異世界八険伝

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求められし力

76.魔人ウィズの陰謀

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 「リンネちゃん……何ですか、そのはしたない格好は!後でダフさんに予備をいただきに行ってくださいね!!」

 会って早々、メルちゃんに叱られた。
 それもそのはず。脱いだローブの下に着ていた白シャツと短めなグレーのスカートにも所々に焦げ穴があり、下着が見えていたからだ。

 とりあえず、古いローブを着ておく。


 仲間達が会議室に集まった。

 「ただいま!新しい仲間を紹介します!皆が待ち望んだ最後の召還者、サクラちゃんです!!」

 ヴェローナも交えて簡単な自己紹介と情報交換を行った後、誰からともなくミルフェちゃんの件に話が及ぶ。ボクたちが笑顔で抱き合うのは、ミルフェちゃんを無事に見つけ出してからだ。皆がそう思っていた。


 「クルン、占ったです。ミルフェ様はまだ王宮にいます!」

 「「えっ!?」」

 「リンネさん、さっきの話の中で“ウィズは異世界を転移している”と言っていましたね。魔界から地上界に戻ってきている……つまり、今回の件にウィズが直接関わっている可能性もありますよ」

 アイちゃんの一言で、場に緊張が走る。

『それはないはずよ。何かしらの条件が足りないのでしょう。魔界への往復は常に私と一緒でしたし、本人がはっきりと無理だと言っていたわ』

「確かにそうかもしれない。魔王や魔神との会話から推測すると、ウィズが魔界にいた形跡は、ヴェローナを仲間に加えた以後のものばかりだった」

 ヴェローナとボクの発言で、皆が落ち着きを取り戻す。メルちゃん、レンちゃんが武器をしまう。

「分かりました。今回の件、もう一度確認です。ミルフェ様がまだ王宮にいるということは、自らの意思による場合、他者が関与している場合が考えられます。どちらも身に危険が迫っている状況だとは思いますが、特に後者の場合……王宮内に敵がいるということになりますね」

『革命!?』

 アユナちゃんが物騒な単語を使う。

「ランゲイルさんや前国王は知らないようだったけど、ボク達を騙したってこと?」

「いえ、“その他の勢力”と考えるべきでしょうね」

「もしかして、第1王子!?」

「どうでしょう……」

「行けば分かります!」

 メルちゃんの言う通りだ。



 ★☆★



 西日が物憂げに照らし出す王宮内を、ボクはメルちゃんと2人きりで潜入中だ。

 他の皆はニューアルンに残ることになった。戦いに備える為の準備だ。
 アユナちゃんがニューアルンの仮王宮に転移と魔力探知を阻害する結界を張り、ボク達が帰還してすぐに発動できるようにする。他の仲間は作戦会議と物資調達を行うことになった。


 「リンネちゃん、いくつか魔族の気配があります……」

 「魔族!?やっぱりウィズが……」

 「いえ、魔人ほど強力ではありません。あっ……北塔に集中しています」

 「北塔……」

 以前、ミルフェちゃんに案内されながら聞いたことを思い出す。
 フリージア王宮は、大きく5ブロックに分けられる。中央区に位置する3階層の巨大ドームは、王族居住区域や謁見室等の主要機関が集中する。南塔には大食堂が、東塔には図書室が、西塔には研究室が設けられていて、それぞれ利用者も多い。
 しかし、北塔は……重犯罪者を収監する場で、厳重な警備が施されている。王宮中央部にも地下牢はあるが、あくまで留置場の役割しかない。本当に危険な犯罪者のみを収監し、場合によっては拷問を行う場が、北塔だった。

 拷問……最悪な想像が脳裏を過ぎる。

 「メルちゃん、北塔に行こう」


 「あの男性、魔族だと思います」

 北塔へ向かう途中、連れ立って歩く王宮警備兵に遭遇した。その中央の男性を見ながらメルちゃんが小声で囁いた。
 魔人であるヴェローナやウィズのように、人間に変身できる魔族もいる。王宮の警備兵、中枢にまで魔族がいるなんて……。


[鑑定眼!]

 種族:インキュバス
 レベル:35
 攻撃:18.75(+4.20)
 魔力:52.30
 体力:33.85
 防御:21.90(+3.20)
 敏捷:18.55
 器用:22.60
 才能:1.70

「ほんとだ。インキュバス、レベル35。今は目立ちたくないから戦わない方がいいね」

「私もそう思います」


 夕闇に紛れて王宮中央区の敷地を通り抜ける。

 そして、目的地である北塔を目にしたとき、ボク達は覚悟を決めざるを得なくなった。
 塔の周辺には警備兵が3人。やはり魔族が1名加わっていた。

「メルちゃん、ボクに任せて」

 理想は、気付かれずに潜入することだ。
 新しいスキルを試そう。

 ボク達は大きく迂回して、入り口の反対側から北塔に近づいた。大丈夫、気付かれていない。
 メルちゃんをその場に待たせてスキルを発動させる。

「時間遅滞!」

 ボクは浮遊魔法を使い、警備兵の背後に回る。
 3人の首筋に手刀を叩き込む。人間の警備兵には悪いけど、騒がれると面倒なので彼らにも気絶してもらう。
 警備兵達を塔の壁に寄り掛からせる。
 ここで遅滞効果が切れた。

 イフリートと戦ったときには気付かなかったけど、意外と魔力消費が大きい。魔力総量の1割も使うようだ。このスキル、多用は厳しい……いざと言うときの切り札だね。

「いったいどうやって……」

 メルちゃんを迎えに戻ると、目をぱちくりさせながら聞いてきた。スキル使用中のボクの行動は、相当じっくり見ていないと分からないくらいの速度かもしれない。

「時間を止めるようなスキルだよ。さぁ、中へ急ごう」


 慎重に様子を窺いながら侵入する。
 直径20mほどの塔の内部は意外と明るい。
 1階部分は警備兵の詰所になっているようで、6人の姿が確認できる。

 入り口と同様、背後からの手刀で意識を失わせる。
 魔力残量が心許ない。魔界の扉を破壊してから多少は回復したとはいえ、残り2割を切っている。次からは強硬手段を使うしかない。

 地下への階段は詰所の最奥にあった。

 警備兵から鍵を拝借し、下り階段に1mおきに設けられた3重の鉄扉を開けていく。

 入り口から10mほど歩いたところにあった4つ目の扉には、魔力結界が施されていた。
 どうやら、開放に一定の魔力を要する種類の扉らしい。

「私が開けます」

 メルちゃんは、扉に描かれた魔法陣中央の円に手を触れ、魔力を流し込む。
 扉の魔法陣が白く輝き始め、少しの振動の後に扉が半透明になった。

「これで通れるようです」

 恐る恐る踏み込む。

 すると、目の前に5つ目の扉があった。

「これは……魔力遮断結界です」

 フリーバレイの落とし穴や、グスカの居城にあったやつか。
 魔法が使えない恐怖は異世界で十分に思い知らされたばかりだ……でも、今回は力強い仲間、メルちゃんがいる。きっと大丈夫だ。

「開けます」

 メルちゃんが扉を押し開く。

「お、重いです……」

 顔が赤くなっている。
 相当な重さらしい……。

 あまりにも厳重な牢獄……。
 この奥にミルフェちゃんがいる。

 拷問を受けていないだろうか。性的虐待も……。食事はしっかり取れているのだろうか。病気や怪我は……。ひたすら湧き起こる心配事に、呼吸が苦しくなる。

 扉が振動と共に開け放たれていく。

 すると、中から光が差し込んできた。



「ここは……」

 ボク達の目にまっすぐ映ったのは、大きな湖と……その向こう岸、湖畔に佇む洋館だった。

 湖を囲い込むように、門から洋館までの街道が整備されていて、周囲には森や畑、町まであった。
 そしてさらに……燦々と輝く太陽。
 遥か彼方には、一直線に伸びる地平線と、遠くに霞む山々のなだらかな稜線が見えている。

「異世界……」

「いえ、恐らくは迷宮と同じような異空間魔法の類でしょう。王宮の地下にこのような場所があるとは……リンネちゃん、あの洋館に向かいましょう」

 スカイ!
 ……やはり召還魔法も使えないか。

 遠いけど歩くしかない。
 湖の左手に見える町や畑を避けて、右側の森を通る道を選択する。浮遊魔法で湖を突っ切るのが最短最速だけど、残念ながら魔法が使えない。


 30分ほど歩くと、洋館を囲う門に到着した。

 門の周辺には誰も見当たらない。
 念の為、門を避けて裏側の壁に回りこむ。
 メルちゃんの魔力探知すら出来ない状況で、ボクたちは慎重に壁をよじ登った……。



「リンネちゃん、メルちゃん、いらっしゃい!」

「「えっ!?」」

 目の前には、満面の笑みを湛えるミルフェちゃんが立っていた……。



 ★☆★



「心配させちゃってごめんなさい!!」

 ニューアルンの会議室に到着して早々、ミルフェちゃんは開口一番、居並ぶボク達に謝り、深々と頭を下げている。

 「ミルフェ新王、ご無事で何よりです。遅い時間で恐縮ですが、事情を説明していただけますか?」

 アイちゃんが頬をぷっくり膨らませながら催促する。心配し過ぎた反動か、一国の元首が何の連絡もなしに蒸発したことに対して、物申すところがあるのだろう。

 「はい、勿論です……」


 ミルフェちゃんの話は、途中途中にボク達の質問を挟みながら3時間も続いた。


 まず、ミルフェちゃんは使い魔の妖精ミール(契約時に自分の愛称を使ったらしい)の“目と耳”によってボク達の言動を逐一把握していたらしい。
 それと同時に、国家の諜報網により、ウィズの行動と目的もつかんでいた。それは、魔族軍によるミルフェちゃんの誘拐と、ロンダルシア大陸全土を巻き込む戦争計画だった。
 魔族の中にも、人との共存を目指そうとする穏健派もあった。以前、ウィズが利用していた一派だ。彼らの協力を得て、フリージア軍は何度も王都に迫る魔族軍を退け続けた。

 そんな中、情勢を大きく動かす事件が起きた。ウィズによる最後の召還石奪取と、召還である。
 そこに現れたのが、元アルン王国王太子のレオンだった。彼はミルフェちゃんに、召還者の目的がミルフェちゃんの誘拐だと告げ、逃亡計画を実行した。そして、絶対逃亡不可能とされる王族の軟禁場所、北塔の地下に連れて行かれた……。
 ボク達が到着したとき、レオンは連絡が取れなくなった仲間を探す為、塔の外に出ていたらしい。


『顔だけイケメン王子!』

 アユナちゃん、そう言えば嫌いだったね。

「つまり、レオンがミルフェちゃんを誘拐したということ?」

「ちょ、ちょっと待ってよ!レオン君は悪くないわ。彼は私を助けてくれたのよ!」

 ミルフェちゃんが泣きそうな顔で彼を庇っている。


「ミルフェ新王、いくつか質問がありますが、宜しいでしょうか」

 アイちゃんが目を瞑りながら考え込んでいる。

「はい……」

「まず1つ目。どうして誰にも相談せずに避難したのですか?」

「レオンが黙っているようにって……」

「彼は、自分が関わっていることを知られたくなかったのでしょうね」

「……」

「2つ目。新王誘拐の際の目撃証言“白い衣を纏った者”というのは誰の発案ですか?」

「それも、レオンがそう言わせろって……」

「彼は、エンジェルウイングやクルス光国を犯人に仕立て上げ、戦争を起こそうとしたのですよ」

「……」

「3つ目。王宮を警備している魔族を雇ったのは誰ですか?」

「レオンが……」

「4つ目。北塔の地下を避難場所に選定したのは誰ですか?」

「レオン……」

『そこって、湖のある屋敷でしょう?以前、ウィズが私に案内したことがあるわ』

「はい、ヴェローナさん。それに、わたしが調べた情報によると、“ホーク”を名乗る者が数日間だけ北塔の警備兵をしていたそうです。他国の王太子であるレオンさんが、国家機密レベルの軟禁場所を知っているのはどうしてでしょう」

「……」

「決まりですね。レオンさんはウィズに利用されている。ミルフェ新王の誘拐はウィズの指示だと考えられます」

「……そんな……レオンは私にプロポーズしたのよ!?」

「えっ!?ミルフェちゃん、OKしたの!?」

 あまりの衝撃で、一瞬目の前が真っ白になった。

「まだ……でも、命を救ってもらった恩を返さなきゃと思ってた……」

「ミルフェ新王、レオンさんはアルンの護衛や見張りを惨殺してフリージアへ逃亡しました。わたしは、その時点で既にウィズとの関わりがあったと考えています。ただし、レオンさん自身にそこまで残虐な心があるとは思っていませんが、目的の為には手段を選ばないという姿勢は軽蔑します」

 確かに、ミルフェちゃんとレオンは幼馴染で、美男美女で、こんな時代じゃなければ結ばれていたのかもしれない。それに、元を辿ればヴェローナがレオンを誑かしたことが原因かもしれない。
 ボクがちらっとヴェローナを見ると、彼女もばつが悪そうに目を逸らしている。


 でも、ミルフェちゃんの誘拐をきっかけにした戦争、サクラちゃんの召還とボク達の襲撃……この2つは確実に潰せたと思う。

「これでウィズの計画は潰せたね!」

「リンネさんの言う通りですが、まだ油断は出来ませんよ。フリージア王宮に残る魔族がウィズの指示で動く可能性もあります」

「それは私に任せてください。私のスキルで調べます」



 ★☆★



 ボク達は、ほぼ徹夜で事後処理に駆け回ることになった。

 フリージア王国のランゲイルさん達に事情を説明し、ミルフェちゃんをしばらくの間だけボク達が匿うことにした。
 混乱していた解放軍を立て直し、3日後に各所に残存する魔族拠点に向けて進軍することになった。
 ボクは、ダフさんの所に飛んで、予備の大賢者のローブを貰ってきた。襟の首元に�鵺というピンが付けられている。制服の学年章みたいだ。ついでにサクラちゃんの装備も入手した。
 サクラちゃんはギルドでステータスの確認をしてもらった。思っていた通り、魔力が高い。ステータスポイントが使われずに19も残っていたので、平均的に割り振ってもらった。

 ◆名前:サクラ
 年齢:16歳 性別:女性 レベル:20 職業:大魔導師
 ◆ステータス
 攻撃:4.00
 魔力:33.45(+5.20 消費-10% 効果+10%)
 体力:6.00
 防御:6.00(+5.20 魔法防御+4.00)
 敏捷:6.00
 器用:2.60
 才能:2.00(ステータスポイント0)
 ◆先天スキル:食物超吸収、ソウルジャッジ、火魔法/上級
 ◆後天スキル:
 ◆称号:桃の召還者

[ソウルジャッジ:対象の魂の潜在的価値を評価する。付随的な効果として、相手の記憶を探ることも出来る]


 そして、フリージア王都の王宮在籍の魔族を調べていった結果、その大半にウィズとの繋がりが認められて捕縛された。しかし、真に人との共存を志す魔族もいたことが心から嬉しかった。


「今後のことですが……」

 事後処理が一段落し、皆で朝食を食べているときに、アイちゃんが話し始めた。

「3つに分かれましょう。A班は魔界へ、B班は天界へ、C班はニューアルンで待機です」

「魔界って、ウィズがいるよね!?」

「はい、作戦があります。ウィズには散々振り回されましたので、今度はこちらからウィズを嵌めます。この手紙を魔王リドに渡してください。そうすれば大丈夫です。A班は、リンネさん、メルさん、レンさん、エクルさん。B班は、アユナちゃんとサクラちゃんにお願いします。C班は、わたしとクルンさん、ミルフェ様です」

『えぇ~、リンネちゃんと一緒がいい!』
「クルンもです……」

 もう、この天使っ娘と狐っ娘、可愛すぎ!
 両腕でぎゅっと抱きしめてあげた。

「魔界では戦争が起きます。お二人には危険です。それに、獣人は天界へは行けませんので、この班分けしかありません」

 いろいろ事情があるんだね……って、魔界で戦争!?

「戦争って……」

「リンネさん、そのお手紙があれば大丈夫ですから」

 うん、アイちゃんを信じるよ……。


 そして日が南中する頃、A班とB班はそれぞれの地に旅立って行った。
 天界への案内役が魔神だと知ったときのアユナちゃんの顔は、一生忘れない。



(リンネさん、魔界を楽しんできてください)

(楽しむ!?)
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