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ファッション
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「この後どうする? 私クレープ食べたいって思ってるんだど……」
「まだ甘いもの食べるの? でも、甘いもの好きだからいいけど」
柊は合わせてくれているわけではないことがさっきのパンケーキでよくわかった。本当に甘いものが好きみたいだ。
「大丈夫? 胃がもたれたししない?」
けれど、もし少しでも無理をしているなら止めようと思った。
「問題ないよ!」
「ほんと?」
「うん、だからクレープも食べに行こうよ、楽しいし今度は奢るよ?」
そう言えばそんな約束をしていたと思いだす。
「そのときそのときで楽しいって思ったときにだけ奢るよ」と柊は言っていた。
さっきは楽しくなかったのかな? と思うが、楽しいよりも美味しいと思っていたのなら仕方がないかな? と思うようにした。
竹下通りに向かうにつれて、人が多くなってきた。
人が多いことにイライラしている感情や、楽しんでいる感情。意外と遊ぶ所なくて退屈している感情と、いろいろな感情がさまざまな味となって襲ってくる。
できるだけ柊に意識を集中して余計な感情を受け入れないようにした。
でも、それはほんの気休め程度しかできなく、辛い表情を柊に見せてしまった。
「周船寺さん大丈夫?」
「うん、大丈夫」
もちろんそれは嘘だ。
「無理は良くないよ、早くクレープを買って公園にでも行って休憩しようか」
「うん」
早くといっても竹下通りは人が多く、流れに沿わないと移動は困難。
なるべく柊に意識を集中して、他の人の感情を受け入れないようにしてクレープ屋を目指す。
ほんの少し服のキャッチがあったけれど、柊が「結構です」と断っていた。
人の流れに乗って二十分歩くと、ようやく店が見えてくる。
青い屋根をしていて、店の前にはショーケースが置かれ、その前には若い女の人が並んでいた。
その奥にもクレープ屋があり、そちらはピンクの外観をしている。こちらも行列ができている。
「桔梗院くん、この店だよ」
唯は青い屋根の方を指差して柊に言う。
「そっちの店も行列できてるみたいだけど?」
「うん、二つとも有名なお店で、どっちでもよかったんだけど、こっちのアップルカスタードが食べたくてね」
唯はショーケースにあるアップルカスタードの食品サンプルを見ながら言った。
「周船寺さんりんご好きだね、ジュースもりんごがいいって言ってたもんね」
「りんご美味しいよ?」
「俺もそれにしようかなー」
パンケーキのときよりは並ぶ時間は少なく、少し話しているだけでメニューを頼むことができた。
柊はアップルカスタードを二つ頼み、パンケーキ店の前で言っていたように代金は持ってくれた。
「公園行こうか」
二つ作られるのを眺め、できあがると柊はアップルケーキを二つ受け取り原宿駅の方を目指して歩き始める。
「うん」
唯は柊の後について行く。
明治通りから竹下通りに入り、クレープ屋までとほとんど変わらない距離を原宿駅に向かって歩いているとき、
「そういえば周船寺さんは服とか見ないの?」
若者向けファッション店を見ながら言ってきた。
興味がないわけではないが、唯はあまりファッションセンスには自信がない。
そもそも誰かとでかけるということがなかったので、誰かに見られるという意識をしてこなかった。ファッション雑誌を読んではやりの服を研究したりなどは無縁のこと。
適当に買った服を適当に合わせるくらいで、このブランドが好きというものがない。どんなブランドがどれほどの値段で売られているのかもあまりしらない。
「興味はあるんだけど、難しそうで……」
「それだったら今度一緒に見に行ったりする? 人が少ない店にするけどさ?」
笑いながらそう言ってくれた。
柊なりの優しさなんだろう。
「それは私を着せかえ人形のように遊ぶってこと?」
昔ならこんな皮肉を言うこともできなかった。けれど、柊と木屋瀬が合馬を弄っていたときに唯も勇気をだして弄る言葉をかけたときから少しは変われたと唯自身思う。
「それは楽しいかもね?」
柊は悪戯っ子のような目つきで笑う。
本当に着せ替え人形として遊ばれるのかもと思わせるほど、柊のその笑顔は印象に残るものだった。
「冗談だよね?」
思わず唯は引きつった笑みを浮かべながら口にだしてしまった。
「どうだろうね?」
柊の感情が分かればこの言葉が嘘かどうか分かるというのに、感じられないことがもどかしい。感じられないからこそ楽しいということもあるけれど、やはり頼ってきたものが使えないというのは不安。
「泣くよ?」
まったくそんなこと思っていないけれど、少しだけ悲しそうな顔をしながら言ってみると、
「こんなところで泣かれると困るかな? 冗談だからさ、泣かないで?」
柊は不安そうな顔をしていたので、唯はしてやったりという顔をしながら、
「冗談だよ、桔梗院くん」
「そっか、それはよかった」
「ちなみにどこまでが本当なの? 一緒に見に行くくらい?」
「そうだね、一緒に見に行くまでは本当。でも、着せ替えは嘘ではないけど、やってみたいくらいのもので、遊びはしないから安心して?」
――だったらその笑顔は一体……。
柊の笑顔が愛想笑いだといいなと唯は思った。もし不適な笑みだとすれば、本当に着せかえさせかれない。
最近の若い人子が着ているようなコーディネートを持ってきて、
「これ似合うよ!」
はたまたはフリフリとしているような可愛らしい服を持ってきて、
「冒険してみない?」
なんてことを言ってきそうだ。
けど、そんな発言をするのはきっと合馬の役だと思うので、普通に選んでくれそうだとも思える。
結局のところは分からない。だからこそ、こうして想像することができるんだろうなと唯は想像を膨らませた。
もし味が分かれば、「これ似合うよ!」の方は、ちゃんと選んでくれていて甘い味がしそうだ。
「冒険してみない?」といった方は、遊んでいるので酸味が強そう。
分からないのは怖い。でも、分からないから楽しい。どちらも一長一短だ。
「遊ばずにちゃんと選んでくれるっていうなら、お願いしてみたいとは思うけど、遊ばれるのは嫌だよ?」
「大丈夫。遊ぶのは合馬の役目でしょ」
唯の思っていたことが柊にも言われたので、
「私もそれ考えてたの、合馬くんならこれいいよ! とかいって水着とか持ってきそうじゃない?」
考えてみたことを柊に言ってみると、
「ああ、合馬ならありそう……いや、あるよ! きっと」
こうして笑い合っていると、周りの感情はそれほど気にならなかった。
――もしかしたら、これも桔梗院くんの気遣い、なのか?
違うかもしれないけれど、なんとなくそんな気がした。もしかすると、柊は無意識でやっているのかもしれない。
でも、それは確実に唯を救っていた。
「まだ甘いもの食べるの? でも、甘いもの好きだからいいけど」
柊は合わせてくれているわけではないことがさっきのパンケーキでよくわかった。本当に甘いものが好きみたいだ。
「大丈夫? 胃がもたれたししない?」
けれど、もし少しでも無理をしているなら止めようと思った。
「問題ないよ!」
「ほんと?」
「うん、だからクレープも食べに行こうよ、楽しいし今度は奢るよ?」
そう言えばそんな約束をしていたと思いだす。
「そのときそのときで楽しいって思ったときにだけ奢るよ」と柊は言っていた。
さっきは楽しくなかったのかな? と思うが、楽しいよりも美味しいと思っていたのなら仕方がないかな? と思うようにした。
竹下通りに向かうにつれて、人が多くなってきた。
人が多いことにイライラしている感情や、楽しんでいる感情。意外と遊ぶ所なくて退屈している感情と、いろいろな感情がさまざまな味となって襲ってくる。
できるだけ柊に意識を集中して余計な感情を受け入れないようにした。
でも、それはほんの気休め程度しかできなく、辛い表情を柊に見せてしまった。
「周船寺さん大丈夫?」
「うん、大丈夫」
もちろんそれは嘘だ。
「無理は良くないよ、早くクレープを買って公園にでも行って休憩しようか」
「うん」
早くといっても竹下通りは人が多く、流れに沿わないと移動は困難。
なるべく柊に意識を集中して、他の人の感情を受け入れないようにしてクレープ屋を目指す。
ほんの少し服のキャッチがあったけれど、柊が「結構です」と断っていた。
人の流れに乗って二十分歩くと、ようやく店が見えてくる。
青い屋根をしていて、店の前にはショーケースが置かれ、その前には若い女の人が並んでいた。
その奥にもクレープ屋があり、そちらはピンクの外観をしている。こちらも行列ができている。
「桔梗院くん、この店だよ」
唯は青い屋根の方を指差して柊に言う。
「そっちの店も行列できてるみたいだけど?」
「うん、二つとも有名なお店で、どっちでもよかったんだけど、こっちのアップルカスタードが食べたくてね」
唯はショーケースにあるアップルカスタードの食品サンプルを見ながら言った。
「周船寺さんりんご好きだね、ジュースもりんごがいいって言ってたもんね」
「りんご美味しいよ?」
「俺もそれにしようかなー」
パンケーキのときよりは並ぶ時間は少なく、少し話しているだけでメニューを頼むことができた。
柊はアップルカスタードを二つ頼み、パンケーキ店の前で言っていたように代金は持ってくれた。
「公園行こうか」
二つ作られるのを眺め、できあがると柊はアップルケーキを二つ受け取り原宿駅の方を目指して歩き始める。
「うん」
唯は柊の後について行く。
明治通りから竹下通りに入り、クレープ屋までとほとんど変わらない距離を原宿駅に向かって歩いているとき、
「そういえば周船寺さんは服とか見ないの?」
若者向けファッション店を見ながら言ってきた。
興味がないわけではないが、唯はあまりファッションセンスには自信がない。
そもそも誰かとでかけるということがなかったので、誰かに見られるという意識をしてこなかった。ファッション雑誌を読んではやりの服を研究したりなどは無縁のこと。
適当に買った服を適当に合わせるくらいで、このブランドが好きというものがない。どんなブランドがどれほどの値段で売られているのかもあまりしらない。
「興味はあるんだけど、難しそうで……」
「それだったら今度一緒に見に行ったりする? 人が少ない店にするけどさ?」
笑いながらそう言ってくれた。
柊なりの優しさなんだろう。
「それは私を着せかえ人形のように遊ぶってこと?」
昔ならこんな皮肉を言うこともできなかった。けれど、柊と木屋瀬が合馬を弄っていたときに唯も勇気をだして弄る言葉をかけたときから少しは変われたと唯自身思う。
「それは楽しいかもね?」
柊は悪戯っ子のような目つきで笑う。
本当に着せ替え人形として遊ばれるのかもと思わせるほど、柊のその笑顔は印象に残るものだった。
「冗談だよね?」
思わず唯は引きつった笑みを浮かべながら口にだしてしまった。
「どうだろうね?」
柊の感情が分かればこの言葉が嘘かどうか分かるというのに、感じられないことがもどかしい。感じられないからこそ楽しいということもあるけれど、やはり頼ってきたものが使えないというのは不安。
「泣くよ?」
まったくそんなこと思っていないけれど、少しだけ悲しそうな顔をしながら言ってみると、
「こんなところで泣かれると困るかな? 冗談だからさ、泣かないで?」
柊は不安そうな顔をしていたので、唯はしてやったりという顔をしながら、
「冗談だよ、桔梗院くん」
「そっか、それはよかった」
「ちなみにどこまでが本当なの? 一緒に見に行くくらい?」
「そうだね、一緒に見に行くまでは本当。でも、着せ替えは嘘ではないけど、やってみたいくらいのもので、遊びはしないから安心して?」
――だったらその笑顔は一体……。
柊の笑顔が愛想笑いだといいなと唯は思った。もし不適な笑みだとすれば、本当に着せかえさせかれない。
最近の若い人子が着ているようなコーディネートを持ってきて、
「これ似合うよ!」
はたまたはフリフリとしているような可愛らしい服を持ってきて、
「冒険してみない?」
なんてことを言ってきそうだ。
けど、そんな発言をするのはきっと合馬の役だと思うので、普通に選んでくれそうだとも思える。
結局のところは分からない。だからこそ、こうして想像することができるんだろうなと唯は想像を膨らませた。
もし味が分かれば、「これ似合うよ!」の方は、ちゃんと選んでくれていて甘い味がしそうだ。
「冒険してみない?」といった方は、遊んでいるので酸味が強そう。
分からないのは怖い。でも、分からないから楽しい。どちらも一長一短だ。
「遊ばずにちゃんと選んでくれるっていうなら、お願いしてみたいとは思うけど、遊ばれるのは嫌だよ?」
「大丈夫。遊ぶのは合馬の役目でしょ」
唯の思っていたことが柊にも言われたので、
「私もそれ考えてたの、合馬くんならこれいいよ! とかいって水着とか持ってきそうじゃない?」
考えてみたことを柊に言ってみると、
「ああ、合馬ならありそう……いや、あるよ! きっと」
こうして笑い合っていると、周りの感情はそれほど気にならなかった。
――もしかしたら、これも桔梗院くんの気遣い、なのか?
違うかもしれないけれど、なんとなくそんな気がした。もしかすると、柊は無意識でやっているのかもしれない。
でも、それは確実に唯を救っていた。
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