異世界八険伝

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求められし力

75.桃の召喚【挿絵】

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「ウィズ!?」

 距離はまだ50m以上ある。でも、見間違いではない。ボクは視力には自信があるんだ。

 ふと、目が合ったような気がする。

 白髪の鬼人族は、目を逸らさずにゆっくりと歩み寄ってくる。
 怪訝そうな表情は、次第に驚きの表情に変わり、徐々に不敵な笑みを浮かべ始めた。

 何かに気付いた様子。
 この世界のボクとウィズは初対面のはず……サクラの年齢を考えると、時系列的にこの世界の方が早い。彼はこの後、何らかの方法でロンダルシア大陸に転移したのだろう。だとしたら、今、ボクだけが一方的に情報を持っているはず。

 ここでウィズを倒せば未来は変えられる?可能ならそれが1番いい!でも、勝機はあるのか?魔法が使えない以上、無理だ!
 では、話し合いは通じるのか?いや、期待は出来ない。けど……せめてこの町だけでも救えれば!ならば、何とか交渉するしかない!!

『女ぁ!さっき俺の名前を呼んだだろ』

「……」

『不思議だなぁ、俺はこの世界の誰にも名前は教えてないのになぁ。こんなに可愛い彼女なんていたかなぁ』

 もう、はっきりとにやけ顔が見える距離だ。落ち着け、相手のペースに乗るな。

『お前、俺と別の世界で会ったことがあるだろ』

 ウィズは、にやけ顔を一変。鋭い眼光で睨みつけてきた。下手な対応は命取りだ……。

「……」

 もう踏み込めば届く距離だ。油断するな!

『無視かよ。俺を狙って追いかけてきたのか?その割にはお前、弱そうだ』

 足が止まった……。
 言葉とは裏腹に、奴はボクを警戒している。交渉の余地は、ある!

「ロンダルシア大陸で、ボクと君は“人と魔族の共存”を目指して協力している」

『ロンダルシア?知らんなぁ。これから行く世界かぁ?それにしても、魔族が人と共存だと?ふふふっ……はっはっはっ!腹が痛い!!』

 邪悪……これがウィズの本性か!
 こいつの目的はいったい何だ!?

「嘘じゃない!ウィズ、いったい君の目的は何なの?」

『目的ねぇ。特に考えたことないなぁ。ただ、いろんな世界を壊すのが楽しいだけなんだよなぁ』

 世界を壊す……それを楽しむのが目的……それだけの為にたくさんの命を奪っているのか?
 でも、どうやって世界を移動している?ここでは魔法が使えないはずなのに。しかも、奴自身は異次元転移が出来ないはず……。

「いろんな世界?どうやって移動を?」

『おっと、未来の仲間と言えど、俺の秘密は言わんぞ?だが、お前がどうやってここに来たのかを教えてくれたら、教えてやってもいいぜ?』

 交換条件か……正直に伝えて得はある?ないな……ならば!

「ボクは……君の魔法で来た。君を呼んでくるように言われた。あっちでボクは君に“この世界は魔法が使えなくてつまらないし、ロンダルシアの方が楽しいぞ”と伝えるように言われた。今、確かに伝えたよ」

『俺の魔法ねぇ……』

 ウィズは考え込んでいる。
 しくじった!?

『お前、怪しいけど、武器も持ってないようだし……まぁいい、信じるよ。俺がそっちでどうしてそんなことを言い出したのか興味がある。確かにこの世界は魔法がないからつまらん。その“ロンダルシア”って所は魔法が使えるんだな?どんな世界だ?』

「……その前に、君の移動手段だよ。魔法が使えないのにどうやってロンダルシアに行くつもりなの?」

 やばい、ブーメランかもしれない……というか、ボク自身、ロンダルシア大陸に戻る手段なんて知らないんだけど……。

『あぁ?それはお前が知ってるんじゃないのか?俺の転移は対象者の魔力を使うから、この世界で魔法が使えなくても問題ねぇな』

 ウィズの人転移は、転移指定先の魔力を使うってことか。でも、行ったこともない世界に知り合いはいないでしょ。どうやって……。

「それは知ってる。でも、行ったことのない世界に、転移の対象者なんて…」

『おっと!それは秘密だ』

 秘密……何かカラクリがありそうだ。
 落ち着け、今はこの町を救うことが最優先。追及しすぎて機嫌を損ねるのは下策。
 そうだ、ウィズが町を破壊する前に、奴をロンダルシア大陸に転移させればミッションクリアでは?なんだ、意外と楽勝じゃないか!

「気になるけど、いいや。先にロンダルシアに行って良いよ。またあっちで会おう」

『お前みたいな可愛い子と異世界デートというのも楽しみだけどなぁ。苦労して手に入れたおもちゃを使いたくてここまで来たんだ。すぐ終わるから、もう少し待ってろよ』

 そう言い放つと、ウィズは懐から赤い像を取り出した。
 そして、ぶつぶつと呪文のようなものを唱え始めた。

 えっ!?

 赤い像から炎が噴出し、膨張していく。
 徐々に人の形を成していく炎。でも、膨張は止まらない。
 そして、炎を身に纏う巨人の姿になった!

『これが炎の上位精霊イフリートだ。どうよ!』

 でかい……身長が5mくらいある。
 町を焼き尽くしたのはこいつか!!

『イフリートよ!町を滅ぼせ!皆殺しにしろ!俺を楽しませろ!!』

『……御意』

 どうする!?
 ボクはイフリートの面前に立ち、再度、全力で魔力を練り上げる。身体の奥底から、大気中から……でも、何も湧き起こらない。悔しいぃ!!水魔法さえ使えれば!!

『女ぁ、まさか俺の楽しみを邪魔するんじゃないよな?それは許さんぞ?』

 まずい!!
 今はウィズと敵対してはダメだ。ただでさえイフリートにすら勝てそうにないのに、同時に2人相手なんて絶対に無理だ!!
 逃げるしかない?サクラの家族を連れて?それでサクラもウィズも納得させられるのか?
 幸い、近くの人間は全員が避難している。とりあえず、早くウィズをロンダルシアに行かせよう。そうすればイフリートも消滅するかもしれない!

「時間の無駄だよ。ボクは、あっちのウィズからすぐに呼んでくるように言われたんだ。少しだけ見て楽しんだらロンダルシアに行ってよ。あっちの方がずっと楽しいから」

『あぁ?イフリート以上の楽しみなんて…』

「確か、ウィズは魔人序列の第7位だったかなぁ。ロンダルシアには、魔人だけじゃなく、神や天使、悪魔もいる!強い奴がたくさんいるよ。早く行って修行して頂点を目指せば?」

『7位だと……この最強の俺が!?くそっ!くそっ!!』

 ウィズが顔を赤くして怒りを露にしている……。
 やばかった?でも、逆にチャンスか?

「地上界の魔王はまだ復活していないけど、魔界には魔王が3人もいたし、魔神もいたよ!」

『魔王……最強の称号か!なるほど、それは確かに楽しそうだな!!よし、イフリートよ、俺は異世界に行くが、俺の代わりにお前がこの世界を滅ぼせ!』

 えぇっ!?

『御意!』

 ウィズの身体が次第にかすれていき、見えなくなった。
 悪意に満ちた眼光の残像だけが、その場に残されていた。


 荒れ狂う炎の渦……。

 炎の拳は壁という壁を突き破り、堅牢な建物を破壊していった。イフリートの背後には、焼け落ちた瓦礫が燻っている。

 止めないと!
 ボクは両手を広げてイフリートの正面に立つ!

「待って!もう、破壊をやめて!!」

『……汝、我が主の友とて、主の命令を邪魔する者は焼き捨てるのみ』

 召還主の命令は絶対ということですか……。

「精霊は人の友、魔族はボク達共通の敵のはずだよ!」

『……人間ごときの戯言、耳を貸すものか!』

 イフリートの拳から極大の炎球が放たれた!
 左に跳び、かろうじて避ける。
 掠ってさえいないのに、ローブから煙が立ち昇る……危険だ、直撃したら確実に焦げ落ちる!

「やめ…」

 次々に飛び交う豪炎、ボクはなすすべなく下がりながら左右に避け続ける。幸い、ステータスは見られないが、人間離れした身体能力は維持されているようだ。
 ふと足元の瓦礫を見ると、長さ1mほどの金属棒があった。借りますよっと。ボクはそれを左手に、右手には大きめの石を握る。やってやる!

 距離は10mほど。
 前傾姿勢で対峙する。

 イフリートの拳から放たれる炎球のスピード、範囲、攻撃間隔は既に頭の中に入っている。

 右手で撃たれた炎球を左側に避ける。
 次、左手の炎球は右側に避ける。

 この距離なら安全に避けられる!
 しばらくはそのまま繰り返す。

 焦れてきた相手を、時々石を投げて挑発する。
 石を避ける動作はない。ダメージを与えている様子もない。でも、コア的な部分にまぐれ当たりすればと思い、投げ続ける。


 30回ほど繰り返すと、イフリートは徐々に間を詰めようと動いてきた!

 ボクは相変わらずリズム良く左右に避ける。
 イフリートは、何とか攻撃を当てようとしてボクの行動を先読みし始めた。学習能力はそこそこあるようだ。やはり、燃料切れを狙うのは無理か。

 そして、大きく振りかぶった“左手”の一撃が来る!

 ボクは右ではなく、裏をかいてさらに“左”に避け、イフリートの体勢が整わないうちに距離を一気に詰める!

 側面に回りこみ、両手に握った金属棒を強振する!!

 イフリートの右膝を狙っての一撃は、
 しかし、効かなかった……。

 殴ったとき、微かに手ごたえは感じた。でも、煙を殴ったかのように、失われた脚部はすぐに再生してしまったのだ。
 そして、手が熱い!!一瞬にして金属棒は融解、気化し、ボクの両手から失われた……。溶けるところまでは想定内だったので、熱を感じた瞬間に手を離したのが功を奏し、致命的な火傷までは防げた。

『我に触れたこと、褒めてやろう。だが、無駄だ!』

 降りしきる豪炎の嵐!
 必死に左右にバックステップし、再び距離をとる!
 10mの間合いを確保したボクは、既に疲労と緊張で息を切らしている。対して、イフリートの炎は無限を思わせるように威力が落ちない……どうする!?

 周りに武器は……。
 えっ!?
 いつの間にか背後に人だかりが出来ている。ボクとイフリートの戦いを見ているんだ。

「早く逃げて!!」

 人々は、顔を見合わせるだけで動こうとしない。

『焼き尽くす!』

 しまった!!
 背後に気を取られすぎた!!

 右手を豪快に薙いで起こした高温の爆風……。

 地面に伏し、瓦礫で身を守ったボクを、瓦礫もろともに吹き飛ばす!

 3mほど飛ばされ、空中で身を翻して着地する。
 大丈夫、致命傷はない!
 この程度なら大賢者のローブで防ぎきれる!

『兎のように素早いが、これならどうだ!』

 イフリートは両手を組んで振りかぶり、半径3mにも及ぶ巨大球を放ってきた!
 避けたら後ろにいる人達が、町がやられる!!
 ボクはローブを脱ぎ、両手で鷲づかみにして受け止める!!

「うわぁぁー!!」

 メテオ級のエネルギー!
 受け止めるのは無理だ!

 判断は一瞬。
 右手に力を込め、威力を半減させながら左側に逸らす!
 ボクの左後方で爆音が上がる!
 建物は吹き飛んだが、人は居ない場所だ。
 物理的な腕力まで上げておいて良かった!
 でも、ローブが焼け焦げてしまった……。

『ふん、なかなかに豪胆!だが、もう仕舞いだ!!』

 イフリートは両手を高々と天に掲げて詠唱する!

 やばい!!
 ローブはもう使えない!!

 ボクは背後に人が居ない所まで走る!
 これをかわしきれば可能性はある!

 しかし……!

 イフリートの頭上には半径30mにも及ぶ超巨大級が浮かんでいた……!

 避けきれない!!!

「逃げろ!!!」

 ボクは心の底から悲鳴を上げた。
 さすがに恐怖を感じた民衆は、我先にと走り出した。泣き叫ぶ人も居る。腰が抜けてその場で蹲る人も居る。絶望で気が狂ったように笑う人まで居た……。

 ここまでか……。
 ボクがここで死んだらどうなるんだろう。
 こっちの世界も、あっちの世界も滅んでしまうのかな。

 ボクの脳裏に、今まで出会った人達の顔が浮かぶ。
 アユナちゃん、メルちゃん、レンちゃん、アイちゃん、クルンちゃんにエクレちゃん、そしてサクラ……大切な仲間たち。さらに……リーン。走馬灯のように浮かんでいく皆の表情は、生きることを諦めるな!と怒鳴っているようだ。弱気なボクを叱っているようだ。


 イフリートの頭上から、ゆっくりと超巨大球が放たれた。

 スローモーションのように時間が流れる。

 これなら、逃げようと思えば逃げられる!
 でも、この町も人も皆が死んでしまう……。
 それは、自分1人の命なんかよりずっと重いはずだ!

 大きな瓦礫を掴み、イフリートに投げつける!
 このスローモーション、スキルなのか!?ボクと、ボクが関与した物体にだけ、いつも通りの時間の流れが適用されている!?

 見事命中したが、全く応えていない……。
 心臓も、顔面も、アソコにもダメージが与えられなかった……。

 そして、約30秒経過後、スキルが終了する……。


 眼前に迫る炎の壁が動き出す。

 その時、ボクの前に躍り出る影があった!

『お姉ちゃん、逃げて!!』

 あの桃色の少年だった。サクラの弟の。

「何を!?」

 もう間に合わない!!



 ボクは奇跡を見た。

 イフリートの放った膨大な炎は、少年の身体に吸い込まれるようにしてその全てを消失させたのだ。
 その時の少年の身体は、神々しいまでの黄金の炎に包まれていた。そう、まさに不死鳥の姿を身に宿していた……。

 呆然と立ち尽くす、少年と見守る多くの人々。

 ボクとイフリートは既に悟っていた。

『汝、フェニックス様の力を宿して……』

「そう。これはフェニックスから譲り受けた羽の力!不死鳥フェニックスはボクの仲間だよ」


 片膝を地に付け、頭を垂れるイフリート……。

『仲間なものか……この羽は、フェニックス様が軍門に下った証。絶対服従の徴!汝を、フェニックス様の主と認め、心から謝罪を……』

 フェニックスってそんなに偉いの?
 でも、命拾いした……。

「弟君、助けてくれてありがとう!!」

『えっ?僕は何も?あれっ?もしかして、お姉ちゃんがくれた羽が??』

「うん。君を助けようとして上げたんだけど、逆に助けられちゃった!!」

 ボクは笑顔で弟君を抱き寄せる。
 弟君の顔が赤い。
 イフリートはその姿を静かに見ている。

『貴女の名を伺いたい……』

「ボク?ボクは銀の召還者リンネ。と言っても、別の世界から来たんだけどね!」

『リンネ様……我は貴女に永遠の忠誠を捧げます。是非、我と契約を!フェニックス様のいらっしゃる世界へと、我もお導きください!』

 契約……またアユナちゃんにお願いしようかな。

「フェニックスはボクの仲間の天使、精霊使いアユナが契約しているの。だからあなたも…」

『いえ、我はリンネ様との契約を強く所望致します……さもなくば、次元を渡り、異世界に至ることは不可能でありましょう』

 そういうものなのか……。

「わ、分かりました。どうすれば?」

『我の額に触れてくだされ』

 そう言うと、イフリートは顔を地面に付けて土下座の姿勢をとった。それでも頭部はボクの身長くらいある……やばい、怖い。恐る恐るイフリートの頭を撫でるように触れる。フェニックスの炎と同じように、既に熱さは感じなかった。

「こう?」

『感激です。我は精霊界に還りますが、必要とあればいつでもお呼びください……』

「はい、よろしくね!」

 イフリートは頭を垂れたまま、笑顔で消えていった。
 炎は渦を巻き、ボクの右手の甲に吸い込まれていく。そこには炎の巨人を象った紋章が刻まれ、一瞬温かい光を放った。



 イフリートが消滅すると、逃げていた町の人達がボク達の周りに集まってきた。

 弟君が詳しく事情を説明している。
 魔人ウィズが現れたときから一部始終を見ていたようだ。

 いつの間にやら、ボクは町の英雄にされていた。

「待ってください!本当の英雄はボクではありません。この小さな少年です!!
 赤の他人であるボクを助けようとする優しい心、あの巨大な炎に怯むことなく向かっていく勇気、この少年が町を救ったんですよ!!」

 照れる少年を前面に押し出し、生贄に捧げる。

 人垣から、サクラが飛び出してきた!
 手には花束を持ったままだ。

 サクラはボクを一瞥して語りだした。

『弟を助けてくれてありがとうございます』

「え?助けられたのはボクの方だけど…」

『いいえ、聞かなくても感じます。あなたはこの町を救う為に来てくれた。命を懸けて戦ってくれた!』

 この子、不思議な力を持っている。
 心、いや、魂が見えるのか?

「とにかく……弟君が助けてくれなければボクは死んでいました。感謝するのはボクの方ですよ!お父さんの誕生日を皆で祝ってあげてね!!」

 サクラは微笑みながらボクに抱き付いてきた。ボクも優しく抱きしめる。花の香りがする。彼女の持つ優しい心が伝わる。この子、本当はこんなに優しい子なんだ。自然とボクの頬を涙が流れ落ちた。良かった。安心した。

 突然、視界がぼやけ始めた。
 涙のせいだと思っていたが、そうではないらしい。
 意識が朦朧とし、視界が暗転する。

 来たときと同じ……ロンダルシアに戻るのだ。

 無事に彼女の心を救えた気がする。
 戻ったとき、何が待ち受けているのだろう……。
 不安はなくならない。でも、戻れることに安心して涙が溢れ続けた。



 ★☆★



 モノクロの視界は色彩を帯びていき、ボクの意識は草原に横たわる身体と同化する。

 至近には心配そうに見つめるヴェローナの綺麗な顔があった。

「ただいま……」

『うわぁーん!リンネ様、心配したんだから!!』

 あれ?
 この人って、こんな可愛いキャラだったっけ?
 もしかして、未来が変わりすぎた?

「ごめんなさい。幻術の後、また例の次元の力に会ったの。それで、異世界に飛ばされて……」


 ボクは、次元の力との遭遇以後、何が起こったのかを全て話した。

「っ!?」

 突然、ヴェローナがボクを抱きしめた。

『貴女は本当に凄い人ね!本当に生きていてくれて良かった!!』

「魔法も武器もなくて、ボクは何も出来なかったんだ。いつも誰かに助けられてばかり……」

『そんなことない!見て!』

 ヴェローナが指し示す所には、1人の少女が立っていた。
 桃色の髪の少女、サクラ。
 未来は変わったはず……緊張が走る。


↑ミルフェ(清水翔三様作)

「リンネ様、お久しぶりです」

「えっ?記憶が……残っている?」

「はい、元の世界で炎の上位精霊イフリートから町を救っていただいた記憶……それと、魔人ウィズに町を滅ぼされ、怒りのままに召還され、大恩ある貴女を……森やこの草原で襲撃した記憶も、全て……」

 サクラは泣いている。
 サクラの記憶が重複している……。
 次元を越え、過去と未来を無理矢理に書き換えたことでこうなったのか。結局、サクラに全てを背負わせてしまうことになってしまったのか……。

「ボクはあなたを元の世界に、幸せな方の世界に戻してあげたい……今はその手段がないけど、必ず戻してあげるから!それまでは、辛い記憶もあると思うけど……」

「いいえ。私の使命はリンネ様と共に戦うことです。きっと、こうなる運命だったのです!」

 運命……この世界の意思か。
 とりあえず、ボクに出来ることは……。

 ボクはアイテムボックスから桃色に点滅する召還石を取り出す。
 それを両手に持って胸に抱きしめる。温かさが伝わってくる。これはやはりサクラの心。

「銀の勇者リンネの名において召還する!魂が引き寄せた仲間……あなたは桃色に咲く優しい花、サクラ!」

 召還石から迸るピンク色の光。
 舞う桜の花のように、草原を温かい光が満たしていく。

 そして、召還石はボクの手を離れ、真の持ち主の手へと浮遊する……。
 サクラは両手で召還石を受け取り、ボクがしたのと同じように、胸にぎゅっと抱きしめる。
 草原に満ち溢れた光は、召還石の中に急速に収束していき、世界に色彩が戻った。

「サクラちゃん、あなたは今日から、いや、昔からずっとボク達の仲間だからね!皆があなたを待ってる。皆に紹介させてね!!」

 サクラちゃんの涙を拭い、笑顔で手を伸ばす。
 サクラちゃんもボクの手を受け取ってくれる。
 あ、ヴェローナもいたっけ。

「転移!!」

 ボクは、再びニューアルンへと戻った。
 新たな仲間を加えて。


 ※ 新スキル獲得
[時空間魔法(時間遅滞):周りの時間の流れを1/10にする。自分と自分が関与する物体の時間は変わらない。継続時間はレベル×秒]
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