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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第4-1節:華やかなる舞踏晩餐会場
しおりを挟むアラン様が応接室から去ったあと、しばらくしてリカルドはナイルさんとともにヴァーランド城内へ向かった。その場に残された私は部屋にソフィアちゃんを呼び、ポプラとともにお茶を飲みながら雑談をして過ごす。
そして夕暮れとなった頃にスティール家のメイドさんから案内を受け、舞踏晩餐会の会場となっている城内の大ホールへポプラとふたりで移動する。
「わぁ……」
すでに大ホール内は多くの人と華やかな雰囲気で溢れ、大賑わいだった。
辺りは美味しそうな食べ物やお酒などの飲み物、香水、飾られている花々といった様々な良い匂いに包まれ、奥では演奏家や吟遊詩人たちがピアノやヴァイオリン、フルート、手琴といった楽器で穏やかな曲を演奏してムードを盛り上げている。
天井には見事なガラス細工のシャンデリア、各テーブルには高級そうな布で織られたクロスに金銀で彩られた食器、そして周囲の壁には巨大で写実的な風景画や宗教画が何枚も飾られている。何もかもが桃源郷というか、別世界という感じだ。
そんな中、スタイリッシュな礼服を着た紳士や美しいドレスで着飾った淑女たちが、あちこちのテーブルでワインらしきものの入ったグラスを片手に談笑している。
明らかに私やポプラは場違いといった雰囲気で、そこへ踏み入ることに自然と尻込みしてしまう。もっとも、ポプラは目を丸くしつつも場慣れしているかのように、意外に落ち着いている様子。素直にすごいなぁって思う。
もちろん、私としてもここまで来てしまった以上は逃げ出すわけにもいかないし、こんな出入口のところで立ちつくしていては通行の邪魔にもなる。
だから私は意を決し、お腹に力を入れながらゆっくりと歩を進めていく。
そして会場内の隅の方でまだ誰も使っていないテーブルを見つけ、私とポプラはそこで落ち着くことにした。今のところその周囲には人も少ないし、ちょっとは息がつけると思う。
早速、私がそのテーブルに辿り着くなり配膳係のメイドさんが声をかけてくる。
「お嬢様、お飲み物はいかがなさいますか?」
「では、ワインをいただきます」
私がそう答えると、そのメイドさんは持っていたトレイの上に載せてあるワイン入りのグラスのひとつを手渡してきた。それを受け取って会釈を返すと、彼女はテーブルから去っていく。
そして充分に離れたのを見計らうと、ポプラが周りに注意を向けつつ小声で囁いてくる。
「シャロン様、不用意に口にしてはいけないのです。何が仕込まれているか、分からないのです。もしお飲みになるなら私がコッソリと毒味をしますので、そのあとにしてほしいのです」
「うん、アリガト。でも私はお酒が苦手だから、飲むどころか口をつける気もないよ。とりあえず、体裁を考えて受け取っておいただけだから」
「それなら良いのですが……」
「ポプラは自由に飲み食いしていいよ。周りに見えないように、私が壁になってあげる」
「そ、それでは私が食いしん坊みたいじゃないですか。酷いのです……」
ポプラは口を尖らせ、憎々しそうな瞳を私に向けた。
そんな彼女の姿を見て思わず口元を緩めつつ、私は複雑な想いを胸に抱いて真意を吐露する。
「ごめんごめん、そういう意味で言ったんじゃないよ。ポプラには素直にたくさん食べて、お腹一杯になってほしかったの。私の分までね。だってこんなに豪華な食事、貧しいフィルザードでは出来ないでしょ?」
「っ!? シャロン様……」
「まぁ、周りの目を誤魔化すのも限界があるから、際限なく食べられはしないだろうけどね。あ、もちろん私もポプラが毒味してくれた料理を少しは食べるよ。それなら面目も立つし」
「……っ……」
「私は舞踏晩餐会が終わって部屋に戻ったあと、フィルザードから持ってきている携帯食と水でお腹を満たすよ。あるいはリーザさんたちや兵士さんたちに出された食べ物で、残っているものがあれば少し分けてもらうかもしれないけど」
「本当にシャロン様は……お人好しなのです……。私なんかのために……」
いつの間にかポプラの表情は苦しそうに歪み、瞳は涙で潤んでいた。
(つづく……)
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