嫁ぎ先は貧乏貴族ッ!? ~本当の豊かさをあなたとともに~

みすたぁ・ゆー

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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)

第4-4節:明確な敵意と対立!

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 悪意に満ちた視線と笑い声が周囲を包む。その場で私とポプラだけが孤立し、取り残されているような気分になる。

 でもそんなことで私は負けない。表向きは冷静さを保ちつつ、熱い想いを秘めて臆することなく言い返す。

「ご承知かもしれませんが、フィルザードは貧しい土地。それゆえに当家は物持ちが良いのです。リカルド様も私も仕える者たちも、多少のほこりくらい気にしません」

「なるほど、だからこのテーブルの付近は息苦しく感じるわけですね。こんなところに長くいたら咳が出てしまいます。――そうそう、そういえばそちらのメイドはシャロン様のお付きですか?」

「はい、私の専属メイドです。ポプラと申します」

「でしょうね。どさくさ紛れに舞踏ぶとう晩餐ばんさん会の会場でつまみ食いなんて、本当に意地汚い。当家の使用人ならあり得ないことですし、もしそんなことをしたらすぐにでも暇を出すところです」

 アンヌ様は眉をしかめ、食べかけの料理が入った皿とポプラを嫌悪感たっぷりの瞳で交互に見やりながら言い捨てた。皿や食器の位置関係から、その料理を食べていたのがポプラだということを察したのだろう。

 途端にポプラは暗い顔になってうつむき、沈黙したまま責め苦に耐えるかのように下唇をんでいる。握られた両拳は小刻みに震え、瞳からは今にも涙が零れ落ちそうになっている。


 こんなの酷い……。


 私だけならともかく、ポプラまで小馬鹿にするなんて許せない。

 ここまで怒りや不満をなるべく心の中で押し留めてきたけど、さすがにアンヌ様に対して堪忍袋の緒が切れた。

 ゆえに私は鋭い目つきでアンヌ様をにらみ付け、強い口調で反論する。

「お言葉ですが、これは私の指示で毒味をしてもらっているのです。先ほどアンヌ様がおっしゃいましたが、私をねたんでいる方があちこちにいそうですから。何が仕込まれているか分かりません。あぁ、無警戒に食べ物や飲み物に口をつけられるご令嬢がうらやましいです」

「っ!」

 次の瞬間、アンヌ様は額に青筋を立て、奥歯をみ締めながらキッと目を見開いた。

 そしてすかさずテーブルに駆け寄ってクロスを両手で握り、それを持ち上げてポプラの方へ放り投げる。

「キャッ!」

 小さなポプラの悲鳴とともに、辺りに響く皿やグラスの割れる音――。

 床はもちろん、ポプラのメイド服にも破片や料理、ワインなどが飛び散っている。会場内は静まり返り、多くの人が何事かといった感じで当惑しつつ、丸い目をこちらに向けている。

 そんな中、肩で息をしていたアンヌ様はニタッと薄気味悪い笑みを浮かべる。

「あら? 私としたことが、転びそうになってしまったわ。その勢いでクロスを掴んで、放り投げてしまうなんて。でも料理をこぼしたのが使用人で良かった。使用人なら服であろうと体であろうと、汚れても問題ないですものね。元から汚れている可能性もありますけど」

「……っ……」

「では、シャロン様。私はこれで失礼します」

 してやったりといった様子で、満足げに微笑みながら去ろうとするアンヌ様。

 でも彼女が私の横を通り過ぎようとした刹那せつな、すかさず私はその手首を全力で掴んで引き留める。視線や体は彼女に背を向けたままだけど。

 そして暗く低いトーンで静かに声をかける。

「――アンヌ様、お待ちください。何かお忘れではありませんか?」

「忘れ物?」

「当家のメイドへの謝罪です。それともルティア子爵ししゃく家の人間は礼儀知らずということなのですか?」

 落ち着いた中にも沸々と湧き上がる怒りを込め、私はアンヌ様に問いかけた。

 すると直後に彼女は力一杯に腕を引いて私の手を振りほどき、その勢いのままに私の肩を掴んでお互いに面を付き合わせる。彼女の目は血走り、唇はワナワナと震えている。

「私は貴族です! 使用人に頭を下げるなどありえません! それに私だけでなく、当家全体を侮辱ぶじょくする物言いは聞き捨てなりません!」

「……失礼しました。私としたことが、つい言い過ぎました。お許しください」

 私はあくまでも冷静さを保ちつつ、真顔で素直に頭を下げた。その表向きは神妙な反応が予想外だったのか、アンヌ様はやや唖然あぜんとしたまま声を失って戸惑いの様子を見せている。

 そしてそれを無感情で見届けた私は言葉を続ける。

「さぁ、私はアンヌ様に対して謝りました。あなたも当家のメイドに謝罪をしてください」

「だ、だから貴族である私が、他家であろうと使用人に――」

「お願いします」

「う……うぐ……」

 思わず身を退き、たじろぐアンヌ様。唾を飲み込み、瞳に怯えの色が浮かんでいるのがハッキリと分かる。

 激しい怒りを見せるわけでもなく、冷静に謝罪を迫る私の姿を不気味に感じるのだろう。それでも私は彼女から視線を逸らさず、無言のまま眼光だけでプレッシャーをかけ続ける。


(つづく……)
 
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