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第二幕:気心が知れているからこそ
第五節:気の置けない相手
しおりを挟むいったいどういうことなんだ? 俺の知らないところで何かが起きていたっていうのか?
ルナは自分の腰に吊り下げていたロープの束を手に取り、手慣れた様子で中年男を縛りながら話を続ける。
「バラッタを暗殺しようとしてる連中が、フォルスの町に入ったってタレコミがあってね。手の空いているギルドのみんなで、先手を打って潜伏先へ乗り込んだんだ。でも実行犯だけはすでに殺りに出かけちゃったっていうから、それで慌ててバラッタに状況を伝えに来たの」
「そうだったのか……。あんなに血相を変えて駆けつけてくれるなんて、俺は嬉しいぜ~?」
ニタニタと笑いながら戯けるように俺が言うと、ルナは小さく息を呑んで頬を真っ赤にしながら口を尖らせる。
「なっ!? バ、バカ! 心配なんかしてないもんっ! 仕事だから仕方なく来ただけだしっ!」
「……ありがとな、ルナ」
「っ!?」
「嬉しい気持ちはマジだから。それは誤解しないでくれよな」
俺は神妙な面持ちでルナの頭をポンと軽く叩いた。柔らかくて手触りのよいサラサラの髪の感触と良い匂いが彼女の方からほのかに伝わってくる。
やはりふざけるだけじゃなくて、伝えるべき気持ちはきちんと伝えておかないといけない。相手が大切な家族ならなおさらだ。
もちろんルナだけじゃなく、ギルドのメンバーはみんな大切な家族。だからこそちょっとしたケンカだってするし、憎まれ口も叩く。
でも心の奥底にある絆は、なによりも強い。お互いに相手のことを大切に想ってる。今回のことだって、もし俺とルナが逆の立場だったとしても、俺はルナと同じように行動したと言い切れる。
盗賊はいつ命を落としてもおかしくない商売だ。突然、別れが訪れるとも限らない。だから本当の気持ちを伝えないままでいると、悔いが残ってしまうことになる。
そうならないためにも、きちんと素直な気持ちを伝えるというのがうちのギルドの暗黙のルールなのだ。ルナもそれが分かっているからこそ、今度は照れくさそうに微笑みながら素直に首を縦に振る。
「ふふっ、どういたしましてっ!」
「それにしても危険を冒してまで俺の命を狙うなんて、酔狂なヤツらもいるもんだ。俺みたいな小物よりお頭みたいな大物を狙わないと割に合わないだろうに」
「酔狂なんかじゃないよ。うちのギルドの若手では、バラッタは一番の有望株だもん。ほかの盗賊派閥から見たら、将来的に大きな障害となり得る存在だよ」
「そりゃ、買いかぶり過ぎってもんだ。それにそんな未来のことを気にするなんて、ご苦労なこった。世の中、明日がどうなるかも分からないってのに。特に俺たちみたいな稼業はな」
「あははっ、バラッタは何があっても最後まで生き残るような気がする。ゴキブリみたいにしぶといもんね」
「……っ? それって褒めてるのか? 貶してるのか?」
「あっははははははッ! さぁねっ♪ ――それじゃ、このゴミはあたしがギルドへ連れていくから」
「あぁ、任せた!」
俺が力強く返事をすると、ルナは軽く首を縦に振った。そして縛り上げた中年男を担ぎ上げようと、腰をかがめる。
だが、中年男に手が触れようかという時、なぜかピクリと動きを止めてこちらに向き直る。
「そういえば、バラッタはコイツが偽物だってすぐに見破れたんだよね?」
「当たり前だ。俺がお前と偽物を間違えるワケねーだろ」
「……そっか。あははっ、そっかぁっ♪」
ルナは頬を赤らめながら穏やかに微笑んだ。そこには屈託がなく、華やかで親しみを溢れさせている。その瞬間、不覚にもほんのちょっぴりだけ愛おしさを感じて、俺はわずかにドキッとしてしまった。
そういえば最近、ルナはふとした時に大人びた雰囲気を見せることが増えたような気がする。たまたまなのか、俺の意識が変わったのか、それとも彼女自身が成長している表われなのか。理由は分からんが、ま、いっか……。
「親しいヤツに変装して近付くのは、相手の油断を衝きやすいってメリットはある。だが、親しいだけにちょっとしたことで偽物だとバレるリスクも大きいんだよ。いつも付き合ってるだけに、違和感に気付きやすいだろ?」
「あー、なるほどねぇ。それはあたしにも分かるっ」
「要するに諸刃の剣さ。もし俺が変装してターゲットを殺る立場なら、適度に親しいくらいの距離感の人物を選択する。その方が確実性は高いからな。ま、それはそれで近付くための環境作りが必要になるが」
「ふふ、勉強になりますっ! いずれにしても、あたしは嬉しいよ。コイツが成りすましの偽物だって、ちゃんと見抜いてくれて……」
「なんだ、俺に惚れたか?」
「んなっ! バババ、バッカじゃないのっ!? そんなのありえないしっ!」
やけに狼狽えながら、ルナはそっぽを向いてしまった。
ちょっとした冗談なんだから、あそこまで落ち着きをなくす必要なんてないのに。まさか本当に俺に気があるワケじゃないよな? それはありえないよな。
「偽物かどうかを見抜くなんて簡単なことさ。細かな違和感に気付けばいいだけだからな」
「あたしは自信ないな。……あ、で、でもバラッタの偽物なら……見抜く自信がある……かも」
「そうなのか? じゃ、飯でも食いながらその話を聞かせてもらおうかな。ギルドに戻るのは後回しにして、今すぐそこらの酒場にでも行こうぜ」
「っ!」
俺の言葉を聞いた途端、ルナは目を大きく見開き、反射的に俺と距離を取って身構えた。そして当惑するような表情でこちらの様子をうかがっている。
(つづく……)
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