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第7幕:蒼き石の鎮魂曲(レクイエム)
第3-4節:シャロンとポプラの絆
しおりを挟むだから私はポプラを落ち着かせるように、優しく話しかける。
「いいよ、ポプラ。私を殺しても。それは私の意思。だからもしその瞬間が来たとしても、あなたは何の罪も感じる必要はないんだよ」
「な、何を言っているのですかッ!? 精神が錯乱でもしたのですかっ?」
声を裏返らせて驚愕するポプラ。
その激しく動揺した姿がなんだか可笑しくて、こんな状況なのに私は思わずクスッと微笑んでしまう。
「違うよ。ポプラが助かるのなら、私の命を差し出してもいいって言ってるの」
「なっ……!」
「――リカルド、それにみんなッ! 絶対にポプラに手出しをしないで。悔しいけど暗殺者のヤツらにもね。もしみんなが変な動きをしたら、私は自ら刃をこの身に受けます」
私は周りにいる全員に向けて、毅然とした態度で言い切った。
その堂々たる態度と気高き意思に、彼らは息を呑んだまま呆然としている。ただ、わずかな間のあとにリーザさんが珍しく取り乱して叫ぶ。
「何を言ってるの、シャロン様っ! 匙を投げちゃダメですっ!」
「リーザさん、どうかお願いします。お願いです」
「シャロン様……」
私が真っ直ぐにリーザさんを見つめて懇願すると、彼女は眉を曇らせつつもそれっきり何も言わなくなった。
決して自暴自棄になったわけではなく、そこに私のしっかりとした意思と覚悟があることを感じ取って、気持ちを汲んでくれたのかもしれない。
ただ、彼女のことだから万が一の時はすぐに動けるように、心の中では準備と様々な想いを巡らせているだろう。そういう点は凄く頼もしい。
それとは対照的に、暗殺者たちは私の言葉を単純に受け取り、気分を高揚させながら大笑いをする。
「ふははははっ! 愚かな娘だ! まぁ、俺たちにとっては好都合なことだが!」
愚かなのはあなたたちだよと心の中で吐き捨てつつ、そんな暗殺者たちを無視して私はポプラに温かく話しかける。
「ポプラ、私はずっとあなたに助けられてきた。でも今まで何もしてあげられなかったから、今度こそその恩返しをしたいんだ」
「バカなのですっ! 何を言っているのか意味が分からないのですっ! 裏切り者の私なんかのためにっ、命を投げだそうとするなんて!」
「あれ? 裏切り者じゃなくて、元に戻っただけじゃなかったっけ? さっきゼファルさんにそう言ってたよね?」
「あっ! えっと……それは……こ、細かいことなんか、どうでもいいのですっ!」
クスクスと笑う私に突っ込まれ、ポプラは狼狽えながら夢中になって叫んだ。脅す側と脅される側という状況がすっかり頭から抜け落ちているかのようだ。
ただ、なんだか今だけは普段通りの会話を取り戻したかのような感じがして私は安心する。一方ですぐに気を取り直し、彼女に向かって真面目に問いかける。
「私には分かってるよ、ポプラ。ゴーレムに襲われた時、本当の命令はあの混乱に乗じて私の命を奪うことだったんでしょ? でも水路を破壊することで、その命令をした誰かに許してもらおうとした。自分が処罰される覚悟で」
「……っ……」
「アンデッド事件の時だって、あそこまで苛烈なワナだとは知らされていなかった。きっとアンデッドを召喚する魔方陣を設置して、呼び出す数もその強さも並程度だと聞かされていた。だからあんなに驚いていたんだよね?」
「ち、違うのですっ! 私は全て知っていたのですっ!」
何かを振り払うかのように、ポプラは激しく首を何度も左右に振った。
その動揺したような反応がすでに嘘だと自白しているようなものなのに、彼女は本当に素直な子だと思う。そして私がそのことに気付かないわけがないということも忘れてしまっている。それだけ心に余裕がないのだろう。
私はさらに問いかけを続ける。
「だったらどうして私を庇ったの? あの怪我は自分が命を落としても仕方のないほどのものだったよ。演技をするだけなら、もっと軽い怪我で済むようにするはずなのに」
「そ、それは単なる手違いなのですっ! 私がドジなだけなのですっ!」
「ホントにドジだね。それが嘘なのが私にはバレバレだもん」
「う……ぐ……」
「でもそれでいいんだよ、ポプラ。そういう素直な姿が本当のあなたなんだから」
そう声をかけた直後、もはやポプラは鼻を啜りつつ小さな嗚咽を漏らし始めていた。顔は見えないけど、その瞳には涙が浮かんでいるに違いない。
(つづく……)
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