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第二幕:気心が知れているからこそ
第六節:空気の読めない男
しおりを挟む今回も予想通りの反応――。
盗賊の端くれならもう少し動揺を隠せよとは思うけど、そういう不完全なところも含めて目の前にいるのは本物のルナだと確信が持てる。
むしろここで平然としているようなら、俺の方が警戒しなければならなくなる。
「どうした? なぜ俺と距離を取る?」
「……アンタ……本物のバラッタ……だよね? うん、外見も仕草も空気感も……本物……だと思うけど……」
「何か不自然さを感じたか? ま、偽物の見抜き方ってのは、そういうことだ。今回はギリギリ及第点といったところかな」
「はぁっ? どういうこと? 話が見えないんだけど?」
「今、ルナはなぜ警戒した? 安心しろ、今のはわざとやったことだ。俺は本物。もし信じられないなら、あの話をしてやろうか? 初めて俺たちふたりだけでギルドの仕事をし――」
「わぁああああぁーっ! その話はしなくていいからぁあああぁーっ! 分かったからっ、バラッタは本物っ! 今の瞬間に間違いないって確信したからっ!」
俺の話を遮り、耳の奥が痛くなるくらいの大声でルナは叫んだ。しかも顔全体どころか耳まで真っ赤に染まって狼狽えている。
その理由は、俺が話そうとしていることがルナにとって絶対にほじくり返されたくない過去だから。当然、それは俺とルナだけが知っている秘密であり、彼女にとっては恥ずかしい内容でもある。
だから俺は思い出しただけでニヤニヤしてしまうのだが、可哀想なので口に出すのは勘弁しておいてやることにする。
「んじゃ、あらためて訊くが、お前が警戒した理由はなんだ?」
「あ……うん……。さっきの言葉が変だなって感じて。だってバラッタが仕事を途中で投げ出すワケないから。例え誰も見てなかったとしても、ギルドを出てから戻るまでは物乞いとして振る舞うはずだし。アンタって普段はいい加減なくせに、盗賊の仕事に関してだけは頑固なまでにキッチリしてるもんね。そういう変なこだわりがあんのよね」
「ご明察! 俺がルナの偽物に気付いたのも同じような理由だ。このオッサンは『物乞いの振りなんかやめて、急いでギルドへ戻ろう』なんて言いやがった。本物のルナなら絶対に言わないセリフだよ」
「ふーん――って、えっ!? それであたしの偽物だって気がついたのっ?」
ルナは目を白黒させながら素っ頓狂な声を上げた。
なぜそんなに驚いているのか、俺には理解できない。だから訝しげに思いつつも、小さく頷く。
「そうだが、何かおかしいか?」
「外見とか仕草とかで気付いたんじゃなくて?」
「はぁっ? 何を言ってるんだ、お前? 変身魔法を使ってるのに、外見で見分けがつくわけないだろ。仕草に関してはあんまり気にしたことねーし。普段からジロジロ見てるんなら別だが」
「っっっっっ! 確かにアンタは本物のバラッタねっ! そういう空気が読めないところとか、昔から全ッ然変わってないしっ! このバカッ!」
急にルナは頭から湯気を上げ、敵意むき出しの血走った目で俺を睨み付けてきた。まるで怨念でも込められているんじゃないかという迫力。このままだと呪われてしまいそうな気さえする。実際、目が合った瞬間に悪寒が走ったくらいだ。
これ以上ヘタに刺激をしようものなら、我を忘れて攻撃されかねない。さすがにその状態になると、動きの予測がつかなくて俺でも手に負えなくなる。
……でもこれほど激高するなんて、何が気に障ったんだ?
「な、なんでそんなに怒ってるんだよ?」
「話しかけんなっ! くそッ、アンタなんかこの暗殺者に殺されちゃえば良かったんだ!」
「おいおい……」
「あ゛ぁあああぁーっ、もうっ! イライラするッ!! こうなったらコイツをボコボコにして、憂さ晴らししてやるんだからっ!」
そう言いつつ、ルナはロープでグルグル巻きになっている中年男の腹の部分へ何回か蹴りを入れた。今回に関しては、この男は完全にとばっちり――だと思う。なんというか、運が悪かったなとしか言いようがない。
その後、ルナは周囲に殺気を振りまきながら、中年男を引き摺るようにしてギルドの方へ行ってしまったのだった。
(つづく……)
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