少女は共味を持っている!

ふうまさきと

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絵しりとり

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 迎えた月曜日、柊は寝不足だった。

 金曜日含め、土曜日曜とまともに寝ることができなかった。遠足前の子供のように。

 眠ろうと頭では思っていても、脳は覚醒して言うことを聞かなかった。

 この三日で寝られた時間帯は夜中から明け方。合計しても十時間も超えない。

 何度も何度も大きな欠伸をして、いつもより早く朝食と智香の弁当を作る。

 珈琲の量も増やし、何とか眠気を吹き飛ばしたかった。

 寝たいときには寝られず、そのくせ起きていたいときには眠気が襲ってくる。なぜそれが夜に来ないのだと自分の脳を一喝したい気持ちでいっぱいだった。

 だらだらと行動していては何時まで経っても脳は眠ったままなので、回転させるためにも今できることを見つけて柊は作業をしようと思う。

 といっても、朝のやることは学校への支度と朝食、智香の弁当作りくらい。そのどれもが終わってしまったので、動こうにもすることが見つからない。

 いっそのこと登校までの余った時間を運動して過ごそうかと思うが、昼にカフェインが切れれば余計に眠気に苛まれることになるのでそれは避けたかった。

 ――ああ、やることがない……。

 結局、何も見つけることができなかった。

 家をでるころに珈琲のカフェインが効き始める。それでも眠いことに変わりはない。

 欠伸をこらえつつ、まだ家にいる智香に、

「行ってきます」

 と言い、学校に向かった。

 学校に着くころにはカフェインによってすっかり眠気が去り、欠伸もしなくなっている。

 ――これなら大丈夫だ。

 根拠などないが、どこからかそんな期待が込み上げてきた。

 ホームルームの後の授業では勉強をせずにテスト返却。

 一限目では生物Ⅰを返され、テストの点数は六十を超えていた。

 テスト点は成績に七割反映すると言っていたので、中間テストを行わなかった柊はこの点数がそのまま成績に直結する。テストの点数だけで欠点の四十点はいかないので、生物Ⅰが落ちることはなさそうだ。

 点数に間違いがないかの見直しをして、不正解に赤ペンで正解を記入し提出するだけ。

 点数が高ければそれだけやることは少なく、残った時間は自習。

 自習といっても、この教師相手では騒がしくすることができない。

 なんとか許してもらえる範囲は、今で言えば隣の人とテストに関して意見を言い合うことくらい。

 普段の授業なら、授業以外の会話は一切の禁止だ。

 喋らなければ良いということではなく、同じように寝ることも禁止されている。

 当然と言えば当然だが、他の教師なら起こして終わりのところを反省室に送り、反省文の刑。ひどければ生徒指導室送りなんてことも。

 人の迷惑にならないように、勉強をするか絵でも描いているくらいでしか時間を潰すことができない。

 と、普通の人ならば反省室での反省文や生徒指導室を畏怖して何もしないが、柊たちは違った。

 三角形上の座席という地の利を利用して、絵しりとりをしている。

 合馬から始まると最初で積みになりかねないので、木屋瀬からスタートした。

 ボール、ルーレット、トマト? 時計と続き、柊が絵を描く番だ。

 ルーレットの後でなければ、合馬の絵は何を書きたかったのか理解できない。

 丸に棒が一本生えているだけの絵。

 前情報がなければサクランボ、言い方を変えてチェリーにしか思えない。

 柊はいから始まるもので、相手に伝えるためには簡単に描けるものにしたかった。

 椅子、それが今では一番描きやすい絵だと言える。

 目の間にはいつくも見本はあるのだから。

 そうしてもう一巡してきたとき、すから始まるものはなんだったのかを見てみる。

 丸に波線が複数描かれている。

 これは分かりやすかった、スイカだ。

 だれがどう見ても椅子の後に続くこの絵はスイカ。とすれば、カから始まる木屋瀬の描いた絵、それは、

 ――カメレオン……!?

 デッサン画のように描かれていた。

 時間が掛かっているかと思えば、絵を見る限り無駄に力を注いでいたみたいだ。

 そんな必要性があったのかは甚だ疑問に思える。

 なんでもこなせるとはいえ、これはどうかと思わせられた。

 ――そんなことより、次に続く絵は……ん?

 あまりの画力に度肝を抜かれたが、新ためて絵を見てみる。

 絵はどう見てもカメレオン。それは間違えようがない。

 カメレオン――。

 つまり、

「終わりだ!」

 思わず柊は声をだしてしまった。

 ――やばい!

 何より規律を重んじる教師だ、授業中の意味もない大声など反省室送りが目に見えている。

 獲物を狙う肉食獣のように柊は睨まれ、

「桔梗院――」

 反省室送り、と言い終わる前にチャイムが鳴った。

「そうか、そんな時間だったのか、教えてくれて助かった。それじゃあ、終わりだ! まだ書き直しが終わっていないやつもいるみたいだが、時間切れだ。前へ持ってこい」

 チャイムになんとか救われた。

 木屋瀬の方を見てみれば、ニヤリと笑っている。

 もしかすると、チャイムが鳴ることも計算していたのかもしれない。

 そう思うと、つくづく敵には回せないやつだと思いしらされる。

「まぁ、絵しりとりも終わりだな」

「え?」

 なんのことか分かっていない合馬は、柊の机の上にあるプリントを覗きこんだ。納得したように手を叩き、

「確かに終わりだね」

「これは、卑怯だぞ司」

「ギリギリ間に合ってよかったよ」

 もう少し早ければ反省室送り、もう少し遅ければチャイムと同時か、その後に柊は叫んでいた。そういった意味では、確かにギリギリと言える。

 休み時間に入ったことで絵の答え合わせをしてみれば、合馬の描いた絵はトマトとスイカで合っていたみたいだった。

 次の授業は古典で五十点だったが、出席点や授業態度点を合わせれば欠点はないと思える。

 三限目で理科総合Ⅰ、四限目で英語Ⅰと返却されたが、今のところは問題なさそうだった。

 それよりも今一番の問題は、英語Ⅰの見直しをしているときにやって来た眠気。

 柊は眠気と格闘するが、なかなか有効打を与えることができない。眠気はふわふわと攻撃を回避して、眠りへ誘おうとしてくる。

 ――この後周船寺さんと遊ぶっていうのに……。

 欠伸が止まらず目から涙がこぼれる。

 目を瞑ってしまえば直ぐに眠りに着くことができそうだ。

 こんなとき、眠気が一気に覚めるものがあればと考えた。

 学校が午前中で終わるため食堂は開いていない。けれど、その前の自動販売機なら。

 ――そうか!

 もうじきホームルームも終わる。それと同時に飛びだせばいい。

「司、俺ホームルール終わったら自販機いってくるからさ、もし周船寺さんがここに来たら待っててもらえるように言ってくれるか? 合馬にばれないように」

 ホームルームの最中に柊は木屋瀬にだけ聞こえるように頼む。

「清一郎にばれないようにはどうかわからないが、頼まれてやる」

 これは貸しか? と付け加えてきたが、ボランティアで頼むと返した。

「ならジュース一本だな、まともなものを頼む」

 それはボランティアではないのでは? と思ったが、貸しを作るよりはマシだと思ったので受け流す。

 ホームルームが終わると直ぐに教室を飛びだし階段へ。

 二段飛ばしで降りてから、通路を抜ける。中庭から行くよりも、グラウンド側まで突き抜ける方が少し早く着ける。

 グラウンドからは更衣室まで一本でいける通路があり、向かって左はグラウンド。安全のため緑の防球ネットが張られている。右には校舎で、通路と校舎の間には桜の木が植えられていてちょっとした並木道になっている。

 唯を待たせるわけにもいかないので、足早に自動販売機を目指した。
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