異世界八険伝

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求められし力

78.魔界統一戦争2

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 ステータス上の魔力値がどこまで戦力に影響するのかということを、昨晩からずっと考えていた。

 その点、今までの経験から分かったことがある。

 一般的には、魔力値は「蛇口」、総魔力量は「タンク」に例えられる。この世界の場合も、おおよそはそんな感じだと思う。敢えて付け加えるならば、魔力値は魔法防御力、総魔力量は魔法の最大出力という側面もあるのではないかと考えている。

 そもそも魔力は、魔法を使う源であるだけでなく、身体を覆う防御膜“闇の衣”の形成にも影響しているようだ。
 魔力値が高い魔物ほど、高濃度の闇の衣を常時纏うことができる。そのような魔物の場合、とりわけ魔法防御力に優れているのは身をもって知っている。なので、魔力値が高い相手との戦いでは、下手な攻撃は通らないと覚悟するべきだろう。

 また、魔法のカテゴリーは下級から上級までが一般的で、アイテムや装備の力により、さらに超級に至る。色々検証した結果、級が上がればイメージを魔法化出来る幅が広がるだけでなく、魔力変換効率も上がることが分かった。例えば、100の魔力量で魔法を発動した場合、下級は40、中級は50、上級は70、超級は100の威力となる。逆に100の威力の魔法を撃つためには、初級は250、中級だと200、上級で142、超級なら100の魔力量が必要だ。
 ゆえに、総魔力量が少ないと魔法の威力が頭打ちになるので、総魔力量が魔法の最大出力を表していると考えるわけだ。

 そして結論。ステータス上の魔力値が高いほど強い“可能性がある”けど、魔力値が低くても、総魔力量・スキル・他のステータス次第では“十分に勝機がある”。
 徹夜で改めて考えた挙句、当たり前の結論に辿り着くという不運。まぁ、よくあることだね。


 この当たり前の結論に至ったときには既に朝日が顔を出していた。

 外から声が聞こえる。
 メルちゃんとレンちゃんが模擬戦をしているようだ。
 ちなみに、エクルちゃんはボクの隣で爆睡中。南王カーリーとの戦い、緊張しないのかな。
 ボクは寝不足で迎える第一試合、大丈夫か不安……。メルちゃん達と一緒にちょっと身体を動かしておくか!



 ★☆★



 本戦トーナメント1日目。

 今日は1回戦16試合のみが行われるらしい。
 1日に何試合も連戦しないのは、どうやら強さを多くの者にアピールしたいという魔王側の要求らしい。なので、1回戦16試合は同時にスタートするのではなく、Aブロックの第一試合から順に実施していくことになる。
 他の試合をゆっくり見学できる反面、手の内をじっくり見学、研究されるということだ。

 朝食をお腹いっぱい食べた後、ボク達4人は会場に向かう。


 第1試合は朝8時からだ。
 いきなり北王ノクトが登場すると言うことで、会場は観戦者でごった返していた。

「緊張するね」

 フードを目深に被ったレンちゃんが顔をペチペチ叩いて引きつった顔を解している。ボク達が無言で頷く。エクルちゃんは試合と言うよりも周りの魔族に緊張しているようだけど。

 土魔法で造られた直径200mほどの円形闘技場を囲むように、観戦席がすり鉢状に設けられている。
 ドーム球場を2倍に拡大した感じだ。

 暗黙上のルールなのか、巨体の魔族は後方から観戦するようだ。それに、北と南と西、それぞれの国ごとに纏まっているように見える。この辺は観戦者による乱闘防止なのかもしれない。
 服や鎧の色が、北は赤、南は白、西は青を基調に統一されているらしい。軍隊に所属しているからだろうか。勿論、ボク達のように違う色も2割くらい混じっているけどね。
 魔族の集団を掻き分け、ボク達は青色が集まっている方へと歩いた。
 途中、西の魔王リドやガラハドさんと合流し、西の魔族達から喝采を浴びながら最前列に陣取ることになった。出場はボク達を含めて7名なのに、500を超える大応援団になっていた。魔王リド、意外と人気があるようだ。


「あそこ……」

 メルちゃんが指差す方向にウィズが居た。
 ボク達と反対側の最前列で腕を組んで立っている。異様な殺気を漂わせているためか、周囲が過疎空間になっている。

 昨晩、皆で話し合ったこと。それは、ウィズを常に監視し、目の前の試合に掛かりきりになって油断することがないよう気をつけるということ。
 ウィズの狙いが魔王になることだとして、どの程度このトーナメントに本気で臨んでいるのかが正直分からない。
 異世界での遭遇で感じたとおり、奴が求めるものが世界の支配というよりも己の強さだとしたら、魔界で魔王になるかどうかにかかわらず、ボク達を殺して地上の魔王の力を狙うことは十分に考えられる。だから近づくべきじゃない。常に油断せず、警戒すべきなんだ。

 ボク達はウィズを見据えながら、西の魔王リドの近くで観戦することにした。



 8時になった。

 闘技場に、銀髪をツーサイドアップで束ねた猫の魔人が上がってきた。赤いリボンが映える。魔人じゃなければ凄く可愛いかもしれない。
 観客席から盛大な歓声が上がる。

『皆さん、お待たせにょ! これより魔界統一戦争の本戦を行うにょ! 進行及び審判は、わたくしミィが担当だにょ!』

 野太い歓声がひと際大きく上がる。
 この猫魔人、魔界のアイドルなのかもしれない。
 でも、語尾が何か変だ。



『Aブロック第一試合、対戦者は……誰もが恐れる最強の魔王北王ノクト様と、昨日の予選を見事突破した北の伏兵タタン! いざ尋常に……始め!』

 赤の集団から上がる雄叫びの中、開始早々にタタンが降参を申し出た。
 白と青の集団からは非難のブーイングが沸き起こる。

 これは誰もが予想していたこと。北同士で争う訳もなく、まして魔王に逆らえる訳もない。勝負以前の話だ。

 しかし……誰もが予想しえなかったことが起きた。
 審判が勝敗を宣言する前に、タタンの体が吹き飛ばされ、観客席の壁に打ち付けられた。
 観客席は高さ30mほどの結界壁で守られている。
 白い集団が陣取る側の壁の上部に叩きつけられたタタンは、悲鳴を上げることもなく地に伏して痙攣していた。

『勝者、ノクト様!!』

 周りが唖然とする中、審判ミィの勝利宣告が行われた。
 直ちに応急治療がなされ、タタンが運ばれていく。瀕死ではあるが死んでいないようだ。

「タタンが死んでノクトが失格になれば良かったのに」
「降参した後なのに、自国の戦士にあんなことをするなんて……」
『カーリーへの牽制だろうな。あれが奴等のやり方だ』

 不謹慎なレンちゃんの呟きや、嫌悪感たっぷりなボクの呟きに、魔王リドが腕を組みながら冷ややかに答える。

 ■Aブロック第1試合
 ○ノクト VS タタン×



『サクサクいくにょ! Aブロック第2試合は1回戦屈指の好カード! 竜魔族バハムートに、西の副王リズが挑むにゃ!』

 リズさんの出番だ。
 身軽に闘技場に飛び乗った後、上半身を解している。胸が誇張されて素晴らしい曲線美を描き出す。審判のミィ登場よりも大きな声援に会場が包まれる。

 その直後、会場が影に覆われると、声援がぴたりと止んだ。
 空から舞い降りる巨躯……胴体だけでも50m、頭から尻尾まで見れば100mを超えるだろう竜が闘技場に降り立った。

「デカすぎ! どうやって戦うの!?」

 エクルちゃんが頬に手を当てて叫ぶ。驚いているのはエクルちゃんだけではなかった。会場は静まり返り、逃げ出す者さえいた。

『さぁ、尋常に……始め!』

 開始早々、青い炎を身に纏いながらリズさんが飛び上がる。バハムートの爪を掻い潜り、牙をかわし、その側頭部に強烈な蹴りを入れる。
 一瞬だけぐらっと傾いたバハムートだが、咆哮をあげてリズさんに襲い掛かる。しかし、左右の爪で薙ぎ払うような攻撃は空中を翔けるリズさんに全て余裕でかわされている。
 ここからだとはっきり聞こえないけど、リズさんがバハムートを挑発しているようだ。
 バハムートは、リズさんを叩き落そうと巨大な尻尾を振り回す! それを片手で受け止め、逆に尻尾を両手で掴んで振り回し、地面に叩き付けた!

 勝負がついたかと思ったら、ここからが長かった。
 眼を燃えるような赤に染めたバハムートは、問答無用で灼熱のブレスを吐き出し、尻尾や腕を振り回して暴れ始めた。
 観客席を守るように張られている結界は、ブレスや尻尾の直撃が当たる度に壮絶な衝撃音を奏でながらも、何とか耐えている。

 リズさんはと言うと……笑いながら戦っていた。
 攻撃を受け止め、いなし、かわしながらもバハムートの巨体のあらゆる場所を殴り続けている。バハムートは、鱗が飛び、角が欠け、牙が抜けようが構わずに暴れ続ける。バハムートが誇る膨大なHPと、リズさんの体力……どちらが先に尽きるか。

 1時間弱にわたる壮絶なサンドバッグの結果、両眼を潰されたバハムートが降参の意思を告げ、勝負がついた。

 大きな歓声が上がる。
 リズさんは、肩で息をしながらも、歓声に応えて手を振っている。やはり、強い。

『ノクトに備えて魔法も武器も使うなとは言ったが、さすがに遊び過ぎだ』

 戻ってきたリズさんの頭に、リドが拳骨を落とす。リズさんは『えへへ~』と終始笑っていた……。

 ■Aブロック第2試合
 ○リズ VS バハムート×



『次はBブロック第1試合だにょ! 南の魔導師ゾフィと、北の魔剣士ギルヴェスト! いざ尋常に、始め!!』

 初の南北対決に、お互いの陣営は大いに盛り上がった。
 しかし、勝負は実にあっけなく終わってしまった。
 裂帛の気合で突進したギルヴェストの突きは、ゾフィに届くことはなかった。ゾフィの左右に現れた巨大な腕がギルヴェストを掴み、空中に放り投げた。天から伸びる雷と、地から伸びる岩の槍……体を上下から貫かれ、地に堕ちた。

「こわっ! あれでよく死ななかったね」

 レンちゃんの発言はごもっともだ。お腹から背中にかけて巨大な空洞が出来ているが、心臓と頭部が無事だったためか、ギルヴェストは自力で降参の意思を伝え、闘技場を降りていった。

 ■Bブロック第1試合
 ○ゾフィ VS ギルヴェスト×



『次はBブロック第2試合! 南王の右腕デ・ラーズ対、無名の鬼人ウィズ! これも楽しみな一戦だにょ! いざ尋常に……始め!!』

 先ほどのゾフィの圧勝に続けと南の陣営が盛り上がる中、勝負は一瞬で終わってしまった。

『始め』の合図と共に飛び出したウィズは、デ・ラーズが魔法を唱える前に間合いを詰め、数発の連打を浴びせた。血を吐いて地に伏せるデ・ラーズ……審判ミィも、何が起こったのか分からないまま、ウィズの勝利を告げた。

『勝者、ウィズ!』

「リンネちゃん……腹部に3発、屈んだ瞬間に後頭部への1発。強いです……」
「うん、やっぱり侮れないね」

 メルちゃんには見えていたようだ。
 ウィズは静まり返る会場の中、不敵な笑みを浮かべてボク達の方を見ていた。

 ■Bブロック第2試合
 ○ウィズ VS デ・ラーズ×



『秒決着の連続! 仕事が早く終わりそうで嬉しいにょ! それでは、Cブロック第1試合! いよいよ北王四天王筆頭戦士ハウールの登場だにょ! 対するは……西の、鬼人族メル。またまたすぐに終わりそうな試合……いざ、尋常に、始め!』

 声援と揶揄で会場が満ちる。
 北の陣営からは、殺せコールまで聞こえてくる。でも、怒りの感情は沸かない。だって、メルちゃんを信じているから!

 禍々しい2本の剣を背負ったハウールが威圧を強めながらメルちゃんに歩み寄る。
 メルちゃんは、メイスを片手で8の字に回しながら牽制している。

 ハウールが左右の剣で挟むように斬りかかるが、メルちゃんはそれを下がらずに前方へ高く飛んでかわした。
 直後、ハウールは顔面から床に倒れる。
 会場が静まり返り、我に返った審判ミィがハウールの状態を確認する。

『勝者……メル! ハウールは、自ら転んで自滅してしまいました! 大波乱です!』

 速い……後頭部にメイス一閃。
 さすがメルちゃんだ!

 静まり返った闘技場からスタスタとボク達の所へ戻ってきたメルちゃんが、レンちゃんとハイタッチをする。ボクはメルちゃんに抱きつく。パワーを貰っておかないとね。エクルちゃんは口を開けて唖然としている。リドもリズも呆然と見つめている。
 でも、メルちゃんは鬼化すら使っていないんだよ。やはり魔力が全てではないってことだね! 勇気が沸いたよ!

 ■Cブロック第1試合
 ○メル VS ハウール×



『えっと、波乱がありましたが……気を取り直して次のCブロック第2試合にょ! 無所属の女傑セムソチと、北のムムゥの対戦だにょ!』

 蜥蜴族の魔人セムソチが尻尾を床に叩きつけながら三叉の矛を天にかざす。対する黒い全身鎧を身に纏うムムゥは、漆黒の剣をかざして応じる。

『いざ、尋常に、始め!』

 セムソチの放つ高速の矛がムムゥの鎧を幾度となく突き通し、次第に体力を奪っていく。ムムゥの剣戟は、セムソチの体を取り巻く闇の衣にことごとく弾き返される。これは、魔法防御というより、物理防御か?

 次のメルちゃんの対戦相手、物理防御特化のようだ。メルちゃんも真剣な眼差しで見ている。

 魔法を使うことなく、10分足らずで勝敗は決まった。セムソチの圧勝だ。これはかなりの強敵かもしれない……。

 ■Cブロック第2試合
 ○セムソチ VS ムムゥ×



『えぇ、続きましてDブロック第1試合だにょ。南のエト・ニドン対、西のガラハド将軍! いざ、尋常に……始め!』

 西で唯一予選を勝ち抜いたガラハドさんが、3mの巨体を丸めて律儀にお辞儀をしている。そこをエト・ニドンが放つ氷塊の魔法が襲う!
 いきなりの不意打ちで飛ばされるガラハドさん……西の集団からは猛烈なブーイングが、南の集団からは笑いが沸き起こる。

 でも、ボク達の隣にいる魔王リドとリズさんは……笑っている。まぁ、ガラハドさんの勝利を確信しているんだろうね。

 その後は一方的だった。
 エト・ニドンから放たれる幾多の魔法は、ガラハドさんが剣を振るうだけで一瞬にして消え去る。これは単なる風圧ではない、魔法を無力化するスキルのようだ。
 徐々に近づく巨漢の圧力に屈したのか、魔力が切れたのか……エト・ニドンはあっけなく降参し、会場全体からブーイングを受けながら退場していった。

 ■Dブロック第1試合
 ○ガラハド VS エト・ニドン×



『Dブロック第2試合、注目の新魔王、西の新王リドの登場だにょ! 魔王に挑むは、北の新鋭ゲス!』

 歓声が沸き起こるかと思いきや、会場は静まり返っている。魔王リドの実力をこの眼で見ようと、緊張感が漂っている。

『さぁ、始め!!』

 あ……ゲスが降参した。
 戦いもせずに!
 これには全員がブーイングかと思ったけど、会場は静まり返ったままだった。

『無難ね』

 リズさんが微笑みながら呟く。勝てない戦いはしないということだろうか……。

 ■Dブロック第2試合
 ○リド VS ゲス×



『魔王相手はさすがに無理か! 次のEブロック第1試合も同じ結末に終わるのかにょ! 南の魔王カーリーに対するは、西の最弱戦士エクル!』

 魔王カーリーが観客席から宙を舞い、闘技場に降り立つ。
 エクルちゃんは、まだボクの隣にいる。

「試合を忘れている訳じゃないよね」
「最弱って言われて拗ねてる訳でもないよね」

 エクルちゃんは、ボク達に背中を押されて、やっと闘技場の床に上がろうとして……足を引っ掛けて豪快に転ぶ……。会場が笑いに包まれる。半べそで闘技場を降りようとするエクルちゃんをボク達が何とか押し留める。ちょっと可哀想だけど……。

「エクルちゃん、頑張れ!!」

 ボクは声を振り絞って精一杯叫んだ。

『えっと、降参するなら早めにどうぞ? それでは、尋常に……始め!』

 南王カーリーは蔑むような眼差しを向けながらエクルちゃんに歩み寄る。
 でも、エクルちゃんの目は怯えていない!
 両手の剣を抜き、躊躇うことなく突っ込む!
 剣を薙ぐ瞬間、身体を金色の炎が包み込む。闘気術だ! 上下左右からの連続斬り、手や足を狙った広範囲の攻撃に、カーリーは魔法を詠唱する余裕もなく防戦一方になった。
 魔王は漆黒の杖を槍のように使って巧妙にエクルちゃんの攻撃を防ぐが、闘気を纏った剣は、カーリーの法衣を闇の衣ごと切り裂く。

 会場は意外な展開に静まり返っている。

 血を滴らせて必死に防御するカーリーが、空中に逃げようとした瞬間、エクルちゃんの必殺技が炸裂した。

「真空刃・烈!!」

 2つの緑に輝く閃光が1mほどの三日月となってカーリーを襲う!
 カーリーは杖をかざし、漆黒の魔法防御壁を展開……緑の閃光との間に激しい火花を散らしながら、その勢力をせめぎ合う。

 数秒の拮抗の後、緑の閃光は防御壁を砕き、カーリーの杖を3つに切り裂いた!

 さらに、既に空高く飛び上がったエクルちゃんは、カーリーの頭上から斬り下ろす!
 杖を失ったカーリーは、両腕を犠牲にして致命傷を避ける。

 地上に叩きつけられたカーリーは鬼の形相でエクルちゃんを睨む。失われた両腕の切り口は、黒い霧を吐きながら禍々しい腕を再生していく。

 一連の攻防が落ち着くと、会場からどよめきが上がった。

 でも、エクルちゃんの身体を包んでいた黄金の炎が弱まっている。魔力を使い果たしたのか。

 エクルちゃんは、再び力を振り絞って炎を纏い突進する。
 メテオ級の魔法が襲いくる中を持ち前の敏捷性で縫うように駆ける。
 徐々に差を詰めていき、気合と共に技を繰り出す!

「剛緑刃・斬!!」

 緑色に輝く刃は、カーリーが咄嗟に造り出した土壁を一瞬にして砕き、漆黒の闇の衣ごと体を斜めに切り裂く!
 体に2筋の裂傷を刻み、大きく後退するカーリー。

 再び切迫し、上下左右に緑色の残像を残して斬撃が迸る。

「押し切れ!!」

 ボクは無意識に叫ぶ!

 エクルちゃんも、最後のチャンスとばかり、力を振り絞って攻める!

 逃げるカーリーを追い、再び射程に捕らえたとき、エクルちゃんの身体が床に沈んだ。カーリーの血糊に足をとられてバランスを崩したようだ。

 その隙を見逃さず、放たれた氷の槍がエクルちゃんの肩を貫く。悲鳴と共に審判の足元まで大きく吹き飛ばされる。

 さらに巨大なメテオが頭上から襲い掛かる!

 ボクは咄嗟に反応した。
 ウォーターストームでメテオを粉砕し、エクルちゃんの前に立つ。

「もう勝負はついている!」

 カーリーを睨みながら叫ぶ。
 こいつにとっては、大陸を統べる大魔王よりもプライドが大切なんだ。明らかにエクルちゃんを殺そうとしてきた。許せない!

『邪魔をするな! お前も含めて西は全員失格だぞ!』

 カーリーの一言で、危うく冷静さを失うところだった。審判のフォローがなければ、この場でカーリーを殺してしまったかもしれない……。

『えっと、エクルは先ほどのカーリー様の攻撃で降参していますにょ。ですので、勝者はカーリー様!』

 しばしの沈黙の後、南の陣営からは大歓声が上がった。
 ボクはエクルちゃんを肩に抱き、闘技場を降りた。既に回復魔法で傷は癒したけど、エクルちゃんは魔力を使い果たして気を失っていたから……。

 カーリーの、牙を剥き出しにした獰猛な顔がボクの脳裏に何かを刻んでいた。怒りか、恐怖か、それとも悔しさか。ボクの両脚はガクガク震え続けている。

 やっとのことで皆が待つ西の陣地まで戻ったとき、西の魔族達から猛烈な非難を浴びた。でも、そんな罵声もボクの心には大して届かない。
 リズさんが魔族を一喝して黙らせたのが聞こえた。リドは黙って腕を組んでいる。メルちゃんとレンちゃんもボクと同じだ。両目からは涙が溢れていた。

 ■Eブロック第1試合
 ○カーリー VS エクル×



『次の試合に進みますにょ……北のアビス対サーゲイロード。Eブロックの第2試合ですにょ、それでは……始め!』

 大剣を背負った北王四天王のナンバー2に対し、開始早々に降参を告げるサーゲイロード。北同士の相打ちは行われなかった……。

 ■Eブロック第2試合
 ○アビス VS サーゲイロード×



『ちょっと白けましたが……次は、Fブロック第1試合、西の剣士レンと、南の死霊使いグーヤーズの一戦ですにょ!』

 軽やかに闘技場に駆け上がるレンちゃんの目は、涙が乾ききって赤くなっていた。相手はカーリーと同じ、南の奴だ。こいつは……リッチか。

『では、尋常に……始め!』

 合図と共にグーヤーズの周辺から10体のレイスが湧き出てきた。
 レンちゃんは素早い動きで一刀両断していく。双剣が赤く輝いている。
 空中を漂いながらレイスやスケルトンウォリアーを次々に召還していくグーヤーズ、それを瞬時に消滅させていくレンちゃん……実力の差は歴然だった。

 召還の一瞬の隙を突いてグーヤーズの足元に迫ると、レンちゃんは大きく跳ねて、背後からその両腕を切断した。
 激痛に悲鳴を上げて床を転げ回るグーヤーズの喉元にレンちゃんが剣先を食い込ませると、怯えた顔で降参を宣言した。わずか3分での決着だった。

 どよめきの中、カーリーを睨みながらレンちゃんが戻ってきた。
 上下の歯がガチガチ鳴るほどに、口元が震えていた。
 ボクとメルちゃんが優しく抱きしめてあげると、ようやく落ち着いたのか、エクルちゃんの隣にぺたりと座り込んだ。

 ■Fブロック第1試合
 ○レン VS グーヤーズ×



『次にょ! Fブロック第2試合、古の魔王の血を継承するメノム3世と、北のフンババの一戦だにょ! では、始め!』

 試合はいつの間にか始まっていた。
 黒いローブを身に纏ったメノム3世と、ゴリラのような魔人の戦いだ。

 両手に斧を持ち複雑な動きで迫るフンババを、嘲笑うかのように回避していくメノム。
 不気味なことに、ローブの下部からは足が見えない。宙に浮いている……。

 そして、フンババが放った渾身の斬撃も、ローブを掠めることはなかった。まるで影を切り裂いたかのように、手応えがなかった。

 ん?
 フンババが動かない。

 数度の接触の後、1mほどの距離をおき両手を高く掲げたまま、フンババが立ち尽くしている。
 そして……激しい咆哮が悲鳴に変わり、苦痛の表情の後に全身を痙攣させて倒れた。

『それまで! フンババさん……えっ、うそ! ダメ、死んでいます! 規約により、メノム3世は失格となります!』
 動揺したのか、ミィの語尾が普通だった。

 失格宣告を受けたメノムは、抗議をすることなく無言でその姿をかき消した。
 まさに、死神……こいつの目的は何だ!?

 ■Fブロック第2試合
 ×メノム3世(失格) VS フンババ(死亡)×



『続きまして……Gブロック第1試合に移るにょ。気分が悪いので殺し合いは止めてくださいね? 南のカーシム対テラ。南同士の対決ですにょ!』

 闘技場に現れたのは、白いローブと仮面を付けた長身のカーシムと、草色の軽装と金髪の魔法戦士テラだった。

『では、始めてくださいにょ!』

 南の陣営同士、戦わずに終わるかと思いきや、最初から激しい戦闘が繰り広げられた。

 カーシムの放つ炎や雷の魔法と、テラの放つ水や風の魔法が闘技場を激しく飛び交い、ぶつかり合う。ただし、魔力の差か、魔法戦闘はカーシムに分があるようだ。隙を見て接近戦に持ち込もうとするテラに対し、魔法の防御壁で攻撃をうまくいなしながら魔法を浴びせ続けるカーシム。

 20分ほどの戦闘の末に、体力の尽きたテラが降参して勝負がついた。
 色とりどりの派手な魔法戦が会場を大いに沸かせた。そして、カーシムとテラはお互いの健闘を称え合うように抱き合った。この人たち、結婚しそう……。

 ■Gブロック第1試合
 ○カーシム VS テラ×



『次のGブロック第2試合は、南北対決にょ! 北王四天王の一角ラムザ将軍に、南の若き魔術師ラクシュが挑む! さぁ、始め!』

 既に闘技場に上がっていた2人は、開始の合図と共に急接近し、激しく斬り合う。
 えっ?
 魔術師が剣士と斬り合い?
 確かにデータでは魔力が低かったけど……。

 次第にラムザが押されていく。

 そして、10分も経たずに決着がついた。

 剣を折られ、太腿を貫かれたラムザが試合を諦めたのだ。
 魔法を使わずに北王四天王の剣士を圧倒する魔術師……警戒しなくては。

 ■Gブロック第2試合
 ○ラクシュ VS ラムザ×



『いよいよ最後のブロックですにょ! Hブロック第1試合はまたまた南北対決! 南のノロイと北のデルの対戦!!』

 デルが出る! 6刀流のクラーケンだ!
 ノロイは南の3番手か……。
 ボクの2回戦の相手になるからしっかり見ておこう。

『では、始め!』

 デルの動きが遅く感じる。それでも、6本の刀で突きを狙い相手に突進していく。
 案の定、ノロイが魔法を先に放つ。雷撃だ。頭上から落ちる直径1mの雷撃を受けて、なすすべなく地に伏すデル……レベルが低すぎて何も言えない。

『えっと、デルは気絶! 何とか生きていますにょ……勝者は、雷の大魔術を放ったノロイ!!』

 あれが大魔術……。

 ■Hブロック第1試合
 ○ノロイ VS デル×



『さてさて、本日最終試合ですにょ! Hブロック第2試合、西の人族リンネと、北王四天王最後の1人アズィール!』

 相変わらずの殺せコール。緊張する。
 でも、メルちゃんが笑顔で送り出してくれた!
 こういうときは自然体でいこう!

 相手は2mの魔人。
 不気味に反り返った刀身から濃紺の炎が湧き出ている。あれはやばい。

『それでは~いざ尋常に……始め!!』

 距離は10m。
 相手が猛然と突っ込んでくる。
 ボクも負けじと突っ込んでいく。

 一瞬の接触。
 斜めに斬り下ろしてくる刀を、その刀身の根元から弾くと共に、棒術で巻き取るようにいなす。筋力では負けているはずだけど、相手が油断していたのか……大きく体勢を崩してくれた。

 いける!

 そして、一瞬の決着。
 そのまま高速移動で相手の懐に潜り込み、鳩尾に渾身の突きを3発ねじ込む! くの字に折れ曲がった相手の、隙だらけの後頭部を容赦なく棒で叩き落す!

 北王四天王……まだ起き上がってくる!?

『うひゃぁ、白目剥いてるわ……アズィール気絶、勝者はリンネ!』

 会場が大きくどよめく。
 魔法を使わずに勝てた。

 故意にウィズと同じ勝ち方をしたためか、闘技場を降りる際にウィズが楽しそうに笑っているのが見えた。ふん、お前とは戦わないんだから。ノクトかリズさん、またはメルちゃんに負けて泣けばいいし!

 エクルちゃんは会場のどよめきで目を覚ましたようだ。皆でボクを迎えてくれた。

 ■Hブロック第2試合
 ○リンネ VS アズィール×



 ★☆★



「皆さんお疲れ! 明日の2回戦だけど、相手は分かるかな? メルちゃんはセムソチという蜥蜴の魔人だね。かなり強力な闇の衣を纏っているよ。エクルちゃんは……ウィズを見張ってね。レンちゃんの相手メノム3世は失格だったから不戦勝になるらしいよ。羨ましい!」

 メルちゃんは目を輝かせて早く戦いたいような感じだ。エクルちゃんとレンちゃんは微妙にやる気が感じられない……既に燃え尽きたか。
 まぁ、明日は試合がないから気楽に、でも、しっかりとウィズを監視してもらおう。


 朝8時に開幕した本戦1回戦は、昼休みを挟むことなく夕方には終了した。

 ちょっと早いけど、魔王リドの食堂で夕食をしっかり食べてから早めに休むことになった。ここなら夜襲もきっと大丈夫だよね。

 明日は朝9時から試合開始らしい。さて、今日こそ寝不足を解消しよう。
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