嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)

第3-3節:商人ギルドとフィルザード家の関係

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 もちろん、その想像に至ったのは、フィルザード周辺の山では岩塩が採れるということをかつて勉強したことがあるから。ただ、その管理をしているのがフィルザード家ではないというのは、初めて知った意外な事実だった。

 そもそも岩塩に限らず貴金属や木材などその土地で採取できる天然資源は、一部の例外を除いて領主に所有権がある。その上で労働者や商人を雇い、生み出された利益の中から彼らに手数料や賃金を支払うというのが通常の流れとなっている。

 でもフィルザードでは岩塩の売買で得られた利益の大部分がなぜか商人たちのふところに入り、フィルザード家にはその一部のみが税として納められているということになる。

 ただでさええに苦しむ領民が多くてその援助におカネがかかるのに、岩塩関連の収入がそんな状況ではフィルザード家の財政が火の車になるのは当然だ。領民をないがしろにして、自分たちだけが身勝手に暮らそうとするのならその限りではないけど。

 そんな背景があったなら、ますますリカルド様や代々のご領主様たちが立派に思えてくる。



 …………。

 ……今までに見聞きした領内の状況はどこも貧しくて、フィルザード家も領民も助け合って暮らしているのだと私は信じて疑わなかった。そうしないと生きていくのも厳しいのだと思っていた。

 でもそんな領内であっても、やっぱり貧富の差はあるんだね……。

 現実を目の当たりにして落胆らくたんする一方、どこか納得してしまっている面もある。なんだか言いようのない悔しさがこみ上げてきて、私は思わず奥歯をめる。

「彼らはその利益をみんなに分配しないのですか?」

「直接はありません。彼ら自身が稼いだものですから。ただ、当然ながら利益の一部は税という形で当家へ納められ、それが領内の整備や非常時の食料の配給といった形で貧しい領民たちに還元されています」

「領民の多くは食べる物が常に少なくて、えに苦しんでいるんですよね? 彼らはそういう人たちに手を差しのべることはないのですか?」

 その問いかけに、ナイルさんは静かに首を横に振る。

 その様子を横にいるポプラは悲しげな瞳で眺め、私も愕然がくぜんとして胸が張り裂けそうな想いがしてくる。

「そんな……。領主であるリカルド様ですら率先して汗を流し、苦しい生活を送りながら領民の皆さんと助け合っているというのに……」

「……そうですよね、通常の貴族じゃあり得ない行動ですよね。リカルド様もシーファ様も優しすぎます。でも、そんな方々だからこそ私はお仕えする決心が揺らがないのです。きっと多くの領民も同じような気持ちを持っていると思います」

「あ……」

「私は命を賭けてフィルザード家をお守りする覚悟です。フィルザード家は当地の良心だからです。もし仇なす者がいれば、例え誰であろうと許さない。最後のひとりになったとしても戦い続ける所存です」

「ナイルさん……」

「――あっ! 照れくさいので、このことはリカルド様たちには内密に願います」

 ナイルさんは頭を掻きながら苦笑いをしていた。

 普段は少し近寄りがたい威圧的な雰囲気の時もあるけど、それはリカルド様への忠誠心と警護に対する決意の表れ。彼も根は優しくて良い人なのは間違いない。

 そしてリカルド様たちにそうした想いを知られることが照れくさく感じる一方、私に対してそれを話すということは、私はまだその立場の人間として彼に認められていないということなんだと思う。

 本人は無意識だっただろうけど、その気持ちがつい言葉に表れてしまったということか。私はフィルザード家に嫁いで日が浅いから、当然といえば当然だけど……。

 でもだからこそ、私も行動で彼らや領民の皆さんに想いを示していかなければならない。心が通じ合った時、真に私はフィルザードやフィルザード家の一員になれると思うから。

「ちなみになんですけど、岩塩の交易に関する税の負担割合を上げることは出来ないのですか?」

「それは無理です。税を上げすぎると、彼らは当地から撤退してしまいます。そうなるとフィルザード家の税収は激減し、貧しい領民に還元できる範囲は今以上に狭まることでしょう。彼らと折半してギリギリのところが現在の税率なのです」

「そんな……私たちの足元を見るようなことがまかり通るなんて……」

「私も悔しいです。でもどうにもならないんです……。数十年前に大飢饉だいききんが起きた際、領民を救うために当時のご領主様が莫大ばくだいな借金をして大量の食料を確保したそうです。それを返しきれず、岩塩の採掘権を手放すしかなくなったとのことで……」

 ナイルさんの握り締めた拳が震えていた。

 ……そうか、そういう事情があってフィルザード家は岩塩に関する権利を持っていないのか。領主と商人の間で正式に契約が交わされたのなら、採掘や売買に口を出せないのも無理はない。

 それにフィルザード家の厳しい財政事情を知っている商人なら、税率について強気の交渉に出てくるに決まっている。この問題もいつかなんとかしたいな……。

 それにしても、本当にフィルザード家はお人好しばかりだ。リカルド様やお義姉様はもちろん、当時のご領主様も大切な権利を手放す結果になることをきっと分かっていて、それでも苦しむ領民たちのために食料を調達したんだから。


 ――でもだからこそ素敵で好感が持てる。

 ナイルさんじゃないけど、私も絶対にフィルザード家を守りたい。リカルド様やお義姉様、そしてみんなの未来を支えるお役に立ちたい。あらためてそう強く思う。


(つづく……)
 
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