嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第1幕:前向き少女の行進曲(マーチ)

第5-1節:ふたりの想いは急接近!?

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 南にある見張り塔――。

 お屋敷には有事に備えた見張り塔が、北と南のそれぞれにひとつずつ存在している。高さは4階分くらい。下の3階までの部分はお屋敷の建物と一体化していて、その上が塔として独立している形だ。

 私はその南塔の螺旋らせん階段を静かに上っていく。

 すると塔の一番上は見張りの兵が常駐できるような小部屋になっていて、外から光を取り入れられる窓も付いている。その片隅で誰かが膝を抱えて座り込んでいる。


 ――良かった、見つけられた。私はホッと息をつき、優しく名前を呼ぶ。

「リカルド様……」

「シャロン!? よくここが分か――そうか、姉上の入れ知恵か」

 顔を上げたリカルド様は少し驚いていたけれど、すぐに全てを理解して納得したような顔をしていた。もはやここから逃げる気はないらしい。

 果たしてどんな心境でいるのだろう。どう話しかければいいのか分からない。でも何か声をかけなければ……。

「あ、あの……私は……」

「……すまない。今はひとりにしてくれないか? キミにはあとで正式に謝罪を入れることを約束する。だから……だから今は……」

「それは……構いませんが……」

「自分が悪いのはよく分かっている。我を失っていたとはいえ、キミにはとんでもない失礼をした。だからこそ頭を冷したいんだ。この期に及んで、わがままを言ってすまん……」

「本当に大丈夫ですか? まさか思い悩んで、ここから飛び降りるなんてことはしないですよね? 目を離したばっかりに死に別れることになったら、後悔してもしきれませんから。嫁入りして早々に未亡人になるのは嫌ですよ」

 落ち込んだ時、人によっては自暴自棄になって思いも寄らない行動を起こすことがある。ちょっとしたきっかけで、自分の身や命を粗末に扱うことだって充分にあり得る。だから今のリカルド様が心配でならない。

 私が不安げな顔をしていると、彼は不意に皮肉っぽく笑う。

「――プッ、あはははは。その方が故郷に帰れて、キミには都合が良いのではないか?」

「もう私の家も故郷もここです。それに旦那様を失って、都合が良いはずがないじゃないですか。悲しいことを言わないでください」


 私の嘘偽りのない気持ち――。


 息遣いがハッキリと分かるような距離まで近寄り、真顔でリカルド様を真っ直ぐに見つめる。彼の瞳には私の凛とした顔が映り、私の瞳には呆然とする彼の姿がきっと映っている。

 こうして間近で見てみると、リカルド様は本当に綺麗きれいな顔立ちをしていて格好良いなってあらためて思う。まだわずかに残る幼い少年の面影は、可愛らしくて胸がキュンとする。

 やがて彼は頬を赤く染めながら視線を逸らし、ポツリと呟く。

「安心してくれ、僕は早まったことはしない。男に二言はない。神に誓ってもいい。だからしばらくひとりにしてほしい」

「分かりました。リカルド様がそこまでおっしゃるなら信じます」

「ありがとう……」

 彼の屈託のない微笑みを見届けると、私は南塔を離れた。その後はお義姉様のところへ戻り、状況を説明してからポプラとともに自分の部屋に戻ったのだった。





 その日の夕食時、リカルド様が大食堂に顔を見せることはなかった。スピーナさんの話によると、不意に入った公務を片付けるのに忙しくて、あとでひとりで食べるとのことらしい。

 もしかしたらそれは方便で、本当は私と会うのがまだ気まずいと思っているのかもしれない。それなら私は彼の気持ちが落ち着くまで大人しく待つだけだけど。

 そして夕食を終えたあとは自室に戻り、涼しげな夜風に当たりながら本を読んでいたのだった。ただ、あまり夜更かしをするのは良くないから、キリの良いところまで読み進めたらベッドで横になるつもりでいる。

 ――と、そんな時、不意に誰かがドアをノックしてくる。

 こんな夜遅くに訪ねてくるなんて誰だろう? ポプラが何か忘れ物でもしたのかな?

「はい、どなたですか?」

「……僕だ」

「っ! その声はリカルド様っ!?」

 全く想定していなかった御方の来訪に、私は目を丸くした。


 ま、まさか夜這よばいにいらっしゃったとか!? え、えっ、そんなっ、いきなりっ? 今までそんな気配なんて微塵みじんも漂わせていなかったのにっ、あ、でもっ、なんとなく気分がそうなっちゃったとかっ?

 ももも、もちろんっ、私たちは夫婦なんだから別におかしくないというかっ、で、でもまだ心の準備がっ!


 私の頭の中は大混乱。情報の処理が追いつかないし、熱くてのぼせそう。今まで読んでいた本のストーリーなんか一瞬で頭の中から吹き飛んでしまっている。

 そして慌てふためいて転びそうになりつつも、待たせすぎるのは失礼に当たるので急いで駆け寄ってドアを開ける。


(つづく……)
 
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