わたしの船 ~魔術整備師シルフィの往く航路(みち)~

みすたぁ・ゆー

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第2航路:公用船契約に潜む影

第6-2便:操舵室はなぜか混雑!?

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 こうして発着場で社長が見守る中、いよいよ出航の時を迎える。

 私は操舵室で佇み、操舵輪と動力ハンドルを握って準備万端。前方を航行している船が安全な位置にまで離れたら、こちらも出発だ。

 ちなみに私が操船する『キャピタル号』は、ソレイユ水運に所属している旅客船の中では中流クラスのグレード。長時間の船旅を快適に過ごすための設備はだいたい揃っているし、船内もデビューからの年数にしては比較的綺麗に維持されている。

 規模は『グランドリバー号』と比べると少し小さめだけど、居住性の良さにしては貸切運賃がリーズナブルで多くの人が利用しやすい船だと思う。



 ――と、それはいいんだけど、今は周囲の様子に意識が向いてどうしても気が散ってしまう。

 なぜなら操舵室の周りにディックくんとライルくん、それにミーリアさんまでいるから。もちろん、舳先へさきにはクロードの姿。つまり客室内にいるのはアルトさんだけということになる。

「なんでみんながここへ集まってきてるのかな……?」

 私が半ば呆れながらボソボソと愚痴のようなものを漏らすと、ライルくんとディックくんが慌てて口々に弁解をする。

「試運転が無事に終わっているとはいえ、新型魔導エンジン・改Ⅱを搭載した船が客を乗せて運航するのは今回が初めてだろう? 整備師の血が騒いで、動作を見ておきたくなってな。それにもし何かがあったら、シルフィの補佐が出来るのは俺しかいない」

「俺だって動作は気になる。確かに俺はシルフィやライルと違って魔術整備師ではないが、一緒に作業をしてきたのだから気にならないはずがない」

「ディックは客室でミーリアさんの話し相手でもしてろ。この場は俺だけでいい」

「話し相手ならアルトがいる。アイツは様々な話題に対応できるから適任だ。それよりライルこそ客室へ引っ込め。同業者にされていたらシルフィだってやりにくい」

「っっっ!」

「んんんッ!」

 お互いに睨み合い、目から火花を散らしているふたり。どちらも退く様子は感じられない。

 一方、ミーリアさんはそんなふたりを眺め、ニタニタと怪しい笑みを浮かべている。なぜかやけに楽しげだ。

 そういえば、彼女ってたまにこういう悪戯いたずらっぽい表情をする時がある。発着場へ社長がやってくる直前も似たような感じだったような気が……。

「私はこちらに様子を見に来てみました。ディック様とライルさんがシルフィさんのところへ行くと、面白い展開が起きそうな気がするので。ちなみにアルトさんは紅茶を淹れる準備をなさってます」

 いやいや、それならミーリアさんは客室に留まって、アルトさんが淹れてくれた紅茶を飲んでいてくれると私としてはありがたいんだけど。ふたりに付いてくる必要って全くないでしょう。

 それに『面白い展開』って何を指しているのか、私にはさっぱり分からない。

 いずれにしてもこのままでは埒が明かないと感じ、申し訳ないなと思いつつも3人にきちんと注意を促しておくことにする。

「えーっと、3人とも客室へ戻ってくれるかな? 動き出しは揺れて危険だし、何かあったらちゃんとみんなを呼ぶから……」

「そうだぞ! この場でシルフィと一緒にいるのは、相棒であるオイラだけで充分だ。のお前らは客室で大人しく座ってろ」

 すかさず私の援護をするかのように、クロードは舳先へさきから叫んだ。そしてシッシッと犬でも追い払うかのような手振りをする。

 当然、彼は体が小さいから、それで犬を追い払えるとは思えないけど……。

 ただ、結局はそのクロードの言葉が決定打となって、3人は渋々ながら客室へ戻っていった。そしてちょうどそのタイミングで前方の船との距離も離れ、すかさず私は動力ハンドルを操作して船を出航させる。


 ――うん、魔導エンジンの調子は良好。元気に動いてくれてるっ♪


 その後も私は操船を続けていった。新型魔導エンジン・改Ⅱも問題なく稼働している。たまに点検魔法チェックで各種数値もモニターしているけど、異常は全く見られない。


(つづく……)
 
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