異世界八険伝

AW

文字の大きさ
46 / 98
激動のロンダルシア大陸

44.闇

しおりを挟む
 路地裏で啜り泣く少女。容赦なく振るわれる怒号、罵声、暴力、悲鳴、慟哭、凌辱……。
 気付いたら、ボクはメルちゃんの制止を振り払い、派手な服を着た豚のような男の後頭部に杖を叩き込んでいた。


「リンネちゃん。気持ちは分かりますが、ギルドを経由してしっかり手続きを経ないと後々問題になりますよ」

「ごめんなさい……」

「そうかな!?あたしはリンネちゃんが正しいと思うよ!目の前で虐められてる人を助けないなんて最低!」

「私だってリンネちゃんの行動は正義だと思いますよ。ただ、軽率だと思います。組織が大きくなれば既得権益を守ろうとする輩も現れます。例えば奴隷を多く有して利益を貪る権力者がいたとしましょう。私達がこの町に来て何をしようとしているのかを知ったとき、どういう行動に出ると思いますか?ありとあらゆる手段を講じるでしょうね。私達の目的達成が困難になります。
 法的根拠をもって一斉に動く必要がある。だから、契約済の奴隷についてはギルドマスターが対処するのでしたよね?私達は、与えられた役割を担いましょう。
 では、まずはギルドに向かいましょう。やるべきことがたくさんあります」

「うん、メルちゃんの言う通り。でもボクは後悔はしていないからね。さぁ、マールさんも一緒に行こう!」

 メルちゃんもレンちゃんも意見は対立しているけど笑顔で支えてくれている。理解しあっている。奴隷の首輪を填められたマールさんは不安と安堵が入り混じった表情を浮かべている。ボク達は彼女も連れて冒険者ギルド・ティルス支部へと向かった。


 ★☆★


 ミルフェちゃんからの連絡は、まだギルドの魔導通信に届いていなかった。心配だ。
 ボクは追加でミルフェちゃん宛に連絡を入れておいた。
『ミルフェちゃんへ。返信ないから心配です!連絡くださいね!ボク達はティルスに来てる。ここで魔族の侵攻を止めてから王都に向かう予定。反対されるかもだけど、ギルドと協力して大陸の奴隷解放に動く予定』

 また、ホーク(魔人ウィズ)から伝言が入っていた。魔人のティルス侵攻は今日から5日後の夜になるらしい。
 どこまで信じられるのかは分からないが、ギルド側も情報の信憑性を確かめるために動いているとのこと。

 さらに、ギルドマスターから支部へ詳細が伝えられていたようで、カードには「特別捜査官」という称号が加えられていた。
 奴隷の買取りや奴隷商人の摘発(潰滅)は明日以降、魔人に対する準備をしながら進めていくことになった。
 因みに、雷魔法初級はレンちゃんに習得してもらった。剣に雷を帯びさせても良いし、魔法耐性も上がるしということで何とか説得できた。脱悩筋への輝かしい第一歩だ。


 ★☆★


 ティルス支部の支部長は、スルトという名の金髪で恰幅の良い中年男性だった。冒険者というよりは事務方のような感じだ。


 ギルド支部長のご厚意で客室を借りることが出来た。マールさんも一緒に4人でお風呂に入った。ボサボサだった茶色い髪はある程度の輝きを取り戻した。黒い瞳、清楚に整った顔立ちは、まさに日本人風な美少女だった。歳は15だそうだ。みすぼらしい格好をさせられていたせいで、20歳前後かと思っていた。
 食事を終えてベッドへ入ると、辿々しく自分の身の上話を始めた。ボク達は静かに聴いていた。

「父が経営する宿が……去年……近くに高級宿が出来てすぐに潰れたんです。借金を肩代わりしてもらう代わりに、父はそこで働かせてもらいました。私達家族のため、父は病気で死ぬ前日まで血と汗を流して働きました。母は……父亡き後、身体を売ってまで私を守ってくれましたが、先日父と同じ病で……。
『あなたは私が生涯愛したあの人の忘れ形見、私達の宝。お願い、強く正しく生きて』それが母の最期の言葉でした……。
 あいつがさっき言っていました。私をずっと狙っていたって。あいつは、父の宿屋を潰す為に悪評を流し、両親に毒を盛りつつ身体がボロボロになるまで低賃金で酷使した挙げ句に棄てました。奴隷に堕ちた私をタダ同然で買い取り、欲望を満たすために」

「……」

 目的の為には手段を選ばない悪どい手口だ。奴隷制度を犯罪の隠れ蓑に利用している。両親の子を愛する思いを利用している。決して許してはいけない。ボクは怒りの感情を抑えながら静かに口ずさんだ。

「か~さんが~よなべ~をして~てぶく~~ろあんで~くれた~~」

「リンネちゃん、その歌は?」

「あ……音痴でごめん。ボクの世界の童謡かな。
 母から届いた手編みの手袋を見て、遠く離れた自分を思って寒い中夜遅くまで頑張って作ってくれたんだねと母に感謝する歌だと思う。
 母が子を思う優しさ、子の母への感謝の気持ち、それを返したいけど、もう返せなくなってしまった子の虚しさ……が溢れてくる。
 親に愛を返せないときがあると思う。親の無償の愛に対して、子どもが強く正しく生きることこそが唯一の報いる為の方法なんだって信じたい。それがきっと皆の幸せ、世界の平和に繋がるって信じたい」

 その後、誰も何も話さなかった。そのまま寝てしまったのだろう。そう言えば、アユナちゃん以外、家族のことが話題に挙がったことはない。ボク達は記憶が無いけど、無いからこそ家族を思う寂寥感が募ることもある。早く帰りたい、家族がいたら会いたいと思うことがある。


 ボクはアイちゃんに、ミルフェちゃんへ魔導通信を再送したこと、マールさんのこと、ウィズからの情報について話した。

(ティルスは大変そうですね。闇が深そうですので気を付けてください。ルークの奴隷解放は既に終えて、わたし達はエルフの森に向かっています。魔族侵攻までには余裕を持ってフィーネに戻れそうです)

(うん、待ってるからね!おやすみなさい!)

(はい、おやすみなさい!)



 ★☆★



 ぞっとするような悪寒を感じて目が覚めた。枕元のクピィも目を覚ましているけど反応していない、魔族ではない。


 静かにドアが開く気配がした。

 メルちゃんも目が覚めたみたい。レンちゃん、マールさんは夢の中だ。

 ボクはメルちゃんと目を合わせて頷きあう。寝た振りをして状況を確認するという意味だろう。

 部屋に侵入してきたのは黒い服に身を包んだ5人。迷宮での悪夢が甦る。油断しない!
 狙いは何か。マールさんの奪還?ボク達?それとも只の窃盗?まさか、ギルドの中で闇討ちとは!


 黒服達は夜目が効くのか、しばらく様子を窺った後で抜剣した。狙いは命か……誰の命かは問わない、戦うしかない。

 ボクは既に練り上げていた魔力を解放する。

(サンダーレイン!)

 黒服達の頭上から雷撃が襲う。魔力制御が上達したからか、相手が手練れだからか、いつぞやの盗賊のように黒焦げになることはなかったが、行動力を奪うことには成功した。

 メルちゃんが動く。メイスの柄の部分で鳩尾に打撃を加えていく。

 レンちゃんも目が覚めた。状況を見て即座に判断し、黒服達を後ろ手に縛り上げていく。


「あなた達は何者?目的は?」

「……」

 レンちゃんが質問する。黒服達は覆面をしていてその表情は分からないが、素直に答える気は無さそうだ。

 既にマールさんも起きて怯えながら様子を見ている。雷撃の音を聞いたギルドの職員や支部長も部屋に入ってきた。皆、一様に青い顔をしている。


「ここには賊が易々と侵入出来るんですね」

 メルちゃんが支部長に向かって嫌味を言っている。ギルド職員も支部長も顔を背けている。

「リンネちゃん、この人達……ギルドは私達を売ったようですよ」

「「!!」」

 ボクもだけど、レンちゃんもびっくりしたようだ。武器を手に取り油断なく身構えた。

 ボクも杖を取り出して構える。空気がバチバチするほどの魔力を込めて牽制する。

「待ってくれ!!」

「すぐに事情を説明して下さい!!!」

 ボクは強気に怒鳴り返した。

「た……頼まれたんだ。この町を統べる三凰の1つ、ネルヴィムから……」

 そう言って、彼はティルスの闇について語り始めた。


 ティルスを支配する三凰(さんこう)……領主のガジル家、豪商のネルヴィム家、軍属のハーマン家。権力を分離して独占を防ぐ政治システムはいつしかお互いの権益を守る為に癒着を産み、やがてそれはティルスを覆う闇と言われるようになった。
 権益を脅かすものにはお互いの力(政治、カネ、武力)を合わせて潰す。利益を得る為には政治や武力を利用して犯罪すらも黙認する。ギルドもまた三凰から多大な援助を得て成り立っていて、逆らうことが出来ないということらしい。
 今回、ボクが叩いた男はネルヴィム家の末端に列なる一族の御曹司で、ハーマン家の暗部を使って復讐に動いたらしい。


「それで、あなた達は私達をいくらで売ったんですか?すまなかったではすみませんからね?」

 メルちゃんが恐い。レンちゃんも引いてる。

「……」

「リンネちゃん、ティルスの未契約奴隷は全てギルドが購入手続きをするそうですよ!」

「うっ……それは……」

「これはお願いではなく命令ですよ。捕縛されたくなければ言うことを聞きなさい」

 メルちゃん……恐い。けど、やっぱりメルちゃんは頼れる!最初にボクが召喚してからずっと一緒に戦ってきた大切な仲間、親友。

「支部長、ボクからも提案があります。三凰それぞれの情報をください。特に弱みを掴みたい。ボク達が、特別捜査官として戦います。闇を払います」

 そして、ボク達は魔族ではなく、人間が持つ闇と戦う決意をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた
ファンタジー
【空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!】 台風の夜、魔女はホウキで空を翔け――嵐と戦う! この街で台風と戦うのは、ホウキで飛ぶ魔女の仕事だ。 空を飛ぶ魔女に憧れながらも、魔法が使えない体質のため夢を諦めたモチコ。 台風の夜、嵐に襲われて絶体絶命のピンチに陥ったモチコを救ったのは、 誰よりも速く夜空を飛ぶ“疾風迅雷の魔女”ミライアだった。 ひょんな事からミライアの相方として飛ぶことになったモチコは、 先輩のミライアとともに何度も台風へ挑み、だんだんと成長していく。 ふたりの距離が少しずつ近づいていくなか、 ミライアがあやしい『実験』をしようと言い出して……? 史上最速で空を飛ぶことにこだわる変な先輩と、全く飛べない地味メガネの後輩。 ふたりは夜空に浮かんだホウキの上で、今夜も秘密の『実験』を続けていく――。 空を飛ぶ魔女たちの、もちもち百合ファンタジー・コメディ!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...