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第1航路:魔術整備師シルフィ
第4-1便:遡潮流(そちょうりゅう)の脅威!!
しおりを挟むとうとう私の船は遡潮流の先端と衝突した。
その瞬間、世界がひっくり返るような衝撃と轟音が船体を襲い、水しぶきが激しく舞い散る。私も前や横から全身に泥水を浴び、思わず表情を歪める。
否が応でも私の脳を刺激する土の味と臭い、水の冷たさ。微かに潮の臭いもする。ただ、しっかり操舵輪を握り、両足で踏ん張っていたおかげで衝撃による転倒は免れる。
きっとクロードもびしょ濡れだろう。船首に姿が見えているから、転落しなかったのは幸いだけど。ま、彼は水の中が本来のテリトリーだから、そんなに心配はないけどね。
一方、客室内のディックくんやアルトさんは大丈夫だろうか? 気になるけど今は操舵席を離れるわけにはいかない。その間にもし流れと船体が直角の位置関係になったら、横転して転覆する危険性が高まってしまうから。ふたりの無事を祈るしかない。
相変わらず遡潮流は船首を持ち上げ、直後に低く頭を下げさせる。激しい前後の揺れの繰り返し。波の先端を越えたことで衝撃は受けなくなったけど、水流の乱れと揺れは続いている。
この状況で注意しなければならないのは、流木などとの衝突だ。もし船体に穴でも開いたら、たちまち浸水して沈没する。
いくら泳げたとしても、暗闇の中で障害物を避けながら岸まで辿り着くのは容易なことじゃない。特にあちこちで乱流が発生しているから、その渦に巻き込まれてしまったらその時点で終わり。たぶん生き残れるのはクロードだけだと思う。
私はどうなっても自分の責任だから構わないけど、ディックくんとアルトさんは私に命を預けてくれているんだ。絶対にミスは出来ない。
「くっ……ぅ……」
水しぶきは依然として断続的に襲ってきている。でもキリがなくて面倒だから、袖で顔を拭うのはすでに諦めた。そのせいで体も髪も服も泥だらけ。
暗闇のおかげでその酷い有様が晒されないのは、せめてもの救いか……。
「あと少し……あと少しッ!!」
自分に言い聞かせながら操船を続ける。実際、左岸渡船場にはもうすぐ到着できると思う。
ただ、いつもと違って激しい波に逆らう形で進んでいるから、出力を上げている割にスピードが出ない。歩くスピードとそんなに変わらないと思う。つまり距離もなかなか稼げないわけで、それがもどかしい。
「――っ!? ぐっ!」
その時、不意に船全体に鈍い音と衝撃が走り、スクリューの動きが止まってしまった。
せっかく藻掻きつつも前進してきた距離が、あっという間に上流側へ押し戻される。魔導エンジンを動かしてもスクリューが反応しない。
魔導エンジンの不調だろうか? 私は焦った。でも取り乱しそうになるのを必死に堪え、点検魔法で船体の各所を調べてみることにする。
送り込まれる点検魔法の魔法力により、瞬時に私の頭の中に様々な情報が流れ込んでくる。
魔導エンジン――オールグリーン。
船体――多少の傷あり。でも航行には問題なし。
ギアやクラッチ、シャフト、継手などの駆動系――っ! やはりスクリューに異常あり! ただ、破損しているわけじゃない。
「そうかッ、漂流物が引っかかっているんだっ!」
船が動かなくなってしまった原因が判明し、しかもそれが深刻なものではないと分かって私は少しホッとする。だからといってピンチを脱したわけじゃない。
この事態には体の小さいクロードじゃ対処できない。動けないディックくんは当然として、専門知識のないアルトさんでは手間取ってしまう。操舵席を離れるのは危険だけど、この状況ではそれを承知で私がやるしかいないっ!
私は操舵席から飛び出し、客室を通り抜けて船尾へ向かった。ただ、揺れが激しくてなかなか進めない。当然、魔導エンジンは停止しているから、水の流れに任せるまま船はどんどん上流へ戻されていく。一刻も早くなんとかしないと!
すると私の様子を見たアルトさんが声をかけてくる。
「シルフィ様! どうなったのですっ?」
「スクリューに何かが絡まったみたいです! すぐに対処しますから、アルトさんは引き続きディックくんを診ていてあげてください!」
私は船内に装備してある木の棒を手に取り、船尾に立った。棒の長さは約2メートル、太さは掃除用のモップと同じくらいある。川を航行する船ではスクリューに何かが引っかかることがよくあるから、大抵の船にはこうした棒が装備してある。
それを使い、私はスクリュープロペラのある付近を無造作に衝いたりかき混ぜたりした。それを何度か繰り返していると棒の先端が何かに当たり、船体から離れていくのを感じ取る。
あの硬い感触だと小さな流木かな。枝分かれしている部分が絡まっていたんだと思う。
「よしっ!」
たぶんこれでスクリューは動くと思う。ただ、完全に取れたかどうかは分からないから、実際に動かしてみるまで安心は出来ない。新たに別の何かが引っかかってしまう可能性もあるし。
私は棒を客室内の床へ置いたまま、即座に操舵席へと戻った。そして魔導エンジンを再稼働させるとスクリューは無事に動き、ゆっくりながらも前進を始める。
「良かった……」
私はホッと息をついた。ただ、このトラブルによる距離のロスは痛い。かなり上流側へ押し戻されてしまった。
このロスを取り戻すため、すぐに魔導エンジンの出力を最大にまで上げる。唸りを上げるエンジン。船体にも小刻みな振動が伝わり続けている。
(つづく……)
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