10 / 58
第1航路:魔術整備師シルフィ
第3-2便:深夜の訪問者
しおりを挟む日付をまたがる頃、私はついに魔導エンジンを組み終えた。
これは単に既製品を整備したというわけじゃない。強度計算や出力計算などから始め、ゼロから設計図を書いて作り上げたオリジナルのもの。さらに測定や実験を重ね、最大限のパフォーマンスを発揮できるように少しずつ調整を重ねてきた。
当然、パーツや部材、工具、燃料、そのほかにも色々とおカネがかかった。まさに我が子というか、一緒に成長してきた相棒だ。まだまだ改良は必要になるだろうけど、とりあえずは動かせる形となったのだから感慨深いものがある。
あとは現役から退いて運用保留中となっている予備船に装備させ、実際に駆動させてみるだけ。ちなみに魔導エンジンの換装作業はほんの数十分もあれば出来るけど、今日は満月の日だから動かすのは明日以降になる。
「じゃ、ちゃっちゃっと換装作業もやっちゃいましょう」
私は予備船の魔導エンジンを取り外し、整備を終えたばかりのオリジナル魔導エンジンを取り付けていった。
――こうして星降る空の下、とうとう全ての作業が終了する。
さすがにちょっと疲れた私は作業場の床にへたり込み、作業開始前に淹れたまますっかり冷めてしまったコーヒーを啜る。
苦さと酸味、うま味が口の中に広がり、渇いた喉を潤していく。
……あ、汚れたままの手でマグカップの取っ手を握っちゃった。ま、いっか。今は作業が終わった満足感と達成感で溢れていて、そんな細かいことは気にならない。
私はコーヒーを飲み干し、マグカップを置くとそのまま後ろへ倒れ込んだ。視線の先には薄暗い天井とランプの明かりが見えている。そしてしばらくボーッとしてしまう。何かを成し遂げた直後に無気力状態となる『燃え尽き症候群』というヤツだろうか。
部屋に戻るのも面倒臭いし、このまま寝てしまおうかな……。
「んっ?」
その時、不意に外から我が家のドアを激しく叩く音が響き渡った。あんな大きな音、空耳のわけがない。それどころか、こちらの反応がないからか何度もドアを叩いているようだ。
こんな深夜に誰だろう? 盗賊とかモンスターの襲撃とかだったら嫌だな……。
私は出るべきかどうか迷った。だってもし襲われたら怖いから。普段から操船や整備の力仕事で腕力が鍛えられているとはいえ、相手が大人の男性だったらどうしたって勝てない。男女の体格や体力の差には埋めがたいものがある。
ちなみに会社が設置してくれた結界で家は守られているから、ドアを開けなければとりあえずは安心。中位の攻撃魔法までなら耐えられるし、物理攻撃に関しては完全耐性を持っている。もちろん、相手が結界を破れるくらいの強大な魔法力を持っていたら無意味だけど。
「シルフィ! この騒ぎは何事っ?」
「あっ、クロード!」
あまりの騒々しさに目を覚ましたのか、クロードが作業場にやってきた。
もっとも、ただでさえ静かな夜で音が響きやすいのに、あれだけの音をずっと出し続けているんだから当然だ。それでも眠っていられるのは相当な鈍感か、何日も連続で徹夜した直後くらいなものだろう。
いずれにせよ、クロードが来てくれて助かった。彼なら窓の隙間から外へ出て、相手に気付かれずに偵察してきてもらえる。
「クロード、こっそりと外へ出て様子を見てきてくれない? 私、ちょっと怖くて……」
「おぅっ、任せておけっ! やっぱりこういう時に頼りになるのはオイラだけだからなっ!」
「ありがとう。でも危険を感じたら無理せず、すぐに戻ってきてね」
「分かってる!」
クロードは元気よく頷くと、天井近くにある空気入れ替え用の小窓へ駆けていった。そこを抜けて彼は外へ出る。
あの窓なら全開にしてもクロードくらいの大きさの動物しか行き来できないから、外にいる人間に気付かれても侵入される心配はない。体の大きさを変えられる能力を持っているとか、あのスペースよりも小さな種族とかだったらマズイけど……。
ま、こっそり侵入できる能力があるなら、あんなにドアを叩くなんて目立つことはしないはずだから大丈夫だとは思う。
――それから数十秒後、クロードが小窓から屋内に戻ってきたのが見えた。
彼はなぜか慌てた様子で走ってくる。まさか外に強大なモンスターでもいたのかな? 対処のしようがない事態だったらどうしよう。
私は固唾を呑んで彼の報告を待つ。
「シルフィ、すぐにドアを開けるんだ! 訪ねてきたのは執事のおっちゃんだ! ディックが大変なことになってる!」
「えっ? アルトさんとディックくんが?」
私は目を丸くすると、急いでドアの前へ移動して施錠を解いた。そしてドアを開けると、目の前には真っ青な顔をして息を切らせているアルトさんの姿がある。
(つづく……)
0
あなたにおすすめの小説
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】
※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。
※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
侯爵家の婚約者
やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。
7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。
その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。
カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。
家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。
だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。
17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。
そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。
全86話+番外編の予定
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる