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第四幕:埠頭の違和感
第四節:不意打ち!
しおりを挟む俺たちは慎重に埠頭を進んでいった。次第に交易船の大きなマストが前方に見えるようになってくる。
そして交易船が停泊している場所へ辿り着いた時、ついに明らかな異変を目撃。それを目の当たりにして、俺もルナも思わず呆然と立ち尽くしてしまう。
「なんなの……これ……?」
「みんな気絶させられているようだな……」
船の周りには警備をしていたと思われる人間が数人、地面に倒れ込んでいた。松明が焚かれたままになっているから、ほんの少し前までは意識があって、きちんと見張りの役割を果たしていたんだろう。
俺は一番手前で倒れている男へ慎重に近寄り、脈と呼吸を確認してみる。
「うん、死んではいないようだ。目立った外傷も見られない」
「つまり魔法か薬品あたりで気絶させられたって感じかな?」
「そんなところだろうな。しかも抵抗しようとした痕跡がないから、不意打ちだった可能性が高い」
「……かもね。今まで以上に慎重に行こっ」
俺たちは意識を前後左右上下に向けながら、桟橋を一歩一歩を進んでいった。そして甲板から船室へ入ったあとは、船倉へ向かって階段を降りていく。
――辺りは不気味なほど静まり返っている。
船内には船体に使われている木やホコリ臭さが漂い、通路に掲げられたロウソクの弱々しい光だけが辺りを照らしている。もはや月や星の光は見えない。
この明度は俺なら問題ないが、ルナはおそらく心許ないはず。だから前を俺が歩き、後ろから付いてくるルナには離ればなれにならないよう上着の隅を摘ませる。
やがて通路の先に広まった空間が見えてくる。おそらく大きな荷物を積むためのスペースだろう。そこには多くの灯りが掲げられ、浮かび上がるように見えている。そしてその空間の真ん中にある柱には、誰かがロープで縛り付けられているようだ。
俺たちは荷物の影に隠れ、顔を半分だけ出して様子をうかがう。
「なっ?」
縛り付けられているのはなんとビッテルだった。猿ぐつわを噛まされ、自由が利くのは首だけとなっている。
直後、ルナが『打音通信』で俺に何かを伝えようとしてきたので、周りの警戒を続けつつそちらにも意識を向ける。
『あれって例の優男だよね? なんで捕まってんの?』
それに対し、俺も『打音通信』で返事する。
『やはり先客がいるってことだ。ルナ、気を抜くなよ?』
『分かってる』
『悪いが計画を変更する。俺はビッテルを助ける。アイツには助けに来たとでも説明すればいい。それなら積み荷を盗みに来たって理由を誤魔化せるはずだ』
俺がルナの手を指で叩いてそういう意味を伝えると、彼女はかすかに吹き出した。
レストランの時にも似たようなことがあったが、いくら周りにはバレない程度でもこうして表情に出すのは好ましくない。打音通信をする意味が薄れる。
それにそもそも今、伝えた内容の中にどこか笑うところがあったか?
『バラッタならそう言うと思った。あんたって仕事は最後までやりきるって信念があるけど、例外があるもんね。命の危機に瀕している人を目の当たりにした時は、その人を助ける方を優先するって』
『……うるせぇよ』
『金品を拝借する仕事をする時だって、絶対に貧乏人は狙わないもんね?』
『っっっ。救出に行くぞ? 周りを警戒してろ、バカ』
俺はそう伝えると、返事を聞かないままルナの手を離してビッテルのところへ歩み寄った。充分に周囲を警戒しながら、一歩ずつ慎重に――。
そしてある程度まで近付いたところでビッテルは俺たちの接近に気付き、動かせる範囲で必死に体をばたつかせる。そのせいでガタガタと物音が立ち、俺は心臓が止まりそうになる。
ルナも目を丸くしながら周囲をキョロキョロと見回している。
「……バカ、静かにしろ。俺たちはお前を助けに来たんだ」
俺は慌てて指を口に当て、眉を吊り上げながらビッテルの耳元で囁いた。
だが、ヤツは依然として体を動かすことをやめず、俺を真っ直ぐ見つめて必死に何かを訴えかけようとしている。
「んーっ!? んーっ、んーっ!」
「だから静かにしろよ。分かってるよ。今、猿ぐつわを外してやる」
俺はビッテルの横へ回り込み、口に咥えさせられていた布きれを解いてやる。
「ぷはっ! バラストっ、これはワナですっ!」
「何っ!?」
俺は慌てて振り向いた――が、すでに遅かった。
視線がフロアの上方へ向いた時、梁の影から何者かがナイフを放っていたのだ。
銀色の刃がロウソクの光を反射して焔色に煌めきつつ、真っ直ぐ俺に向かって飛んでくる。その動きがスローモーションになって見えている。もはや避ける余裕はない……。
(つづく……)
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