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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第4-9節:アリアの本当の想い
しおりを挟む虚ろな彼女の瞳の奥底に潜むのは、父であるラグナ様に対しての複雑な想いか、自分の運命に対しての絶望か――。
いずれにせよ、その姿を見ていると彼女の悲哀や苦悶を自分のことのように感じて泣きそうになってくる。
「それこそ父にとって最も都合が良いのは、王都の中枢にいる貴族の中で高位かつ御しやすい人物のところへ私を嫁がせ、その方と私の間に子が出来ること。そうなれば父の権力は盤石となりますからね。ただ、そのためには伯爵家の宰相とその娘という立場では弱すぎる。だから父はフィルザード家を足がかりにすることを目論んだんですよ」
「……なるほど、ようやく全てを悟りました。アリアさんの気持ち。あなたはリカルドのことを大切に想っているからこそ、彼の命や心が傷付くのが耐えられないんですね? 私とリカルドの仲を壊したくないという想いも、そういうこと」
「…………」
「そして彼や子の未来を鑑みれば、アリアさんのお眼鏡に適った私にフィルザード家を任せ、自らは身を退くのがベストだと考えた」
「いえいえ、身を退くだなんて私はそんな自惚れではありませんよ。私とリカルド様はあくまでも幼馴染み同士。友情と恋愛感情は別です。仲が良かったとしても、彼が私を人生の伴侶として選んでくれるとは限りません」
「そんなことは――」
私が強く言葉を放とうとした瞬間、アリアさんはすかさず人差し指を私の唇に軽く添えてそれを制止させた。
目を丸くする私に対し、彼女はクスッと自嘲しつつ首を小さく横に振る。
「ダメですよ、シャロン様。リカルド様はあなたを大切に想ってくれているのですから、それを否定するようなことをおっしゃってはいけません。シャロン様も自分自身を否定することになります。今、これが現実であり正史なのです」
「でも……でも……」
「私の話はあくまでも妄想。思い過ごしだって充分にあり得ます。だから私は未来への希望を失ったわけではありません。そこは勘違いなさらないでください。ただ、最悪のケースを想定し、それに備えておくことも肝要――そういうことです」
アリアさんは私を落ち着かせると同時に叱咤するかのように、穏やかな口調で諭した。
自分よりも大切な人のことを第一に考えるなんて、本当に優しくて心の強い人だと思う。リカルドが彼女のことを信頼しきっているのも頷ける。
私はいつの間にか零れていた涙を手の甲で無造作に拭い、決意を胸に抱きながら凛とした表情で彼女を見つめる。
「……分かりました。私は覚悟を持ってアリアさんの手のひらで踊らされることにします。絶対にリカルドを護り、フィルザード家を遙かな未来にまで繋ぐ礎になってみせます」
「少し上から目線になってしまって失礼かもしれませんが、シャロン様には期待していますよ。そしてあなたなら出来ると信じています。でも――」
「でも?」
「もし期待はずれだと感じたら、その時は私がリカルド様をもらってしまいますから。よろしいですねっ?」
アリアさんは小悪魔っぽい笑みを浮かべ、本気とも嘘とも取れるようなことを言った。果たしてその真意はどうなのだろうか?
ただ、いずれにしても大切なのは私自身の気持ちと行動。私は負けん気を胸にハッキリと言い放つ。
「ふふっ、そうはさせません。アリアさんの期待以上に頑張ってみせます」
「それにしても不思議です。なぜここまで自分の本心をシャロン様に話してしまったのか。誰にも言うまいと思っていたはずなのに。もしかしたらこれはシャロン様の持つ自然な魅力の成せる業というか、天賦の能力なのかもしれませんね」
「天賦の能力……ですか……」
「シャロン様、どうかお気を付けください。父が私の想像している通りであれば、シャロン様の存在を目障りに感じているはず。あくまでも私の勘ですが、まだ私をフィルザード家へ嫁がせることを諦めてはいないと思います」
「はい、充分に気を付けます」
「父は私を王都の留学から戻すために色々と動いたようですし、おそらくそういうことかと。誰かがリカルド様に嫁げばさすがに父も諦めると思っていたのですが、どうやらその野心は私の想像以上に強く大きいものだったようです。誤算でした……」
やれやれと肩を落とし、アリアさんは深く大きなため息をついた。
確かに彼女がヴァーランドへ戻ってきた時期を考えると、その指摘には合点がいく。リカルドの話によるとそれは数か月前だったということだから、私がフィルザードに嫁いできた時期と近しい。
…………。
って、あれ? ちょっと待って、今のアリアさんの言葉と言い方は何かが引っかかるような……。
(つづく……)
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