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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第3-4節:弱い心をさらけ出すふたり
しおりを挟む――まずヴァーランドまでの道中で、私たちはアンデッドの群れに襲われた。何かの妨害があるだろうと想定していたとはいえ、それを超えるほどの規模と罠。一歩間違えれば、全滅していたところだった。
それを考えれば、被害が最小限だったのは奇跡と言っていいかもしれない。
そして関所での一悶着。ノエルくんが気を利かせてアリアさんを出迎えに来させてくれなかったら、もっとややこしい事態になっていたに違いない。少なくともこんなにすんなりとヴァーランドへ到着できていなかったと思う。
……それからこれは個人的なことだけど、私にとって心理的な影響が大きいのはアリアさんの存在。私は彼女とリカルドの関係を勝手に色々と想像してしまって、心のざわめきが収まらない。
そうした様々な出来事によって精神の疲労が半端なくて、私は我慢も片意地を張ることも出来そうになかったのだ。さすがにちょっと気弱になってるのかも……。
だから私は素直に今の気持ちをリカルドに伝える。
「……うん。私、リカルドと一緒だと安心する。正直、ひとりでいると不安や怖さが破裂しそうになりそうでさ」
「……っ……シャロン……」
「あはは、ダメだなぁ、私……。こんなことを口にしたら、もっとリカルドに負担を掛けちゃうって分かってるのに。本当は妻である私がリカルドの精神的な支えになってあげないといけないのに。だってリカルドはもっと大変なはずだもん」
自然と自嘲が漏れつつ、私はリカルドを見つめながら呟いた。
――と、その直後のこと。
不意にリカルドは強く私を抱き締めてくる。さらに体を引き寄せるようにした上、その手にも徐々に力が入る。
私の心と体を包み込む彼の匂いと体温。その心地良さに脳の奥が痺れる。突然の出来事に私は少し戸惑いつつも、為すがままになっている。
そんな中、リカルドは想いを吐き出すように私の耳元で囁く。
「……キミは充分に僕の心の支えになってくれている。それに誰だって不安になる時はあるんだ、気にすることはない。だからあまり自分を責めないでくれ」
「リカルド……」
「僕も普段は気を張っているが、不安や恐怖がゼロというわけじゃない。でもシャロンを護るためだと思うと、その気持ちは不思議と消える。勇気が湧いてくる。実は僕はそういう小心者なんだ。臆病者なんだ。――ふふっ、失望したか?」
「ううん、リカルドは私やみんなのために頑張ってくれてる。偉いし、すごいし、頼もしいよ」
私は想いを込めて抱き締め返しつつ、彼の後頭部を優しく撫でた。彼に対する母性のような愛しさが溢れ、不思議と心の一体感を覚える。ドキドキとした感情というよりも、安心感や護りたいという気持ちが強い。
リカルドが自分自身の弱い部分を私にさらけ出してくれたからかな……。
「……こんな僕の本心、打ち明けたのはキミが初めてだ。姉上にだって話したことはない。今後もキミ以外にはありえんだろうな」
「あらためて思い返してみると、確かにリカルドは小心者なのかも。だって私が初めてお義姉様とお会いした時も、すごい取り乱し方だったし。あれはお体の弱いお義姉様にもしものことがあったらって、リカルドが不安に思ったからだもんね」
「あはは……そうだな……」
今にしてみると、あれは私にとってもリカルドにとっても懐かしい思い出だ。
まぁ、私たちが打ち解けるきっかけになった出来事でもあるし、強く印象に残っているのは当然だよね。
……そっか、リカルドが私に対して過保護な扱いをするのも、根本にそうした不安な気持ちがあるからなのかもしれない。だとすれば、私のこともお義姉様と同様に大切な存在だと想ってくれてるって捉えても良いのかな?
でもそれは私にも同じような面があると言える。リカルドのことを大切に想っているからこそ、彼の心が気になったり嫉妬したり、命を賭けてでも力になりたいって感じたり。
ひょっとすると、私とリカルドは似た者同士なのかもしれない……。
「で、僕たちが同室なのは良いとして、ベッドまで一緒なのは本当に良いのか? 僕は床で寝ようか?」
「いいよ、一緒で。床だと寒いし、疲れも取れないよ。それに私、もしリカルドにその気があるなら受け入れても良いって思ってるから……」
水くさいなぁと感じつつ、私はクスクスと微笑んだ。
もちろん、今の言葉には別に変な意識があるわけじゃなくて、ごく自然のことというか、思っていることを純粋な気持ちで口にしただけ。あっけらかんとしていて、照れくささや後ろめたさのようなものはない。
(つづく……)
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