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新たなる仲間たち
32.北の大迷宮3
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その黒マントの男たちは突然現れた――。
寝ていたボクたちはなすすべなく手に枷を嵌められ、動きを封じられてしまった。さらに、枷に施された呪印の効果か、魔法すらも封じられてしまった。
その後、ボクたちはどこかの薄暗い地下牢に閉じ込められた――。
レベルを上げ、ステータスを上げ、装備や魔法を身に付け、連携や技術を追求し――そうやって積み重ねてきた経験、得てきた力や自信は、今となっては、何ら役に立たなかった。
代わりに得たものは、果てしない絶望と挫折感であった。それは、魔物を退け可能な限りの人々を助けたいと願う心を、一瞬で打ち砕いた。自分がひどく矮小な存在に感じられた。
誰が、何のためにこんな仕打ちをするのか――。
魔人か? なぜお前たちは人間を滅ぼそうとするんだ? 共存はできないのか? いがみ合うしかないのか? 生を受けたのが偶然に人間だった、偶然に魔物だった、それだけの――たったその偶然が、これほどまでに互いを分かつのか?
いや、もしかしたらお前たちもボクと同じ人間か? ボクたちはお前たちの幸せを願って、命を賭してここまで来た。それに対する仕打ちがこれなのか? いったいボクたちが何をしたからこんなことをする! お前たちは何にも分かっていないんだ。今は人間同士で争っているときではない、力を合わせて魔と戦うときなんだ。離せ! 離せ! 離せ――いや、もういい。いいんだ、みんな滅んでしまえばいい。だって、ボクたちはこんなにも頑張って、世界を救おうとしているのに! 誰も分かってくれないじゃないか! それなら滅んだ後に後悔すればいいんだ!
その後――ボクたちは、奴隷としてバラバラに売られていった。仲間と会うことはもう2度となかった――。
自分の意思すら持つことを許されず、嫌なのに、嫌だと言いたいのに! そんなことすら言うこと叶わず、ひたすら、ただひたすらに酷使されて……心も……身体も……磨り減らしていった。
気付いたら、死にたいという意思すら湧いてこなくなっていた。常に足元だけを見つめる、死んだような目になっていた。
「リン……、リンネちゃん? 大丈夫!? 」
「……ん?……あぁ……夢だったんだ……」
「凄くうなされてて。起こしても起きてくれないし、いきなり泣き出すし……みんな、とってもとっても心配したんだから!! 」
ボクの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。眼を擦り視界を取り戻すと、心配そうにボクを見ている仲間たちの顔があった。そして、またボクは精一杯泣いた。今度の涙は温かかった。安心と感謝の気持ちが溢れてきて、涙が止まらなくなった――。
「それで……リンネちゃんやあたしたちが、その黒マントの人に拐われて……奴隷になる夢……? 」
「うん。魔人かもしれないし、人間かもしれない。それは分からなかった。夢の中でだけど、奴隷になった。なって気付いた。辛いけど……苦しいけど……心も身体も磨り減らして何も考えられなくなるの。昨日見た男の人……奴隷の人の目、死んだような目……」
「リンネちゃん、確かにそれは夢だったけど、現実でもあると思います。もし、リンネちゃんが世界を変えたいと願うのなら、私はリンネちゃんについていきます。力になりたいです」
「私もついていく! 困っている人がいたら助けなくちゃいけないんだよ?当たり前だよね!」
「当然、あたしも! リンネちゃんは一人で抱え込みすぎなんだよ、もっと頼ってよね! 」
「みんな、ありがとうね。まだ頭の整理がつかないんだけど、あの目を忘れちゃいけないと思うんだ。もしかしたら、みんなにわがまま言うかもしれないけど、そのときはお願いします――」
その後、最近ずっと結んでいなかった髪を、メルちゃんに結んでもらった。気合いのポニテ! これで気持ちが切り替わる! 頑張るよ!
★☆★
<11階>
15階層のフロアボスは土属性だ。故に、11―15階層のテーマも土である。つまり――単純な洞窟のイメージを持てば良い。ここは、シンプルな蟻の巣だ。
「この11階層以降に気を付けないといけないことがあるよね、皆は覚えてるかな? 」
「罠、つまり、トラップの存在ですね」
「メルちゃん、大正解です! ご褒美にチュウをしてあげます! チュウ~v」
「「ずるいっ!! 」」
「ここから15階までの構造自体は非常にシンプルです。まさに、ザ・親切設計!です。つまり、基本は1本道で、途中に宝箱部屋や魔物部屋がある。ただし、何に気を付ける? 」
「「トラップ!! 」」
「よくできました! チュウ~v、チュウ~v」
アユナちゃんとレンちゃんが顔を真っ赤に染めて飛び跳ねている。心配掛けさせちゃったからね、お詫びの印だよ。でも、君たちの唇は奪わない。ほっぺに優しく、チュウだ。
「宝箱を無視すれば2時間、階層全部を攻略するなら3時間はかかるでしょう。ボクたちは当初の予定通りなら、今日中に15階層のボスを倒せば良いわけで、時間的には余裕があります。ということで、宝箱を拾いながらいきましょう! 」
「先輩、前方100mに魔物の気配が1いや、2」
[鑑定眼!]
種族:ロックゴーレム
レベル:17
攻撃:5.00
魔力:8.00
体力:8.00
防御:8.00
敏捷:1.00
器用:1.00
才能:1.00
「ロックゴーレム、レベル17! 武器はギター! 」
「いや、どう見ても素手ですよね――」
「レンさん、的確なツッコミありがとう。あ、いい忘れました。しばらくはゴーレムしか出ません。斬撃と風や雷魔法に強い耐性があり、打撃や水魔法が弱点です。レンさんは関節か胸のコアを刺撃して下さい! 」
「任せて! 」
レンちゃんが脚の関節を突く! 2mの巨体が体勢を崩したところを、メルちゃんがメイスで破壊する!
その後も順調に進んでいき、討伐数がやっと2桁に乗ろうかというとき、レンちゃんが根をあげた。
「先生! ゴーレムはスルーしない? 剣がもたないよ! 予備の剣もないし、剣士泣かせだよ! 」
ゴーレムは非常に硬く、何より自動回復スキルが討伐の困難さを著しく高める。そのうえ数が多い――まさに、軍隊蟻。
「じゃ、ボクとポジションチェンジしよ? 水魔法を試してみたい! はい、これ地図ね。基本は1本道だから、トラップの場所と種類だけ教えてくれれば大丈夫。その赤色マーク付けてある所だからね! 」
「分かった! ごめんね、リンネちゃん。アユナちゃんもよろしくね! 」
「先輩、来ました。距離100m、数は4です! 」
「メルさん、ありがと。ボクが水魔法を撃ってみるから見ててね」
ずっとシャワーと飲み水にしか使ってなかったから、水量とか射程距離の感覚がよく分からないね。消防車の放水みたいにするか、滝みたいにするか、メルちゃんの風弾みたいに塊を飛ばすか――。
初級だから、水量節約で水弾にしよう。できるだけ圧縮してバスケットボールくらいの大きさにして、それから――初速を速くして、10mくらいなら確実にゴーレムの頭を破壊できるような威力をイメージする!
名前は、ウォーターシュート、ウォーターボール、水弾、水玉――難しいな! ネーミングをレンちゃんにツッコまれないようにしないと。無難にウォーターボールでいっか。
ボクは、かなりの魔力量を練り上げていく。水量は1発あたり1立法m、1000L、1KL――牛乳パック1000本分だ。重さにすると1000kg、つまり1tだ。それをバスケットボールくらいに圧縮していく――。
よし。あとはペットボトルロケットみたいに真っ直ぐ飛ばす。反動が大きそうだね――準備完了!
近付いて……距離20m……10m……もっと……5m……よし、撃つ!
「ウォーターボール! 」
先頭の1体に撃ち込んだ!
『ブワッ! 』
命中した! 頭が吹っ飛んだゴーレムは仰向けに転倒、四散した!
「凄い! これからシャワーが怖くなりそうです」
メルちゃんが目を円くして見ている。
「イメージを固めていかないと、燃費と連射速度がダメダメなんだよね! 」
牛乳パック1000本と、バスケットボールの連想を繰り返す――。
「ウォーターボール! 」
「ウォーターボール! 」
「ウォーターボール! 」
ボクは、頭を確実に狙える位置へとステップを踏みながら、ちょうど4発で4体を綺麗に倒しきった。しばらく棒で戦った経験が生きてる! 体捌きに無駄がなくなってきた。
威力はどうだろう。無駄なオーバーキルにはなっていないと思うし、魔力量的には200連発くらいは余裕みたい。念のため水量を7割に減らしてバレーボールくらいにして、もう少し速度を上げてみよっか。その方が燃費がいいよね! あと、考えているのは雷を込めること。絶対に威力が上がると思う。今度、ゴーレム以外に使ってみよう!
「足元が泥沼になってる! 歩きにくい! 」
「ごめんアユナさん、水量減らしてみるね! まだ加減がよく分かんないの」
「その先にトラップ! 足元の色違いの床は踏まないでね! 毒魔法発動だって。なんかベタベタなトラップだよね」
「レンさんありがと。その調子でお願いね! 」
その後、ボクは30体以上倒しながら水量と速度を最適化していった。結局、5mの至近距離から撃てば最初の1発に比べて水量3割のバレーボールでも十分だった。距離10mなら5割のバレーボールくらいまで圧縮して、ちょっとだけ硬度と速度を上げれば大丈夫だった。これで実用化の目処がたった!
[鑑定眼!]
[マジックポーション:魔力量を回復する効果]
「これでリンネ先生も気絶しなくて済むね!」
階段から1km、最初の蟻の巣部屋に宝箱があった。マジックポーション――やっぱりこの階層は魔法推奨なんだろうね。ボクはバリバリの魔力型だから余裕だけど、いざという時のためにマジックポーションは蓄えておこう!
★☆★
11階ではゴーレムを合計300体ほど倒した。動きが遅いので1撃必中、時間ロスはあまりない。先頭のボク以外は何をしていたかというと、3人で地図を見ながらトラップ研究、あとは魔結晶集めだ。
結局、10kmの通路の両脇にランダムに魔物部屋と宝箱部屋が各々5つずつあった。宝箱の中身は全てがマジックポーション――皆さんビミョーな心境だ。でも、いずれ役に立つよね?
<12階>
ここも11階と同じ構造だ。違いというと、ゴーレムとトラップと宝箱の種類くらいかな。
[鑑定眼!]
種族:ジャイアントゴーレム
レベル:19
攻撃:8.00
魔力:8.00
体力:8.00
防御:8.00
敏捷:1.00
器用:1.00
才能:1.10
身長が3mくらいになり、攻撃力が上がっていた。でも、どっちみち殴られなければ同じこと。水量700Lくらいのウォーターボールで大量に破壊していった。
「キャァーッ!! 」
「えっ!? 」
突然、背後の壁からドロッと現れたジャイアントゴーレムの攻撃をレンちゃんがくらった――たまたまアユナちゃんを真ん中にしてメルちゃんレンちゃんが左右を歩いていたところを強襲されたみたい!
「ウォーターボール!! 」
「ヒール!! 」
ボクは振り向きざまにゴーレムを破壊、すぐにレンちゃんを回復した――。
「レンちゃん、大丈夫!? 」
「ありがと! ずっと地図見てて油断した、ごめんっ! 」
「すみません、私も前方しか気配察知していませんでした。迷宮は、背後も気を付けないといけませんね、でも無事で良かった! 」
「よし、クピィちゃん、後ろチェック係ね! 」
「クピクピィッ! 」
その後は順調に進んでいき、討伐数が200になったあたりで13階の階段に到達した。宝箱の中身は、全て鉱石(インゴット)だった。
[黒鋼鉄の塊]×2
[純金の塊]×2
[ミスリルの塊]×1
<13階>
やはりここも蟻の巣構造が続く。試されるのは魔法持久力ということだろうか。案の定、ゴーレムはパワーアップしていた――。
[鑑定眼!]
種族:グレートゴーレム
レベル:20
攻撃:9.00
魔力:9.00
体力:9.00
防御:9.00
敏捷:1.00
器用:1.00
才能:1.20
「グレートゴーレム、レベル20。大きさが2mに戻ってる。何がグレートかと言っちゃうと、ステータスがほぼ9もある。強い! 」
だけど、弱点である水魔法はいとも容易く頭部を破壊した。相変わらず早歩きのまま攻略は進んでいく。
流石に飽きてくるというか、マンネリ化してダレてくる頃――そういう時分を見計らって罠は効果を上げる。
「足元の突起を踏まないでね! 巨石コロリンという罠が発動するみたい」
「こ~んな~の~踏っまない~よっ! あっ!! 」
アユナちゃんが、スキップしながら飛び跳ねようと向かっていき、豪快に滑って――顔から突起にぶつかる。
「痛った~い!! こんな所に水溜まり作ったの誰よ~ッ!! 」
「あ、ごめん……さっきゴーレム倒したときに……」
「ヤバい! 巨石コロリンくるよ!! 」
レンちゃんの悲鳴に続き、地鳴りが聞こえてきた。ゴゴゴゴッっと。前から? 後ろから? どっちか分からない! ボクたちは全員一塊になって身構える!!
「「「うえ! 」」」
アユナちゃん以外の声が揃う。
通路の壁際に飛ぶ!
「痛ッ!!! 」
直径2mはあろうかという石が、高さ5mの天井から落下――みんながそれぞれアユナちゃんを庇って手で引っ張った結果、アユナちゃんの肩を掠って地面にめり込む! うわぁ、危ない危ない危ないっ!!
「ヒール!!! 」
ボクは全力でヒールを掛ける!
直撃じゃなくて良かった!
その後、皆でわんわん泣いた――。
「さて、今日の教訓は何ですか? まずアユナさん」
「はいっ、センパイ! ちょーしにのらないこと、です! 」
「そうですね。危険と安全は常に隣り合わせ。そう、夫婦さんです。調子にのった瞬間、離婚です。運が悪ければ慰謝料、もっと悪ければ……刺されるかもしれません。覚えておきましょう」
「はい、センパイ。勉強になります」
「メルさんは何かありますか?」
「私は、視野を広く保つこと、です。今後は、後ろから沸いたり、上から降ってくる可能性も考えて行動しようと思います」
「そうですね。地面からぬわっと手が生えてきて足を掴まれパンツを見られる可能性だってあります。気配察知は、自分を中心とした球をイメージしましょう」
「最後に、レンさんはどうですか?」
「あたしは、何事も先入観で判断するな、ということね! 巨石コロリンという名前なのに、転がるどころかめり込んでた。巨石コロリンは巨石メリコンの場合だってあるんだ。気を付けないと危ないって思ったよ」
「そうだね。ボクが言おうとしたこと、先に言われちゃったよ……じゃあ、ボクの教訓は、何事も早い者勝ち、ということで」
ロリコンという単語はこの世界に存在するのだろうか。ロリキャラは狙われやすいと言っても通用しないよね。
★☆★
その後、ペースを緩めつつも油断なく13階層は攻略された。魔物は、強さに反比例して数が少なくなっている気がする。全て討伐したのに150体くらいしかいなかった。
ちなみに、この階の宝箱は、お金だった。13000リル×5で、65000リル(6500万円)。凄い大金だよ……。
<14階>
構造は引き続き蟻の巣だ。ただし、ゴーレムの劇的な変化がボクたちを足止めすることになった――。
「前方から来ます! 数は2、距離80m! 」
メルちゃんの一言で全員が前方を注視する。クピィだけは後ろ向き。でもこれは反抗期ではない、信頼と率直さの賜物だ。後ろの索敵は任せた!
[鑑定眼!]
種族:ゴーレムソルジャー
レベル:22
攻撃:12.00
魔力:8.00
体力:8.00
防御:12.00
敏捷:1.00
器用:3.00
才能:1.20
「ゴーレムソルジャー、レベル22! なにこれ……攻撃と防御が12もあるよ!? 」
「リンネ先輩よく見て下さい、剣と盾を持っています……手強そうですね」
「魔法が盾で防がれる、近づき過ぎると剣の範囲に入る――なるほど、遠距離攻撃にも接近戦にも対応しますよっていうことね。取り合えず、10mから撃ってみるね! これが通じれば1番安全! 」
ボクは左右に展開するゴーレムソルジャーの、ボクから見た右側に狙いを定めて、練り上げた魔法を放つ!
「ウォーターボール! 」
『バキンッ! 』
案の定、盾で防がれてしまう。
「まぁそんなに甘くないね、ちょっと行ってきます! 」
ボクは5mの距離まで詰める。剣はまだ届かない。左右のステップと、杖でのフェイントを入れながら盾の動きを見る。どうやら正面からの攻撃しか防げないらしい。剣もいわゆるテレフォンパンチのレベルだ。動作が大き過ぎて避けて下さいと言われてるようなもの。
これならいける!
ボクは杖でフェイントを入れながら横にステップ、すぐさま魔法を放つ。
「愚神礼讚、ウォーターボール! 」
『バフッ!! 』
横を向いたゴーレムソルジャーが盾を構える前に、その頭部が吹き飛ぶ! 2体目も同様にして消し去った。
「リンネ先生! グシンライサンって何? 」
「えっ? あぁ、形式より中身が大事でしょ!っていうツッコミ文句だよ、自己流だけど。剣や盾を持たせれば良いって訳じゃないよね、使いこなせなきゃ意味ないよ! って言うと長いから4文字で――」
★☆★
その後、手間を掛けながらも特にダメージを受けることなく14階も突破した。この階の宝箱は、豊富な種類の武器だった。
[グレートソード:攻撃3.70]
[グレートアックス:攻撃4.00]
[グレートスピア:攻撃3.80]
[グレートボウ:攻撃3.30]
[グレートメイス:攻撃3.50]
「予備の装備だね。アイテムボックスに入れておくから、必要なら声をかけてね! 」
レベルは既に20。アイテムボックスの底面積は、20平方mに増えている。√20=2√5だから、だいたい縦横4.5mくらいの正方形だね、余裕余裕。
「気付いたら朝から休憩なしだね。今、ちょうど9時間くらい経ったから、外はお昼の3時くらい? お昼休憩しながらボス攻略会議でもしよっか」
「ずっとリンネちゃんだけ戦ってたからね、あたしは全然疲れてないよ! お腹は空いたけど! 」
「では、私はお食事の用意をしますね! 」
「センパイ! 先にトイレ行きま~す! 」
「行ってら~! ボス倒したら、シャワーして少し寝ましょうね!! 」
<15階>
『我こそは15層の守護竜グランドドラゴンである! 先に進むことを欲するならば、我に力を示すがよい』
天然洞窟風の通路を通り過ぎ、巨大なドーム状の空間に辿り着いたボクたちの前に現れたそれは――もはや想像を絶する大きさだった。
ドームですら高さは300m以上あると思われるが、圧倒的なドラゴンの大きさからするならば、狭苦しい兎小屋にしか見えない。
ドラゴンの体長は目算で80mを遥かに超えていた。睨む相貌は遥か30mの高みにある。
これを倒す?
武器は肢の爪にしか届かず、頼みの魔法も胸の逆鱗にやっと届くかと言うレベル。ラスボスがいきなり現れたのか? 抗う勇気さえ一瞬で薙いでしまう存在感――ボクたちは頭上を見上げ、唖然と立ち尽くしていた。事前に立てていた計画はなすすべなく崩壊していた――。
「ボクの知っているグランドドラゴンは、土属性だから、水が弱点で雷の耐性持ち。計算したら、初級でもダメージ量は水魔法の方が高くなる」
「でも、届かないんですよね? 」
「もうリンネセンパイに頼るしかないよ……」
「あたしはチアリーダーになる! 」
「ボクに考えがある。アユナちゃん、ドライアードとウィルをちょっと借りていい? 」
「うん、いいけど、いじめないでね? 」
「大丈夫! それと、ドラゴンの視界を塞ぐから、皆はそれまでの30秒だけでいいからドラゴンの注意を引いて! その後は安全圏まで退避、ブレスには超警戒だよ! 」
「リンネちゃん……気を付けてくださいね!! 」
本当に一か八かだけど、やるしかない!!
『小さき者達よ、我に怖じ気づいたか? 』
「準備運動してたの! 勇者リンネ、参る! 」
『来い! ひねり潰してやろう! 』
ボクはみんなに目で合図を送る。
3人は散開してグランドドラゴンを包囲するように動く。
レンちゃんが正面で前肢に攻撃するフェイントを入れつつ巧みに距離を取る。アユナちゃんは光魔法、メルちゃんは風弾を放つが、ダメージを与えられているようには見えない。ドラゴンも余裕なのか、躱しもしない。
それは突然起きた――。
ドーム内の空気が光の結晶となって舞う。まさにダイヤモンドダストのような現象。命を削りあう戦いの最中でなければ、その神秘に、自然界の芸術に、全員が見惚れていただろう。決して称賛を狙った訳ではない。ドラゴンの上半身は光の煌めきに包まれ、その視界を数秒間だけ削ぐことに成功した。
ドラゴンが巨体を揺すって濃霧を払う行動、予想通りの展開である。地鳴りが起きる。地響きが続く。
「全力全開、ウォーターボール!!! 」
『グァッ!? 』
巨大な水弾が至近距離からドラゴンの顔面を捉えた!!
至近距離から、顔面を、である。
予想だにしなかった1撃を受け、ぐらつくドラゴン――だけど、それは決定的なダメージにはなっていない。体勢を立て直し、濃霧の先を凝視しようとする。
ボクはその瞬間を待っていた!
ドラゴンの頭部が止まる一瞬のタイミングを!
「サンダーバースト!!! 」
気絶寸前まで魔力を込めてやった。
半径5mを超える落雷が、水を浴びたドラゴンの頭部を撃ち砕いた!!
耐性を弱点に置き換えた全力の1撃――頭部から首までを一瞬で砕かれたドラゴンは、ゆっくりと横倒しになる。そして光の粒子となり、四散した――。
「リンネちゃん! 起きてください!! 」
意識が完全に飛んでいたボクは、メルちゃんに無理矢理マジックポーションを飲まされ、目が覚める。
「終わった? 勝ったの!? 」
もし、この一か八かの雷撃が通用しなかったらと思うと、背筋がぞっとする。もはや作戦Bすら叶わない、全滅ルートだったかもしれない――。
「私は、何がなんだか分かりません……説明をお願いします」
メルちゃんが顔を真っ赤にして迫ってきた。レンちゃんもアユナちゃんもポカーンとしている。
「ふぅ。勝手に動いてごめんなさい! 」
そう、メルちゃんは怒っていた。もし、勝手な作戦が失敗に終わったら、ボクたちは全員殺されていただろうから。だから、真っ先に謝った――。
メルちゃんの表情が、顔色が和らいできた。説明して!と、目で訴えかけてくる。
「うん。まず、ボクが水魔法で霧を作ったの。風刃で範囲を広げた状態で、ウィルオーウィスプに光魔法を掛けてもらった。ボクの世界だと、大気中の水分が凍りつく現象、ダイヤモンドダストみたいな状態。濃霧を光で照らしてドラゴンの視界を塞いだ」
「綺麗だったね! 」
アユナちゃんが真っ先に叫ぶ。みんな、あのキラキラを思い出しているようだ。でも、状況を思い出し、次第に険しい表情へと戻っていく。
「視界を塞ぐ必要があったのは、ドライアードの力を借りるため――」
そう言って、隣に座る半裸の美女に視線を送る。対するドライアードは満足げに微笑んでいる。にこやかな癒しの笑顔だ。
「ドライアードに、ドラゴンの頭上まで大樹の枝を伸ばしてもらったの。そして、ドラゴンの頭の上から全力のウォーターボールを撃った――」
既に大樹はその姿を消している。中位精霊とは言え、高さ30mを超える大樹を作り上げるのは至難だ。ただ、一瞬で良かった。水魔法を撃ち、地面に戻るまで。役目を終えた大樹はすぐに光となって消え去った。
「着地してすぐにマジックポーションを飲んで……ごめん、さっきのも合わせると、2本も飲んじゃったね……で、今度は全力のサンダーバーストを撃った。水を浴びていたから、ドラゴンも雷耐性が効かなかったみたい」
一通り説明した後、やぱりかなり責められた。もっと事前に話すようにと。そんなこと言われても、直感のアドリブだったんだから仕方ないよね。
★☆★
ドロップアイテムの[グランドドラゴンの魂]を拾った後、ボクたちは16階への階段で休憩中だ。皆で仲良くシャワー。触れ合う肌が気持ちいい! そして、全員のレベルがまた1つずつ上がっていた。
いくらなんでも、グランドドラゴンは強すぎでしょ! 今さらだけど、『力を示せ』というのは、竜人グランのときみたいに話し合いや、もしかしたら魔法を見せるだけで良かったのでは? 水魔法上級がなければ、普通は勝てない。まだ15階でそんな無茶苦茶なボスが出てくるのはおかしくない? この先、どんな地獄が待ち構えているのだろう――。
昨日悪夢に魘されたボクを心配してか、皆がくっついて寝てくれた。幸せな夢が見れるといいな。
寝ていたボクたちはなすすべなく手に枷を嵌められ、動きを封じられてしまった。さらに、枷に施された呪印の効果か、魔法すらも封じられてしまった。
その後、ボクたちはどこかの薄暗い地下牢に閉じ込められた――。
レベルを上げ、ステータスを上げ、装備や魔法を身に付け、連携や技術を追求し――そうやって積み重ねてきた経験、得てきた力や自信は、今となっては、何ら役に立たなかった。
代わりに得たものは、果てしない絶望と挫折感であった。それは、魔物を退け可能な限りの人々を助けたいと願う心を、一瞬で打ち砕いた。自分がひどく矮小な存在に感じられた。
誰が、何のためにこんな仕打ちをするのか――。
魔人か? なぜお前たちは人間を滅ぼそうとするんだ? 共存はできないのか? いがみ合うしかないのか? 生を受けたのが偶然に人間だった、偶然に魔物だった、それだけの――たったその偶然が、これほどまでに互いを分かつのか?
いや、もしかしたらお前たちもボクと同じ人間か? ボクたちはお前たちの幸せを願って、命を賭してここまで来た。それに対する仕打ちがこれなのか? いったいボクたちが何をしたからこんなことをする! お前たちは何にも分かっていないんだ。今は人間同士で争っているときではない、力を合わせて魔と戦うときなんだ。離せ! 離せ! 離せ――いや、もういい。いいんだ、みんな滅んでしまえばいい。だって、ボクたちはこんなにも頑張って、世界を救おうとしているのに! 誰も分かってくれないじゃないか! それなら滅んだ後に後悔すればいいんだ!
その後――ボクたちは、奴隷としてバラバラに売られていった。仲間と会うことはもう2度となかった――。
自分の意思すら持つことを許されず、嫌なのに、嫌だと言いたいのに! そんなことすら言うこと叶わず、ひたすら、ただひたすらに酷使されて……心も……身体も……磨り減らしていった。
気付いたら、死にたいという意思すら湧いてこなくなっていた。常に足元だけを見つめる、死んだような目になっていた。
「リン……、リンネちゃん? 大丈夫!? 」
「……ん?……あぁ……夢だったんだ……」
「凄くうなされてて。起こしても起きてくれないし、いきなり泣き出すし……みんな、とってもとっても心配したんだから!! 」
ボクの顔は涙でぐちゃぐちゃだった。眼を擦り視界を取り戻すと、心配そうにボクを見ている仲間たちの顔があった。そして、またボクは精一杯泣いた。今度の涙は温かかった。安心と感謝の気持ちが溢れてきて、涙が止まらなくなった――。
「それで……リンネちゃんやあたしたちが、その黒マントの人に拐われて……奴隷になる夢……? 」
「うん。魔人かもしれないし、人間かもしれない。それは分からなかった。夢の中でだけど、奴隷になった。なって気付いた。辛いけど……苦しいけど……心も身体も磨り減らして何も考えられなくなるの。昨日見た男の人……奴隷の人の目、死んだような目……」
「リンネちゃん、確かにそれは夢だったけど、現実でもあると思います。もし、リンネちゃんが世界を変えたいと願うのなら、私はリンネちゃんについていきます。力になりたいです」
「私もついていく! 困っている人がいたら助けなくちゃいけないんだよ?当たり前だよね!」
「当然、あたしも! リンネちゃんは一人で抱え込みすぎなんだよ、もっと頼ってよね! 」
「みんな、ありがとうね。まだ頭の整理がつかないんだけど、あの目を忘れちゃいけないと思うんだ。もしかしたら、みんなにわがまま言うかもしれないけど、そのときはお願いします――」
その後、最近ずっと結んでいなかった髪を、メルちゃんに結んでもらった。気合いのポニテ! これで気持ちが切り替わる! 頑張るよ!
★☆★
<11階>
15階層のフロアボスは土属性だ。故に、11―15階層のテーマも土である。つまり――単純な洞窟のイメージを持てば良い。ここは、シンプルな蟻の巣だ。
「この11階層以降に気を付けないといけないことがあるよね、皆は覚えてるかな? 」
「罠、つまり、トラップの存在ですね」
「メルちゃん、大正解です! ご褒美にチュウをしてあげます! チュウ~v」
「「ずるいっ!! 」」
「ここから15階までの構造自体は非常にシンプルです。まさに、ザ・親切設計!です。つまり、基本は1本道で、途中に宝箱部屋や魔物部屋がある。ただし、何に気を付ける? 」
「「トラップ!! 」」
「よくできました! チュウ~v、チュウ~v」
アユナちゃんとレンちゃんが顔を真っ赤に染めて飛び跳ねている。心配掛けさせちゃったからね、お詫びの印だよ。でも、君たちの唇は奪わない。ほっぺに優しく、チュウだ。
「宝箱を無視すれば2時間、階層全部を攻略するなら3時間はかかるでしょう。ボクたちは当初の予定通りなら、今日中に15階層のボスを倒せば良いわけで、時間的には余裕があります。ということで、宝箱を拾いながらいきましょう! 」
「先輩、前方100mに魔物の気配が1いや、2」
[鑑定眼!]
種族:ロックゴーレム
レベル:17
攻撃:5.00
魔力:8.00
体力:8.00
防御:8.00
敏捷:1.00
器用:1.00
才能:1.00
「ロックゴーレム、レベル17! 武器はギター! 」
「いや、どう見ても素手ですよね――」
「レンさん、的確なツッコミありがとう。あ、いい忘れました。しばらくはゴーレムしか出ません。斬撃と風や雷魔法に強い耐性があり、打撃や水魔法が弱点です。レンさんは関節か胸のコアを刺撃して下さい! 」
「任せて! 」
レンちゃんが脚の関節を突く! 2mの巨体が体勢を崩したところを、メルちゃんがメイスで破壊する!
その後も順調に進んでいき、討伐数がやっと2桁に乗ろうかというとき、レンちゃんが根をあげた。
「先生! ゴーレムはスルーしない? 剣がもたないよ! 予備の剣もないし、剣士泣かせだよ! 」
ゴーレムは非常に硬く、何より自動回復スキルが討伐の困難さを著しく高める。そのうえ数が多い――まさに、軍隊蟻。
「じゃ、ボクとポジションチェンジしよ? 水魔法を試してみたい! はい、これ地図ね。基本は1本道だから、トラップの場所と種類だけ教えてくれれば大丈夫。その赤色マーク付けてある所だからね! 」
「分かった! ごめんね、リンネちゃん。アユナちゃんもよろしくね! 」
「先輩、来ました。距離100m、数は4です! 」
「メルさん、ありがと。ボクが水魔法を撃ってみるから見ててね」
ずっとシャワーと飲み水にしか使ってなかったから、水量とか射程距離の感覚がよく分からないね。消防車の放水みたいにするか、滝みたいにするか、メルちゃんの風弾みたいに塊を飛ばすか――。
初級だから、水量節約で水弾にしよう。できるだけ圧縮してバスケットボールくらいの大きさにして、それから――初速を速くして、10mくらいなら確実にゴーレムの頭を破壊できるような威力をイメージする!
名前は、ウォーターシュート、ウォーターボール、水弾、水玉――難しいな! ネーミングをレンちゃんにツッコまれないようにしないと。無難にウォーターボールでいっか。
ボクは、かなりの魔力量を練り上げていく。水量は1発あたり1立法m、1000L、1KL――牛乳パック1000本分だ。重さにすると1000kg、つまり1tだ。それをバスケットボールくらいに圧縮していく――。
よし。あとはペットボトルロケットみたいに真っ直ぐ飛ばす。反動が大きそうだね――準備完了!
近付いて……距離20m……10m……もっと……5m……よし、撃つ!
「ウォーターボール! 」
先頭の1体に撃ち込んだ!
『ブワッ! 』
命中した! 頭が吹っ飛んだゴーレムは仰向けに転倒、四散した!
「凄い! これからシャワーが怖くなりそうです」
メルちゃんが目を円くして見ている。
「イメージを固めていかないと、燃費と連射速度がダメダメなんだよね! 」
牛乳パック1000本と、バスケットボールの連想を繰り返す――。
「ウォーターボール! 」
「ウォーターボール! 」
「ウォーターボール! 」
ボクは、頭を確実に狙える位置へとステップを踏みながら、ちょうど4発で4体を綺麗に倒しきった。しばらく棒で戦った経験が生きてる! 体捌きに無駄がなくなってきた。
威力はどうだろう。無駄なオーバーキルにはなっていないと思うし、魔力量的には200連発くらいは余裕みたい。念のため水量を7割に減らしてバレーボールくらいにして、もう少し速度を上げてみよっか。その方が燃費がいいよね! あと、考えているのは雷を込めること。絶対に威力が上がると思う。今度、ゴーレム以外に使ってみよう!
「足元が泥沼になってる! 歩きにくい! 」
「ごめんアユナさん、水量減らしてみるね! まだ加減がよく分かんないの」
「その先にトラップ! 足元の色違いの床は踏まないでね! 毒魔法発動だって。なんかベタベタなトラップだよね」
「レンさんありがと。その調子でお願いね! 」
その後、ボクは30体以上倒しながら水量と速度を最適化していった。結局、5mの至近距離から撃てば最初の1発に比べて水量3割のバレーボールでも十分だった。距離10mなら5割のバレーボールくらいまで圧縮して、ちょっとだけ硬度と速度を上げれば大丈夫だった。これで実用化の目処がたった!
[鑑定眼!]
[マジックポーション:魔力量を回復する効果]
「これでリンネ先生も気絶しなくて済むね!」
階段から1km、最初の蟻の巣部屋に宝箱があった。マジックポーション――やっぱりこの階層は魔法推奨なんだろうね。ボクはバリバリの魔力型だから余裕だけど、いざという時のためにマジックポーションは蓄えておこう!
★☆★
11階ではゴーレムを合計300体ほど倒した。動きが遅いので1撃必中、時間ロスはあまりない。先頭のボク以外は何をしていたかというと、3人で地図を見ながらトラップ研究、あとは魔結晶集めだ。
結局、10kmの通路の両脇にランダムに魔物部屋と宝箱部屋が各々5つずつあった。宝箱の中身は全てがマジックポーション――皆さんビミョーな心境だ。でも、いずれ役に立つよね?
<12階>
ここも11階と同じ構造だ。違いというと、ゴーレムとトラップと宝箱の種類くらいかな。
[鑑定眼!]
種族:ジャイアントゴーレム
レベル:19
攻撃:8.00
魔力:8.00
体力:8.00
防御:8.00
敏捷:1.00
器用:1.00
才能:1.10
身長が3mくらいになり、攻撃力が上がっていた。でも、どっちみち殴られなければ同じこと。水量700Lくらいのウォーターボールで大量に破壊していった。
「キャァーッ!! 」
「えっ!? 」
突然、背後の壁からドロッと現れたジャイアントゴーレムの攻撃をレンちゃんがくらった――たまたまアユナちゃんを真ん中にしてメルちゃんレンちゃんが左右を歩いていたところを強襲されたみたい!
「ウォーターボール!! 」
「ヒール!! 」
ボクは振り向きざまにゴーレムを破壊、すぐにレンちゃんを回復した――。
「レンちゃん、大丈夫!? 」
「ありがと! ずっと地図見てて油断した、ごめんっ! 」
「すみません、私も前方しか気配察知していませんでした。迷宮は、背後も気を付けないといけませんね、でも無事で良かった! 」
「よし、クピィちゃん、後ろチェック係ね! 」
「クピクピィッ! 」
その後は順調に進んでいき、討伐数が200になったあたりで13階の階段に到達した。宝箱の中身は、全て鉱石(インゴット)だった。
[黒鋼鉄の塊]×2
[純金の塊]×2
[ミスリルの塊]×1
<13階>
やはりここも蟻の巣構造が続く。試されるのは魔法持久力ということだろうか。案の定、ゴーレムはパワーアップしていた――。
[鑑定眼!]
種族:グレートゴーレム
レベル:20
攻撃:9.00
魔力:9.00
体力:9.00
防御:9.00
敏捷:1.00
器用:1.00
才能:1.20
「グレートゴーレム、レベル20。大きさが2mに戻ってる。何がグレートかと言っちゃうと、ステータスがほぼ9もある。強い! 」
だけど、弱点である水魔法はいとも容易く頭部を破壊した。相変わらず早歩きのまま攻略は進んでいく。
流石に飽きてくるというか、マンネリ化してダレてくる頃――そういう時分を見計らって罠は効果を上げる。
「足元の突起を踏まないでね! 巨石コロリンという罠が発動するみたい」
「こ~んな~の~踏っまない~よっ! あっ!! 」
アユナちゃんが、スキップしながら飛び跳ねようと向かっていき、豪快に滑って――顔から突起にぶつかる。
「痛った~い!! こんな所に水溜まり作ったの誰よ~ッ!! 」
「あ、ごめん……さっきゴーレム倒したときに……」
「ヤバい! 巨石コロリンくるよ!! 」
レンちゃんの悲鳴に続き、地鳴りが聞こえてきた。ゴゴゴゴッっと。前から? 後ろから? どっちか分からない! ボクたちは全員一塊になって身構える!!
「「「うえ! 」」」
アユナちゃん以外の声が揃う。
通路の壁際に飛ぶ!
「痛ッ!!! 」
直径2mはあろうかという石が、高さ5mの天井から落下――みんながそれぞれアユナちゃんを庇って手で引っ張った結果、アユナちゃんの肩を掠って地面にめり込む! うわぁ、危ない危ない危ないっ!!
「ヒール!!! 」
ボクは全力でヒールを掛ける!
直撃じゃなくて良かった!
その後、皆でわんわん泣いた――。
「さて、今日の教訓は何ですか? まずアユナさん」
「はいっ、センパイ! ちょーしにのらないこと、です! 」
「そうですね。危険と安全は常に隣り合わせ。そう、夫婦さんです。調子にのった瞬間、離婚です。運が悪ければ慰謝料、もっと悪ければ……刺されるかもしれません。覚えておきましょう」
「はい、センパイ。勉強になります」
「メルさんは何かありますか?」
「私は、視野を広く保つこと、です。今後は、後ろから沸いたり、上から降ってくる可能性も考えて行動しようと思います」
「そうですね。地面からぬわっと手が生えてきて足を掴まれパンツを見られる可能性だってあります。気配察知は、自分を中心とした球をイメージしましょう」
「最後に、レンさんはどうですか?」
「あたしは、何事も先入観で判断するな、ということね! 巨石コロリンという名前なのに、転がるどころかめり込んでた。巨石コロリンは巨石メリコンの場合だってあるんだ。気を付けないと危ないって思ったよ」
「そうだね。ボクが言おうとしたこと、先に言われちゃったよ……じゃあ、ボクの教訓は、何事も早い者勝ち、ということで」
ロリコンという単語はこの世界に存在するのだろうか。ロリキャラは狙われやすいと言っても通用しないよね。
★☆★
その後、ペースを緩めつつも油断なく13階層は攻略された。魔物は、強さに反比例して数が少なくなっている気がする。全て討伐したのに150体くらいしかいなかった。
ちなみに、この階の宝箱は、お金だった。13000リル×5で、65000リル(6500万円)。凄い大金だよ……。
<14階>
構造は引き続き蟻の巣だ。ただし、ゴーレムの劇的な変化がボクたちを足止めすることになった――。
「前方から来ます! 数は2、距離80m! 」
メルちゃんの一言で全員が前方を注視する。クピィだけは後ろ向き。でもこれは反抗期ではない、信頼と率直さの賜物だ。後ろの索敵は任せた!
[鑑定眼!]
種族:ゴーレムソルジャー
レベル:22
攻撃:12.00
魔力:8.00
体力:8.00
防御:12.00
敏捷:1.00
器用:3.00
才能:1.20
「ゴーレムソルジャー、レベル22! なにこれ……攻撃と防御が12もあるよ!? 」
「リンネ先輩よく見て下さい、剣と盾を持っています……手強そうですね」
「魔法が盾で防がれる、近づき過ぎると剣の範囲に入る――なるほど、遠距離攻撃にも接近戦にも対応しますよっていうことね。取り合えず、10mから撃ってみるね! これが通じれば1番安全! 」
ボクは左右に展開するゴーレムソルジャーの、ボクから見た右側に狙いを定めて、練り上げた魔法を放つ!
「ウォーターボール! 」
『バキンッ! 』
案の定、盾で防がれてしまう。
「まぁそんなに甘くないね、ちょっと行ってきます! 」
ボクは5mの距離まで詰める。剣はまだ届かない。左右のステップと、杖でのフェイントを入れながら盾の動きを見る。どうやら正面からの攻撃しか防げないらしい。剣もいわゆるテレフォンパンチのレベルだ。動作が大き過ぎて避けて下さいと言われてるようなもの。
これならいける!
ボクは杖でフェイントを入れながら横にステップ、すぐさま魔法を放つ。
「愚神礼讚、ウォーターボール! 」
『バフッ!! 』
横を向いたゴーレムソルジャーが盾を構える前に、その頭部が吹き飛ぶ! 2体目も同様にして消し去った。
「リンネ先生! グシンライサンって何? 」
「えっ? あぁ、形式より中身が大事でしょ!っていうツッコミ文句だよ、自己流だけど。剣や盾を持たせれば良いって訳じゃないよね、使いこなせなきゃ意味ないよ! って言うと長いから4文字で――」
★☆★
その後、手間を掛けながらも特にダメージを受けることなく14階も突破した。この階の宝箱は、豊富な種類の武器だった。
[グレートソード:攻撃3.70]
[グレートアックス:攻撃4.00]
[グレートスピア:攻撃3.80]
[グレートボウ:攻撃3.30]
[グレートメイス:攻撃3.50]
「予備の装備だね。アイテムボックスに入れておくから、必要なら声をかけてね! 」
レベルは既に20。アイテムボックスの底面積は、20平方mに増えている。√20=2√5だから、だいたい縦横4.5mくらいの正方形だね、余裕余裕。
「気付いたら朝から休憩なしだね。今、ちょうど9時間くらい経ったから、外はお昼の3時くらい? お昼休憩しながらボス攻略会議でもしよっか」
「ずっとリンネちゃんだけ戦ってたからね、あたしは全然疲れてないよ! お腹は空いたけど! 」
「では、私はお食事の用意をしますね! 」
「センパイ! 先にトイレ行きま~す! 」
「行ってら~! ボス倒したら、シャワーして少し寝ましょうね!! 」
<15階>
『我こそは15層の守護竜グランドドラゴンである! 先に進むことを欲するならば、我に力を示すがよい』
天然洞窟風の通路を通り過ぎ、巨大なドーム状の空間に辿り着いたボクたちの前に現れたそれは――もはや想像を絶する大きさだった。
ドームですら高さは300m以上あると思われるが、圧倒的なドラゴンの大きさからするならば、狭苦しい兎小屋にしか見えない。
ドラゴンの体長は目算で80mを遥かに超えていた。睨む相貌は遥か30mの高みにある。
これを倒す?
武器は肢の爪にしか届かず、頼みの魔法も胸の逆鱗にやっと届くかと言うレベル。ラスボスがいきなり現れたのか? 抗う勇気さえ一瞬で薙いでしまう存在感――ボクたちは頭上を見上げ、唖然と立ち尽くしていた。事前に立てていた計画はなすすべなく崩壊していた――。
「ボクの知っているグランドドラゴンは、土属性だから、水が弱点で雷の耐性持ち。計算したら、初級でもダメージ量は水魔法の方が高くなる」
「でも、届かないんですよね? 」
「もうリンネセンパイに頼るしかないよ……」
「あたしはチアリーダーになる! 」
「ボクに考えがある。アユナちゃん、ドライアードとウィルをちょっと借りていい? 」
「うん、いいけど、いじめないでね? 」
「大丈夫! それと、ドラゴンの視界を塞ぐから、皆はそれまでの30秒だけでいいからドラゴンの注意を引いて! その後は安全圏まで退避、ブレスには超警戒だよ! 」
「リンネちゃん……気を付けてくださいね!! 」
本当に一か八かだけど、やるしかない!!
『小さき者達よ、我に怖じ気づいたか? 』
「準備運動してたの! 勇者リンネ、参る! 」
『来い! ひねり潰してやろう! 』
ボクはみんなに目で合図を送る。
3人は散開してグランドドラゴンを包囲するように動く。
レンちゃんが正面で前肢に攻撃するフェイントを入れつつ巧みに距離を取る。アユナちゃんは光魔法、メルちゃんは風弾を放つが、ダメージを与えられているようには見えない。ドラゴンも余裕なのか、躱しもしない。
それは突然起きた――。
ドーム内の空気が光の結晶となって舞う。まさにダイヤモンドダストのような現象。命を削りあう戦いの最中でなければ、その神秘に、自然界の芸術に、全員が見惚れていただろう。決して称賛を狙った訳ではない。ドラゴンの上半身は光の煌めきに包まれ、その視界を数秒間だけ削ぐことに成功した。
ドラゴンが巨体を揺すって濃霧を払う行動、予想通りの展開である。地鳴りが起きる。地響きが続く。
「全力全開、ウォーターボール!!! 」
『グァッ!? 』
巨大な水弾が至近距離からドラゴンの顔面を捉えた!!
至近距離から、顔面を、である。
予想だにしなかった1撃を受け、ぐらつくドラゴン――だけど、それは決定的なダメージにはなっていない。体勢を立て直し、濃霧の先を凝視しようとする。
ボクはその瞬間を待っていた!
ドラゴンの頭部が止まる一瞬のタイミングを!
「サンダーバースト!!! 」
気絶寸前まで魔力を込めてやった。
半径5mを超える落雷が、水を浴びたドラゴンの頭部を撃ち砕いた!!
耐性を弱点に置き換えた全力の1撃――頭部から首までを一瞬で砕かれたドラゴンは、ゆっくりと横倒しになる。そして光の粒子となり、四散した――。
「リンネちゃん! 起きてください!! 」
意識が完全に飛んでいたボクは、メルちゃんに無理矢理マジックポーションを飲まされ、目が覚める。
「終わった? 勝ったの!? 」
もし、この一か八かの雷撃が通用しなかったらと思うと、背筋がぞっとする。もはや作戦Bすら叶わない、全滅ルートだったかもしれない――。
「私は、何がなんだか分かりません……説明をお願いします」
メルちゃんが顔を真っ赤にして迫ってきた。レンちゃんもアユナちゃんもポカーンとしている。
「ふぅ。勝手に動いてごめんなさい! 」
そう、メルちゃんは怒っていた。もし、勝手な作戦が失敗に終わったら、ボクたちは全員殺されていただろうから。だから、真っ先に謝った――。
メルちゃんの表情が、顔色が和らいできた。説明して!と、目で訴えかけてくる。
「うん。まず、ボクが水魔法で霧を作ったの。風刃で範囲を広げた状態で、ウィルオーウィスプに光魔法を掛けてもらった。ボクの世界だと、大気中の水分が凍りつく現象、ダイヤモンドダストみたいな状態。濃霧を光で照らしてドラゴンの視界を塞いだ」
「綺麗だったね! 」
アユナちゃんが真っ先に叫ぶ。みんな、あのキラキラを思い出しているようだ。でも、状況を思い出し、次第に険しい表情へと戻っていく。
「視界を塞ぐ必要があったのは、ドライアードの力を借りるため――」
そう言って、隣に座る半裸の美女に視線を送る。対するドライアードは満足げに微笑んでいる。にこやかな癒しの笑顔だ。
「ドライアードに、ドラゴンの頭上まで大樹の枝を伸ばしてもらったの。そして、ドラゴンの頭の上から全力のウォーターボールを撃った――」
既に大樹はその姿を消している。中位精霊とは言え、高さ30mを超える大樹を作り上げるのは至難だ。ただ、一瞬で良かった。水魔法を撃ち、地面に戻るまで。役目を終えた大樹はすぐに光となって消え去った。
「着地してすぐにマジックポーションを飲んで……ごめん、さっきのも合わせると、2本も飲んじゃったね……で、今度は全力のサンダーバーストを撃った。水を浴びていたから、ドラゴンも雷耐性が効かなかったみたい」
一通り説明した後、やぱりかなり責められた。もっと事前に話すようにと。そんなこと言われても、直感のアドリブだったんだから仕方ないよね。
★☆★
ドロップアイテムの[グランドドラゴンの魂]を拾った後、ボクたちは16階への階段で休憩中だ。皆で仲良くシャワー。触れ合う肌が気持ちいい! そして、全員のレベルがまた1つずつ上がっていた。
いくらなんでも、グランドドラゴンは強すぎでしょ! 今さらだけど、『力を示せ』というのは、竜人グランのときみたいに話し合いや、もしかしたら魔法を見せるだけで良かったのでは? 水魔法上級がなければ、普通は勝てない。まだ15階でそんな無茶苦茶なボスが出てくるのはおかしくない? この先、どんな地獄が待ち構えているのだろう――。
昨日悪夢に魘されたボクを心配してか、皆がくっついて寝てくれた。幸せな夢が見れるといいな。
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