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新たなる仲間たち
28.動き出す世界
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「それは召喚石!? なぜまだ破壊していないっ!? 」
「呪いが掛かっていなかったので。どうしても破壊しなければいけないんですか? 」
竜神の角から数分歩いた街道沿いで、ボクたちの前にレオンパーティが現れた。わざわざ森で待ち伏せていたらしい。今はボクとレオンが1対1で話をしていて、それぞれの仲間は数歩後ろで控えている状況だ。
「何度も言わせるな! それは呪われている! 」
「絶対に呪われてなんかいない!! 」
「チッ、そんなことは重要じゃない! それを壊さないといけないんだ! そう決まっているんだ! 」
「だから! どうして壊さなきゃいけないのかを教えてくれないと納得できない! 信じられない! 」
「それは言えないと言っているだろ!! 」
「西の勇者レオン、君は、もしかして――」
魔人との関係を質そうというボクの意図を感じ取ったのか、レオンの表情が一変する。
「黙れよ!! 」
「あっ!! 」
レオンがボクの手から強引に召喚石を奪い取った!
『これで……終わりだ……全て……終わる』
ガシャ~ン!!
地面に叩きつけられた召喚石は、安い陶器のように粉々に砕け散った――。
そして、彼は仲間の元にゆっくりと歩いていく。今まで見たことのない表情で、肩を激しく揺らしながら大声で笑っている。その目は血走り、狂喜を全面に表した微笑みだった――。
でも――まだ、彼が魔人なのか確証がない!
それでも、今すぐに攻撃すべき?
それとも、様子を見るべき?
『レオン、それは偽物だわ。騙したわね!! 』
勇者パーティのお姉さん僧侶が叫ぶ!
この人はパーティの頭脳担当だ。ボクにしか触れられない召喚石をレオンが掴んだ事実、しっかりと見られている。完全にバレた! 平和的解決の道も、エンジェルウイングとの挟撃作戦の道も断たれた!
メルちゃんとアユナちゃんがボクの横に走り寄って来る。アユナちゃんは既に全精霊を召喚済みだ。ナイス判断だよ!
『リンネ様! あの女はサキュバス、魔人です!! 』
「えっ!? ありがとう、ドライアード! 魔人相手なら、容赦しない! 先手を仕掛ける!! 」
「サンダーレイン!! 」
咄嗟に魔力の1割を練り込み、半径20mの広範囲に光の矢を放つ!
「ぐわぁー!! 』
『チッ! 』
『! 』
『! 』
レオンは――えっ!? 倒した!? 弱すぎでしょ!?
僧侶は後退してこっちを睨んでいる。
次第に口が裂けていき、翼が生えてきた。これがこの女の真の姿、サキュバス――。
戦士と魔法使いは――えぇ!? 姿が完全に変わってる!
[鑑定眼!]
種族:レッサーデーモン(下級魔族)
レベル:29
攻撃:18.45
魔力:22.80
体力:16.75
防御:17.15
敏捷:20.40
器用:10.65
才能:1.30
「レッサーデーモン、レベル29! ステータス平均20!! 強いよ気を付けて!! 」
魔族――魔物の中でも高い知能を有する存在。それが2匹、しかも魔人サキュバスまで居る!! どうする!?
「聞いて! サキュバスは観れない! あいつとはボクが戦う! 2人はレッサーデーモンを1匹ずつお願い!! 」
「分かった! 」
「早く倒して援護に行きます! 」
無茶ブリなのは承知! でも、2人とも力強く引き受けてくれた――ボクも早くやっつけてみんなを助けに行くんだ!! エルダートレントの杖を握る手に力が入る。足を踏ん張り、サキュバスを睨みつける!
サキュバスが余裕の表情で歩み寄って来る。
『勇者アルンの血筋の者なら竜の聖結界を破れると思ったのですが、とんだ役立たずでしたよ。立ったのは夜と朝だけでしたわ、ふふっ』
優雅な歩き方とは対照的に、浮かぶのは下品な笑み――。
『ヴェローナ様、コイツラ喰ッテモ? 』
『モウ遊ビワ終ワリデスカイ? 』
『この銀髪は私が貰うから、そっちの水色とエルフは好きにして良いわよぉ』
★☆★
『エルフゥ! 何十年振リノ馳走ダァ~! 』
「私、お前なんかに負けないから!! 精霊さん、力を貸して!! 」
4精霊がレッサーデーモンを包囲する。
『ヒャッヒャッヒャッ! ソンナ下位精霊ニ何ガデキルヨ!! 』
レッサーデーモンは、禍々しく伸びた右手の爪で切り裂くべくトレントに襲いかかる! 速い!
シルフが小さな身体を広げ、頑張って風を起こす。レッサーデーモンの顔前に砂埃が舞う!
「セイントブレス!! 」
咄嗟に両手で目を庇ったレッサーデーモンに、エルフが放つ閃光が突き刺さる!
それに合わせるように、ドライアードのウッドスピア、シルフのウィンドカッター、ウィルオーウィスプのライトニング、トレントの枝の薙ぎ払いが炸裂する! 絶妙のコンビネーションだ!
『マッサージワ終ワリカ? 』
「えっ! 効いてない!? 」
レッサーデーモンは、全くと言って良いくらい無傷だった。
『ドコカラ喰オウカナァ~! 』
精霊たちをあざ笑うかのように、隙だらけで歩み寄るレッサーデーモン、主を護ろうとがむしゃらに悪魔の背中を打ち続ける精霊たち――しかし、その歩みを阻止することすら叶わない。
「ウィンドカッター!! 」
エルフは、魔力を精一杯込めた風魔法を放つ! そして、間髪入れず、杖を両手に構えて飛び込んで行く!!
それを、紫の皮膚から僅かに緑の血液を滲ませたレッサーデーモンが迎え撃つ!!
「ライト!! 」
目眩ましの補助魔法が、暫し悪魔の視力を奪う。隙を見逃さず、再び全員が迫るが――。
『何度モ同ジ手ワ効カネェナァ~!! 』
尻尾で打ち払われるドライアード、ブレスで消し飛ぶシルフとウィルオーウィスプ、トレントは、主に迫る魔の爪を体を張って守る。切り裂かれ、砕け散る幹――精霊たちは魔の手によって消滅した。
エルフは泣きながら杖を悪魔に叩き込む。禍々しく捻れた角が生える頭を、その下劣に笑う顔を叩き続けた。悪魔は避けない。避ける必要すらないから――。
やがて、鬱陶しいハエを払うような一撃がエルフを捉える。吹き飛ばされ、地面に倒れ臥す彼女――悔し涙が綺麗な顔をぐしゃぐしゃに汚していく。
レッサーデーモンが、欲望にまみれた顔でエルフに覆い被さろうと迫ったその時――背後からの強烈な一撃が、その頭部を破壊した。
「アユナちゃん、よく頑張ったね! 立てる? リンネちゃんを助けに行くよ!! 」
頭から1本の角を生やした青髪の少女が、優しく、そして力強く声を掛ける。
「うんっ!!! 」
エルフの顔は、その髪色と相まって太陽のように眩しく輝く。
★☆★
先手必勝! どこぞのかっこつけヒーロー&ヒロインみたいに、放送時間を気にした出し惜しみの時間稼ぎなんてしない! 最初から全力全開フルパワーがボクの真骨頂だよ!
魔力を……練る練る練る練る……全魔力の8割を練り込む……中級だけど、魔王を倒せるくらいまで練り上げる! 頭痛がしてきた……でも、まだまだ! 吐き気が……まだまだ! 意識が……そろそろ撃つ!!
「全力全開サンダーストーム!!! 」
半径5mの巨大な落雷が天を翔け、地を穿つ!
轟音が世界の音を掻き消す中、サキュバス(ヴェローナ)の高笑いだけが木霊する――。
うそっ?
外した!?
あのサキュバス、どこ行った!?
ボクは見知らぬ部屋の中に1人立っていた――。
誰も居ない薄暗い部屋、まるで召喚されたあの地下室みたいだ。もしかして、転移魔法!?
ボクは、気配を探りながらゆっくりと歩を進める。
『ガサッグシャッ! 』
何かを踏んだ感触と音――。
枯れ葉? 屈んで足元を覗き込む。
「うわっ!! 」
ボクの足元には何千何万というアイツらが、黒光りして2本の触角をフリフリしながら部屋の隅を駆け回るアイツらが、四方の壁一面を覆い尽くすアイツらが居た!
なんという場所に転移させたんだ――口の中に入らないようにしないと!
とりあえず出口を探すか。
ボクは平然と歩く。
『ガサッグシャッガサッグシャッガサッ――』
そう、別にボクはコイツらを苦手にしていない。恐らく元の世界でそうだったのだろう。
でも、邪魔だから消し去るか――。
「サンダーレイン! 」
よし、全部消えた!
すると、突然部屋が明るくなった! 何か魔法のスイッチが入ったような?
「えっ!? 」
いきなり男が4人、部屋に転移してきた!
けど、よく見ると武器を持っていない? それどころか、満面の笑顔だ――。
金髪碧眼のあどけなさが残る10代前半の子、黒髪長身のスラっとした10代後半の子、赤髪スポーツマン風な10代後半の子、そして銀髪の20代爽やか青年――全てが究極のイケメンたち。
彼らがなぜか、いきなり上半身裸に!?
なにこの展開!
キモイーい、キモすぎる、笑えない!!
ボクは嫌悪感丸出しで杖を構える!
「サンダーレイン! 」
『くっ!! なかなかやるわね――女なら誰もが気絶する私の幻術連華を破るとは! さすがは本物の勇者と言ったところね』
「幻術!? 」
『正直侮ったわ! あら? 貴女、魔力切れのようね』
「っ!! 」
『ふふっ、可愛い。今日はこの辺にしといてあげるわ。私は魔王が配下、魔人序列第8位のヴェローナよ。また今度遊びましょう』
何か怪しい……勇者を倒すチャンスなのに、魔人が見逃すなんて。もしかして……幻術しか能がないタイプ? 今……やるしかない……ボクは杖をしまい、棒2号を両手で持つ。
「逃がすかっ! 」
ヴェローナが翼を広げた瞬間、その羽ばたく一瞬を見逃さない!
一気に踏み込んで距離を縮め、右の翼を狙って振り抜く!
『痛ッ! 』
当たった!
即座に右から反撃が飛んでくる! 速い!
バックステップで避けたけど、左手が抉られた――激痛が走る!
「ヒール! 」
うっ、頭がクラクラする。魔力量がもう残り僅かだ、なるべく被弾しないようにしないと――。
隙ありと見てヴェローナが跳んでくる!
右手の爪を棒で受け止める!
左手が迫る!
その一瞬前に、脛を思いっきり蹴り上げる!!
蹲るヴェローナに棒を振り上げ、右から頭を狙う! 左から脚を狙う! 左に薙ぐ! 右に払う! 上から叩く!
しかし、段違いの回避能力の前に、30回を超えるボクの連続攻撃が、全く当たらない――。
でも、ヴェローナにだって余裕は無いはず! 防戦一方で肩で息をしている!
魔人に滅ぼされたあの町が、苦しめられたニンフの姿がふと脳裏に浮かぶ――ボクはここで退く訳にはいかないんだ!!
残りの全魔力で、撃つ!!
「サンダーストーム!! 」
意識が飛びかけて脚がもつれそうなところを、唇を噛み、根性で踏み止まる!
雷撃は――ヴェローナに直撃した!
翼が焦げ落ち、片腕が出血とともに垂れ下がっている。
『クッ! ここまでか……次こそ……』
「次はない! 絶対に逃がさないわ!! 」
エンジェルウィングが退路を断つように現れていた。居城に逃げられないよう、迂回して待ち伏せしてもらうという、作戦通りの動きだ。
そこには、団員からサーベルを2本受け取り、ちょんまげ風のカツラで萌え度を引き上げられたレンちゃんも居る。まるでムサシさんだ。
『貴様らッ! 』
アリスさんは容赦がなかった――。
翼を斬り捨て、両手両足に剣を突き刺す。倒れたところで両手両脚の骨を折る――意識が無くなったヴェローナは、さらに光魔法中級のライトバインドを掛けられ、口も封じられて完全に捕縛された。
一部始終を見逃さずに見届けた後、安心したからか、ボクの意識も急速に揺らいでいく。崩れ落ちる身体を、力強い腕が抱き留めてくれた。
俯くボクの視界に赤髪が入る。見上げると、橙色の暖かい瞳が見つめていた。背後にはメルちゃんとアユナちゃんも心配そうに見ている。優しい笑顔に包まれながら、ボクは安心して意識を手放した。
★☆★
ボクたちは今、北端の町ヴェルデのギルド会議室に居る。
みんな無傷だ。ボク1人だけがやられたみたいで、なんとなく立つ瀬が無い。
居並ぶ面々はボクの仲間たちと、エンジェルウィングの生き残り5人、そして――あのレオンだ。
「俺は――西のアルン王国王太子レオンだ。あのサキュバスに魔神の加護を植え付けられた。この部屋で目覚めるまで、完全に操られていた――すまない、迷惑を掛けた」
えっ、アルン王国の王子様!?
このイケメン王子、サキュバスの誘惑に負けて心も身体も許してしまった訳だね、自業自得じゃない? アユナちゃん、うっとりしちゃダメ!
ちなみに、ギルドの調査でもエンジェルウィングの調査でも、レオンに施された魔神の加護は消滅していた。でもさ、魔神の加護が無ければボクの魔法で逝ってたよね? そう思うと、今更ながらぞっとする――。
ヴェローナだっけ、あのサキュバス――精神支配とあの幻術、強いのか弱いのかはイマイチ不明だけど、魔人なのにこんな搦め手を使ってくるなんて厄介だよ。
ボクは、知りうる限りの説明をみんなにしてあげた。今は1人でも多くの仲間が、協力者が必要だから。
「ミルフェ王女がアルン王国へ? まずいな――サキュバスの陰謀で、アルンでは俺がフリージアの刺客に拐われたことになっているんだ。俺は急ぎ帰国して王女に協力する。戦争を起こす訳にはいかない! 何とか阻止せねば――」
レオン王子は苦々しい表情で、精神支配されていた間に得たであろう情報を語った。
ヴェローナの使命は、アルン王国とフリージア王国の国交断絶、フリージア王国内に魔界の門を出現させることと、召喚石が揃うのを阻止することだったらしい。
魔人は全部で10体――序列1位から10位まで居るらしい。魔人は魔族を従えて各地で暗躍、陰謀を企て実践しているんだとか。その中には、南の新興国を騙して大陸戦争を起こす使命を帯びた者も居るそうだ。
「我等エンジェルウィングも、有志を集めて北部の町を防衛しよう。ちなみに捕縛したサキュバスだが、居城を調査した後に王国異端審問局へ引き渡すことになる」
レオン王子の話が真実ならば、ミルフェちゃんが心配!
だけど、信じよう。ミルフェちゃんならきっと何とかしてくれる! お互いに信じるって決めたんだもん。
だから、ボクはボクにできることをする。ボクたちにはやるべきことがある。今は一刻も早く北の大迷宮を攻略し、召喚石を手に入れねばならない。立ち止まってはならない。
「ボクたちは、明朝チロルへ出発します」
仲間と共に、新たな仲間を探しに行こう!
「呪いが掛かっていなかったので。どうしても破壊しなければいけないんですか? 」
竜神の角から数分歩いた街道沿いで、ボクたちの前にレオンパーティが現れた。わざわざ森で待ち伏せていたらしい。今はボクとレオンが1対1で話をしていて、それぞれの仲間は数歩後ろで控えている状況だ。
「何度も言わせるな! それは呪われている! 」
「絶対に呪われてなんかいない!! 」
「チッ、そんなことは重要じゃない! それを壊さないといけないんだ! そう決まっているんだ! 」
「だから! どうして壊さなきゃいけないのかを教えてくれないと納得できない! 信じられない! 」
「それは言えないと言っているだろ!! 」
「西の勇者レオン、君は、もしかして――」
魔人との関係を質そうというボクの意図を感じ取ったのか、レオンの表情が一変する。
「黙れよ!! 」
「あっ!! 」
レオンがボクの手から強引に召喚石を奪い取った!
『これで……終わりだ……全て……終わる』
ガシャ~ン!!
地面に叩きつけられた召喚石は、安い陶器のように粉々に砕け散った――。
そして、彼は仲間の元にゆっくりと歩いていく。今まで見たことのない表情で、肩を激しく揺らしながら大声で笑っている。その目は血走り、狂喜を全面に表した微笑みだった――。
でも――まだ、彼が魔人なのか確証がない!
それでも、今すぐに攻撃すべき?
それとも、様子を見るべき?
『レオン、それは偽物だわ。騙したわね!! 』
勇者パーティのお姉さん僧侶が叫ぶ!
この人はパーティの頭脳担当だ。ボクにしか触れられない召喚石をレオンが掴んだ事実、しっかりと見られている。完全にバレた! 平和的解決の道も、エンジェルウイングとの挟撃作戦の道も断たれた!
メルちゃんとアユナちゃんがボクの横に走り寄って来る。アユナちゃんは既に全精霊を召喚済みだ。ナイス判断だよ!
『リンネ様! あの女はサキュバス、魔人です!! 』
「えっ!? ありがとう、ドライアード! 魔人相手なら、容赦しない! 先手を仕掛ける!! 」
「サンダーレイン!! 」
咄嗟に魔力の1割を練り込み、半径20mの広範囲に光の矢を放つ!
「ぐわぁー!! 』
『チッ! 』
『! 』
『! 』
レオンは――えっ!? 倒した!? 弱すぎでしょ!?
僧侶は後退してこっちを睨んでいる。
次第に口が裂けていき、翼が生えてきた。これがこの女の真の姿、サキュバス――。
戦士と魔法使いは――えぇ!? 姿が完全に変わってる!
[鑑定眼!]
種族:レッサーデーモン(下級魔族)
レベル:29
攻撃:18.45
魔力:22.80
体力:16.75
防御:17.15
敏捷:20.40
器用:10.65
才能:1.30
「レッサーデーモン、レベル29! ステータス平均20!! 強いよ気を付けて!! 」
魔族――魔物の中でも高い知能を有する存在。それが2匹、しかも魔人サキュバスまで居る!! どうする!?
「聞いて! サキュバスは観れない! あいつとはボクが戦う! 2人はレッサーデーモンを1匹ずつお願い!! 」
「分かった! 」
「早く倒して援護に行きます! 」
無茶ブリなのは承知! でも、2人とも力強く引き受けてくれた――ボクも早くやっつけてみんなを助けに行くんだ!! エルダートレントの杖を握る手に力が入る。足を踏ん張り、サキュバスを睨みつける!
サキュバスが余裕の表情で歩み寄って来る。
『勇者アルンの血筋の者なら竜の聖結界を破れると思ったのですが、とんだ役立たずでしたよ。立ったのは夜と朝だけでしたわ、ふふっ』
優雅な歩き方とは対照的に、浮かぶのは下品な笑み――。
『ヴェローナ様、コイツラ喰ッテモ? 』
『モウ遊ビワ終ワリデスカイ? 』
『この銀髪は私が貰うから、そっちの水色とエルフは好きにして良いわよぉ』
★☆★
『エルフゥ! 何十年振リノ馳走ダァ~! 』
「私、お前なんかに負けないから!! 精霊さん、力を貸して!! 」
4精霊がレッサーデーモンを包囲する。
『ヒャッヒャッヒャッ! ソンナ下位精霊ニ何ガデキルヨ!! 』
レッサーデーモンは、禍々しく伸びた右手の爪で切り裂くべくトレントに襲いかかる! 速い!
シルフが小さな身体を広げ、頑張って風を起こす。レッサーデーモンの顔前に砂埃が舞う!
「セイントブレス!! 」
咄嗟に両手で目を庇ったレッサーデーモンに、エルフが放つ閃光が突き刺さる!
それに合わせるように、ドライアードのウッドスピア、シルフのウィンドカッター、ウィルオーウィスプのライトニング、トレントの枝の薙ぎ払いが炸裂する! 絶妙のコンビネーションだ!
『マッサージワ終ワリカ? 』
「えっ! 効いてない!? 」
レッサーデーモンは、全くと言って良いくらい無傷だった。
『ドコカラ喰オウカナァ~! 』
精霊たちをあざ笑うかのように、隙だらけで歩み寄るレッサーデーモン、主を護ろうとがむしゃらに悪魔の背中を打ち続ける精霊たち――しかし、その歩みを阻止することすら叶わない。
「ウィンドカッター!! 」
エルフは、魔力を精一杯込めた風魔法を放つ! そして、間髪入れず、杖を両手に構えて飛び込んで行く!!
それを、紫の皮膚から僅かに緑の血液を滲ませたレッサーデーモンが迎え撃つ!!
「ライト!! 」
目眩ましの補助魔法が、暫し悪魔の視力を奪う。隙を見逃さず、再び全員が迫るが――。
『何度モ同ジ手ワ効カネェナァ~!! 』
尻尾で打ち払われるドライアード、ブレスで消し飛ぶシルフとウィルオーウィスプ、トレントは、主に迫る魔の爪を体を張って守る。切り裂かれ、砕け散る幹――精霊たちは魔の手によって消滅した。
エルフは泣きながら杖を悪魔に叩き込む。禍々しく捻れた角が生える頭を、その下劣に笑う顔を叩き続けた。悪魔は避けない。避ける必要すらないから――。
やがて、鬱陶しいハエを払うような一撃がエルフを捉える。吹き飛ばされ、地面に倒れ臥す彼女――悔し涙が綺麗な顔をぐしゃぐしゃに汚していく。
レッサーデーモンが、欲望にまみれた顔でエルフに覆い被さろうと迫ったその時――背後からの強烈な一撃が、その頭部を破壊した。
「アユナちゃん、よく頑張ったね! 立てる? リンネちゃんを助けに行くよ!! 」
頭から1本の角を生やした青髪の少女が、優しく、そして力強く声を掛ける。
「うんっ!!! 」
エルフの顔は、その髪色と相まって太陽のように眩しく輝く。
★☆★
先手必勝! どこぞのかっこつけヒーロー&ヒロインみたいに、放送時間を気にした出し惜しみの時間稼ぎなんてしない! 最初から全力全開フルパワーがボクの真骨頂だよ!
魔力を……練る練る練る練る……全魔力の8割を練り込む……中級だけど、魔王を倒せるくらいまで練り上げる! 頭痛がしてきた……でも、まだまだ! 吐き気が……まだまだ! 意識が……そろそろ撃つ!!
「全力全開サンダーストーム!!! 」
半径5mの巨大な落雷が天を翔け、地を穿つ!
轟音が世界の音を掻き消す中、サキュバス(ヴェローナ)の高笑いだけが木霊する――。
うそっ?
外した!?
あのサキュバス、どこ行った!?
ボクは見知らぬ部屋の中に1人立っていた――。
誰も居ない薄暗い部屋、まるで召喚されたあの地下室みたいだ。もしかして、転移魔法!?
ボクは、気配を探りながらゆっくりと歩を進める。
『ガサッグシャッ! 』
何かを踏んだ感触と音――。
枯れ葉? 屈んで足元を覗き込む。
「うわっ!! 」
ボクの足元には何千何万というアイツらが、黒光りして2本の触角をフリフリしながら部屋の隅を駆け回るアイツらが、四方の壁一面を覆い尽くすアイツらが居た!
なんという場所に転移させたんだ――口の中に入らないようにしないと!
とりあえず出口を探すか。
ボクは平然と歩く。
『ガサッグシャッガサッグシャッガサッ――』
そう、別にボクはコイツらを苦手にしていない。恐らく元の世界でそうだったのだろう。
でも、邪魔だから消し去るか――。
「サンダーレイン! 」
よし、全部消えた!
すると、突然部屋が明るくなった! 何か魔法のスイッチが入ったような?
「えっ!? 」
いきなり男が4人、部屋に転移してきた!
けど、よく見ると武器を持っていない? それどころか、満面の笑顔だ――。
金髪碧眼のあどけなさが残る10代前半の子、黒髪長身のスラっとした10代後半の子、赤髪スポーツマン風な10代後半の子、そして銀髪の20代爽やか青年――全てが究極のイケメンたち。
彼らがなぜか、いきなり上半身裸に!?
なにこの展開!
キモイーい、キモすぎる、笑えない!!
ボクは嫌悪感丸出しで杖を構える!
「サンダーレイン! 」
『くっ!! なかなかやるわね――女なら誰もが気絶する私の幻術連華を破るとは! さすがは本物の勇者と言ったところね』
「幻術!? 」
『正直侮ったわ! あら? 貴女、魔力切れのようね』
「っ!! 」
『ふふっ、可愛い。今日はこの辺にしといてあげるわ。私は魔王が配下、魔人序列第8位のヴェローナよ。また今度遊びましょう』
何か怪しい……勇者を倒すチャンスなのに、魔人が見逃すなんて。もしかして……幻術しか能がないタイプ? 今……やるしかない……ボクは杖をしまい、棒2号を両手で持つ。
「逃がすかっ! 」
ヴェローナが翼を広げた瞬間、その羽ばたく一瞬を見逃さない!
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『痛ッ! 』
当たった!
即座に右から反撃が飛んでくる! 速い!
バックステップで避けたけど、左手が抉られた――激痛が走る!
「ヒール! 」
うっ、頭がクラクラする。魔力量がもう残り僅かだ、なるべく被弾しないようにしないと――。
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右手の爪を棒で受け止める!
左手が迫る!
その一瞬前に、脛を思いっきり蹴り上げる!!
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でも、ヴェローナにだって余裕は無いはず! 防戦一方で肩で息をしている!
魔人に滅ぼされたあの町が、苦しめられたニンフの姿がふと脳裏に浮かぶ――ボクはここで退く訳にはいかないんだ!!
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「サンダーストーム!! 」
意識が飛びかけて脚がもつれそうなところを、唇を噛み、根性で踏み止まる!
雷撃は――ヴェローナに直撃した!
翼が焦げ落ち、片腕が出血とともに垂れ下がっている。
『クッ! ここまでか……次こそ……』
「次はない! 絶対に逃がさないわ!! 」
エンジェルウィングが退路を断つように現れていた。居城に逃げられないよう、迂回して待ち伏せしてもらうという、作戦通りの動きだ。
そこには、団員からサーベルを2本受け取り、ちょんまげ風のカツラで萌え度を引き上げられたレンちゃんも居る。まるでムサシさんだ。
『貴様らッ! 』
アリスさんは容赦がなかった――。
翼を斬り捨て、両手両足に剣を突き刺す。倒れたところで両手両脚の骨を折る――意識が無くなったヴェローナは、さらに光魔法中級のライトバインドを掛けられ、口も封じられて完全に捕縛された。
一部始終を見逃さずに見届けた後、安心したからか、ボクの意識も急速に揺らいでいく。崩れ落ちる身体を、力強い腕が抱き留めてくれた。
俯くボクの視界に赤髪が入る。見上げると、橙色の暖かい瞳が見つめていた。背後にはメルちゃんとアユナちゃんも心配そうに見ている。優しい笑顔に包まれながら、ボクは安心して意識を手放した。
★☆★
ボクたちは今、北端の町ヴェルデのギルド会議室に居る。
みんな無傷だ。ボク1人だけがやられたみたいで、なんとなく立つ瀬が無い。
居並ぶ面々はボクの仲間たちと、エンジェルウィングの生き残り5人、そして――あのレオンだ。
「俺は――西のアルン王国王太子レオンだ。あのサキュバスに魔神の加護を植え付けられた。この部屋で目覚めるまで、完全に操られていた――すまない、迷惑を掛けた」
えっ、アルン王国の王子様!?
このイケメン王子、サキュバスの誘惑に負けて心も身体も許してしまった訳だね、自業自得じゃない? アユナちゃん、うっとりしちゃダメ!
ちなみに、ギルドの調査でもエンジェルウィングの調査でも、レオンに施された魔神の加護は消滅していた。でもさ、魔神の加護が無ければボクの魔法で逝ってたよね? そう思うと、今更ながらぞっとする――。
ヴェローナだっけ、あのサキュバス――精神支配とあの幻術、強いのか弱いのかはイマイチ不明だけど、魔人なのにこんな搦め手を使ってくるなんて厄介だよ。
ボクは、知りうる限りの説明をみんなにしてあげた。今は1人でも多くの仲間が、協力者が必要だから。
「ミルフェ王女がアルン王国へ? まずいな――サキュバスの陰謀で、アルンでは俺がフリージアの刺客に拐われたことになっているんだ。俺は急ぎ帰国して王女に協力する。戦争を起こす訳にはいかない! 何とか阻止せねば――」
レオン王子は苦々しい表情で、精神支配されていた間に得たであろう情報を語った。
ヴェローナの使命は、アルン王国とフリージア王国の国交断絶、フリージア王国内に魔界の門を出現させることと、召喚石が揃うのを阻止することだったらしい。
魔人は全部で10体――序列1位から10位まで居るらしい。魔人は魔族を従えて各地で暗躍、陰謀を企て実践しているんだとか。その中には、南の新興国を騙して大陸戦争を起こす使命を帯びた者も居るそうだ。
「我等エンジェルウィングも、有志を集めて北部の町を防衛しよう。ちなみに捕縛したサキュバスだが、居城を調査した後に王国異端審問局へ引き渡すことになる」
レオン王子の話が真実ならば、ミルフェちゃんが心配!
だけど、信じよう。ミルフェちゃんならきっと何とかしてくれる! お互いに信じるって決めたんだもん。
だから、ボクはボクにできることをする。ボクたちにはやるべきことがある。今は一刻も早く北の大迷宮を攻略し、召喚石を手に入れねばならない。立ち止まってはならない。
「ボクたちは、明朝チロルへ出発します」
仲間と共に、新たな仲間を探しに行こう!
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でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
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