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第6幕:来るべき日の前奏曲(プレリュード)
第4-10節:政略結婚の裏に潜むもの
しおりを挟む違和感があって、どこか釈然としない。気持ちの悪さが残って、胸の奥がモヤモヤする。
『誰かがリカルド様に嫁げばさすがに父も諦めると思っていた』
『誤算――』
それらの言葉を頭の中で何度も反芻し、深く考え込む。そして私は程なくひとつの仮説に思い至り、息を呑んでアリアさんに問いかける。
「まさか私の婚姻を王都で画策したのはっ!?」
「え? ……あっ、いえいえ! さすがに私にそこまでの権力も人脈もありません。偶然ですよ」
「……本当……ですか?」
「こればっかりは信じてもらうしか……。ただ、父の動きを察知した誰かが王様に進言した可能性はあるかもしれません。フィルザードに何かあれば、イリシオン王国にとって好ましくない事態に発展しかねませんので」
現時点では何の証拠も手掛かりもない以上、私の婚姻に関する真相は分からない。
一方、彼女の推測は私としてもすんなり頷ける。内政が不安定である方が、軍事力を使って攻めるにしても敵にとって都合が良いから。
もしかしたら私たちの知らないところで何かの思惑が動いているのかもしれない。
だからその不安の芽を摘むため、王様は先手を打って私をフィルザード家に嫁がせた。万が一の備えといった漠然とした理由ではなく、明確な意図を持って王家とフィルザード家の結びつきを強固にしておくために……。
それなら私が嫁ぐ見返りとして、王家がフィルザード家へ出す補助金を手厚くした理由も納得できる。
そしてフィルザードは貧しい土地だからそもそも望んで嫁ごうとする者もいないだろうけど、王様にとってもそんな何が起きるかも分からない地に見知った近縁者を送りたくないという想いもあるはず。
そうした色々なことを考えると、私はフィルザード辺境伯夫人として適任だったわけだ。
あらためて言いようのない悔しさと悲しさを感じて胸が張り裂けそうなる。
ただ、そんな私の心情を察してか、アリアさんが女神様のような優しい眼差しをこちらに向けてくる。
「悲観しないでください、シャロン様。だってシャロン様はリカルド様を愛しているのでしょう? リカルド様もきっと想いは同じ。ならば経緯はどうあれ、その出会いはきっと運命なのですから。多少の困難など、はね除けられるはずです」
「っ!? ……は、はい! 私、ちょっとやそっとの障害なんて乗り越えてみせます。ふふっ、なんだかアリアさんって私とよく似てますね。考え方も性格も」
「そうですか? でももしそうなら光栄です。これは社交辞令ではなく本心ですよ」
「そう受け取っておきます!」
「では、そろそろ私は失礼します」
アリアさんは私に向かって丁寧にお辞儀をすると、会場の人混みの中へ消えていった。
その華奢な背中が、この時の私には大きく心強く見えた。
◆
その後、会場にリカルドやナイルさんなど主賓の貴族やその側近たち、そして主催者側のカイン様やノエルくん、キールさんなどがやってきて、舞踏晩餐会は本格的にスタートした。
自然とホールの中心にはスペースが空き、流れる音楽に合わせて多くの人たちがダンスを踊り始める。テーブルに運ばれてくる料理も前菜からメイン、デザートと種類も豊富になっていく。
ちなみにリカルドとナイルさんはすぐに私とポプラの姿を見つけ、合流して平穏な時を過ごす。もっとも、私はリカルドの誘いで一緒にダンスを踊ったり、挨拶に来た貴族の皆様と雑談をしたり、落ち着く暇はほとんどなかったけどね……。
ただ、さすがに彼が一緒にいると私に突っかかってくる令嬢や貴族はおらず、その点は気が楽だった。
(つづく……)
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