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第2航路:公用船契約に潜む影
第6-1便:名誉挽回の運航
しおりを挟むそれから2週間後、私は意外な出来事に関わることとなった。
なんとミーリアさんがソレイユ水運に貸切船の運航を依頼してきて、しかも彼女のご指名により私がその操舵手を務めることになったのだ。
ただし、今回はあくまでもプライベートな貸切船。それゆえに同行者として選ばれたのも社長、ルティスさん、ライルくん、ディックくん&アルトさんというミーリアさんと個人的な繋がりのある5人となっている。
社長とルティスさんは外せない仕事があるらしくて、結果的に不参加となったけど……。
運航区間は実務試験の時と同じリバーポリス~ブライトポートの往復。つまりこれは表向きはミーリアさんのプライベートな運航依頼だけど、実質的には実務審査の再試験ということなんだろうと思う。
もちろん、市からそういったことの正式な発表はない。ただ、私を含めて水運関係者の多くはそう捉えているみたい。
当然、今度こそ絶対に失敗できないので、私はいつも以上にプレッシャーを感じている。
ちなみにディックくんやライルくんと一緒に開発を続けていた新型魔導エンジン・改Ⅱだけど、すでに完成して無事に試運転も終えている。客観的に見ても安全性や能力に問題はない。
そしてそのエンジンは今日、その貸切船で運用される『キャピタル号』に搭載されているのだ。
実際にお客さんを運ぶのは、これが初めて。大丈夫だと確信していても、やっぱり緊張する。
「こんにちは、シルフィさん。今回の運航もお願いしますね」
発着場に停泊する『キャピタル号』の前にやって来たミーリアさんは、ステップの横で出迎えていた私に対して優雅に頭を下げた。その際に彼女の髪がゆらりと揺れて、何かの花のような良い匂いが漂ってくる。
屈託のない笑顔も素敵だし、同性の私からしても相変わらずドキドキしてしまう。
「はい、お任せください! というか、名誉挽回のチャンスをいただいてしまって、感謝しかありません」
「ふふっ、何のことですか? 今回は私が個人的にプライベートで貸切船を依頼しただけです。ライルさんとディック様の仲直りのきっかけになればと思って、そのふたりを旅にお誘いしたわけですから」
ミーリアさんはチラリと『キャピタル号』の客室内へ視線を向けた。
そこにはすでにソファー座ってくつろいでいるディックくんとライルくん、それにアルトさんの姿。3人は紅茶を啜りながら楽しげに談笑している。新型魔導エンジン・改Ⅱの製作作業を通じて、少しは心の距離が縮まったのかもしれない。
なんかあんなに仲良さそうにしているのを見ると、私だけ取り残されたような気もしてちょっと寂しい気もするけど。
「でもまさかすでにそのふたりが仲直りをしているとは意外でした。きっかけを作ったのはシルフィさんなのでしょう? さすがです」
「わ、私は何もしてませんよ。その場で一緒に話はしてましたが」
「気を付けてくださいね。だって今後、あのふたりはシルフィさんを巡ってドロドロの――」
突然、なぜか流暢な話し方とわずかな興奮を含ませて語り始めるミーリアさん。普段と比べて随分と砕けた感じがして、私は少し戸惑ってしまう。
そんな中、彼女の声を遮るような大きな咳払いがどこかから聞こえてくる。
「ミーリア、余計なことは言わないように」
「フォレス! 来てくれたのっ?」
船に歩み寄ってきた社長の姿に気付くと、ミーリアさんの瞳が一段と強く輝いた。
それは私はもちろん、きっとほかの誰にも見せることがないであろう最高の笑顔。彼女の中で社長は特別な存在なんだなって直感で分かる。いくらそういう感情に疎いと自覚している私でさえも……。
なにより公の場では、このあふれる感情を抑え込んでいるというのがすごい。どれだけ自分を律していたんだとあらためて脱帽する。このふたつの姿を知ったら、ミーリアさんは公私混同をしないということを誰もが納得せざるを得ないだろうな。
私だってこの瞬間を迎えるまでこれ程までにオンとオフの差があるとは思ってなかったもん。今までに触れてきた彼女の『私』の姿は、せいぜい本来の半分にも満たないくらいだったということか……。
「僕の都合で同行できないわけだから、せめて見送りくらいはしないとなと思ってね」
「ありがとうっ。嬉しいな……」
「シルフィ、ミーリアのことをよろしく頼むね」
社長は凛とした表情になって私の肩を軽く叩いた。
なんとなくの感想だけど、彼もミーリアさんのことをほかの人と比べてほんのわずかながら特別扱いしているような気がする。私の思い過ごしかな?
「はい、お任せくださいっ! 準備は万端ですし、何かあればライルくんとディックくん、それにアルトさんもいますから」
「こらっ、オイラのことを忘れるなよ!」
その時、船の上方から不満に満ちた声が響いた。
見上げてみると、そこにチョコンと座っていたのはクロード。彼はいつの間にか客室の屋根の上にいて、こちらを見下ろしている。さっきまでいつもの定位置にいたはずだったんだけど、私たちの会話している声が聞こえて気になって見に来たのかな?
ちなみに言うまでもなく、私が彼のことを忘れているはずがない。いるのが当たり前の『相棒』だからこそ、名前を挙げなかったのだ。
――そっか、今の私にも特別な存在がいたじゃないか。
私が何もかもをさらけ出す相手はクロードだけ。きっと社長とミーリアさん、ライルくんとディックくんの関係も似たようなものなのかも。
手を伸ばすと、クロードは屋根からピョンと跳び上がって肩に載ってくる。そんな彼を私は優しく撫でてやる。
「はいはい、クロードもね。頼りにしてますっ!」
「えへへ、任せろっ!」
クロードは二本足で立ち上がると、嬉しそうに自分の胸をドンと叩いた。
(つづく……)
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