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激動のロンダルシア大陸
45.ティルス攻略戦
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朝9時過ぎ、ボク達はネルヴィム家当主ネルヴィムと向かい合っていた。
『派手に動き回っているそうじゃないか』
伸ばした白い髭を左手で引っ張りながら、鋭い眼光を持つ老人が嘲笑を浮かべてボク達を睨む。王宮さながらの豪華な部屋には、槍の柄を地につけた護衛兵が多数控えている。
話は遡ること3時間前。
夜明けと共にボク達は既に行動を開始していた。
ギルド支部長スルトからの情報で奴隷商人の所在は全て把握していた。そこを片っ端から訪れて、あらゆる奴隷を買い集めた。
中には獣人やエルフ、ドワーフ、ノーム等の亜人と呼ばれる種族もいた。戦闘奴隷、労働奴隷、性奴隷……用途も様々であり、多数の若い女性も混じっていた。
嫌悪感をぐっと堪えて5つの奴隷市場から25人の奴隷を購入した。価格は7000~300000リラ。合計375000リラ(3750万円)。メルちゃんがギルドに買わせる約束をしてくれなければ、完全に破産していた。
ボク達は、購入した奴隷25人を伴ってギルドに戻った。ギルド側も対応に全面的に協力してくれ、迅速に審査が行われた。
この後、支部長とマールさんが奴隷達に全ての事情を説明してくれる予定になっている。
ギルドを早々に出たボク達が向かったのは、三凰の一角、豪商ネルヴィム家の屋敷。今朝からボク達が動き回ったせいか、昨晩の暗殺未遂失敗のせいか、ネルヴィム家も蟻の巣をつついたように慌ただしい様子だった。
朝9時の開門を待って屋敷を訪れてると、すぐにボク達はネルヴィム本人の元へと通された。
「貴方を特別捜査官の名において捕縛します」
『理由を言ってみろ。不当な理由でそんな戯れ言を申すのならば命を惜しまないよな』
「昨夜のボク達に対する襲撃です」
『何の話だ?わしは知らんぞ?』
「ネルヴィム家に列なる者、ターシス家の嫡男が起こした一連の犯罪、そしてボク達に対する報復行為は全て彼自身からの自白を得ています。下の者の罪は上に立つ者が責任を取る、違いますか?」
『ふむ。知らぬ存ぜぬでは済まないのぅ。良かろう、ターシス家を取り潰した上で他家への立ち入り調査を行おう。それで十分じゃろ?』
「それは第3者が行います。貴方がすべきことは責任を取ることです」
『賠償すれば済むことだ。それ以上にわしを捕縛する理由にはならん。権力濫用甚だしい!』
「1つの家族の命が失われたんですよ。両親が目の前で過労と毒により命を失った。残された娘は性奴隷として買われた。貴方は命を何だと思っているのですか!」
『ふん。わしが直接に命じた事ではないしな。わしを捕縛する理由にはならんな』
「貴方は……奴隷商人5人を抱えていますね。彼等が違法な亜人取引を行ったり、善良な民を無理矢理でっち上げた犯罪で奴隷堕ちさせている件は、十分に貴方を捕縛する理由になりますよ」
『聞き捨てならん!わし等は違法行為などしておらん。奴隷取引条項にある通り、亜人と言えど犯罪行為をした者は奴隷として売買可能なはずだ。善良な民?犯罪をでっち上げだと?証拠すら出さずに、言い掛かりはよせ!』
「証拠ですか?証拠ならありますよ」
『なんだと!?』
「奴隷達の大半は身分証明書として冒険者カードを持っています」
『それがどうした。そんなのはわしも持っているわ。冒険者登録してあれば奴隷取引が出来ないなんて条項はないぞ!』
「失礼ですが冒険者カードを見せて頂いても?」
ネルヴィムはボクに冒険者カードを投げつけた。ボクはそれを拾うと、ギルドから借り受けたステータス表示機材に乗せ、印字させた。
◆名前:ネルヴィム
年齢:67歳 性別:男性 レベル:11 職業:豪商
◆ステータス
攻撃:0.75
魔力:1.35
体力:0.40
防御:0.65
敏捷:0.30
器用:1.70
才能:1.60
◆先天スキル:人心掌握術、毒耐性
◆後天スキル:剣術/初級、槍術/初級、火魔法/初級、水魔法/初級、回復魔法/初級、土魔法/初級
◆称号:ティルス三凰、億万長者
★犯罪歴:殺人121、強姦45、詐欺275、違法取引741……
「貴方のカードを更新しました。冒険者カードには犯罪歴の隠し表示がある。貴方の犯罪歴も全て記載されています。因みに、ティルスで今朝ボク達が購入した奴隷25人も全て調べましたが、誰一人として犯罪歴は無かった!!言い逃れは出来ないぞ、ネルヴィム!!」
『なんだと……スルトめ。そんなこと一言も……
糞が!!お前達、このガキ共を捕まえろ!殺しても構わん!!』
ネルヴィムは回りを囲む護衛兵に命じる。
ボクも、メルちゃんもレンちゃんも動かない。
20人いる護衛兵は誰一人として動かない……。
「皆さん、ネルヴィム一家とそれに列なる犯罪者の捕縛をお願いします」
「「はっ!」」
『なんだと!?お前達は何をやっている!わしの命令が聞こえないのか!!』
「残念ながら、護衛の方々は既にボク達の味方です。諦めてください」
そう。
昨晩の暗殺未遂の後、すぐにボク達は軍属ハーマン家を訪れ、同様にして捕縛を終えていた。今は犯罪歴の無い副官が長となり再編を急いでいるだろう。今日この場にいる護衛兵は全て彼の指示で派遣され、ボク達の味方として動くことになっていた。
事情を理解したネルヴィムは、虚ろな表情で連行されていった。暴言を吐いたり命乞いをする力も無く。
「リンネちゃん、凄いよ!全く血を流さずに三凰のうち2つを潰すなんて!惚れ直したよ!」
「リンネちゃんは私達の自慢の勇者様ですからね!リンネちゃんは本当に凄いのです」
頼もしい2人が褒めてくれる。今のところ上手くいっているのは皆の協力のお陰だ。1人の力ではない。
「メルちゃん、レンちゃんが手伝ってくれたからだよ。ボク1人じゃ何にもできない。本当にありがとう。でも、喜ぶのはまだ早いからね?残り1つ。最凶最悪のボスキャラがいる……」
「領主ガジルですか。リンネちゃん、何か作戦はあるんですか?」
「同じように冒険者カード使えないの?今度はあたしがやりたいな!お前の犯罪の証拠はここにある!みたいな。駄目かな?」
「多分無理だと思う」
「えぇ�・!?なんでよー!」
「彼の場合は直接何かをしたというよりも、誰かが悪いことをするのを黙認したという程度。犯罪者として捕縛するのは難しいと思うんだ」
「なるほど、不作為犯ですか。確かに冒険者カードには記載されないかもしれませんね。難しいですね……」
「リンネちゃん、どうするの!?」
「ん~、先が読めないけど、手はあると思う。2人にも協力してほしい。ボクが書面を作るから……」
★☆★
ボク達は、三凰最後の砦、領主ガジルの屋敷に来ている。もう日が暮れそうな時間だ。ガジルを追い詰めるための準備に6時間も費やした。ただし、どっちに転ぶか分からない戦いになりそうだ。
ボク達は、門兵に連れられ屋敷の中を歩いていく。
ネルヴィム家同様、目を見張るような調度品や絵画、武器防具の類いが飾られている屋敷は、下手な王族なら鼻血を出して倒れてしまいそうなほど豪華だ。
これだけたくさんあるのなら、1つくらい貰いたいなと思ってしまうのは貧乏性故か。きょろきょろ歩いているうちに、残念ながら領主の執務室に到着してしまった。
「リンネと申します、遅い時間にすみません」
「メルです」
「レンです」
『噂に名高い勇者達は……随分と若くて綺麗なのですね。ようこそティルスへ!私はティルスで領主をしているガジルと申します。食事を用意しています。食べながらお話を聴きましょう』
「お誘いは嬉しいのですが、ボク達はあなたを失脚させる為に来たのですから、折角のお料理も美味しくないと思いますよ」
レンちゃん、こっち睨まない。
『それはそれは……穏やかではないですねぇ。私がいつ何をしたと言うのですか?』
「税金で懐を温めているのもありますが……あなたの罪は、どちらかというと……すべきことをしなかったということですかね」
『私は15年間、ティルスの平和を守ってきたのですよ。この世界に来て1ヶ月にも満たないあなた方に批判される謂れはありませんね』
この人、ボク達のこと調べ尽くしてる……。
「ティルスの平和……ですか。善良な民を毒殺したり奴隷堕ちさせたりする輩を放し飼いにしている町は平和なんですね」
『ネルヴィム商会の件を言っているのなら、その批判は筋違いでは?私は神ではないのでね、彼等がどこで何をしているのかを全て把握できませんよ。把握している犯罪については科料や罰金を科していますよ』
言いながら金髪紳士なガジルがにやりと笑った。犯罪を見逃す代わりにお金を貰っていたのか。
「ネルヴィム家もハーマン家も犯罪が露見して潰れちゃいましたね。豪華な食事ばかりだと赤字になりませんか?」
『勘違いをしているようですが……財政上の公私混同、それこそ犯罪じゃないですか。私は犯罪を憎む。だから君達がティルスの平和の為に尽力してくれたこと、感謝していますよ』
案の定、尻尾を出す気配がない。確信犯だとしたら凄く質(たち)が悪い。このまま見過ごして自由にさせたら絶対に独裁に走る……。もう、こっちもカードを切るしかないね。冒険者カードじゃないよ?
「まだ道半ばですので、全てが片付いたときに改めて今の言葉をください」
『そうですか……勇者様は大変に謙虚でいらっしゃるようだ。ではこの辺で……』
「まだお話の途中ですよガジルさん。いや、ミュラーさんと呼ぶべきでしょうか」
ガジルの表情が一変した。猛禽類もかくやというほどの鋭い目付きで睨んでくる。
「ボクは鑑定眼の先天スキルを持っているんですよ。それと、何故か部屋の中に待機している門兵さんがガジルさんですね、事情を説明してくれませんか?」
『……』
ミュラーは苦々しい顔で無言を貫く。
流れが変わる。
ガジルさんのあの目は……
もしかすると……レオン王子と同じ!?
攻め時だ。
「ミュラーさん!あなたはガジルさんに洗脳魔法を掛けて成り代わった!そういうことだね!」
『確かに魔法を使った。それはあいつが無能だからだ!ティルスの為だったんだ』
ボクは無言で話の続きを促す。
『私は、王族の傍系であったブランデン家の使用人の息子で、当主の長男ガジルとは幼馴染みだった。魔法使いを目指していた私と違い、ガジルは毎日部屋に籠り本ばかり読んでいた。あいつには何にも才能がなかった。
ある日、ガジルをティルス領主にとの推薦がきた。無能なガジルをだぞ?私の方が有能なのに!直後、ブランデン家は原因不明の火事で全焼、彼の家族や使用人は全員死んだ。引き籠りがちだったガジルの風貌を知る者は居なくなった。
まさか、鑑定眼を持ち、かつ私より魔力が高い者が現れるなんてな。だが、私は放火をしていないぞ!それに無能なガジルに代わってティルスの為に尽くしてきたんだ!失脚させられる理由にはならない!』
話を聴いたあと、少し間を開けて、ボクは最後のカードを切る。
「ガジルをティルス領主に推薦したのは誰か分かりますか?」
『何を言っている。ティルス議会の……』
「そう。ティルス議会の長老会。領主を推薦する権能を有する6人からなる組織」
『お前、何が言いたい!?』
「ボクの手元には6枚の紙がある」
ボクはアイテムボックスから事前に用意していた書面を取り出して見えるように高々と掲げる。
「ここには長老会6人の署名が入っている。内容は……」
『まさか……やめろ!』
「内容は、領主任免に関する法律第28条2項但し書き……つまり、6人全員分の領主解任請求だよ。
長老会は、ティルス領主ガジルを全会一致で解任することを決定した。これは覆らない事実だ。あなたの領主ガジルとしての人生はもう終わりです、ミュラーさん」
★☆★
その後、ミュラーや彼の元で私腹を肥やしていた官吏一同は衛兵達に取り押さえられ、連行されていった。
ボクは、レオン王子にしたように、軽い雷撃をガジルさんに与えて一時的に意識を奪い、ヒールを掛けた。
ガジルさんは無事に意識を取り戻した。少し髪の毛がチリチリになってるのはご愛嬌。
レオン王子と同じように洗脳中の記憶もあるようで、説明の手間が省けて助かった。
「これで三凰は全て潰した。後は本物のガジルさんが領主として認知されるだけだね!気掛かりなのは、一緒に官吏が捕まったので人手が足りなくなっちゃったことかな?」
「リンネちゃん!やっぱりリンネちゃんは私達の自慢の勇者でした!私はずっとついていきます!」
「まさか本当に1日で血を流さずに三凰を潰すなんてね!伝説の勇者だよね!あたしの全てを貴女に捧げます!」
また2人がボクに忠誠ポーズを始めたよ……そういうの要らないんだけど!
『すまないが、奴の言う通り、俺にはティルスを治める力はない。勇者リンネ、あなたにティルス市長をお願いしたい』
「「「えっ!?」」」
『派手に動き回っているそうじゃないか』
伸ばした白い髭を左手で引っ張りながら、鋭い眼光を持つ老人が嘲笑を浮かべてボク達を睨む。王宮さながらの豪華な部屋には、槍の柄を地につけた護衛兵が多数控えている。
話は遡ること3時間前。
夜明けと共にボク達は既に行動を開始していた。
ギルド支部長スルトからの情報で奴隷商人の所在は全て把握していた。そこを片っ端から訪れて、あらゆる奴隷を買い集めた。
中には獣人やエルフ、ドワーフ、ノーム等の亜人と呼ばれる種族もいた。戦闘奴隷、労働奴隷、性奴隷……用途も様々であり、多数の若い女性も混じっていた。
嫌悪感をぐっと堪えて5つの奴隷市場から25人の奴隷を購入した。価格は7000~300000リラ。合計375000リラ(3750万円)。メルちゃんがギルドに買わせる約束をしてくれなければ、完全に破産していた。
ボク達は、購入した奴隷25人を伴ってギルドに戻った。ギルド側も対応に全面的に協力してくれ、迅速に審査が行われた。
この後、支部長とマールさんが奴隷達に全ての事情を説明してくれる予定になっている。
ギルドを早々に出たボク達が向かったのは、三凰の一角、豪商ネルヴィム家の屋敷。今朝からボク達が動き回ったせいか、昨晩の暗殺未遂失敗のせいか、ネルヴィム家も蟻の巣をつついたように慌ただしい様子だった。
朝9時の開門を待って屋敷を訪れてると、すぐにボク達はネルヴィム本人の元へと通された。
「貴方を特別捜査官の名において捕縛します」
『理由を言ってみろ。不当な理由でそんな戯れ言を申すのならば命を惜しまないよな』
「昨夜のボク達に対する襲撃です」
『何の話だ?わしは知らんぞ?』
「ネルヴィム家に列なる者、ターシス家の嫡男が起こした一連の犯罪、そしてボク達に対する報復行為は全て彼自身からの自白を得ています。下の者の罪は上に立つ者が責任を取る、違いますか?」
『ふむ。知らぬ存ぜぬでは済まないのぅ。良かろう、ターシス家を取り潰した上で他家への立ち入り調査を行おう。それで十分じゃろ?』
「それは第3者が行います。貴方がすべきことは責任を取ることです」
『賠償すれば済むことだ。それ以上にわしを捕縛する理由にはならん。権力濫用甚だしい!』
「1つの家族の命が失われたんですよ。両親が目の前で過労と毒により命を失った。残された娘は性奴隷として買われた。貴方は命を何だと思っているのですか!」
『ふん。わしが直接に命じた事ではないしな。わしを捕縛する理由にはならんな』
「貴方は……奴隷商人5人を抱えていますね。彼等が違法な亜人取引を行ったり、善良な民を無理矢理でっち上げた犯罪で奴隷堕ちさせている件は、十分に貴方を捕縛する理由になりますよ」
『聞き捨てならん!わし等は違法行為などしておらん。奴隷取引条項にある通り、亜人と言えど犯罪行為をした者は奴隷として売買可能なはずだ。善良な民?犯罪をでっち上げだと?証拠すら出さずに、言い掛かりはよせ!』
「証拠ですか?証拠ならありますよ」
『なんだと!?』
「奴隷達の大半は身分証明書として冒険者カードを持っています」
『それがどうした。そんなのはわしも持っているわ。冒険者登録してあれば奴隷取引が出来ないなんて条項はないぞ!』
「失礼ですが冒険者カードを見せて頂いても?」
ネルヴィムはボクに冒険者カードを投げつけた。ボクはそれを拾うと、ギルドから借り受けたステータス表示機材に乗せ、印字させた。
◆名前:ネルヴィム
年齢:67歳 性別:男性 レベル:11 職業:豪商
◆ステータス
攻撃:0.75
魔力:1.35
体力:0.40
防御:0.65
敏捷:0.30
器用:1.70
才能:1.60
◆先天スキル:人心掌握術、毒耐性
◆後天スキル:剣術/初級、槍術/初級、火魔法/初級、水魔法/初級、回復魔法/初級、土魔法/初級
◆称号:ティルス三凰、億万長者
★犯罪歴:殺人121、強姦45、詐欺275、違法取引741……
「貴方のカードを更新しました。冒険者カードには犯罪歴の隠し表示がある。貴方の犯罪歴も全て記載されています。因みに、ティルスで今朝ボク達が購入した奴隷25人も全て調べましたが、誰一人として犯罪歴は無かった!!言い逃れは出来ないぞ、ネルヴィム!!」
『なんだと……スルトめ。そんなこと一言も……
糞が!!お前達、このガキ共を捕まえろ!殺しても構わん!!』
ネルヴィムは回りを囲む護衛兵に命じる。
ボクも、メルちゃんもレンちゃんも動かない。
20人いる護衛兵は誰一人として動かない……。
「皆さん、ネルヴィム一家とそれに列なる犯罪者の捕縛をお願いします」
「「はっ!」」
『なんだと!?お前達は何をやっている!わしの命令が聞こえないのか!!』
「残念ながら、護衛の方々は既にボク達の味方です。諦めてください」
そう。
昨晩の暗殺未遂の後、すぐにボク達は軍属ハーマン家を訪れ、同様にして捕縛を終えていた。今は犯罪歴の無い副官が長となり再編を急いでいるだろう。今日この場にいる護衛兵は全て彼の指示で派遣され、ボク達の味方として動くことになっていた。
事情を理解したネルヴィムは、虚ろな表情で連行されていった。暴言を吐いたり命乞いをする力も無く。
「リンネちゃん、凄いよ!全く血を流さずに三凰のうち2つを潰すなんて!惚れ直したよ!」
「リンネちゃんは私達の自慢の勇者様ですからね!リンネちゃんは本当に凄いのです」
頼もしい2人が褒めてくれる。今のところ上手くいっているのは皆の協力のお陰だ。1人の力ではない。
「メルちゃん、レンちゃんが手伝ってくれたからだよ。ボク1人じゃ何にもできない。本当にありがとう。でも、喜ぶのはまだ早いからね?残り1つ。最凶最悪のボスキャラがいる……」
「領主ガジルですか。リンネちゃん、何か作戦はあるんですか?」
「同じように冒険者カード使えないの?今度はあたしがやりたいな!お前の犯罪の証拠はここにある!みたいな。駄目かな?」
「多分無理だと思う」
「えぇ�・!?なんでよー!」
「彼の場合は直接何かをしたというよりも、誰かが悪いことをするのを黙認したという程度。犯罪者として捕縛するのは難しいと思うんだ」
「なるほど、不作為犯ですか。確かに冒険者カードには記載されないかもしれませんね。難しいですね……」
「リンネちゃん、どうするの!?」
「ん~、先が読めないけど、手はあると思う。2人にも協力してほしい。ボクが書面を作るから……」
★☆★
ボク達は、三凰最後の砦、領主ガジルの屋敷に来ている。もう日が暮れそうな時間だ。ガジルを追い詰めるための準備に6時間も費やした。ただし、どっちに転ぶか分からない戦いになりそうだ。
ボク達は、門兵に連れられ屋敷の中を歩いていく。
ネルヴィム家同様、目を見張るような調度品や絵画、武器防具の類いが飾られている屋敷は、下手な王族なら鼻血を出して倒れてしまいそうなほど豪華だ。
これだけたくさんあるのなら、1つくらい貰いたいなと思ってしまうのは貧乏性故か。きょろきょろ歩いているうちに、残念ながら領主の執務室に到着してしまった。
「リンネと申します、遅い時間にすみません」
「メルです」
「レンです」
『噂に名高い勇者達は……随分と若くて綺麗なのですね。ようこそティルスへ!私はティルスで領主をしているガジルと申します。食事を用意しています。食べながらお話を聴きましょう』
「お誘いは嬉しいのですが、ボク達はあなたを失脚させる為に来たのですから、折角のお料理も美味しくないと思いますよ」
レンちゃん、こっち睨まない。
『それはそれは……穏やかではないですねぇ。私がいつ何をしたと言うのですか?』
「税金で懐を温めているのもありますが……あなたの罪は、どちらかというと……すべきことをしなかったということですかね」
『私は15年間、ティルスの平和を守ってきたのですよ。この世界に来て1ヶ月にも満たないあなた方に批判される謂れはありませんね』
この人、ボク達のこと調べ尽くしてる……。
「ティルスの平和……ですか。善良な民を毒殺したり奴隷堕ちさせたりする輩を放し飼いにしている町は平和なんですね」
『ネルヴィム商会の件を言っているのなら、その批判は筋違いでは?私は神ではないのでね、彼等がどこで何をしているのかを全て把握できませんよ。把握している犯罪については科料や罰金を科していますよ』
言いながら金髪紳士なガジルがにやりと笑った。犯罪を見逃す代わりにお金を貰っていたのか。
「ネルヴィム家もハーマン家も犯罪が露見して潰れちゃいましたね。豪華な食事ばかりだと赤字になりませんか?」
『勘違いをしているようですが……財政上の公私混同、それこそ犯罪じゃないですか。私は犯罪を憎む。だから君達がティルスの平和の為に尽力してくれたこと、感謝していますよ』
案の定、尻尾を出す気配がない。確信犯だとしたら凄く質(たち)が悪い。このまま見過ごして自由にさせたら絶対に独裁に走る……。もう、こっちもカードを切るしかないね。冒険者カードじゃないよ?
「まだ道半ばですので、全てが片付いたときに改めて今の言葉をください」
『そうですか……勇者様は大変に謙虚でいらっしゃるようだ。ではこの辺で……』
「まだお話の途中ですよガジルさん。いや、ミュラーさんと呼ぶべきでしょうか」
ガジルの表情が一変した。猛禽類もかくやというほどの鋭い目付きで睨んでくる。
「ボクは鑑定眼の先天スキルを持っているんですよ。それと、何故か部屋の中に待機している門兵さんがガジルさんですね、事情を説明してくれませんか?」
『……』
ミュラーは苦々しい顔で無言を貫く。
流れが変わる。
ガジルさんのあの目は……
もしかすると……レオン王子と同じ!?
攻め時だ。
「ミュラーさん!あなたはガジルさんに洗脳魔法を掛けて成り代わった!そういうことだね!」
『確かに魔法を使った。それはあいつが無能だからだ!ティルスの為だったんだ』
ボクは無言で話の続きを促す。
『私は、王族の傍系であったブランデン家の使用人の息子で、当主の長男ガジルとは幼馴染みだった。魔法使いを目指していた私と違い、ガジルは毎日部屋に籠り本ばかり読んでいた。あいつには何にも才能がなかった。
ある日、ガジルをティルス領主にとの推薦がきた。無能なガジルをだぞ?私の方が有能なのに!直後、ブランデン家は原因不明の火事で全焼、彼の家族や使用人は全員死んだ。引き籠りがちだったガジルの風貌を知る者は居なくなった。
まさか、鑑定眼を持ち、かつ私より魔力が高い者が現れるなんてな。だが、私は放火をしていないぞ!それに無能なガジルに代わってティルスの為に尽くしてきたんだ!失脚させられる理由にはならない!』
話を聴いたあと、少し間を開けて、ボクは最後のカードを切る。
「ガジルをティルス領主に推薦したのは誰か分かりますか?」
『何を言っている。ティルス議会の……』
「そう。ティルス議会の長老会。領主を推薦する権能を有する6人からなる組織」
『お前、何が言いたい!?』
「ボクの手元には6枚の紙がある」
ボクはアイテムボックスから事前に用意していた書面を取り出して見えるように高々と掲げる。
「ここには長老会6人の署名が入っている。内容は……」
『まさか……やめろ!』
「内容は、領主任免に関する法律第28条2項但し書き……つまり、6人全員分の領主解任請求だよ。
長老会は、ティルス領主ガジルを全会一致で解任することを決定した。これは覆らない事実だ。あなたの領主ガジルとしての人生はもう終わりです、ミュラーさん」
★☆★
その後、ミュラーや彼の元で私腹を肥やしていた官吏一同は衛兵達に取り押さえられ、連行されていった。
ボクは、レオン王子にしたように、軽い雷撃をガジルさんに与えて一時的に意識を奪い、ヒールを掛けた。
ガジルさんは無事に意識を取り戻した。少し髪の毛がチリチリになってるのはご愛嬌。
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「これで三凰は全て潰した。後は本物のガジルさんが領主として認知されるだけだね!気掛かりなのは、一緒に官吏が捕まったので人手が足りなくなっちゃったことかな?」
「リンネちゃん!やっぱりリンネちゃんは私達の自慢の勇者でした!私はずっとついていきます!」
「まさか本当に1日で血を流さずに三凰を潰すなんてね!伝説の勇者だよね!あたしの全てを貴女に捧げます!」
また2人がボクに忠誠ポーズを始めたよ……そういうの要らないんだけど!
『すまないが、奴の言う通り、俺にはティルスを治める力はない。勇者リンネ、あなたにティルス市長をお願いしたい』
「「「えっ!?」」」
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ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
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