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新たなる仲間たち
30.北の大迷宮1
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「しっかり研究したから任せて! 」
朝6時、全員が迷宮入口の横で女の子座りをしている。女の子はやっぱり女の子座りが最萌えだね。胡座(あぐら)はスカートのとき以外禁止。
ボクは今度こそ先輩としての威厳を取り戻そうと、先生気取りでレクチャー中だ。
「まず、必要なのは"計画性"です。重要だからよく聴いて! ほらアユナちゃん、クピィと遊ばない! レンちゃんも欠伸しない!
1日目:01~08階クリア(8つ)
2日目:09~15階クリア(7つ)
3日目:16~21階クリア(5つ)
4日目:22~25階クリア(4つ)
5日目:26~28階クリア(3つ)
6日目:29~30階クリア(2つ)
7日目:予備日です。これでいきます」
「センパイ! どうして数がバラバラなの? 」
「はい、アユナさん。小学生的な質問ありがとう。当たり前だけど低層は魔物が弱いし罠もない。さらに言えば、宝箱の中身が期待できないから攻略に専念します。20階層からは宝箱も全て狙いたいです」
「他に質問――はい、メルさんどうぞ」
「はい、フロアボスは各階層に出るんですか? 」
「良い質問ですね。この迷宮では5の倍数階層にしかボスは出ません。5階、10階、15階――みたいな感じです。ボスの階層には迷路はありませんし、ボス以外の魔物も出ません」
「次、レンさん質問は? 」
「はい、先生!あたしたちはいつ休憩するんですか? さすがに寝ないとお肌に悪いし、そもそも迷宮内に安全な休憩所はあるんですか? 」
「最初から休むことばかり考えないようにしましょう、というのは冗談で、長丁場ですから休憩は重要です。特に睡眠は魔力回復に効果的ですから1日6時間は寝ましょう。休憩は1日2回、各3時間ずつ階層間の階段でとります。魔物は階段には入りませんが、転がり落ちないように」
1度の休憩が3時間と聞いて、レンちゃんの身体がひっくり返る。白いパンツが見えてるよ!
「次のポイントに進みます。迷宮攻略には"効率性"が重要です。役割分担をすることで効率性が上がります。
リンネセンパイ:マッパー
メルさん&レンさん:戦闘係
アユナさん:雑用係、これでいきます」
「センパイ! ザツヨー係って何ですか? 」
「アユナさん、またまた小学生的な質問ありがとう。まぁ、炊事・洗濯・クピィなどなど。花嫁修業だと思ってください。ちなみに照明は不要ですよ、迷宮内は明るいですから」
「がんばるっ! 」
「他に質問がある方はいますか? 」
「罠の発見と解除は誰がするのですか? 」
「はい、メルさん良い質問です。実は、ギルドからいただいたマップに全て書かれているので、ボクが適宜指摘します。安心してください。罠は11階以降からあるようですね」
「他に質問はありますか? 無いようなので、早速迷宮内に入りましょう!」
北の迷宮は、縦横5km四方の30階構造という巨大さもあり、5年程前までは常に1000人を超える冒険者を抱えるほどの人気だったらしい。
しかし、昨今の魔物侵攻を受けて冒険者が激減したこともあって、今日は30人程しか探索者がいないそうだ。しかもほぼ全員が4階までの低層だと言う――。
<01階>
1階は横幅10m、高さ5mほどの通路だ。入口から中央の下階段まで2.5km続く。
途中、いくつかのパーティとすれ違った際に話を聞いた。彼らは1、2階を往復しながら低レベルの魔物を狩って生計を立てているんだとか。
「皆さん、魔物退治は3階からにします。1、2階は走って逃げるよ? 事情は察してください」
「センパ~イ! 走るの苦手です……」
「はい、アユナさんはしばらく体力にステータスを振りましょう、以上」
1階は僅か40分でクリアした――。
<02階>
ここも複雑な分岐はない階層だ。1階通路と比べると横幅が半分しかない。壁が深翠のタイルで作られ、隙間から漏れだす微光のお陰で迷宮内は明るくなっている。
「何だか森の中みたいだね! 」
「5階層まではこんな感じの雰囲気だそうです」
アユナちゃんの足取りが軽くなる。みんなも森の木漏れ日の中を散歩しているようにリラックスしている。
「この階層は円柱型です。では問題。1辺5kmの正方形の外接円の半径は約何kmでしょう? 」
「「…………」」
「先生、分かりました。約3.5kmです」
「正解です! レンさん賢い! 」
レンちゃんがドヤ顔だ。
「センパイ! 意味が分かりません! 」
「1辺5kmを斜辺とみた直角2等辺3角形の他辺が、外接円の半径になるわけですから、ピタゴラスキル『1:1:√2(1.4…)』を使って――5/1.4=約3.5km、となります。つまり2階層は、この中央階段から外周までの直線約3.5kmを、魔物スルーで進みます」
「あたしは、1辺5kmの正方形の対角線5√2が直径になると考えて、それを、2で割ったけど? 」
「そうです! 正解は1つしか無くても、解法はたくさんある――それが、数学であり、迷宮であり、人生の攻略法なんです」
って、誰も聞いてないじゃん――。
「待ってよ! 」
ボクたちはピクニック気分で歩いた。途中で遭遇した魔物は4種類で、その中には懐かしい姿もあった。
スライム:レベル2~3
グレイラット:レベル3~4
ブラックラビット:レベル4~5
ゴブリン:レベル5~6
「見て下さい」
メルちゃんが指し示す方角から冒険者パーティが来る。
5人かな? そのうちの1人は、薄汚れた布切れを着て、背中に大きな荷物を運んでいる。
「奴隷――? 」
「奴隷だね」
「この世界には奴隷制度あるの? 」
「あるよ。エルフなんか人族に捕まったら奴隷確定なんだよ? だから隠れて住んでるの」
「なんかごめん。メルさんの世界は? 」
「私が居た世界にも奴隷制度はありました。主に犯罪者が奴隷にされていましたね」
「レンさんのところは? 」
「あたしのとこは150年前まであったみたい」
「そっか。ボクのところもそう。だから、奴隷制度自体に嫌悪感を抱くし、奴隷を解放してあげたい気分になっちゃう。同情というか、人権無視に対する怒り?かな」
「あたしもそう。だけど、世界が違うと価値観も変わるからね――正直、どうすべきかわかんないけど」
「お2人の気持ちはよく分かります。ただ、奴隷制度の目的が犯罪防止や救貧にあるようなので――奴隷自身の経緯だったり意思を確認しないと」
そんな話をしているうちに、ボクたちは奴隷を連れたパーティとすれ違った。お互いに挨拶をした程度だけど、死んだような目で下を向いて歩く男の奴隷の姿が瞼に焼き付いてしばらく離れなかった――。
この世界から奴隷制度を廃止できるなんて考えていないけど、拐われて奴隷にされた者を助けたりはできるはずだよね、そんな話をしながら下へ続く階段まで約1時間歩いた。
<03階>
ここから本格的な迷宮が始まる。
入り組んだ迷路は、森の中を歩くが如くに曲線と直線で作られている。ざっくり言うと、正方形の左上がスタート、右下がゴールだ。
「チームピュアホワイト、これより迷宮攻略を開始する! 」
ボクは、周りに誰も居ないことを確認して、少し調子に乗って言ってみた。
「恥ずかしいチーム名だね! 」
「もっと真面目な名前を希望します」
「あたしは何でもいいよ、短ければ! 」
こういう時にスンナリ決まらないのが女の子。皆であーだこーだ言い合って、最終的にはジャンケンになって、やっと結論が出た。
「チームクピィ、これより迷宮攻略を開始する! 頑張るぞっ! 」
「「「おぅ!! 」」」
[メルがパーティに加わった]
[アユナがパーティに加わった]
[レンがパーティに加わった]
今さらパーティ結成!?
1、2階は何だったの? まぁ、システムにツッコミ入れたら負けだ――。
「メルさん、レンさん前衛。ボクとアユナさんが後衛。メルさんは気配察知を、アユナさんはクピィが魔族見つけたら教えて! 行くよ! 」
「まず、300m直進、行き止まりを右に500m」
しばらくしてメルちゃんが呟く。
「30m先に気配、魔物が1匹居ます。クマでしょうか? 」
[鑑定眼!]
種族:グリズリー
レベル:8
攻撃:3.20
魔力:3.15
体力:3.30
防御:3.05
敏捷:1.40
器用:0.75
才能:0.45
あっ、これは――昔々にお世話になったヤツだ。ステータスはこんな感じだったんだ、よく勝てたよね――。
「グリズリーレベル8、意外とタ――」
タフだから気を付けてと言う前に、既にやられていました。バトルジャンキー――そう、バトジャンが約2名ここに居ましたっけ。
「次、400m進んだら右側の袋小路から宝箱回収ね。元に戻ったら500m直進すると3分岐に出る。1番右の道を2km道なりに進むよ! そしたら4分岐に出るから、そこまで行こう! 」
ボクたちはサクサク進んでいく。途中、グリズリーを4匹討伐し、宝箱からはポーションを入手した。
本当は分岐を3km直進すると宝箱がもう1つあるけど、めんどいからパス。メインルートを突き進む!
「リンネ先輩、4分岐に出ました! 」
「分岐を真っ直ぐ1km直進すると宝箱がある部屋に辿り着けるけど、どうする? 」
「「「パスで! 」」」
「そしたら、1番左の道を行くよ! 途中でまた4回分岐にあたるけど、全て真っ直ぐ4km進むと階段だよ! 」
最初のポーションで、みんなの宝箱愛が萎えました。3階には3000リル(300万円)前後の銀貨も出るんだよね、それ目当てに取りに行きたいけど――守銭奴勇者と言われそうだから止めとく。
道中、出てきた魔物はこの程度。
キラービー:レベル6~7
ダークバット:レベル7~8
グリズリー:レベル8~9
アルミラージ:レベル9~10
苦戦することもなく順調に進み、2時間後には4階層への階段へ到達した。現在朝10時、既に4時間が経過している。
「そろそろ休憩? 」
「え? 9時間進んだら3時間休憩、また9時間進んだら3時間休憩ってパターンで考えてるよ? まだ4時間しか経ってないじゃん! あと5時間頑張って? 」
「「鬼!! 」」
アユナちゃんとレンちゃんの叫びは、スルー。
<04階>
ここは3階と同じようだけど、スタートとゴールの位置が逆転した構造。迷路も少し複雑になっている。だけど、完璧な地図があるからメインルートを辿るだけだもんね! 道なりに8km、急げば2時間かな?
「入口から3km直進、分岐は無し。行き止まりを右折して1km進むと5分岐に出る。まずはそこまで1時間で行くよ! 」
道中、また冒険者パーティに遭遇した。4階まで降りてくるパーティは今では珍しい。迷路が複雑な割には得るものが少ないから。
「お疲れ様です」
こういう場合、お互いに警戒心を持つものだ。迷宮内では証拠を残さない完全犯罪が成り立つ。だからトラブルなんてあって当然、らしい。特に人が少なくなる階層では――。
「お嬢さん、あんたらだけでここまで降りてきたんか? 」
パーティは5人全員が男。20代っぽい風貌で、鉄製の厳つい装備が目に痛い。胡散臭さをそこはかとなく放ってるよ!
「はい、メリンダ支部長の指示で最下層まで行くところです」
メリンダさん、名前を借りますね? ギルドマスターのゴドルフィンさんにしようかと思ったけど。
「メリンダさんの? おぅ、そうか……分かった、気を付けてな! 」
何が分かったのか分からないけど、フラグは無事に折れました。何か、うちのバトジャン2名が武器を持ちながら笑顔で威嚇しているようにも、見えなくはない――。
「うわぁ、本当に5分岐だ。初見殺しですね」
道中、レベル10前後の魔物をそれなりの数倒しながらも、予定通り1時間でここまで来た。
「左から2つ目がメインルートです。他はそれぞれ宝箱部屋に続いているけど、多分さっきの人たちが取ってる。だから無視して先に行くよ! 3km道なりに行くと階段がある。他の分岐は無視して、1時間後には階段まで到着! 」
「50m先に気配、1匹ですが――なんだか光っているように見えますね」
「ホントだ! オバケみたい」
なになになにっ!?
[鑑定眼!]
種族:グリズリーキング(レア)
レベル:16
攻撃:6.50
魔力:6.35
体力:6.20
防御:6.10
敏捷:2.80
器用:1.65
才能:0.90
「うわっ、レアモンスターだ! グリズリーキング、レベル16で、ステータスはだいたい6くらいだよ! 」
レアモンスターは初? 昔、エリ村で倒した角ウサギもかな。青赤コンビがあっという間に倒しちゃったけど、レアドロップが出た。この2人は戦闘にアソビがないというか、手抜きしないというか――もしかしたらライバル意識を抱いているのかも?
[グリズリーキングの毛皮:魔法防御に優れたレア素材]
ボクたちはしばらく歩き、5階へ向かう階段に到着した。
<05階>
ここは最初のフロアボスがいる階層だ。北の迷宮ボスは全部で6体。情報によると、こんな感じ。
05階……木属性
10階……火属性
15階……土属性
20階……金属性
25階……水属性
30階……不明
「木属性ということは、トレント? 」
「アユナさん、ハズレです! これは……実は言いたくなかったのですが……ボスは全て竜種だそうです……」
「「ド……ドラゴン!? 」」
アユナちゃん、レンちゃんがわなわなしている。
「おや? メルさんは余裕そうですね」
「余裕ではありませんが、ドラゴンに対して恐怖や畏怖の感情は特にないですね」
ボクたちはお昼ご飯のサンドイッチを食べながら作戦会議中だ。勿論、挟まれているのは竜種――チャイルドドラゴンのハンバーグ。でも、今回は木属性ということで、雷魔法と物理攻撃で攻めることになった。イメージするのは先日の魔人戦の連携だ。
階段を下り終わると、目前には高さ3mはあろうかという木製の巨大な扉が立ち塞がっている。
「センパイっ! 扉は押して下さいね! 」
アユナちゃんが絡んでくるけど、ボクはメルちゃんに目で合図して開けてもらった。これぞ、ザ・愛コンタクト。
扉は触れただけでゆっくり開いていく。なぜにアユナちゃんの口がへの字なのか分かんない。次第に5階層がその全貌を現していく――。
「森……ですね……」
「でもどうして迷宮内に森があるの!? 」
「迷宮の中なのか外なのか分からないよ! 」
ボクは何かデジャヴった。
ランゲイル隊長に習ったことを言えば、会話の流れはコントロールできる。そしてボクは先輩から先生に進化できる! そう、これはチャンスだ! ボクは迷宮先生に、なる!!
「別に珍しくないよ。次元魔法とか空間魔法とか言われてるやつですね。迷宮にはフロア一面が海というのもあるし。海底洞窟を進まないと攻略できないらしいですよ」
「なにそれ! 魚人族しか無理でしょ! 」
「私は泳ぐのは得意ですよ」
「あたしも得意! 水泳大好き! 」
ん? 何か変な流れ?
「かつての大魔法使いは、海を真っ二つに割ったり、業火で全ての海水を干上がらせたらしいですよ。噂ですが」
「そんな魔法、あり得ない! 多分勇者だ! 」
「リンネ先輩は自然破壊しないで下さいね」
「サンダーバーサンだっけ? この前のあの雷。あたし、今でも鼓膜がヒリヒリするんだから、もう使わないでよね? 」
ん? 少しずつディスられてる? だが、押し通す!
「まぁ、噂なんてほとんど嘘だよ。ヒレが何枚も付いてくる。最近の巷での噂知ってる? 青や赤髪の女の子がトイレに行かないのはまだオムツしてるから、とかなんとか――」
「そ……そうだったんだ……なんかゴメンね」
「噂の出所を突き止めてミンチ肉にします! 」
「ミンチの前にあたしが100枚にオロス! 」
うわぁ、グロっ! 今さらギャグです、なんて言えなくなっちゃったよ……わ、話題を変える!
「肉と言えば……ド……ドラゴンの肉のお味はどうでした? 」
「お肉ぅ! また食べたい! 」
「木属性だから肉を焼く炭にしかならないですよ」
「その炭でミンチ肉をハンバーグにすれば、あたしの怒りも収まるよ! 」
はい、修復不可能なのですね……。
「よし! そのみんなの怒りをボスに! さぁ、力を合わせて5階層を突破するよ!! 」
森の奥には神殿らしき建物の一部が見えていた。ボロブドゥール遺跡のような感じだ。静謐な雰囲気を漂わせる森が、まるでその一部を譲るかのように、神殿に向けて道を伸ばしている。
ボクたちは、その道の端を歩いてゆく。神社の参道を歩くような気持ちだ。中央は神様が通るらしいからね――。
30分ほど歩くと開けた場所に出た。
目の前には神殿の入口が口を開けている。近くで見ると、それは余りにも巨大。左右は500m以上あるのではないかという神殿の中へと、ボクたちは足を踏み入れて行く。
それは目の前に居た。
巨大な竜――全長は30mを遥かに超えるだろう。5m以上の高みからボクたちを見下ろす赤色の眼、そして何より歪なのは、全身が木で造られていること。日本人の感覚だと、それはまさに巨大彫刻だ。大仏や雪まつりの彫刻をさらに巨大化した造形物、そこに強い生命が宿っているのを感じ――全身が、震えた。
恐る恐る試した鑑定眼は、案の定、効かなかった。有利な情報はない。初見対初見のフェアーな戦い。ここは、かつての勇者アルンパーティも通った道だ。
『ここを通らんとする小さき者たちよ、汝が力を我に示せ! 我が名は、ローズドラゴン!! 』
重低音の声が響き渡る。神殿の壁に反響してオーケストラの演奏のような迫力だ。ボクだけじゃない、メルちゃんも、アユナちゃんも、レンちゃんも気圧されているのを感じる。このままじゃまずい、ボクだって職業的には勇者だ! 勇気を持つ者だ!
「みんな! 力を合わせて突破するよ! 先制で雷を頭に落とした後、頭部目掛けて雷を連発する! 」
「この翼は――この竜、飛べません! 私は足を潰します! 」
「私は光魔法で視界を奪う! 」
「尻尾の攻撃に注意だよ! あたしは背後から背中に飛び移り、首を狙う! 」
『クピッピピィ! 』
「フリージア王国の勇者リンネ、いきます! 」
ボクは禁術を解き放つ。
と言っても、さっきレンちゃんに禁止さればかりの。ただし、出力は総魔力量の2割。半径1mの雷を頭に落とすんだ!
魔力を練る! 新しい杖――フェアリーワンドがボクの魔力を高めてくれる! 頼もしい!
「爆雷老婆サンダーバーサン!! 」
魔法名なんて何でもいい! 大切なのはイメージ。うちの婆さんが怒り狂う――じゃなくて巨大な落雷だ!
雷光! 雷音! 空気が弾け、地響きが鳴る! 巨大な雷が竜の頭に――命中した!!
『ぐぉおぉぉっ! み……見事な力!! 』
竜の断末魔とも聞こえる咆哮の後、その頭部が輝き四散する――全身が崩れ落ち、光と共に掻き消えた!
「あ……れ? 」
3人がジト目で見てくる。だって……弱すぎ……なんだもん。
「えっと……さ、さすが勇者? 」
ボクはできるだけ可愛いポーズを決める……が、この人たちには効果がなかった。
「その魔法、あたし禁止したばかりよね? 今ね、耳鳴りがキーーンって、凄いんだけど! 」
「また……私は役に立てない……うぅぅ……」
「私はオムツの怒りを……何にぶつければ良いのでしょうか! リンネちゃん、どうか教えて下さい! 」
「まぁ、ドロップアイテムを拾ったら、少し寝ましょうか――寝ればストレスも吹き飛びますよ! まだ7時間しか経ってないけど、サービス、サービス!! 」
[魔結晶/上級:レベル30以上の魔物の魔力結晶]
[ローズドラゴンの魂:木魔法レベルを1段階上げる]
そしてボクたちは、6階層への階段へと向かう。
まだまだ先は長い。今日のノルマはあと3フロア、時間は3時間休んだとしても10時間はある。この勢いで進んで行こう!
朝6時、全員が迷宮入口の横で女の子座りをしている。女の子はやっぱり女の子座りが最萌えだね。胡座(あぐら)はスカートのとき以外禁止。
ボクは今度こそ先輩としての威厳を取り戻そうと、先生気取りでレクチャー中だ。
「まず、必要なのは"計画性"です。重要だからよく聴いて! ほらアユナちゃん、クピィと遊ばない! レンちゃんも欠伸しない!
1日目:01~08階クリア(8つ)
2日目:09~15階クリア(7つ)
3日目:16~21階クリア(5つ)
4日目:22~25階クリア(4つ)
5日目:26~28階クリア(3つ)
6日目:29~30階クリア(2つ)
7日目:予備日です。これでいきます」
「センパイ! どうして数がバラバラなの? 」
「はい、アユナさん。小学生的な質問ありがとう。当たり前だけど低層は魔物が弱いし罠もない。さらに言えば、宝箱の中身が期待できないから攻略に専念します。20階層からは宝箱も全て狙いたいです」
「他に質問――はい、メルさんどうぞ」
「はい、フロアボスは各階層に出るんですか? 」
「良い質問ですね。この迷宮では5の倍数階層にしかボスは出ません。5階、10階、15階――みたいな感じです。ボスの階層には迷路はありませんし、ボス以外の魔物も出ません」
「次、レンさん質問は? 」
「はい、先生!あたしたちはいつ休憩するんですか? さすがに寝ないとお肌に悪いし、そもそも迷宮内に安全な休憩所はあるんですか? 」
「最初から休むことばかり考えないようにしましょう、というのは冗談で、長丁場ですから休憩は重要です。特に睡眠は魔力回復に効果的ですから1日6時間は寝ましょう。休憩は1日2回、各3時間ずつ階層間の階段でとります。魔物は階段には入りませんが、転がり落ちないように」
1度の休憩が3時間と聞いて、レンちゃんの身体がひっくり返る。白いパンツが見えてるよ!
「次のポイントに進みます。迷宮攻略には"効率性"が重要です。役割分担をすることで効率性が上がります。
リンネセンパイ:マッパー
メルさん&レンさん:戦闘係
アユナさん:雑用係、これでいきます」
「センパイ! ザツヨー係って何ですか? 」
「アユナさん、またまた小学生的な質問ありがとう。まぁ、炊事・洗濯・クピィなどなど。花嫁修業だと思ってください。ちなみに照明は不要ですよ、迷宮内は明るいですから」
「がんばるっ! 」
「他に質問がある方はいますか? 」
「罠の発見と解除は誰がするのですか? 」
「はい、メルさん良い質問です。実は、ギルドからいただいたマップに全て書かれているので、ボクが適宜指摘します。安心してください。罠は11階以降からあるようですね」
「他に質問はありますか? 無いようなので、早速迷宮内に入りましょう!」
北の迷宮は、縦横5km四方の30階構造という巨大さもあり、5年程前までは常に1000人を超える冒険者を抱えるほどの人気だったらしい。
しかし、昨今の魔物侵攻を受けて冒険者が激減したこともあって、今日は30人程しか探索者がいないそうだ。しかもほぼ全員が4階までの低層だと言う――。
<01階>
1階は横幅10m、高さ5mほどの通路だ。入口から中央の下階段まで2.5km続く。
途中、いくつかのパーティとすれ違った際に話を聞いた。彼らは1、2階を往復しながら低レベルの魔物を狩って生計を立てているんだとか。
「皆さん、魔物退治は3階からにします。1、2階は走って逃げるよ? 事情は察してください」
「センパ~イ! 走るの苦手です……」
「はい、アユナさんはしばらく体力にステータスを振りましょう、以上」
1階は僅か40分でクリアした――。
<02階>
ここも複雑な分岐はない階層だ。1階通路と比べると横幅が半分しかない。壁が深翠のタイルで作られ、隙間から漏れだす微光のお陰で迷宮内は明るくなっている。
「何だか森の中みたいだね! 」
「5階層まではこんな感じの雰囲気だそうです」
アユナちゃんの足取りが軽くなる。みんなも森の木漏れ日の中を散歩しているようにリラックスしている。
「この階層は円柱型です。では問題。1辺5kmの正方形の外接円の半径は約何kmでしょう? 」
「「…………」」
「先生、分かりました。約3.5kmです」
「正解です! レンさん賢い! 」
レンちゃんがドヤ顔だ。
「センパイ! 意味が分かりません! 」
「1辺5kmを斜辺とみた直角2等辺3角形の他辺が、外接円の半径になるわけですから、ピタゴラスキル『1:1:√2(1.4…)』を使って――5/1.4=約3.5km、となります。つまり2階層は、この中央階段から外周までの直線約3.5kmを、魔物スルーで進みます」
「あたしは、1辺5kmの正方形の対角線5√2が直径になると考えて、それを、2で割ったけど? 」
「そうです! 正解は1つしか無くても、解法はたくさんある――それが、数学であり、迷宮であり、人生の攻略法なんです」
って、誰も聞いてないじゃん――。
「待ってよ! 」
ボクたちはピクニック気分で歩いた。途中で遭遇した魔物は4種類で、その中には懐かしい姿もあった。
スライム:レベル2~3
グレイラット:レベル3~4
ブラックラビット:レベル4~5
ゴブリン:レベル5~6
「見て下さい」
メルちゃんが指し示す方角から冒険者パーティが来る。
5人かな? そのうちの1人は、薄汚れた布切れを着て、背中に大きな荷物を運んでいる。
「奴隷――? 」
「奴隷だね」
「この世界には奴隷制度あるの? 」
「あるよ。エルフなんか人族に捕まったら奴隷確定なんだよ? だから隠れて住んでるの」
「なんかごめん。メルさんの世界は? 」
「私が居た世界にも奴隷制度はありました。主に犯罪者が奴隷にされていましたね」
「レンさんのところは? 」
「あたしのとこは150年前まであったみたい」
「そっか。ボクのところもそう。だから、奴隷制度自体に嫌悪感を抱くし、奴隷を解放してあげたい気分になっちゃう。同情というか、人権無視に対する怒り?かな」
「あたしもそう。だけど、世界が違うと価値観も変わるからね――正直、どうすべきかわかんないけど」
「お2人の気持ちはよく分かります。ただ、奴隷制度の目的が犯罪防止や救貧にあるようなので――奴隷自身の経緯だったり意思を確認しないと」
そんな話をしているうちに、ボクたちは奴隷を連れたパーティとすれ違った。お互いに挨拶をした程度だけど、死んだような目で下を向いて歩く男の奴隷の姿が瞼に焼き付いてしばらく離れなかった――。
この世界から奴隷制度を廃止できるなんて考えていないけど、拐われて奴隷にされた者を助けたりはできるはずだよね、そんな話をしながら下へ続く階段まで約1時間歩いた。
<03階>
ここから本格的な迷宮が始まる。
入り組んだ迷路は、森の中を歩くが如くに曲線と直線で作られている。ざっくり言うと、正方形の左上がスタート、右下がゴールだ。
「チームピュアホワイト、これより迷宮攻略を開始する! 」
ボクは、周りに誰も居ないことを確認して、少し調子に乗って言ってみた。
「恥ずかしいチーム名だね! 」
「もっと真面目な名前を希望します」
「あたしは何でもいいよ、短ければ! 」
こういう時にスンナリ決まらないのが女の子。皆であーだこーだ言い合って、最終的にはジャンケンになって、やっと結論が出た。
「チームクピィ、これより迷宮攻略を開始する! 頑張るぞっ! 」
「「「おぅ!! 」」」
[メルがパーティに加わった]
[アユナがパーティに加わった]
[レンがパーティに加わった]
今さらパーティ結成!?
1、2階は何だったの? まぁ、システムにツッコミ入れたら負けだ――。
「メルさん、レンさん前衛。ボクとアユナさんが後衛。メルさんは気配察知を、アユナさんはクピィが魔族見つけたら教えて! 行くよ! 」
「まず、300m直進、行き止まりを右に500m」
しばらくしてメルちゃんが呟く。
「30m先に気配、魔物が1匹居ます。クマでしょうか? 」
[鑑定眼!]
種族:グリズリー
レベル:8
攻撃:3.20
魔力:3.15
体力:3.30
防御:3.05
敏捷:1.40
器用:0.75
才能:0.45
あっ、これは――昔々にお世話になったヤツだ。ステータスはこんな感じだったんだ、よく勝てたよね――。
「グリズリーレベル8、意外とタ――」
タフだから気を付けてと言う前に、既にやられていました。バトルジャンキー――そう、バトジャンが約2名ここに居ましたっけ。
「次、400m進んだら右側の袋小路から宝箱回収ね。元に戻ったら500m直進すると3分岐に出る。1番右の道を2km道なりに進むよ! そしたら4分岐に出るから、そこまで行こう! 」
ボクたちはサクサク進んでいく。途中、グリズリーを4匹討伐し、宝箱からはポーションを入手した。
本当は分岐を3km直進すると宝箱がもう1つあるけど、めんどいからパス。メインルートを突き進む!
「リンネ先輩、4分岐に出ました! 」
「分岐を真っ直ぐ1km直進すると宝箱がある部屋に辿り着けるけど、どうする? 」
「「「パスで! 」」」
「そしたら、1番左の道を行くよ! 途中でまた4回分岐にあたるけど、全て真っ直ぐ4km進むと階段だよ! 」
最初のポーションで、みんなの宝箱愛が萎えました。3階には3000リル(300万円)前後の銀貨も出るんだよね、それ目当てに取りに行きたいけど――守銭奴勇者と言われそうだから止めとく。
道中、出てきた魔物はこの程度。
キラービー:レベル6~7
ダークバット:レベル7~8
グリズリー:レベル8~9
アルミラージ:レベル9~10
苦戦することもなく順調に進み、2時間後には4階層への階段へ到達した。現在朝10時、既に4時間が経過している。
「そろそろ休憩? 」
「え? 9時間進んだら3時間休憩、また9時間進んだら3時間休憩ってパターンで考えてるよ? まだ4時間しか経ってないじゃん! あと5時間頑張って? 」
「「鬼!! 」」
アユナちゃんとレンちゃんの叫びは、スルー。
<04階>
ここは3階と同じようだけど、スタートとゴールの位置が逆転した構造。迷路も少し複雑になっている。だけど、完璧な地図があるからメインルートを辿るだけだもんね! 道なりに8km、急げば2時間かな?
「入口から3km直進、分岐は無し。行き止まりを右折して1km進むと5分岐に出る。まずはそこまで1時間で行くよ! 」
道中、また冒険者パーティに遭遇した。4階まで降りてくるパーティは今では珍しい。迷路が複雑な割には得るものが少ないから。
「お疲れ様です」
こういう場合、お互いに警戒心を持つものだ。迷宮内では証拠を残さない完全犯罪が成り立つ。だからトラブルなんてあって当然、らしい。特に人が少なくなる階層では――。
「お嬢さん、あんたらだけでここまで降りてきたんか? 」
パーティは5人全員が男。20代っぽい風貌で、鉄製の厳つい装備が目に痛い。胡散臭さをそこはかとなく放ってるよ!
「はい、メリンダ支部長の指示で最下層まで行くところです」
メリンダさん、名前を借りますね? ギルドマスターのゴドルフィンさんにしようかと思ったけど。
「メリンダさんの? おぅ、そうか……分かった、気を付けてな! 」
何が分かったのか分からないけど、フラグは無事に折れました。何か、うちのバトジャン2名が武器を持ちながら笑顔で威嚇しているようにも、見えなくはない――。
「うわぁ、本当に5分岐だ。初見殺しですね」
道中、レベル10前後の魔物をそれなりの数倒しながらも、予定通り1時間でここまで来た。
「左から2つ目がメインルートです。他はそれぞれ宝箱部屋に続いているけど、多分さっきの人たちが取ってる。だから無視して先に行くよ! 3km道なりに行くと階段がある。他の分岐は無視して、1時間後には階段まで到着! 」
「50m先に気配、1匹ですが――なんだか光っているように見えますね」
「ホントだ! オバケみたい」
なになになにっ!?
[鑑定眼!]
種族:グリズリーキング(レア)
レベル:16
攻撃:6.50
魔力:6.35
体力:6.20
防御:6.10
敏捷:2.80
器用:1.65
才能:0.90
「うわっ、レアモンスターだ! グリズリーキング、レベル16で、ステータスはだいたい6くらいだよ! 」
レアモンスターは初? 昔、エリ村で倒した角ウサギもかな。青赤コンビがあっという間に倒しちゃったけど、レアドロップが出た。この2人は戦闘にアソビがないというか、手抜きしないというか――もしかしたらライバル意識を抱いているのかも?
[グリズリーキングの毛皮:魔法防御に優れたレア素材]
ボクたちはしばらく歩き、5階へ向かう階段に到着した。
<05階>
ここは最初のフロアボスがいる階層だ。北の迷宮ボスは全部で6体。情報によると、こんな感じ。
05階……木属性
10階……火属性
15階……土属性
20階……金属性
25階……水属性
30階……不明
「木属性ということは、トレント? 」
「アユナさん、ハズレです! これは……実は言いたくなかったのですが……ボスは全て竜種だそうです……」
「「ド……ドラゴン!? 」」
アユナちゃん、レンちゃんがわなわなしている。
「おや? メルさんは余裕そうですね」
「余裕ではありませんが、ドラゴンに対して恐怖や畏怖の感情は特にないですね」
ボクたちはお昼ご飯のサンドイッチを食べながら作戦会議中だ。勿論、挟まれているのは竜種――チャイルドドラゴンのハンバーグ。でも、今回は木属性ということで、雷魔法と物理攻撃で攻めることになった。イメージするのは先日の魔人戦の連携だ。
階段を下り終わると、目前には高さ3mはあろうかという木製の巨大な扉が立ち塞がっている。
「センパイっ! 扉は押して下さいね! 」
アユナちゃんが絡んでくるけど、ボクはメルちゃんに目で合図して開けてもらった。これぞ、ザ・愛コンタクト。
扉は触れただけでゆっくり開いていく。なぜにアユナちゃんの口がへの字なのか分かんない。次第に5階層がその全貌を現していく――。
「森……ですね……」
「でもどうして迷宮内に森があるの!? 」
「迷宮の中なのか外なのか分からないよ! 」
ボクは何かデジャヴった。
ランゲイル隊長に習ったことを言えば、会話の流れはコントロールできる。そしてボクは先輩から先生に進化できる! そう、これはチャンスだ! ボクは迷宮先生に、なる!!
「別に珍しくないよ。次元魔法とか空間魔法とか言われてるやつですね。迷宮にはフロア一面が海というのもあるし。海底洞窟を進まないと攻略できないらしいですよ」
「なにそれ! 魚人族しか無理でしょ! 」
「私は泳ぐのは得意ですよ」
「あたしも得意! 水泳大好き! 」
ん? 何か変な流れ?
「かつての大魔法使いは、海を真っ二つに割ったり、業火で全ての海水を干上がらせたらしいですよ。噂ですが」
「そんな魔法、あり得ない! 多分勇者だ! 」
「リンネ先輩は自然破壊しないで下さいね」
「サンダーバーサンだっけ? この前のあの雷。あたし、今でも鼓膜がヒリヒリするんだから、もう使わないでよね? 」
ん? 少しずつディスられてる? だが、押し通す!
「まぁ、噂なんてほとんど嘘だよ。ヒレが何枚も付いてくる。最近の巷での噂知ってる? 青や赤髪の女の子がトイレに行かないのはまだオムツしてるから、とかなんとか――」
「そ……そうだったんだ……なんかゴメンね」
「噂の出所を突き止めてミンチ肉にします! 」
「ミンチの前にあたしが100枚にオロス! 」
うわぁ、グロっ! 今さらギャグです、なんて言えなくなっちゃったよ……わ、話題を変える!
「肉と言えば……ド……ドラゴンの肉のお味はどうでした? 」
「お肉ぅ! また食べたい! 」
「木属性だから肉を焼く炭にしかならないですよ」
「その炭でミンチ肉をハンバーグにすれば、あたしの怒りも収まるよ! 」
はい、修復不可能なのですね……。
「よし! そのみんなの怒りをボスに! さぁ、力を合わせて5階層を突破するよ!! 」
森の奥には神殿らしき建物の一部が見えていた。ボロブドゥール遺跡のような感じだ。静謐な雰囲気を漂わせる森が、まるでその一部を譲るかのように、神殿に向けて道を伸ばしている。
ボクたちは、その道の端を歩いてゆく。神社の参道を歩くような気持ちだ。中央は神様が通るらしいからね――。
30分ほど歩くと開けた場所に出た。
目の前には神殿の入口が口を開けている。近くで見ると、それは余りにも巨大。左右は500m以上あるのではないかという神殿の中へと、ボクたちは足を踏み入れて行く。
それは目の前に居た。
巨大な竜――全長は30mを遥かに超えるだろう。5m以上の高みからボクたちを見下ろす赤色の眼、そして何より歪なのは、全身が木で造られていること。日本人の感覚だと、それはまさに巨大彫刻だ。大仏や雪まつりの彫刻をさらに巨大化した造形物、そこに強い生命が宿っているのを感じ――全身が、震えた。
恐る恐る試した鑑定眼は、案の定、効かなかった。有利な情報はない。初見対初見のフェアーな戦い。ここは、かつての勇者アルンパーティも通った道だ。
『ここを通らんとする小さき者たちよ、汝が力を我に示せ! 我が名は、ローズドラゴン!! 』
重低音の声が響き渡る。神殿の壁に反響してオーケストラの演奏のような迫力だ。ボクだけじゃない、メルちゃんも、アユナちゃんも、レンちゃんも気圧されているのを感じる。このままじゃまずい、ボクだって職業的には勇者だ! 勇気を持つ者だ!
「みんな! 力を合わせて突破するよ! 先制で雷を頭に落とした後、頭部目掛けて雷を連発する! 」
「この翼は――この竜、飛べません! 私は足を潰します! 」
「私は光魔法で視界を奪う! 」
「尻尾の攻撃に注意だよ! あたしは背後から背中に飛び移り、首を狙う! 」
『クピッピピィ! 』
「フリージア王国の勇者リンネ、いきます! 」
ボクは禁術を解き放つ。
と言っても、さっきレンちゃんに禁止さればかりの。ただし、出力は総魔力量の2割。半径1mの雷を頭に落とすんだ!
魔力を練る! 新しい杖――フェアリーワンドがボクの魔力を高めてくれる! 頼もしい!
「爆雷老婆サンダーバーサン!! 」
魔法名なんて何でもいい! 大切なのはイメージ。うちの婆さんが怒り狂う――じゃなくて巨大な落雷だ!
雷光! 雷音! 空気が弾け、地響きが鳴る! 巨大な雷が竜の頭に――命中した!!
『ぐぉおぉぉっ! み……見事な力!! 』
竜の断末魔とも聞こえる咆哮の後、その頭部が輝き四散する――全身が崩れ落ち、光と共に掻き消えた!
「あ……れ? 」
3人がジト目で見てくる。だって……弱すぎ……なんだもん。
「えっと……さ、さすが勇者? 」
ボクはできるだけ可愛いポーズを決める……が、この人たちには効果がなかった。
「その魔法、あたし禁止したばかりよね? 今ね、耳鳴りがキーーンって、凄いんだけど! 」
「また……私は役に立てない……うぅぅ……」
「私はオムツの怒りを……何にぶつければ良いのでしょうか! リンネちゃん、どうか教えて下さい! 」
「まぁ、ドロップアイテムを拾ったら、少し寝ましょうか――寝ればストレスも吹き飛びますよ! まだ7時間しか経ってないけど、サービス、サービス!! 」
[魔結晶/上級:レベル30以上の魔物の魔力結晶]
[ローズドラゴンの魂:木魔法レベルを1段階上げる]
そしてボクたちは、6階層への階段へと向かう。
まだまだ先は長い。今日のノルマはあと3フロア、時間は3時間休んだとしても10時間はある。この勢いで進んで行こう!
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