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第1幕:前向き少女の行進曲(マーチ)
第5-4節:リカルドの叶えたい夢、そして星空の下で……
しおりを挟むただ、昨日の雨でなんとか持ち直してくれればいいけど、あの状態ではリカルド様がおっしゃるように難しいだろうな。すでに生命の息吹がほとんど感じられなかったし。もちろん、このまま何も手を打たなければの話だけど。
そう私が胸を痛めていると、リカルド様はなぜかクスッと笑って椅子の背もたれに寄りかかりながら天を仰ぐ。
「夢……というのかな……。もしあの薬草が安定的に育てられれば、姉上だけでなく体の弱った領民たちも助けられるかもしれない。さらにほかの地へ売れるようになれば、そのカネで大量に小麦が買える」
「えっ、小麦を?」
「それを植えるというわけではないぞ。フィルザードで小麦は育たないからな。挽いて小麦粉にするのだ。そして領民――特に子どもたちに、一度で良いからパンを食べさせてやりたい。僕も数えるほどしか食べたことがないが、あの香りや甘み、感触、何もかも感動して今でも強く印象に残っている」
「パンをみんなに……」
「ただ、現実はそううまくいかないらしい。あの薬草はこの地に合いそうにない。悔しいが、あらためて別の薬草や作物を育ててみるしかなさそうだ!」
リカルド様は大きく伸びをしてから姿勢を正すと、瞳を輝かせてやる気に満ちた表情になる。悲観的な面はあっても、まだまだ夢を諦めたワケではなさそう。まるでこの地に根付くアブラズナのように、強さとしぶとさを感じる。
彼は私のことを前向きだと言ったけど、リカルド様の方がよっぽど前向きだ。
もしかしたら私たち、似ているところがあるのかも。そう思うとなおさら親近感が湧いてくる。経緯はどうあれ、本当にこの出会いは運命だったんじゃないかという気さえする。
――うん、私の心は決まった。もはや迷いはない。
「リカルド様、今から私と一緒に畑へお越しいただけませんか?」
「畑へ? こんな夜中にかっ!? もしナイルに知られたら、不用心すぎると叱られそうだが……」
「もし深夜の外出がバレたら、夫婦水入らずのデートだったということで許していただきましょう。いくらナイルさんでも、野暮なことは言ってこないはずですし。でもやっぱり許してもらえなかったら、その時は一緒に叱られましょう」
私が楽観的な調子で言うと、リカルド様は頭を抱えつつも最後は納得したように頷いてくれる。
「分かった、シャロンの誘いに乗ることにしよう。だが、これから畑に何をしに行こうというのだ?」
「それは行ってみるまで秘密ですっ」
私はクスクスと笑うと、リカルド様の手を取って一緒に部屋を抜け出す。
もちろん、お屋敷内にいるみんなに気付かれないよう、慎重かつ迅速に外へ出る。まぁ、この時間ではすでに眠っている人が多いだろうから、過度に警戒しなくても大丈夫だとは思うけど。
そして私はランプを持って前を照らしながら、闇夜の中を先導――と、思っていたんだけど、その役目はさりげなくリカルド様に奪われてしまった。手際よく彼がランプを準備し、それを右手に持って前を進む。
さらに左手ではしっかりと私の右手を握って引っ張ってくれている。まさに私をエスコートしてくれているようで、照れくさいけど……嬉しい……。
見上げれば宝石を散りばめたような満天の星。それは息を呑む美しさで、その中に私とリカルド様だけが存在しているかのような錯覚に陥る。体は自然と熱くなって、胸の鼓動も大きく高鳴っている。
思いがけなかった素敵な夜の初デート。この思い出を私は決して忘れはしないだろう。
(つづく……)
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