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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第3-8節:剣が不要な領地を目指して
しおりを挟むふたりの会話は仲の良い実の兄弟のようで、周りにいる人たちでさえも和ませるような温かさがある。
また、私やリカルドに対する誠実な雰囲気の時とは違って、砕けた感じのアラン様もそれはそれで素敵だ。良い兄貴分といった感じで、これが彼の素の姿ということなんだと思う。
――と、それはさておくとして!
やはり私がどうしても気になってしまうのは、彼が腰に差している剣。確かにここから見ていても不思議な力やオーラを放っているのが分かる。おそらくそれが宝剣、あるいはそうでなくとも名工の手による業物なのは間違いないだろう。
私も剣を扱う人間の端くれだから、近くで見てみたいという想いが収まらない。
考えれば考えるほどその想いは堪えきれなくなって、とうとう私は思い切ってアラン様に問いかける。
「あの……アラン様。今、その腰に差されているのが話題に出た宝剣ですか?」
「はい、おっしゃる通りです」
「手に取って拝見してもよろしいですか? 私も多少は剣術を嗜みますので、興味があるのです」
「なるほど、そうでしたか。承知しました。――シャロン様、どうぞ。これは『蒼空の剣』という名で呼ばれています。破邪の力を秘め、魔王の肉体ですらも傷付けることが出来ると伝えられています」
アラン様は剣を鞘ごと手に取り、私の目の前に差し出した。恐縮しつつ、私はそれを両手で丁寧に受け取る。
――っ!?
それに触れた瞬間、全身に電撃のようなものが走って私は思わず目を丸くする。
もっとも、それは痛いとか苦しいとかというものはなくて、むしろ心地良い感じ。程よい痺れと力強さ、無垢な風が全身を吹き抜けていくような感覚がある。
「すごい……剣から神々しい力が溢れ出ているような気が……。それに思った以上に軽くて手に馴染みます。重厚なのに、男性と比べれば非力な私でも装備が出来そうというか……」
「失礼ながら、これは驚きました。その剣は自らの意思を持ち、使い手を選びます。当然、心技体の全てが揃わなければ認められることはありません。つまりシャロン様はそれなりの剣の腕前をお持ちということになりますが、どこで学ばれましたか?」
「はい。剣術は私の父――えっと、育ての父に習いました。父はかつて王家の親衛隊長をしていたとか」
「なるほど、それならば納得もいきます。シャロン様がそれほどの使い手であるなら、いずれお手合わせを願いたいものです」
「あっ、ぜひ! 私からもお願いします!」
私が弾んだ声と明るい表情で即答すると、アラン様はにこやかに頷いた。ただ、そんな私たちを見て、リカルドは肩を落としながらため息をつく。
「……やれやれ、僕としては複雑な気分だ。シャロンはアランに勝っても負けても、ますます自ら戦いたがってしまいそうだからな」
「っ? リカルド様、シャロン様は実際に戦闘をなさるのですか? 私はてっきり、自己鍛錬のために剣術を嗜むということだとばかり思っていたのですが」
「つい先日も道中で無茶をして、僕は肝を冷したばかりだ。これ以上、胃を痛めたくないのだが……」
「なるほど、それではリカルド様にはシャロン様が剣を持つ必要がないほどに、平和で豊かな領地の実現をしていただかなくてはなりませんな。微力かもしれませんが、私もお役に立たせていただきたく存じます」
「シャロンが剣を持つ必要のない平和な領地、か……。そうだな、アランの言う通り僕ももっと頑張らなければならんな。シャロンはもちろん、ジョセフや領民の皆のためにも」
そう述べたリカルドの瞳には、決意の光が灯っていた。その姿が私にはいつになく頼もしく見えて、心臓がドキドキと高鳴ってくる。
もちろん、私も彼と気持ちは同じ。一緒に頑張って私たちの夢を実現しようね。そして希望に満ちた未来を紡ぐんだ。
足踏みなんてしていられない。どんな困難や妨害にも負けるもんか。
その後、私から宝剣を返却されたアランさんはそれを腰に差し直し、姿勢を正してから私たちに会釈する。
「それでは私はほかの公務が残っておりますゆえ、そろそろ失礼します。リカルド様、シャロン様。お忙しい中、お時間をいただきましてありがとうございます」
「僕の方こそ久しぶりにキミと話が出来て楽しかった。またいずれゆっくりとな」
「アラン様、ありがとうございます。ぜひまたお話をさせてください」
こうしてアラン様は私たちと言葉を交わし終えると、次はナイルさんに歩み寄って彼の肩に軽く拳を突きつける。
「ナイル、リカルド様とシャロン様の護衛を引き続きしっかり頼んだぞ。決して油断しないようにな。まぁ、俺が言わずとも分かっているとは思うが」
「お気遣い感謝します!」
ナイルさんはアラン様の瞳を真っ直ぐ見つめながら、力強く頷いた。それを見届けると、アラン様は応接室から退室したのだった。
(つづく……)
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