23 / 178
第1幕:前向き少女の行進曲(マーチ)
第5-2節:それぞれの誤解は晴れて
しおりを挟む目の前に佇んでいたのは、やはりリカルド様。凛とした表情で実に落ち着いている。男性ってやっぱりこういう時は肝が据わっているものなのだろうか?
一方、私は照れくさすぎて彼の顔を直視できない。ドアノブを握る手は勝手に小さく震える。
「シャロン、こんな夜分にすまない。でも今日のうちに昼間の件を正式に謝罪しておきたくてな。それに誰にも邪魔されず、ふたりで話もしたかったし」
「……え? あ、あぁ、そ、そういうことですかッ! あはははっ! え、えっと、立ち話もなんですから室内へどうぞ!」
「うん、お言葉に甘えて失礼する」
リカルド様は部屋の中に入ると、さっきまで私が座っていた椅子に腰を掛けた。
すかさず私は室内の片隅に置いてある水瓶からコップに水を汲んできて、彼に差し出す。いらっしゃるのが分かっていれば、白湯やお茶の類を用意しておけたんだろうけど。
――それにしても、私はとんでもない勘違いをしていた。思い返してみると自分が恥ずかしくなる。思わず頭を抱えつつ、私は別の椅子を持ってきて彼の隣に座る。
「驚きました。まさかリカルド様が私の部屋にいらっしゃるなんて。一瞬、夜這いにいらっしゃったのかと思って焦りました……」
「よ、夜這いっ!? バババ、バカものッ! 今の僕にそんな気はないっ!」
途端に耳まで真っ赤にして狼狽えるリカルド様。でも私も他人のことは言えないので、ただ苦笑いをする。
「あはは……。そこまで強く否定されると、それはそれで妻としては複雑な気持ちになりますけど……」
「べ、別に僕はシャロンに魅力がないと言っているのではない。そこは勘違いしないでほしい。むしろもっと自信を持って良い。素敵な女性だと思うぞ、キミは」
「っ!? は、はいっ! ありがとうございます……」
もしかして、なんかサラッと褒められたっ!? ちょっと嬉しいかも……。
またしても顔や耳が少し熱くなってきた。今の私はどこかおかしい。変に緊張しちゃってるし。胸のドキドキも止まらなくなっている。
一方、リカルド様は咳払いをしてから真顔になって頭を垂れる。
「まずは昼間の件を謝罪する。本当に申し訳がなかった」
「あ、はい……。もう気にしていませんから頭を上げてください」
「ありがとう。姉上に関してのことゆえに、あの時はつい我を失ってしまってな。姉上は僕にとって唯一の血が繋がった家族であり、親代わりのような存在。万が一のことがあってはならなくて……」
「お義姉様はお体が弱いそうですね。ご本人がおっしゃってました。リカルド様が心配なさるのも分かります」
「僕たち一般的な者にとってはすぐに軽快する病でも、姉上には命に関わる重い症状が出る。以前にそういうことがあって、それ以降は接触する人間を絞ることにしたのだ。ちなみに出入りの許可はスピーナたちにも出しているが、僕の意を汲んでみんな自粛してくれている」
その話から察すると、現時点でお義姉様と常に顔を合わせているのは実質的にルーシーさんだけなのかもしれない。
お義姉様は寂しいだろうけど、みんなの気遣いも知っているはずだから我慢しているんだろうな。もちろん、スピーナさんやジョセフさん、ナイルさんも寂しい気持ちを抱いているのは同じだろうけど。
お互いに相手のことを想う、優しさゆえの寂しさ。切ないな……。
「だから当家に来て日が浅いシャロンやポプラには、念には念を押してもうしばらく様子を見てから紹介するつもりだった」
「その状況で不意に私がお義姉様と会ってしまったから、取り乱したということなんですね。そうでしたか……。事情を何も知らず、私も軽率なことをしてしまって申し訳がありません」
「いや、僕も事前に説明だけはしておくべきだった。反省しているよ」
「お義姉様を大切に想っていらっしゃって、リカルド様はお優しいです。それにこうして私にきちんと謝罪してくれて、理知的で紳士的でもある。旦那様になる御方がそういう素敵な人物で、私はあらためて安心しました」
「シャロン……」
微笑みながら素直な気持ちを話す私を見て、リカルド様は小さく息を呑む。
「正直、どんな方の元へ嫁入りするのだろうという不安はありました。相手がどうであれ、私には受け入れるという選択肢しかありませんでしたから。でも今はこのご縁があったことに感謝したいです」
「フィルザードという地や貴族暮らしという環境は気にならなかったのか?」
「全くないと言うと嘘になりますけど、なんとかなりそうかなと。何の根拠もないんですけどね」
「前向きだな、シャロンは」
「そうですか? 私としてはこれが普通だと思っていますけど」
「前向きなだけじゃなくて、充分に肝も据わってるよ、キミは……」
リカルド様は呆れ返ったような顔をしながら肩をすくめる。一方でどことなく楽しげな感じもしないでもない。
(つづく……)
11
あなたにおすすめの小説
転生したら地味ダサ令嬢でしたが王子様に助けられて何故か執着されました
古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
皆様の応援のおかげでHOT女性向けランキング第7位獲得しました。
前世病弱だったニーナは転生したら周りから地味でダサいとバカにされる令嬢(もっとも平民)になっていた。「王女様とか公爵令嬢に転生したかった」と祖母に愚痴ったら叱られた。そんなニーナが祖母が死んで冒険者崩れに襲われた時に助けてくれたのが、ウィルと呼ばれる貴公子だった。
恋に落ちたニーナだが、平民の自分が二度と会うことはないだろうと思ったのも、束の間。魔法が使えることがバレて、晴れて貴族がいっぱいいる王立学園に入ることに!
しかし、そこにはウィルはいなかったけれど、何故か生徒会長ら高位貴族に絡まれて学園生活を送ることに……
見た目は地味ダサ、でも、行動力はピカ一の地味ダサ令嬢の巻き起こす波乱万丈学園恋愛物語の始まりです!?
小説家になろうでも公開しています。
第9回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作品
王宮侍女は穴に落ちる
斑猫
恋愛
婚約破棄されたうえ養家を追い出された
アニエスは王宮で運良く職を得る。
呪われた王女と呼ばれるエリザベ―ト付き
の侍女として。
忙しく働く毎日にやりがいを感じていた。
ところが、ある日ちょっとした諍いから
突き飛ばされて怪しい穴に落ちてしまう。
ちょっと、とぼけた主人公が足フェチな
俺様系騎士団長にいじめ……いや、溺愛され
るお話です。
聖女様と間違って召喚された腐女子ですが、申し訳ないので仕事します!
碧桜
恋愛
私は花園美月。20歳。派遣期間が終わり無職となった日、馴染の古書店で顔面偏差値高スペックなイケメンに出会う。さらに、そこで美少女が穴に吸い込まれそうになっていたのを助けようとして、私は古書店のイケメンと共に穴に落ちてしまい、異世界へ―。実は、聖女様として召喚されようとしてた美少女の代わりに、地味でオタクな私が間違って来てしまった!
落ちたその先の世界で出会ったのは、私の推しキャラと見た目だけそっくりな王(仮)や美貌の側近、そして古書店から一緒に穴に落ちたイケメンの彼は、騎士様だった。3人ともすごい美形なのに、みな癖強すぎ難ありなイケメンばかり。
オタクで人見知りしてしまう私だけど、元の世界へ戻れるまで2週間、タダでお世話になるのは申し訳ないから、お城でメイドさんをすることにした。平和にお給料分の仕事をして、異世界観光して、2週間後自分の家へ帰るつもりだったのに、ドラゴンや悪い魔法使いとか出てきて、異能を使うイケメンの彼らとともに戦うはめに。聖女様の召喚の邪魔をしてしまったので、美少女ではありませんが、地味で腐女子ですが出来る限り、精一杯頑張ります。
ついでに無愛想で苦手と思っていた彼は、なかなかいい奴だったみたい。これは、恋など始まってしまう予感でしょうか!?
*カクヨムにて先に連載しているものを加筆・修正をおこなって掲載しております
『異世界転生してカフェを開いたら、庭が王宮より人気になってしまいました』
ヤオサカ
恋愛
申し訳ありません、物語の内容を確認しているため、一部非公開にしています
この物語は完結しました。
前世では小さな庭付きカフェを営んでいた主人公。事故により命を落とし、気がつけば異世界の貧しい村に転生していた。
「何もないなら、自分で作ればいいじゃない」
そう言って始めたのは、イングリッシュガーデン風の庭とカフェづくり。花々に囲まれた癒しの空間は次第に評判を呼び、貴族や騎士まで足を運ぶように。
そんな中、無愛想な青年が何度も訪れるようになり――?
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
美人同僚のおまけとして異世界召喚された私、無能扱いされ王城から追い出される。私の才能を見出してくれた辺境伯様と一緒に田舎でのんびりスローライ
さら
恋愛
美人な同僚の“おまけ”として異世界に召喚された私。けれど、無能だと笑われ王城から追い出されてしまう――。
絶望していた私を拾ってくれたのは、冷徹と噂される辺境伯様でした。
荒れ果てた村で彼の隣に立ちながら、料理を作り、子供たちに針仕事を教え、少しずつ居場所を見つけていく私。
優しい言葉をかけてくれる領民たち、そして、時折見せる辺境伯様の微笑みに、胸がときめいていく……。
華やかな王都で「無能」と追放された女が、辺境で自分の価値を見つけ、誰よりも大切に愛される――。
枯れ専令嬢、喜び勇んで老紳士に後妻として嫁いだら、待っていたのは二十歳の青年でした。なんでだ~⁉
狭山ひびき
恋愛
ある日、イアナ・アントネッラは父親に言われた。
「来月、フェルナンド・ステファーニ公爵に嫁いでもらう」と。
フェルナンド・ステファーニ公爵は御年六十二歳。息子が一人いるが三十年ほど前に妻を亡くしてからは独り身だ。
対してイアナは二十歳。さすがに年齢が離れすぎているが、父はもっともらしい顔で続けた。
「ジョルジアナが慰謝料を請求された。ステファーニ公爵に嫁げば支度金としてまとまった金が入る。これは当主である私の決定だ」
聞けば、妹のジョルジアナは既婚者と不倫して相手の妻から巨額の慰謝料を請求されたらしい。
「お前のような年頃の娘らしくない人間にはちょうどいい縁談だろう。向こうはどうやらステファーニ公爵の介護要員が欲しいようだからな。お前にはぴったりだ」
そう言って父はステファーニ公爵の肖像画を差し出した。この縁談は公爵自身ではなく息子が持ちかけてきたものらしい。
イオナはその肖像画を見た瞬間、ぴしゃーんと雷に打たれたような衝撃を受けた。
ロマンスグレーの老紳士。なんて素敵なのかしら‼
そう、前世で六十歳まで生きたイオナにとって、若い男は眼中にない。イオナは枯れ専なのだ!
イオナは傷つくと思っていた両親たちの思惑とは裏腹に、喜び勇んでステファーニ公爵家に向かった。
しかし……。
「え? ロマンスグレーの紳士はどこ⁉」
そこでイオナを待ち受けていたのは、どこからどう見ても二十歳くらいにしか見えない年若い紳士だったのだ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる