異世界八険伝

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新たなる仲間たち

33.北の大迷宮4

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 1人の奴隷の少年が居た。少年は犯罪を犯して奴隷に堕ちたのではない。かと言って、拐われてきた訳でもない。貧しい家族を救うために、自ら望んで、自らをお金に代える選択をしたのだ。

 奴隷の生活は過酷を極めた。1日の食事はパンの耳切れが幾つか。運が良ければ骨を貰えた。仕事は1日18時間。休日なんてものは、たとえ病気になっても貰えない。冬でさえ、布切れ1枚に包まり、物置の陰に身を縮めて寝た――。

 そんな少年にも夢があった。辛い生活を共にする奴隷の仲間たちと語り合った夢だ。いつか必ず奴隷生活から抜け出して、誰もが自分たちのような悲惨な生活を送らなくて済むような幸せな世界を築くという夢だ。少年たちは夢を熱く語り合うことで辛い日々を、寒い冬を乗りきっていった。

 しかし、夢が叶うことはなかった――。

 熱く語り合った仲間たちは、ひとり、またひとりと消えていった。奴隷生活から解放されたのだ。夢を実現したのではない、病によって解放されていったのだ――。

 それ以降、少年は絶望という名の暗闇に深く沈んでいく。生きたいと願う意思も失われ、死んだような目で足元ばかりを見るようになっていった。


 ここで1つの奇跡が起きる。そんな少年を救う者が現れたのだ。しかし、彼もまた奴隷だった――貴族に生まれた彼は、陰謀に巻き込まれて両親を目の前で惨殺された。仲の良かった妹は慰み者として売られていった。力なき彼は犯罪者として奴隷に堕ちた。

 しかし、彼は復讐を望まなかった。それどころか、少年たちの夢を引き継いで世界を変えようと足掻いた。力強く運命に抗った。しかし、神は居なかった――彼もまた、志半ばにして病に倒れたのだった。

 少年は生き返った。彼の遺志をどうしても継がなくてはいけないと考えたから。苦難に負けず、ひたすら耐えて耐えて耐え抜いて、奴隷を抜け出した。少年はそこで満足しなかった。彼の尊い遺志を継ぐために、残りの人生の全てを賭けた。

 そして、世界から奴隷はいなくなった――。



「……これが、ボクがあの人の目を見て、夢を見て、思い出した話。この少年は特別じゃないと思う。何かをやり遂げようという強い意志があったからできたんだと思うの。人は、強い意志があれば何でもできる、不可能なことなんてないって思う」

「強い意志……ですか。確かに執念とか愛の力とかで運命を切り開く英雄の話はよく聞きます。彼らも最初は特別ではなかった。後付けで他者が神聖化したり、英雄に祭り上げた例がほとんどでしょうね。宗教的、政治的な意図だと思いますが」

「命をお金でやりとりすることに嫌悪感を抱くなら、人以外の動物や植物の売買はどうなのよ、とあたしは言いたいわ。所詮、奴隷制度反対運動は人間中心主義の自己満足に過ぎないのよ。もっと根本的な、命の尊厳を尊ぶ精神とか、そこまで言わなくても、弱者を守ろうという精神がないと説得力がないわ」


 夕方4時前にグランドドラゴンを倒してから、既に5時間程の休憩をとり終えたボクたちは、15階攻略後の階段で、支離滅裂な会議の最中だ。

 最初は16階以降の攻略が話題に挙がっていた。そこから何がどう発展したのか分からないけど、不可能を可能にするのは意志の力だという話になり、ボクが出した喩え話から奴隷制度の話になり――気付いたらアユナちゃんはクピィを抱いて二度寝してしまっていた。


「話を振り出しに戻すね? 16―20階は金属性、21~25階は水属性だから、階層攻略はボクの雷魔法で余裕だとして、問題はボスだよ! ドラゴンの体長だけ見ても、今後は100mを超える化け物級と戦うかもしれない。普通に考えたら勝てる要素はない。けど、進むためには勝つしかない。そのために必要なものは――信頼や技術や経験も当然だけど、何よりも、絶対に勝つんだという強い意志の力だと思うの」

「その点に異論はないよ? でも、魔物が金属性だとしたら、あたしは戦闘では役に立たないかも。石より硬いんでしょ? またマッパーかな……」

「私もメイスで致命傷を与えるのは難しいかもしれません。しかし、11階から25階までずっとリンネちゃんだけに戦わせるのは……」

 この先の魔物属性を考えたら、どうしても戦闘はボクが主力になる。そんなこと、実は最初に地図を見たときから分かっていたことだけどね。パーティ内での役割分担は、人それぞれの得手不得手に合わせるのだから仕方がない――。

「まぁ、全ての魔物を倒せと言われたらきついけど、ルート上に現れた分だけならそんなに負担じゃないよ? 蟻の巣ステージみたいに進めば良くない? 」


 話し合いの結果、ボクがさっさと魔物を倒してサクサクっとクリアしちゃえということで方針が定まった。うん、バトルジャンキーが1人増えた予感――。

「では、アユナちゃんも寝てることだし、1時間後の夜10時から攻略再開ということで」



<16階>

 イメージ通りの階層だった。

 いわゆる、メタリックで近未来的な構造物――通路自体は比較的狭く、横幅と高さがそれぞれ3mほどしかない。そして、銀色に光るタイルを幾何学的な水色のラインが照らしている。数秒おきに光はウェーブのような波動となって駆け抜けていく。まるで、どこかの秘密基地の研究所か、宇宙コロニーの中を歩いているような感覚だ。ボクの中では黒いコートを着てグラサン達と徒手空拳で戦うイメージが出来上がっていた。よし、試してみよう!


「スゴい雰囲気の階層ですね……」
「滑らないように気を付けるクピィ! 」
「製作費が高そうね! 壁を削って持ち帰る? というか、まずは3km直進よ、しばらくは罠もなし! 」


 そんな緊張感の足りない空気の中、ボクたちは最初の魔物と遭遇した。

[鑑定眼!]

 種族:アイアンスネーク
 レベル:20
 攻撃:6.00
 魔力:7.50
 体力:8.50
 防御:11.00
 敏捷:4.00
 器用:4.00
 才能:1.50

「アイアンスネーク、レベル20! 防御が11だ。任せて! 」

 ボクは杖を持って突っ込むと、先制でバレーボールくらいのウォーターボールを撃ち込む! この程度の水圧では魔物を吹っ飛ばすことはできなかった。体長は2mくらいだけど、かなりの重量らしい。

 蛇の噛みつき攻撃を左にサイドステップで躱す! そのまま壁を蹴って宙に舞い、さらに反転したまま天井を蹴って相手の裏を取る! 着地する前、既に魔法は発動している。空中から叩きつけるように、撃つ!!

「サンダーボルト! 」

 計算通り、雷撃1発で葬り去る。

 最初にウォーターボールを放ったので、床一面にも電撃が走っていた。あわや自爆するところだった――でも、壁を使った三角飛びで、体術と魔術をコラボさせたカッコいい動きに、みんなが見惚れていた。

「センパイがカッコよすぎるぅ! 」
「いいえ、今のは無駄な動きかと思います」
「あたし、ウォーターボールいらないと思う」

「アユナちゃんだけが味方さっ! こんなサービスは1回だけのつもりだったし、これからは真面目に戦いますよ! 」

 どうやら16階層の魔物は動物型ばかり。とりわけ高い知能を持つものが居ないようなので、動きの練習をさせてもらいますけどね。


「行き止まりを左折して道なりに2km行くと左右の分岐に出るよ! 」

「左右の分岐に来ました! 」

「左に! しばらく壁は触らないように! 『迷宮再構築』という危ないトラップばかりだよ! ルートが変わって地図が使えなくなるとマズいから! 」

「了解! アユナちゃんの両手を縛っ――」
「大丈夫ですよ~だ! 」

「左折、右折、左折、左折ときたら左右の分岐に出る。今度は右だよ! 」

「はい、右に曲がりました! それにしても宝箱はないの? 」

「あっ……それは……」
「3人で話し合って、リンネちゃんに負担を掛けすぎないためにも宝箱無視を決めました」
「そうでーす! 」

 変な気を遣わせちゃってるみたい。嬉しい反面、実は魔法書とかも欲しかったりする――。

「そっか! ありがとね! 時々攻略に必要な物もあるみたいだから、近くにあれば言ってね! 」

「右折、右折ときて3分岐にあたるけど、無視して真っ直ぐ! 道なりに3km行けば階段だよ!」


 道中、50匹ほどの魔物を倒した。最初ほどの派手さはないけど、体捌きを意識して相手の懐に潜り込む、そして至近距離からのサンダーボルト――ボクはまさに、舞うように戦い続けた。

 アイアンキャタピラー:レベル18~19
 アイアンスネーク:レベル19~20
 アイアンイーグル:レベル20~21
 アイアンウルフ:レベル21~22

 そして3時間程で16階層を突破した。



<17階>

「この階はドーナッツ状になっていて『メタルシャーク』という魔物を倒すと階段が現れる、らしい」

 レンちゃんが地図に書いてある情報を棒読みしてくれた。

 ボクたちが今居るのは、半径約2km、円周約12kmで、通路幅が10mくらいのドーナッツ状の階層。まるで浮き輪の中を歩いているような感じだ。現れる魔物はメタル何とかばかりで、浮き輪と関係があるのかないのか、主に魚類。魔物は壁や床をすり抜けながら、浮遊している。

「メタルシャークに早く遭えればすぐにクリアできるけど、遭えなければいつまで経っても18階に進めないということですよね? 」

「メルさんの言う通り! 」

「上手に誘い出す方法はないの? 」

「血の匂いがサメを引き寄せる場合もあるみたいだけどね、ボクが自分の手を切ってヒールしてみても良いんだけど? 」

 サメが血に引き寄せられるってのも眉唾情報なんだけどね――。

「やだ! 」
「それは絶対に駄目です! 」
「切るならあたしを! 」

「魔物相手に効果も分からないし、ヒールでも失われた血は戻らないから最終手段だね。とりあえず、時計回りに歩いてみよう! 」



 ★☆★



 2時間くらい歩いただろうか。ちょうど100匹目の魔物を倒したとき――階層に異変が起きた。

「っ!? 右の壁の中から大きな反応が1つ! 」

「うわっ!! 」

 奴は突然大きな口を開けて壁から出てきた! 体長10mくらいの巨大な銀色のサメ! 歯が物凄く怖い! ボクたちが辛うじて攻撃を躱すと、左側の壁の中に吸い込まれて消えて行った。消える前に何とかステータスチェックだけは間に合った――。

[鑑定眼!]

 種族:メタルシャーク
 レベル:30
 攻撃:15.00
 魔力:6.50
 体力:8.00
 防御:10.00
 敏捷:10.00
 器用:4.00
 才能:2.00

「あれがメタルシャークみたい、レベル30! 」

「あれ? 行っちゃった!? 」
「大きい……」
「もしかして、魔物を100匹倒すと出るとか? 」
「また来るかもだから、メルちゃん気配察知お願いね! 」
「分かりました! 」



 5分後――沈黙が破られる。

「来ます! 今度は真下から! 距離70mです!! 」
「下!? 」
「ギリギリのタイミングで後ろに避けるよ! ボクが雷で仕留めるから! メルちゃん、カウントダウンお願い! 」
「分かりました! あと5秒! 」

「4秒」 

「3」

「2」

「1」

「避けて!!! 」

「サンダーストーム!!! 」

 3人は後ろに跳んだ!

 でも、ボクは逃げない!

 杖を逆さに持ち変え、真下にサンダーストームを撃ち込んだ!

『グャギァゴィ! 』

 現れた大口の中に雷が放たれる!

 サメは体の大半が床の中だけど、奇声を発して頭部を四散させた!


「リンネちゃん! 何で避けなかったんですか!! 」

「サメの速度を考えると……必ず当てられて……しかも……1撃で仕留めるにはこれしかないかなって……」

 またメルちゃんに雷を落とされました……。



 メタルシャークが消えた後には、上級魔結晶とドロップアイテム、下への階段が現れていた。

[シャークリング:水中での呼吸を可能にする希少な指環]

「何か、役に立ちそうなのが出た! 水中で呼吸できるようになるらしい! 」

「今後、そういう水中の階層もあるってことでしょうか」


 何だか嫌な予感を抱きながら、ボクたちは18階への階段を降りていった――。



 ★☆★



「では、シャワーしてからご飯を食べて、3時間くらい休憩しまーす! ちなみに、今は早朝の2時半過ぎ、朝6時には攻略再開ですよ! 」

「ひゃー良い子は寝る時間だよっ!」
「もう時間の感覚がなくなってきました」
「お……お肌が崩壊するぅ……あ、次の階層なんだけど、バトルロワイヤル形式だって……」



<18階>

 いよいよ攻略3日目に突入だ。今日のノルマは21階層攻略――だけど、順調に進めば23階層までいけそうなペースだね。


 ボクたちは今、まるで古代ローマ時代の闘技場コロッセウムのような構造物の入口で立ち止まっている。

「静かですね」

「中央まで進むと魔物が出てくるみたい」

「センパイ! 私とクピィちゃんは休憩で……」

「そうだね、ボクが1人で行ってこようか? 」

「そもそも、魔物を倒さなくても階段を探せば良いのではないですか? 」

「メルちゃん、あたしもそれ考えたんだけど、地図の説明に『階段は魔物を全て倒すと現れる』って書いてあるの」

「魔物はまた金属性でしょうか? 」

「そうだと思う。雷の全体攻撃を使うからまずはボクが1人でやってみるね」

「レンちゃん、魔物の数は? 」

「分からないけど、あたしの女の勘が100匹だよって言ってる」

「いくらリンネちゃんでも、100匹同時は危険です! 」

「うん、でも、うまくいけば全体魔法1発で終わるから多分、大丈夫。ボクを信じて離れて待っててよ! 」

 心配するメルちゃんの腕を解き、アユナちゃんに手を振り、レンちゃんからアドバイスを貰ってボクはコロッセウムの中へと進んでいく――。



 ★☆★



 ボクは中央ステージにゆっくりと向かいながら、使う魔法のイメージを固めていく。雷の全体魔法――実体のある雷撃だと360度、全方位攻撃ができないから討ち漏らしちゃうよね、どうしよう?

 波動みたいに自分を中心としてドワッと一瞬で広がる魔法はどうかな――でも、波動1発だけで倒せるのかな。相当な威力も必要だよね、どうする?

 波動の威力を上げるために水魔法も混ぜてみようか――霧の粒子の中を電流がビリビリ流れるイメージ。名前は、波動だからウェーブ――そう、サンダーウェーブでいこう。



 ボクはコロッセウムの中央で立ち止まる。集中は切らさない。次々に魔物が現れてくる。なんだこれ、100匹以上居るよ――ボクを包囲する魔物の異形、奇声と咆哮が精神を蝕んでくる!

 恐怖心を抱くな、勇気を振り絞れ、集中、集中、集中。

 冷静に状況を見極める!

 予想通り、飛行タイプも居る。数は200――いや、300くらい居るかも!? でも、自分を中心に半球に広がる波動を放てば大丈夫!


 大気中からも魔力を掻き集めるイメージを、身体中で練り上げていく――総魔力量の8割を雷魔法、1割を水魔法で構成していく――フェアリーワンドが膨大な魔力を吸収増幅させて、ビリビリ震えている。準備は整った!

「魔を薙ぎ払え! サンダーウェーブ!! 」

 ブワッという波がバチンッ!という高圧電流の衝撃波と共に駆け抜ける!

 一瞬、真っ白に染まり、静寂に包まれる世界――それを見届けてから、ボクは膝を地に着け、意識を失った――。



「リンネちゃん! お疲れ様でした!! 」

 メルちゃんに優しく抱き起こされる。今回は笑顔だ!

 レンちゃんとアユナちゃんの目が点になってる。張り切り過ぎたかな――何だか最近、このパターン多いね。もうちょっとだけ、メルちゃんの膝枕で少し休ませてもらうね。



<19階>

 この階は再び迷宮らしい迷宮に戻っている。みんなと相談して、ここからは宝箱も拾う方向で進んでいた。

「先生! 次の角にトラップがありますよ! その先に宝箱です! 」

 レンちゃんが凄く敬語の人になっている。

「レンさん、どんなトラップですか? 」

「それが……地図に書かれてないんですよ」

「また巨石コロリンかも? ひゃぁ! 」

「アユナちゃんが転ばなければ大丈夫でしょ」

 何だか危険な香り。地図に書かれていないのが、単なる記入忘れならいいんだけど、トラップに掛かった人が全員お亡くなりになって内容を確認できなかったとかいうオチはないですよね!?

「リンネ先輩、私が先頭に立ちます、慎重に進みましょう」




「ん? 角の所に妙な気配が1つあります。魔物? 」

「冒険者が1人で来ている訳がないよね? 」

「もしかして、オバケかもよ? 」

「「ひゃあ!! 」」

「リンネ先輩、怖がらせないでください! 」

 メルちゃんはオバケ大丈夫で、アユナちゃんがダメなのは知ってたけど――レンちゃんもダメみたいだね。



「この角を曲がります」

「気を付けて! 」



「あ、こんにちは」

『こんにちは』

「貴女は……人ではないですね? 魔物でもなさそうですが……? 」

 1人で様子を見に行ったメルちゃんが、誰かと会話を始めた――。


「いる! いる、いる、います! これは……この存在は……慈悲の精霊とも怨念の精霊とも言われる……ロア……怖い! 私、無理かも! 」

 アユナちゃんが怯えてボクに抱き着いてくる。ロアって、確か上位精霊だったような――。


『エルフさんがいるのですね? 』

 ロアに見つかってしまったアユナちゃんが、ボクとレンちゃんに猛烈に押されて、メルちゃんの隣に立つ。目が虚ろになってるのは気のせいだよね。

「はい……中級の精霊魔法使い……アユナと言います。ロアさま……初めまして……私は……勇者リンネさまと一緒に旅を……しています」

 アユナちゃんが真面目モードだ、ロアとかいう精霊が本当に怖いんだね。

『勇者? 』

 ボクは、レンちゃんの手を繋ぎながらアユナちゃんの隣に進む。すると、1人の女性が壁に寄り掛かるようにしてボクたちを見上げていた――海のような深い青色の髪を持つ半裸の女性、これが上位精霊ロア?

「はい、ボクです。銀の召喚者です」

『なんと! そなたが1000年に1人現れるという銀の勇者!? 』

「そんな……仰々しい存在では無いと思いますが……使命を果たすべく、仲間たちと一緒に旅をしています」

『……勇者リンネにお願いがあります……私を……迷宮から解放してほしい』


 精霊ロア――魔族に敗れ迷宮に囚われてから3年、ここを通る冒険者に呪いを与え続けてきた。だが、意に反する力の行使から、精霊力を摩耗し、既に消滅寸前なのだとか。よく見ると、ロアの下半身が迷宮の壁に飲み込まれて一体化していた――。

 周囲を見渡すと、放置された多くの装備に埋もれるようにして人骨が散らばっている――それも相当な数だと思う。ボクは悲しみと共に怒りを覚えてきた。

「あなたは多くの人を殺めてきましたよね? 」

『はい……保身のために力を行使したこと、否定はしません……』

 ボクはメルちゃん、アユナちゃんを見る。一応、レンちゃんも。みんなが固い表情で頷いている。助けるべきってことだよね?

「あなたがどれだけ悲しい思いをしてきたのか、想像するだけで胸が痛みます。今まで奪ってきた魂に安らぎを与えるよう、この先ずっと精霊界で祈り続けてくださるのなら、解放します」

『必ず――』

 ボクは、魔力を大量に注ぎ込み、迷宮の壁を融解させた。ロアの身体は壁を離れ、感謝の言葉と共に消えていった――。

 ロアの顔には、涙が絶えず流れ続けていたことを示すほど、濃く、深く、痛々しい跡が残されていた。何年も泣き続け、罪悪感に打ちひしがれたであろうことは、容易に想像できた。ボクが覚えた怒りは彼女に向けたものではない、彼女を貶めた者に対してだ。



 ★☆★



「宝箱です! 中身は……鎧? うわっ、重い! 」

[黒鋼鉄の鎧:防御6.50、敏捷−1.50]


 その後、レンちゃんの指示通り宝箱を拾いながら進んだ。宝箱は、防具ばかりだった。ボクたち美少女パーティにはあまり使い道がないかも――。

[黒鋼鉄の盾:防御4.40、敏捷−1.00]
[黒鋼鉄の兜:防御2.80、敏捷−0.60]


 そして、3時間掛けて20階層への階段に到達した。



<20階>

「どんなドラゴンだろ? メタルドラゴン、アイアンドラゴン、ゴールドドラゴン、ミスリルドラゴン……どれも硬そうだよ? 」

 アユナちゃんもドラゴンに対する恐怖心はなくなってきたようだ。まぁ、自分が戦わないからだろうけどね!

「最初っからサンダーバースト撃ち込むからね! 倒せなければ、マジックポーションがぶ飲みして連発するから。マジポはあと3本――全力魔法が4発撃てる。それで倒せなければ――皆で土下座して通してもらおう!! 」

「土下座が通じますかね――」

 メルちゃんが白い目で見てくる。

「勝てる気がしないもん」

「リンネ先生、強い意志があればナントカカントカ言ってませんでした? 」

「土下座する強い意志、ということで許して」



 ★☆★



『我はこの20階層の守護竜メタルドラゴンなり。ここを通りたくば我に力を示せ! 』

 メタルドラゴン――何ということでしょう。サイズが2mほどでした。もしかしたら迷宮の壁に材料を使い過ぎたというオチですかね? めちゃめちゃ声が高いところからして、若い女の子的なドラゴンだったりして?

 ただ、どこかの宇宙人や人造人間が言っていたように、見た目で判断しない方が良い! 遠慮せずに、先手必勝! 1撃必殺、の精神でいきます!


「勇者リンネ、全力でいきます! 」

『来るがよい、捻り潰してやるわ! 』

「受けよ、正義の雷(いかづち)、サンダーバースト!!! 」

『グオォォォォ……』


 半径5m強の雷撃は、ドラゴン全て飲み込む!

 そして、光が消え去った後には、魔結晶と[メタルドラゴンの魂]のみが残されていた――。


「見た目はおいといて、弱点属性でアレを受けたらさすがに耐えられないよね!? 」

 レンちゃんが元気よくドロップアイテム回収に走り回っている。さて、今日は23階層クリアまで頑張ろう!
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