異世界八険伝

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激動のロンダルシア大陸

46.ティルス防衛戦1

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「市長!ここの決裁お願いします!」
「市長!町で喧嘩が起きてます!」
「市長!工場の倉庫で火事です!」
「市長!橋が壊れたとの報告が!」
「市長!税金未払いが多すぎます!」
「市長!取材のお時間ですよ!」

 ……

「ひぁ~!コピーロボット欲しい!気安く受けるんじゃなかった!誰か助けて~!」

 愚痴るボクに突っ込む人はいない。市長就任当日、ボクは密室に閉じ込められて書類の束と1人格闘中なのだから……。
 思うに、ミュラーという人は本当に有能だった。こんな煩雑な作業をほぼ1人でこなしたのだから。組織化されてない上に全てがアナログ。今更ながら科学技術の偉大さに敬服。いでよ、コピペ!アナログ作業よ、消えてなくなれ!

 ボクは現在、前代未聞のアホ市長をやっている。後世の歴史家がボクをどう評価するか分からないけど、今はこれが精一杯だし、これしか打つ手がなかった。ちょっと言い訳をさせてもらえれば、市長なんて全くの専門外なんですけど!!



 ★☆★



 昨晩、ガジル邸からギルドに戻ったボクは、今まで味わったことがない戦いに身を投じていた。明日、歴史が動く……ってほどじゃないけどね。

(アイちゃん、助けて~!)

(話は分かりましたが、わたし達がフィーネに到着するのは魔族侵攻の前日ですよ?何事も経験です。目立ってしまうのは心配ですが、魔族撃退に成功すれば今後は動きやすくなります。なのでリンネさん頑張って下さい!)

 軍師アイちゃんにも見放された。
 もう、やるっきゃない!!



 ボクは翌朝、ギルドの会議室に全員を集めた。
 メルちゃん、レンちゃんを始め、ギルド支部長スルトさん、新しい軍団長になったダヴーさん、洗脳が解けたガジルさん、反ネルヴィム家の豪商フーリエさん、議会の議長さんと長老会のおじいちゃん達、さらには解放された奴隷達26人。ボクを含めて総勢40人。これで動く。

 長老会の承認のもと、ボクは魔族侵攻まで臨時の市長をすることになった。主にボク自身の要求を認めてもらう形で。
 メルちゃんは気付いたみたいだけど、本音は魔族侵攻で犠牲を減らす為の組織作りだ。

 この世界は法治国家ではなく放置国家だ。法規はあるにはあるが、体系化されていないし、慣習法が罷り通る世界だ。
 ボクは、最低限の骨子は必要だろうと思い、日本国憲法を縮小した30条からなる最高法規を昨晩のうちに作り上げたのだ。マッカーサー草案だって10日足らずで出来たんだ、その縮小版なんて2時間あれば余裕だった。

 組織作りとしてまず行ったことは、三権分立の体制を作り直すこと。勿論、日本の立法・行政・司法とは中身が異なるが、いろいろ弄くってチェック&バランス機能を持たせることに注力した。


 立法……10人議会と6人長老会の二院制とし、議会議員はティルス市民から4年毎に選挙で選出、長老会は欠員が出た際に他の会員からの推薦により選出とした。議会には内閣の解散請求権を、長老会には市長の解職請求権を持たせた。
 立法府には当面、ボクが抜けた後の市長以下の選任を課題として動いてもらった。最初は選挙の時間が取れないため、立法府の推薦という形にした。


 行政……1人の市長及び副市長、5人の大臣を設けて内閣とした。それぞれの仕事を明確に説明した後で、各々任命式を行った。
 臨時市長はボク。副市長はガジルさんにお願いしたら断られたので、メルちゃんにお願いした。5大臣は、財務大臣に豪商フーリエさん、軍務大臣にダヴーさん、教育大臣にレンちゃん、交通大臣にガジルさん、厚生大臣にマールさんを任命した。レンちゃんがムチャブリに文句を言っていたけど、アイちゃん曰く何事も経験ですよ。
 元奴隷の皆様方には申し訳ないけど、しばらくは25人を5人ずつ5グループに分けて各大臣の元で働いてもらった。


 司法……正直、司法権の独立の概念すらなく、領主が主観的に裁いていたようだ。“大岡裁き”か。ボクは、ギルドの会議室で公開裁判が出来るようにし、ギルド支部長を裁判所長官に据え、その他の裁判官を3人任命するようにした。ギルド内の人事ならあまり外から圧力は掛からないよね。
 また、刑法・民法及び両訴訟法を整備するよう課題を出した。



 こんな感じで見切り発進したティルス新体制は、最初こそボクにおんぶだっこ状態だったけど、発足3日目にはやるべき仕事の内容や方法が確立してきたのか、早くも軌道に乗り始めた。

 財政は透明感を増し人材登用もスムーズに出来た。治安も見てすぐ分かるくらいに良化した。壊れた道路や橋が計画的に修復された。
 何だかんだ文句を言っていたレンちゃんも、旧ネルヴィム旅館を改築して10~15歳からなる6年制の学校を作り上げ、生徒や講師を募集し始めた。
 メルちゃんはボクに負担が掛からないようにメイドスキル全開で奮闘しているみたい。
 クピィはボクの頭の上ですやすや寝ている。



 ★☆★



 早朝。アイちゃんからの念話で目が覚めた。

(リンネさん、おはようございます!わたしとアユナちゃん、フィーネに到着しました!リザさんはしばらくはエルフ村を守る為に残るそうです。わたし達はギルドでお風呂も済ませました!お迎えよろしくお願いします!)

(おかえり!!待ってたよ……今行くね!!)

(転移!)



「……」

「……」

 久しぶりのフィーネに、いや、アユナちゃん、アイちゃんに会えることに興奮したのが原因か、ボクは無意識にギルドマスターの部屋に転移してしまった。パジャマなんだけど……いきなり襲われないよね!?
 一応、途中の村で起きたこと、ヘルソーサラーに襲撃されたこと、ティルスで奴隷を25人解放し、三凰を潰して新体制を作ったこと、ボクが臨時の市長に……。

 そこまで黙って聴いていたギルドマスターはいきなり忠誠ポーズを……って、そういうの要らないんだよー!
 何だかティルスの支部長さん、自らの保身の為か詳細な報告を怠っていたらしい。もぅ!

「ギルドマスター、そんなことより魔人ザッハルト率いる魔族侵攻は明日の夜ですよ。今、ルークからアイちゃんとアユナちゃんが帰還したので迎えに来ました。これからティルスに戻り、防衛戦に専念します」

 それから入室してきたアイちゃん達の報告を聞き、ボク達はティルスへ転移した。



 ★☆★



「アユナちゃんおかえり!元気そう……うわっ」
 アユナちゃんがいきなり抱き付いてきた。う、よく見たら泣いてるし。可愛いい子だね。ボクは背中の羽をなでなでしてあげた。

『リンネちゃん、会いたかったよぉ!私頑張ったんだから!なのに、リンネちゃん達は市長さんごっこ楽しんでてずるいよ!私も仲間に入れて!!』

 それが涙の理由かっ!ごっこじゃないし!苦労したんだし!アイちゃんはアユナちゃんに何をどう伝えたの!?というのは心にしまい、

「よく頑張ったね!凄く成長したね!」

 どさくさに紛れて胸を揉むことはせず、羽で我慢した。アイちゃんの頭もイイコイイコしてあげる。



 再会の喜びもこの辺までにして、ボク達は今度は魔族との戦いに向けた作戦会議だ。

 集まったのはボク、メルちゃん、レンちゃん、アユナちゃん、アイちゃんに、ギルド支部長スルトさん、防衛大臣のダヴーさん、元奴隷13人を合わせた総勢20人。元奴隷の方々はボクに命を預けて戦うと志願した13人だ。そのうちマールさん達戦闘に不向きな方々は裏方に回ってもらい、5人がボク達と一緒に戦うことになった。皆、仕事の引き継ぎは済んでいる。



 ボクはアイちゃんの方をチラ見する。アイちゃんは苦笑いしながら作戦の概要を語り始めた。

「まず、魔族を率いるのは魔人ザッハルトです。推定レベルは80、魔力値は100です」

 会議場がざわめく。絶望の嘆きと溜め息が場を支配していくのが分かる。

 その空気をアイちゃんが一変させる。

「皆さん、魔人は確かに強い。但し今回攻めてくるのは魔人序列第9位。因みに勇者リンネ様は先日第3位のカイゼルを討伐しましたが、カイゼルの推定レベルは130、魔力値は400です!」

 嘆きが歓声に、溜め息の理由が感動に塗り替えられた瞬間だ。

 いやぁ、ボク自身もびっくり。そんな数字、アイちゃんはどこで調べたんだろう。ボクがよく使う必殺スキル、テキトーじゃないよね?
 というか、カイゼルは皆で倒したんだけど……何だかこの場のボクを見る目が眩しすぎて痛い。処刑ルートに片足が乗ってる予感がします……。


「先程確認した情報では、魔族軍は1700~2000体、対するティルス防衛戦力は総勢1600人。内訳は、ティルス軍所属の護衛兵700人、ギルド冒険者120人、残りはわたし達リンネ隊10人と志願兵及び傭兵770人です」

 リンネ隊って……やだ、恥ずかしい。

「最も被害を少なくする為にはどう戦うか。
 組織的に役割を担いながら戦うことです。では、どのように役割分担すべきか。
 答えは簡単です。少数精鋭で魔人を討ち、真っ先に敵の組織力を叩き潰す!こちらは守備隊が受け、攻撃隊が切り裂き、遊撃隊が殲滅する。これで確実に勝てます!」

 まだ戦ってもいないのに皆は勝った気でいる。アユナちゃん、レンちゃんは2人で手を繋いで万歳まで始めたよ。ちょっと焦らせないと……。

「油断は出来ませんよ。敵は魔族軍。野生の魔物とは違い、知能が高い。下級魔族レッサーデーモンですらレベルは30です。敵は1体1体がとにかく強い。必ず3人で1体を相手にするように連携して戦うように」

 また空気が変わる。場が緊張に包まれる。

 ボクはアイちゃんを再びチラ見。
 アイちゃんはにこやかに微笑んで、所属毎の適性から部隊編成や役割を指示していった。さすが軍師枠で召喚した逸材!素晴らしく良い仕事をしています!!


 そして……決戦当日の朝を迎える。
 想定外には慣れてきたけど、今回もそうだった。



 ★☆★



 ボク達は作戦の細部を詰めた後で、メルちゃんと一緒に各部隊の訓練を見回っていた。街中が緊迫していた。
 既に全市民への説明は済んでいる。安心は出来ないが、絶対に城壁内に魔族を入れない!市長として?勇者として?


 突然、ボクの頭の中にあるスノーとスカイのゲージに変化が起きた!ゲージが一気に3割も削られたのだ。

「メルちゃん、スノーとスカイが魔族と戦ってる!ボクはあの村に行くよ!」

「私も行きます!」

「でも……」

「あの村が今襲われてるってことは、きっと本隊じゃないですね。すぐに殲滅して戻りましょう!」

[メルがパーティに加わった]


「分かった!アイちゃんに念話しておく!」

(アイちゃん!例の街道沿いの村に魔族が来た!ドラゴン達と戦ってくるね、すぐに戻るから後はよろしく!)

(分かりました!気を付けて下さい!!)


「転移!」



 ★☆★



「スノー!スカイ!!」

 村の入口にスノー、中央広場にスカイ……たくさんの蛇と戦っている!メルちゃんが躊躇うことなく混戦に突っ込む!


[鑑定眼!]

 種族:ナーガ(下級魔族)
 レベル:30
 攻撃:16.20
 魔力:25.60
 体力:15.80
 防御:14.15
 敏捷:21.05
 器用:11.20
 才能:1.30

「ナーガ、レベル30!魔力が高い。魔法注意!」

「はい!数は40、やはり分遣隊!殲滅します!」

 ボクはスノーとスカイを下がらせてヒールを掛ける。これでHPゲージは大丈夫だ。

「メルちゃん下がって!ボクが魔法を撃つから、生き残りをお願い!スノーとスカイも、メルちゃんと一緒に掃討!」

「分かりました!」
『ギュルル!』
『シュルル!』


 範囲は半径40mあれば……魔力を5割使ってサンダーレインを撃てばかなり倒せるはず。魔力を練って練って練って……雷の雨をイメージ……ただの雨じゃない、雷の矢……細く固く強い矢……よし!

「貫け無数の雷雨!サンダーレイン!!!」

 村を覆う程の光の奔流が降り注ぐ!
 聞こえるのはキィキィという悲鳴のみ。雷雨は無音で、光速で、容赦なく降り注ぐ!
 たった30秒の光の雨が止んだ後、半数のナーガが血塗れで倒れていた。

 そこに地を這うスノーの魔法が襲いかかる!
 空からスカイのブレスが襲いかかる!
 メルちゃんも風弾と打撃で殲滅していく!

 5分と掛からずに40匹のナーガは全て倒された。魔結晶を集め終わると、ボクはドラゴン2匹を十分に労い、指環に帰還させた。



 村は半壊していた。
 村人達は……誰もいない。

 村人達へは緊急時に村長宅の地下室へ避難するよう指示を出してあったので、逃げているのだろう。そう、信じたい。


 ボクとメルちゃんは村長の家に向かった。

 とても静かだ……。

 震える手で地下室への扉を開ける。


「村長?」

「リンネさん!!助けに来てくれたんですね!!私達の為に……あの魔族の大群……私達はドラゴン様を見捨てて逃げてしまった……申し訳無い……申し訳無い!!」

「大丈夫です。もう大丈夫です!全部倒しましたから。でも、村が……」

「本当ですか!?村よりも、ドラゴン様は……ドラゴン様はご無事ですか!?」

「はい、スノーもスカイも無事ですよ。安心して下さい!」

 村長や村人達は地下室で泣き崩れていた。スノーやスカイはこの村の英雄になったんだね。どうやら皆で早々に逃げたらしく、村人は全員無事だった!本当に良かった。魔人を倒したらまた挨拶に来ようかな。

「村長、この魔結晶を村の復興にお使い下さい」

 ボクは村長に魔結晶を詰め込んだ袋を無理矢理渡した。

「では、ボク達はティルスへ戻ります。今晩、魔人率いる魔族軍がティルスを襲います。それを撃退したらまたご挨拶に来ますね!しばらくは魔族は来ないでしょうが、気を付けて下さい」


 そしてボク達は再び決戦の地ティルスへ戻った。魔力を8割も使っている。少し休みたいな……。
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