20 / 178
第1幕:前向き少女の行進曲(マーチ)
第4-5節:健気で尊い女性
しおりを挟む正直、私はお義姉様の反応が意外だと感じた。むしろ無理のない範囲で、今後も定期的に雨を降らせてほしいとお願いされるのかと思っていたから。私もそれを受け入れる気でいたし。
数週間から数か月に一度、今回の規模の雨を降らせるなら大した負担にはならない。それで作物が無事に育つなら万々歳。今より少しは安定的に食糧を確保することが出来るようになって、領民のみんなだって喜ぶに違いない。
でもまさかそれとは逆に、精霊の使役を禁止されるなんて。だから私は戸惑いを隠せないでいる。
「気持ちは嬉しいけど、シャロンの体が取り返しの付かない状態になってからでは遅いから。今は休めば魔法力も体力も回復するかもしれない。でもいずれシワ寄せが来て、結果的に寿命を削ることになる。そんな想いをするのは私だけで充分だよ……」
「っ!? ひょっとして、お義姉様の体が弱ってしまったのはっ!」
「……えぇ、私はかつて天候系の精霊を使役し続けた。フィルザードや領民のみんなをどうしても助けたくて。その成れの果てがこの状態。百聞は一見にしかずと言うし、説得力あるでしょ?」
息を呑んで見つめる私に対し、お義姉様は皮肉っぽく薄笑いを浮かべる。事実を知った今、その存在はより儚げに感じられてしまう。
私は胸が張り裂けそうな想いになって、自然と目が潤んでくる。お義姉様自身はとっくの昔に運命を受け入れて、今ではそんなに深刻に感じてはいないかもしれないけど。
これなら私に精霊の力を使うなと言ったのも頷ける。その末路の辛さも苦しみも、何もかも身をもって理解しているわけだから。
「……リカルド様はこのことをご存知なんですか?」
「ううん、私の力について知っているのは亡くなってしまった両親、そしてこうして話をしたシャロンだけだよ。だからリカルドは単に私の体が病気か何かで弱っているとしか思ってないんじゃないかな」
「そんな……」
「シャロンにはリカルドを末永く支えてほしい。いずれは可愛い子どもを授かって、例え食べていくのに貧しかったとしても、心だけは豊かに暮らしていって。自分の命を削ってまで精霊を使役する必要なんてない。それにみんななんだかんだで強いから、なんとかなるよ」
出会って以来、最高に晴れやかな笑みを浮かべるお義姉様。今の言葉は近い将来に迫る運命を悟っての遺言のようにも聞こえるし、それでいてまるで私を元気づけてくれているかのようにも感じる。
…………。
なんて健気で尊い女性なんだろう……。
慈愛に満ちた心と優しさ。みんなのために自分の命を捧げ、その事実を誰にも言わなかったなんて。精霊使いという特殊な事情を考えれば、言えなかったという面ももちろんあるだろうけど。
だからこそ、今までひとりで全てを抱え込んできたお義姉様を見ていられない。涙が溢れて止まらなくなってしまうから。彼女が笑顔であればあるほど、私の心はツラくなる。
私は少し精神を落ち着けてから、なんとか笑みを作って静かにお義姉様に返事をする。
「ありがとうございますっ。頭の隅には置いておきますっ」
「最終的にはシャロンの判断に任せるけど、絶対に無理はしないでね」
「はいっ。でもちょっとした精霊さんの力を借りることはお許しください。それなら問題ないわけですしね」
「うんっ、それじゃこの話はおしまい。で、次はお願いがあるんだけどぉ……」
不意にお義姉様はなぜか照れくさそうな顔をして、チラチラと上目遣いで私を見ている。その仕草が何かをねだる幼い子どものようで、なんだか可愛らしい。
「お願いって何ですか?」
「私と一緒に楽器の演奏をしてくれるかな? シャロンのオカリナを聴いていたら、音楽の虫が疼いちゃって。アンサンブルが出来たらお互いにもっと楽しいと思うんだ」
「っ! はいっ、私も同感ですっ! ぜひ一緒に演奏させてください!」
素晴らしい申し出に、私は一も二もなく頷いた。
お義姉様の見事な演奏に付いていけるか不安は残るけど、そんなことはどうでもいい。アンサンブルが出来るだけで光栄だし、楽しいに違いないから。だからこそ、私はお義姉様と完全に意気投合してはしゃいでしまう。
(つづく……)
13
あなたにおすすめの小説
ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。
ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。
そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。
「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。
冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。
皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。
小説家になろう、カクヨムでも連載中です。
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
つかれやすい殿下のために掃除婦として就くことになりました
樹里
恋愛
社交界デビューの日。
訳も分からずいきなり第一王子、エルベルト・フォンテーヌ殿下に挨拶を拒絶された子爵令嬢のロザンヌ・ダングルベール。
後日、謝罪をしたいとのことで王宮へと出向いたが、そこで知らされた殿下の秘密。
それによって、し・か・た・な・く彼の掃除婦として就いたことから始まるラブファンタジー。
公爵令嬢になった私は、魔法学園の学園長である義兄に溺愛されているようです。
木山楽斗
恋愛
弱小貴族で、平民同然の暮らしをしていたルリアは、両親の死によって、遠縁の公爵家であるフォリシス家に引き取られることになった。位の高い貴族に引き取られることになり、怯えるルリアだったが、フォリシス家の人々はとても良くしてくれ、そんな家族をルリアは深く愛し、尊敬するようになっていた。その中でも、義兄であるリクルド・フォリシスには、特別である。気高く強い彼に、ルリアは強い憧れを抱いていくようになっていたのだ。
時は流れ、ルリアは十六歳になっていた。彼女の暮らす国では、その年で魔法学校に通うようになっている。そこで、ルリアは、兄の学園に通いたいと願っていた。しかし、リクルドはそれを認めてくれないのだ。なんとか理由を聞き、納得したルリアだったが、そこで義妹のレティが口を挟んできた。
「お兄様は、お姉様を共学の学園に通わせたくないだけです!」
「ほう?」
これは、ルリアと義理の家族の物語。
※基本的に主人公の視点で進みますが、時々視点が変わります。視点が変わる話には、()で誰視点かを記しています。
※同じ話を別視点でしている場合があります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる