わたしの船 ~魔術整備師シルフィの往く航路(みち)~

みすたぁ・ゆー

文字の大きさ
14 / 58
第1航路:魔術整備師シルフィ

第4-2便:万事休す!? 魔導エンジンの停止!

しおりを挟む
 
 そのあとは順調に船が進み、とうとうリバーポリス市の街灯りが視界に入るようになってくる。つまり左岸渡船場が近いということだ。もっとも、それだけ近付けば岸や停泊しているほかの船などと接触する危険性が高まるから、それはそれで注意しないといけない。


 ディックくん、もう少しだよ。もう少しだけ頑張って。


 私は心の中で祈りつつ、操船を続ける。そして操舵輪を握る手に力を入れようと意識した瞬間――

「……っ!」

 突然、私は全身から力が抜け、激しい目まいがした。まるで魂が抜け出ていったかのような感覚。足がふらついて倒れそうになったけど、必死にバランスを取ってそれを回避する。

 さすがに疲れが出たのかな……。

 そう思ったのも束の間、ここで新たなトラブルが発生する。なんと魔導エンジンが停止してしまったのだ。うんともすんとも言わない。ただ、私はすぐにその原因に気付くこととなる。

「私の……魔法力が……」

 そう、とうとう私の魔法力が尽きてしまったのだ。エネルギー源が失われてしまっては、魔導エンジンが動くはずもない。またしても船は上流側へ押し戻され始め、せっかく近付いたリバーポリス市が少しずつ離れていく。

「っく! なんでっ! なんでよぉっ! ここまで来たのにっ! あと少しだったのにっ!」

 私は自分の無力さと理不尽な運命を突きつけた神様に激高し、操舵輪を拳で叩いていた。気持ちを抑えきれなかったのだ。

 こんなことなら私たちに希望を与えるようなことをしないでほしいッ! 目的達成の寸前で絶望に突き落とすなんてあんまりだっ!

 私は奥歯を強く噛みしめる。自然と涙が溢れ、頬を伝ってポトリと床に落ちる。

 ちなみにもし流木がスクリューに絡むアクシデントがなければ点検魔法を使わずに済み、その分の魔法力で渡船場まで辿り着けていたと思う。押し戻されるロスもなかったからなおさらだ。

 でもあの時、点検魔法を使わなかったら船が止まった原因が分からず、上流へ流されるままになっていた。ゆえに必要な魔法だったのは間違いない。事前に魔法力回復薬が用意できていれば……。

「何があったんだ、シルフィ!」

 直後、船や私の様子がおかしいことに気付き、船首からクロードがやってくる。そして私が泣いているのを見ると、大きく息を呑む。

 状況が分からないんだから当然だよね……。

「クロード、私の魔法力が尽きちゃった……。もう魔導エンジンを動かせない……」

「なんだそんなことか……。諦めるのは早いぞ、シルフィ! まだなんとかなる!」

「えっ?」

「オイラの魔法力を使え! 本当はオイラが魔導エンジンへ直接魔法力を送り込んだ方がいいんだろうが、それだと加減が分からない。だからオイラの魔法力をシルフィに送る。ロスは発生するが、あと少しは船を動かせるはずだ」

「クロード……。そっか、その手があったか!」

 暗闇を切り裂くような一筋の光。ピンチの打開策が見え、私の心に再び希望が宿る。

 確かにそれなら魔導エンジンを動かすことが出来る。ただ、クロードの最大魔法容量は私の数分の一くらいしかないはずだから、すぐに限界が来ちゃうだろうけど。

 でも街が目の前に見えている今の状況ならそれで充分。きっと渡船場まで辿り着ける。

 やっぱりどんな時も冷静さを失ってはダメだ。冷静に考えて、考えて、考え抜いて、最後の最後まで決して諦めてはいけないんだ。

「クロード、来てっ! 私の肩に!」

「おうっ!」

 クロードは全速力で私の体を這い上がり、肩の上に鎮座する。陸にいる時はこのスタイルでいることが多いけど、操船している時にこうするのは初めてかもしれない。なんだか新鮮。

「クロード、魔法力を送って」

「任せろっ!」

 程なく肩の上に彼の体温とは別の温かさが広がり、私の体に魔法力が流れ込んでくる。干ばつで乾ききった畑の上に水が染みこんでいくような感覚っていうのかな? 潤され、清々しくてさわやかな気持ちが広がる。

 うん、徐々に私の魔法力が回復していく! これなら魔導エンジンを動かせる!!
 私は操舵輪と動力ハンドルを握り、魔法力を送り込んでいく。これで再びスクリューも動くはず――



 …………。

 ……………………。

 ……えっ?

 手応えのなさを感じ、私の心に動揺が走った。間違いなく魔法力は魔導エンジンに流れ込んでいるのに、なぜか動かない。



 まさかまた何かのトラブルっ?

 でも今は点検魔法を使えるほど魔法力に余裕はない。そうなるとあとは物理的に原因を突き止めるしかない。今回は不幸中の幸いというか、反応がないのは魔導エンジンだというのが分かっているから、そこを確認すれば何かが分かるはずだけど……。

 私はクロードを床に下ろし、操舵席の下にある機械室の扉を開けた。

 すると途端に中から外へ熱風が吹き出し、焦げ臭さと機械油臭さが周囲に広がる。機械室内はまるでサウナ。その瞬間、私はエンジンの状態を悟る。

「オーバーヒートしてる……」

 無理な使用方法が災いしたのか、あるいはどこかに異常が生じていたのか、それとも魔法力を直接送り込んで動かすのは負担が大きかったのか。そもそも私の制御が完璧じゃなかった可能性もある。

 詳細は分からないけど、エンジンが過熱して不具合が起きているのは間違いなかった。


(つづく……)
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

【コミカライズ決定】愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
【コミカライズ決定の情報が解禁されました】 ※レーベル名、漫画家様はのちほどお知らせいたします。 ※配信後は引き下げとなりますので、ご注意くださいませ。 愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます

綾月百花   
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...