少女は共味を持っている!

ふうまさきと

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転校生

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「私が言うのもなんだけどさー? 柊このままだと遅刻だよー? 初日から遅刻してもいいのかー?」

 ――うるせぇなぁ……、あと、後。

「五分だけ……」

「その五分で私の朝飯を作ってくれると助かるんだけどなー? それが、柊が私に着いて来た意味でしょ? 存在価値だよねー? 私に飯を作らないようならトンボがえ――」

 柊は姉の智香ちかが言葉を言い終える前に飛び起きた。

 ゴチンッ。

 柊の寝顔を覗きこんでいた智香と額をぶつけてしまうことに。

「いてぇ!!」

 柊と智香は声を揃えて叫んだ。

 そのお陰で柊の眠気は飛んだのだが、それとは別に智香の拳によって暫く空を跳ぶことになった。

「早く飯作れーー」

「誰のせいで気絶してたと思ってんだよ姉貴」

 智香はダイニングテーブルに項垂れるように倒れ、ボサボサの長い髪をテーブルの上に置いている。気力の感じられない智香は似合わないスーツを着て、切れ長目を擦りながらも珈琲を啜り柊が朝食を作るのを待っていた。

「いきなり飛び起きるお前が悪いんだってー」

 ――どう考えて姉貴が覗き込むようにして起こしに来たからだろ!

 とは思っていても言うことはできず、目玉焼きにトーストとオーソドックスな朝食を作りあげる。

 智香が柊に言った存在意義とは、三食、または二食を毎日作ること。

「ほらよ」

「どうも」

 テーブルには智香の朝食分だけを置き、柊はキッチンで食べながら弁当を二つ作っていく。

 柊は高校生活を始めて一月程が経ったけれど、いい加減田舎から卒業したいというだけの理由で上京を決意した。そのとき、

「駄目だ、認めない」

 と両親に言われはしたけれど、そのときはまだ智香も出稼ぎに東京には来ていなかったので、資金面の問題から田舎で高校生活を送ろうと諦めていた。

 けれど、突然生活力の欠片もない智香が単身で出稼ぎに上京する、と言いだした。もちろんこれも両親は大反対したけれど、柊は智香の生活を全てサポートするからと言えば、しぶしぶ承諾してくれた。

 ふと柊が時計に目を向けると、時刻は七時半を指していた。

 これは智香が七時に起こしに来たからだが、時間に余裕がほとんど無かった。もし起こしに来ていなければ、確実に弁当を作る時間が作れずに嫌な目を向けられ、最悪田舎へのトンボ返しを食らっていたところだったと、料理で掻いた汗とは別の物を袖で拭う。

 完成した弁当を柊が智香に渡すと。

「どうも」

 欠伸をしながら礼を言って来た。つられて柊も欠伸をしてしまう。

「それしかいえねーのかよ」

 すっかり冷えた目玉焼きと半分になったトーストをダイニングに座って味わうこともなく飲み込む。途中、喉につまったけれど、予め用意していた珈琲で流し込んだ。

 八時半には授業が始まり、その十分前からホームルームが始まると前日に聞かされていた。

 そのホームルームで紹介をするということなので、最悪八時二十分には学校へ着けばいい。学校までは二十分かかるので、まだ時間はたっぷりと残っていた。

 食器を片づけた後、リビングから玄関廊下へと行き、そこに置いてある鏡で身だしなみをチェックしてみた。髪の毛先が重力に逆らうかのように上を向いている寝癖を見て整えることを諦める。

 のんびりとしていたいところだったが、一度しか学校には行っていないので迷子になることを計算に入れて、柊は早めに家をでることにした。

「んじゃ、行ってくる」

「遅刻するなよー」

 智香は右手を挙げてひらひらと振った。

「そっちこそな」


 迷いそうになりながらもなんとか学校の正門へとたどり着いた。ポケットに入れていたスマートフォンで時間を確認すると、八時二十分の表示が。

 ――なんとか間に合ったか。

 正門には学校名「聖明高等学校」と書かれている。

 まだまだ柊に実感は湧いていないが、晴れて今日からここの生徒。

 都会に来たかっただけで、この学校に対しては夢と希望に胸を躍らせ……はしなかった。ので、足早に職員室へ向う。

 職員室前に着くと、柊は乱れた呼吸を整えるために数回深呼吸をした。

 少し落ち着きを取り戻してから、扉を三回ノックして横にスライドさせる。

「失礼します、氷上ひょうじょう先生はいますか?」

 室内を見回す。

 前に来たときと変わらず、プリント類が無造作に置かれた机もあれば、ピシッと整理されている机も。

 ホワイトボードに教師の名前がかかれた時間割が貼られ、その下にはポットが。

「おお、来たか」

 奥の机から天然パーマをした中年の男性が顔を上げる。

「遅れてませんよね? 氷上先生」

 ボリボリと音を立てながら頭を掻き毟り立ち上がる。

「ギリギリだな、それじゃあ行こうか」

 柊の元へ氷上は近寄ると。

「これからも遅刻はしないようになー」

 おっとりとした口調で注意をする。

 経緯は話さなかったけれど、学校へくる前に少し迷ったこと。学校へ着いても迷ったこと。全てをひっくるめて迷ったのだと、笑いながら弁解した。

 来た道を戻り、渡り廊下を進みつつ教室のある校舎へ入ろうとしたときに、ふと思いだしたかのように。

「下駄箱に空きってないんですか?」

「空き? ああ、確かお前の下駄箱は――」

 クラス名簿を開け、個人情報の書かれたファイルを捲り、桔梗院柊と書かれたファイルで指を止める。

「1015番だな」

 ファイルを閉じて、ズボンの右ポケットから南京錠を取りだした。

「鍵掛けたきゃ掛けていいが、殆んどの奴は面倒臭がってかけてねーな」

 柊に南京錠を渡すと、柊は氷上に言われた番号の下駄箱を探す。

 目当ての1015と書かれたプレートの下駄箱を開けて靴を入れ、鍵を掛けようかと迷う。他を見て見れば掛けているのはほんの数名程度だったので、そのまま閉めて氷上の元へと戻った。
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