激しく咽た。つま先から頭のてっぺんまでがみるみる赤くなっていく。
こんな昼日中の可愛らしいカフェで、まさかそんな単語を耳にすると思わなかった美寧は、動揺全開で慌てふためいているし、なにより咽て咳き込んでいるから苦しさで息をするのがやっとだ。
向かいから「大丈夫?」と差し出されたお冷を何とか飲みこんだが、なかなか治まらない。
数分後、目尻に溜まった涙を拭いながら美寧が何とか顔を上げると、向かいから申し訳なさそうに、「びっくりさせてごめんなさいね?」と謝られた。
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