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第2幕:心を繋ぐ清流の協奏曲(コンチェルト)
第4-1節:戯れには戯れを……
しおりを挟む翌日の夕食後、私は自室でリカルド様がやってくるのを待っていた。
というのも、この日は視察を取りやめて公務に参加し、その終わりにコッソリと彼に『相談があるので、夕食後に私の部屋へひとりで来てもらえませんか?』といった内容のメモを手渡していたのだ。
本当はその時に言葉で伝えたかったけど、執務室にはジョセフさんがいて話を聞かれたくなかったから。その内容も現時点ではリカルド様以外の人に打ち明けられるような状態じゃないし……。
…………。
リカルド様、来てくれるよね……?
メモを手渡した直後、彼はそれをチラリと見てから私に向かって頷いてくれたから大丈夫だとは思う。でもひとりでいる間はどうしても不安になるし、時間の経過を遅く感じる。心がソワソワして落ち着かない。
そんな中、漆黒の空に無数の星々や月が強く輝く頃になってようやく部屋のドアがノックされる。私が即座にそのドアを開けると、そこにあったのは柔らかな笑みを浮かべたリカルド様の姿――。
不思議だ……。彼の顔を見た瞬間、こんなにも安らいだ気持ちになるなんて……。
それは不安が解消されたからというのもあるだろうけど、彼と一緒にいるという事実がなによりも大きいのだと自覚する。その証拠に胸がドキドキして、頬も自然と熱くなってきているから。
「リカルド様、こんな夜分にお呼び立てして申し訳がありません」
「気にするな。それこそ妻からの夜のお誘いとあらば、夫である僕としては断る理由などないだろう?」
「なっ!? よ、夜に誘ったのは間違っていませんけどっ、意味が違いますっ! 真面目な相談をしたいんですからっ、からかわないでください!」
「はははっ、分かっている。だが、キミのそういう焦った顔を見るのも新鮮なものだな。普段が凛々しく聡明だからこそ、そのギャップでいつも以上に可愛らしく見えるぞ」
なぜか今夜のリカルド様はいつになく饒舌で意地悪だ。私が照れて困ってしまうことばかり言い放っている。そのせいで顔全体は沸騰したように熱くなり、心臓の鼓動はますます高鳴って収まらない。
どうすればいいんだろう……。
「っっっ……! もうっ、照れますからそういうことを言うのはやめてください。嬉しいですけど……」
「嬉しいなら良いのではないか? もっと言ってやろうか?」
「リカルド様、意地悪です……。あなたがそういう気なら、私だって本気で誘惑しちゃいますから。べ、別に夜伽が嫌というわけでは……ないんですからね……」
からかい続ける彼への仕返しに、私は眉を曇らせつつ自分の着ている上着へと手を伸ばした。そのまま躊躇なく一番上のボタンを外す。もちろん、下にはもう一枚の服を着ているから、それで肌が露になるというわけではないけれど。
ただ、それだけでリカルド様を狼狽えさせるには充分だった。彼はすっかり色を失い、唇を震わせながら慌てふためいている。視線も落ち着くことなく上下左右に動いて、体もソワソワさせている。
なんとなく想像はしていたけど、やはり彼はこういうことに慣れていないらしい。
…………。
……まぁ、そういう私も同じようなものだけど。
本当は私だって顔から火が出るくらいに照れくさい。勢いと苛立ちが後押ししたとはいえ、なんでこんな大胆な行動を取れたのか自分でも分からないし……。
「ま、待てっ、なぜ服を脱ごうとしているのだっ!? バ、バカものっ、今夜は僕に相談事があって呼び出したのだろうっ? 早まるなっ、落ち着けっ!」
「だってリカルド様が私をからかうから……」
「わ、悪かった! からかったことは謝るッ! だからそういうことをするな!」
「……ふふっ! リカルド様こそ焦ったお顔が可愛らしいですっ」
リカルド様の本気で焦っている姿を見ているとなんだか可笑しくなってきて、とうとう私は耐えきれずに吹き出してしまった。それに対して彼は一瞬、キョトンとする。
ただ、すぐに状況を把握したのか、安堵した様子で大きく息をつく。
「やれやれ、まったくキミってヤツは……。僕だって年頃の男なのだ。ちょっとしたきっかけで、理性が吹き飛ぶとも限らんのだぞ?」
「はい、気を付けます。でも……いつかは……」
「っ!? う、うん……」
私たちは目を合わせ、お互いに頬を赤くしながら頷いた。それ以上は何も言わなかったけど、きっと気持ちは一緒だと信じている……。
(つづく……)
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