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第1航路:魔術整備師シルフィ
第3-1便:機械も生きている
しおりを挟むマリーお婆さんの家でディックくんたちと出会ってから数日が経過した。
今日もソレイユ水運の仕事を終え、私は自宅にある作業場で魔導エンジンの組み立てを行っている。つまり機械全体を分解して、各パーツを物理的に調整しているということだ。
ただし、これは仕事じゃない。あくまでも私の趣味であってこの魔導エンジンも私物。だから業務が終わったあと、プライベートな時間を使ってやっている。
もちろん、一朝一夕で全てパーツの面倒は見られないから、毎日少しずつ続けてきた。どれくらいの日数を掛けてきたのか、すぐには分からない。いずれにしても、それを調べるのも大変なくらいの長期間ということだけは確実だ。
そしてこの作業は今夜でようやくひと区切りになるかもしれない。各パーツの調整は何週間も前に全て終わっていて、組み上げる行程も残りわずかだから。
しかも明日は満月の日で渡し船が運休になるから、会社も休業日となっている。つまり今夜はいつもより長く作業時間が取れるわけで、徹夜になってしまったとしても大丈夫なのだ。作業に集中しすぎて、気付いたら夜明けになったしまっていたなんてことになっても問題はない。
目の下にクマが出来て、お肌のケアも必要になっちゃうけど……。
「――よっし。次はこっちの部分の組み上げか」
私はツナギの袖で額の汗を拭い、大きく息をつく。工業油と埃の臭いが肌に付いてしまうけど、これから誰かと会うわけでもないし洗えば落ちるから気にしない。
闇夜の中、ランプの明かりが作業場内を淡く照らしている。もちろん、いつもなら魔鉱石の魔力を利用した魔導灯の照明を使い、眩しいくらいの明るさの中で作業をしている。ただ、満月の日の前後はこうして油に火を灯すタイプの暗いランプを使うしかないのだ。
静かな作業場内には油の燃える微かな音や工具とパーツが奏でる金属音だけが響いている。
ちなみにこの場にいれば騒がしいであろうクロードは数十分前に自分の寝床へ戻ったから、今ごろは静かに寝息を立てていると思う。やっぱり休息は大事だもんね。私の夜更かしにいつまでも付き合っていたら、いつか病気になってしまう。
ま、私自身も程々にして、しっかり休息を取った方がいいんだろうけど……。
それに対して機械は生物と違って疲れないし、命令にも忠実。どんなに過酷で危険な仕事でも文句ひとつ言わずに淡々とこなす。しかも人間がやるより何百倍も効率的で確実な成果をもたらしてくれる。
――というのは、機械を知らない人たちの幻想。
機械だって休ませなければ金属疲労を起こし、いずれは壊れてしまう。部品の交換をすれば再び動いてくれることもあるけど、細かい調整をしてやらないと思い通りに動いてくれない。要するにパーツにだって人間と同じように相性というものがあるのだ。
そして機械は異音や変形、臭い、仕事の効率、様々な形で私たちに不満を伝えてくる。
特にハンドメイドの機械は個性の塊。素直な子もいれば頑固な子もいる。機嫌がいい時も悪い時もある。きちんと面倒を見てあげないと、最大限のパフォーマンスを発揮することは出来ない。
だからこそ、機械が安全で正常に動くよう調整する『整備師』という仕事がある。そう、私たち整備師は機械のお医者さんと言っても過言ではない。
魔術整備は投薬による治療、工学整備は外科手術。状況や状態に応じて使い分け、機械と真摯に向かい合ってあげないといけない。だから魔術整備に偏重した最近の整備業界の風潮は好きじゃない。
それに機械にも心があるって私は信じてる。手をかければかけるほど、機械もそれに応えてくれるという経験を何度もしているから。理論では証明できない力が発揮されているのを目撃しているから。
――つまりきっと機械も生きているんだ。
(つづく……)
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